イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

贋作王ダリ

スタン・ラウリセンス、アスペクト。ダリ専用の悪徳美術ディーラーを主人公にした、半分ノンフィクション半分小説。サブタイトルは「シュールでスキャンダラスな天才画家の真実」だが、タイトルとあわせて英字タイトルの「Dali&I:The surreal story」の方がハッタリがなくて、いいタイトルだと思う。
主人公(モデルは作者)はダリを売る。それも片っ端から、情け容赦のない売り飛ばし方で。「マック・ダリ」と主人公達が呼称するその販売方は、徹底的にポップで虚ろだ。言わずもがな、ダリは20世紀でもっともスーパースター的な芸術家であり、さまざまにスキャンダラスなエピソードが知られている。その虚像(もしくは実像)を捕らえつつ逃がしつつ、主人公はダリを売り捨てる。
半小説の技法的な上手さは、虚像と実像の間の曖昧さと、それを扱う巧みさにある。主人公は画廊ではなく、不動産やダイヤも扱う投資会社の社員である。故に、ダリの美術はマクドナルド的な易さで量産され、投機対象としてのみ、価値を認められる。このスーパースターとしてのダリに実際会うことなく、主人公が出会うのはダリの代理人やディーラーだけだ。
あぶく銭にまみれた主人公がついに破滅し、スペインの田舎に逃亡してから章が変わる。ここでも虚飾と実像との距離感は上手く調整されていて、虚業に手を染めていた時代にはけして会えなかったダリに、主人公はひょんなことから出会う。しかし実際のダリはスーパースターとはかけ離れた、瀕死の病人である。その上で、「実際のダリ」と近しく触れ合っていた人々の語るダリは、グロテスクに誇張されて、虚実も定かではない。
この話が真実であるか、否か。それはあまり重要ではないと思う。たしかに、ダリについて語る人々の言葉は、サド的な虚飾に満ちていて真偽が疑わしい。スーパースターの破天荒な生涯という物語を、常に求めている我々に擦り寄ったフィクションだ、と感じるのも無理はない。だが、徹底的に金と名誉を追い求める主人公とダリに置いて行かれたシュルレアリスムが、多重に構築された真偽と虚実の距離感の中でおぼろげに浮かび上がってくるのであれば、作り物でもかまわないのではないかと、僕は思うのだ。
翻訳も綺麗で、読みやすかった。良著。