イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

科学技術と倫理

石田三千雄他、ナカニシヤ出版。シリーズ「人間論の21世紀的課題」の一冊。グローバルでエコノミカルな21世紀における倫理を追求するシリーズらしい。編著なので、各論ごとの筆致や質にばらつきがあるのは致し方なし。
この本で語られているのは科学技術分野での倫理であり、具体論から産業と科学の共犯関係、技術論まで横幅は広い。所々非常に鋭い考えも垣間見え、資本主義社会と科学技術の共犯関係を、マルクス理論の立場から読みぬいた5章が特に読み応えがあった。全体的に読みやすく、なかなか見えにくい科学のイデオロギー性などを取り出してくれるのはありがたい。
のだが、全体的に掘り下げはたらない。まぁ立ち位置的に深く入り込むよりも横幅の広さと解りやすさをとったということなのだろうが、たとえば資本主義社会の中で技術者が持つべき倫理について語っておきながら、資本主義社会の強大さと、それがほかならぬ技術と科学を軸に回っていることの深い相関について言及しないのは片手落ちではないだろうか。
また、科学技術のイデオロギー性を語りながら、自身の立場のイデオロギー性について明示しない記述が多かったのも残念といわざるを得ない。児童的に言説には色がつき、透明な立場などないのだけれども、だからこそそのことには自覚的で、注意を置くべきだと思う。特に、この本が論じているテーマは紛れもなく「そのこと」を中心にしているのだから、一部の論者だけではなく全筆者が最も注意を置くべきではないかなと思う。
少々深さと注意深さが足らないとは思うが、横幅の広さと読みやすさはある。注意深く読むことで思考の一助になる本ではあろう。良著。