イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

神と科学は共存できるか?

スティーブン・ジェイ・グルード、日経BP社。科学エッセイの名手、グルードの科学と宗教に関するライトサイエンス。英語タイトルは「Rocks of ages」であり、「ちとせの岩」と「鉱物の年代測定」をダブルミーニングにした、グルードらしいタイトルである。
グルードは古生物学を主軸に、軽妙な科学エッセイを多数発表した優秀なライターである。のだが、この本には他のサイエンス・ライティングにはない、グルードの強い主張が見える。グルード個人が、アメリカ中南部の創造主義教育裁判に長年当事者として関わった、という経歴を持っていることにも関係しているのだろうが、"NOMA原理"(非重複的教導原理)をしつこいほどに強調し、科学と宗教それぞれの領域について考察を重ねている。
"NOMA"とは"Non Overlapping MAgisteria"の略であり、科学が扱うの問題領域と、宗教が扱う問題領域の線引きをはっきりさせ、不用意に重ね合わせた介入を避けよう、という主張であり原理である。科学の領域・宗教の領域とは何か、科学と宗教はそれぞれどのような関係であったか、など必要勝つ不可欠な問題を論じ、"NOMA"という耳慣れぬ用語を多用するために必要な、書き物としての地ならしをしっかりしておくのは、さすがグルード、といったところだろうか。
"NOMA原理"は何もグルードの発明というわけではなく、懸命な科学者はもちろん、カソリックの教書としても提出されている、割合古い主張である。のだが、科学の領域から政治へ(例えばダーウィン主義とショア)もしくは宗教の領域から科学へ(例えば創造主義教育)のスライドは常に存在してきたし、存在している。それら個別の事例への細かい考察も、この本の価値を上げている。特に当事者として関わった創造主義教育に関しては、法廷において敵対した立場も含め、非常に冷静な分析と解析を重ねている。
結局この本は"NOMA原理"の妥当性を照合し、検証する本である。が、豊かな筆力に支えられ、多数の事例を検証する圧倒的な文字の力が、その単純さを強力な力に変えている。科学の立場にも、宗教の立場にも丁寧な分析を向け、偏向が見られない筆致で丁寧に検証されていく「神と科学」には、どちらかのプロパガンダとしてはじめられた文章には存在し得ない、知性の光が存在している。
資料の収集、分析、意見の提示。文章としての組み方が非常に丁寧かつ解りやすく、豊かな文章力で可読性も高い。テーマに対する取り組みは正確であり、高い公平性を持っている。名著。