イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

GANGSTA:第6話『THORN』感想

薄汚れた街の薄汚れた天使たちの話、六話目は前回を引き継いでの放浪。
今回も過去と現在が交錯する作りでしたが、ずーっと雨だったドブみたいな現在が晴れ、キラキラしてた過去が戦火で曇る終わり方は鮮烈な印象を与えてくれました。
ここ二話は甘くメロウな感じが良く出ていて、グジグジ過去を吹っ切れないおじさん達のお話大好きおじさんとしては、見ていて気持ちが良い。

男二人と女一人の三角形がこのお話の基本構造なんですが、ウォリックと二人が繋がる糸が『依存』なのが、このアニメらしいと思います。
トワイライツであるニックも、元娼婦であるアレックスも、社会によって依存を強要され、他者によって物理的依存(薬物)に追い込まれた弱者という要素が共通している。
世界の九割が見捨てるドブネズミに手を差し伸べてしまうのが、ウォリックの業なんだろうなぁ。

弱者二人が共通している部分は他にも何個かあって、手話という手段で他者とコンタクトしようと諦めない所とか、学習に意欲が高い所とか、女/男に分かれつつも、背中合わせな存在なんだろう。
その上で既に出会いを済まし時間が残り少ないニックと、今まさに出会って変化しつつあるアレックスとの差異は、過去と現在を対比的に見せる演出で際立っていた。
殺しに対する忌避感の薄さ/強さが経験の違いによるものか、『タグ付き』と一般人という差異によるものなのかは難しいところだ。
どちらにしても、精液に肩まで浸かって生き残ってきたアレックスと、血塗れのまま殺し続けてきたニックは、対比であり相似でもあるウォリックの伴侶だと言える。

職業犯罪者として一般的なモラルの外に出ているウォリックにとって、弱者に手を差し伸べるのは善行ではなく、魂の空虚さが要求するカルマなんだろう。
誰かに褒められるためではなく、どうにもしよう無く駆け出してしまう衝動が、過去においてニックに読み書きと手話を教え、現在においてアレックスを探させている。
優しくない世界の話において、このカルマは凄く悲惨な結末を迎えそうであるが……安易な妥協は見たくないしなぁ。
『タグ付き』の生存限界が具体的に示されたことで、ニックの未来も少し見えたし、雨あがるとはいえ世界は酷い色合いだ。


沢山人が死んで、『タグ付き』はナチュラルに差別され、子供がよく転ぶのがこのお話。
そういう残忍さを遠景に置きつつも、メイン三人はそれに流されつつ染まらない、柔らかくて優しい存在として描かれています。
むしろ世界が残忍だからこそ彼らが持つメロウな感性が際立つわけで、雨と追憶を演出の軸においたこの二連作は、作品が持っているポテンシャルをよく理解し、的確に発揮させたいいエピソードだったと思います。
僕はこういう安い感傷、凄く好きだなぁ。

そして感傷を抱く主人公たちを特権的な立場に置かず、というか流れの末端として不本意に流される立場を徹底することで、世界の残忍さを緩めないのも良い。
ニックは所詮『タグ付き』だし、アレックスはおフェラ豚だし、二人をそこに追い込んでいる世界に対し、チンピラジゴロであるウォリックは何も出来ない。
個人的な感傷を共有して優しい気分にはなれても、流されるまま殺しをして薬を打ち、金を稼いでいる。
ウォリックが変えられるのは自分の手の届く範囲だけで、それも流されるままなかなかうまく行かない。
そういう身の丈を崩さないで、コンパクトな世界の個人的なお話としてまとまっているのは、お話全体がスマートでクリアな印象を与えます。

抗争激化の予感を孕みつつ今回は終わりましたが、優しい三人を押し流す世界の流れがどう加速していくのか。
色んな意味での限界が見えつつ、残忍な世界に対し三人はどう立ち向かうのか。
彼らの過去と現在をしっかり描くことで、彼らの未来も気になる、良いエピソードだったと思います。