イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

オイレンシュピーゲル&スプライトシュピーゲル 4

冲方丁角川スニーカー文庫富士見ファンタジア文庫シュピーゲルプロジェクト、四巻目。遂に本格的に同期し始めて、バロウ神父やら"鳥落とし"やら、いい塩梅のキャラたちが二つの作品を行ったり来たりしています。というか、携帯でMPBとMSSの両特甲少隊長がコンタクトしたり、ずっと夢見てたメンバーシャッフルが起きたりと、プロジェクトの醍醐味が遂に回転してきた感じ。
お話のほうは、アフリカで起こった虐殺に対する国際法廷と、空港占拠事件が同時に起こるウィーンが舞台。序盤では超強かった主人公達のインチキ武装ですが、そういうのが通用しない政治圧力と世の中の理不尽に加え、敵さんまで転送兵器を使ってきてもうにっちもさっちも。ウブチンはピンチマジピンチな絶望を書くのが好きで巧いわけで、このヤバキチな状況は非常にいい流れだと思います。
思い返してみれば、ラノベフレームに対する悪辣な意識が透けていた序盤。苦笑いと同時に期待感を抱き、ここまで飲んで気付いてみれば、ウブチンがわりかしやりたいようにやれている現状を強く感じます。ろくでもなくどうしようもない世界(もっといえば都市)と、それにしがみ付く人々、という構図はマルドゥック・シリーズをはじめとするウブチンの根っこにあるわけで。それをラノベレーベルで、ある程度以上の支持を引き連れながら賭けている状況というのは、非常にいいと思います。
スプライトのほうは新キャラが何人か。状況がどう動くか解らないので、この人たちもどうなるやら。なにぶん非常に都合悪い状況に主人公達は投げ込まれているので、誰がいつ死んでもおかしくはないです。ラノベではたまーに殺すために殺す、という袋小路が発生しますが、この小説の場合は死ぬから死ぬ、という感じで。嘘は嘘なんですが、そこを誤魔化さないので飲み込みやすいうそですよね。
今回は二つの事件・二つのチームがジリジリと接近する様子が丁寧に描写され、二雑誌二レーベル同時進行という初の試みの真髄が発揮されてきた感じです。今回二つ同時に感想を書いているのも、今回そこらへんが非常にドライブしてきたわけで。この高速な感じはなっかなかレアであり、このプロジェクトでしか感じられない現代進行感が強い。そういう構造が、特に分析しないでも飲み込める小説の力が、やっぱこの小説の面白さかな、と思います。
まぁ分析する視点でも楽しいんですが。残り二巻でどうリンクを加速させるかとか、グイッと心を鷲掴みにする登場人物(キャラクターではなく)とか、とにもかくにも巧いので。そういう視点からも、小説をただ素直に楽しむ方向からも、両方面白い。やはりいいプロジェクトであり小説だと思います、うん。