イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Under the Rose 7

船戸明里幻冬舎ヴィクトリア朝イギリスと言う名前の泥に、首根っこまでつかった人々を描く群像劇の七巻目。僕の住んでいる辺境都市(デッドシティ)ではなかなか入手出来なかったんですが、ようやくゲットしました。待ってる間に高まった期待感にそぐわぬ薄暗い人情紙芝居が展開されており、非常に満足。
クズかと思ったらもっとクズだったこと人生の逃亡者ことヒゲの親父ことアーサーも、そろそろ発狂ないし自殺ルートが見えてきてる奥様も、その根っこに時代の淀んだ空気が絡みついている所がこの漫画のいいところであり、漫画としての説得力の骨だと思っています。
気合の入った書き込みで描写されるイギリスの風景と、そこに匂う清潔さを追求した結果の腐臭。じわじわと人格が侵食され、気づかぬうちに逸脱と悪徳に汚れていく感覚。一巻からずっと続いている作者の時代への感性は、「絵」という漫画最大のパーツの後押しを強く受けていると、今回の田舎遍歴を見ていて思いました。宿屋や生垣の描写、郷土料理の描き込み。
そこから生まれる空気感があるからこそ、奥様の狂気との闘いも切迫感が出てくる。スゲェ負ける匂いしか無い戦いですが。じっとりと真綿で首を絞めるような建前と善意の世界で闘争するウィリアムへの評価も変わるし、陵辱を受けてなおそれを支えようとする先生への共感も生まれてくる。非常に幸福な、絵とドラマの共犯関係ができている漫画だと思います。
この話が群像劇だな、とつくづく感じるのは、登場人物を縛る行動原理が様々にあり、かつそれが世界を支配する空気に抗えない、その距離感です。みんな各々のやり方で世界と戦い、一時的な勝ちを拾ったり、負けたりする。今回の親父と奥様とウィリアムの、各々の対応はそういう意味で、非常に印象的かつ象徴的でした。いい漫画だ。
あ、あとロレンスくんが地味にクズっぽい地金を晒していて、未来がとても心配です。多分、凄い酷い大人になるな、ありゃ。