イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

性と暴力のアメリカ

鈴木透、中公新書。アメリカ建国から現代まで、通史的な視座からセックスとヴァイオレンスの問題を語った新書。サブタイトルは「理念先行国家の矛盾と苦悩」
新書とはいえ、単純な統計的事実を追いかけるのではなく、アメリカという国家の形成を徹底した理念先行・理念遵守として捉え、そのポイントから性と暴力の問題を捉えていく独自性がある。建国初期ならば、ヴィクトリアニズム(とピュリタニズム)への反発と従属。共同体形成後のフロンティア時代であれば、リンチによる共同体の法形成。建国当初から存在する地方独立の徹底、国民権利の尊重という理念が、現実の性と暴力(もしくは清暴力)へと修練していく過程を丁寧に追いかけている。
特にリンチ論に関しては鋭いものがあり、一般的にリンチといわれて思い浮かぶ黒人リンチのみならず、「ならず者国家」への「対テロ戦争」も、共同体のマジョリティーによる即決裁判としてのリンチの文脈を絡めて分析している。事実を追いかけるのでは無く、と書いたが、必要なだけの、そして十分な資料・事実研究を行っており、独特な論調ながら説得力がある。
9.11以降の情勢を鑑みればいたし方がないのだが、「暴力」の分析の分厚さに比べ、「性」の研究が少々薄いのは気になるところである。が、ヴィクトリアニズムに置ける性への取り組みを忌避ではなく、むしろ真っ向からの四つ相撲の結果として分析するなど、建国期の分析は非常に鋭い。また、「性」と「暴力」が結びつく現場への分析も丁寧に行っており、ジェシカ・リンチ救出事件などもその文脈で取り上げられている。
新書ながら新規な視点と、丁寧な分析、わかり易い構成が相まって程よく纏まっている。良著。