イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

Dance with Devils:第9話『秘め事と裏腹のウォークライ』感想

オバカ男子が茶番戦闘を繰り広げる乙女伝奇……のはずだったアニメ、ついに死人が出たのであっという間にシリアスな時空に飛び込む9話目。
なんか都合のいい奇跡とか起こってアズナが復活するかと思ってましたが、『乙女ゲー舐めんな、薄桜鬼とか見てただろテメー』とばかりに、どんどん事態は深刻化。
人間性の拠り所かと思ったエクソシスト協会もクソカルトであり、ヴァンパイア陣営の黒幕も動き出して、さてはてどうなっちゃうの。
ついに戦闘という一番気分が高まる中でお歌を見せてくれたので、自分的には大満足であります。

今回はニーサンを掘り下げていくお話で、ダンピールという秘密が公開され、拠り所だったはずのエクソシスト協会がゴミ以下のクソカルトだと判明し、どんどん逃げ場がなくなっていきます。
ピンチになれば男女の関係が燃え上がるのは必然であり、レムより一足早く秘密を公開して身軽になったのもあって、素直な気持ちを伝えてゴールインまっしぐら。
社務所で盛るバチあたりシーンはじっくり時間を使って、リツカの揺れる気持ちを描写してくれて良いシーンでした。
ヴァンパイアの吸血衝動という禁忌と、近親相姦への誘惑というタブーを重ねあわせているニーサンは、非常にゴシックの伝統を踏まえたキャラだなぁ。

しかしあの戸惑い方をみると、ニーサンはリツカの中では兄以外の存在ではないわな……わかっちゃいたがレムルートか。
ニーサンは(二重の意味で)血の暴走に悩まされ、衝動に振り回されてリツカを傷つけたりもしていましたが、今回世界があまりにクソである事実が判明する中、健気に妹(恋人候補?)を守っていて好感度が上がった。
このタイミングで秘密を公開し素直な気持ちを伝えた時点で負けが確定したと思うが、完全に三人ひとまとめで扱われている三馬鹿よりは、恋愛順位は上……二位ではあろう。
『二位とはなんだ?』『負けの一番です』という乙女SEALS恋愛理論から考えると、まぁニーサンもルーザーなんだけどさ。

リツカは視聴者を作品に乗っける主人公であると同時に、ゴシック・ロマンスに必要なトロフィーでもあり、今回ニーサンとレムがリツカを賭けて決闘するのは必然といえる。(熱く激しいライムバトルになるのは、このアニメがダンデビだからだが)
『世界全てが敵に回っても、私だけをチヤホヤしてもらえる!』という欲望充足のためには、やっぱアズナが死んでエクソシスト協会が敵に回り、『世の中クソだな! クソだけをそんな中で私だけスペシャルだな!! 異能イケメンにチヤホヤされまくる私最ッ高!!!』という気持ちを盛り上げるのは大事なのだ。
それにしたってエクソシスト協会はクソカルト過ぎて、そんなクソ組織に在籍しつつ、親友を庇って死んでくれたアズナの死が重い。


ニーサンが先陣を切ったことで、逆説的にレムの勝ちは揺るがなくなったといえる。
この段階に至っても本音を隠し続けるということは、素直になれば終わってしまうロマンス勝負において切り札を隠しきったということであり、魔界王子の立場とか、オヤジの思惑とか、『悪魔は嘘をつくモノ』という固定観念とか、そういう逆風を全て振り捨てて『好きだ!』と叫んで勝ち残るフラグを立てたということでもある。
今回のリリックバトルもまた、『暴力では真実の愛を手に入れることはできない』というルールを確認し、今後暴力以外の解決法(つまり素直な愛ということなのだが)を見つける前段階である。
もちろんハーレクイン的というか、それ以前のヴィクトリアンロマンス、さらに言えば騎士と貴婦人物語的な『お前のために戦うぜ!』『私のために争わないで! それは建前で本音としてはバンッバン戦って私の価値を高めて欲しいけど、あんま本音言いまくると嫌われるから貞淑な女を演じる意味でも争わないで!!』という物語類型に従ったバトルではあるのだが。

すっかり恋愛戦線の後方に引き下がった三馬鹿であるが、彼等は『リツカの中のグリモワール』を求めるのに対し、勝者であるレムは『リツカ自身』を求める。
なので、三馬鹿は素直に自分の欲望を言葉にして粗暴に振る舞い、レムはイライラするほどお行儀よく自分の気持を隠し、リツカに(後に訂正されること前提の)拒絶の言葉を投げかけられる。
この差異はつまり、グリモワールという取引可能で物理的な価値がたとえ世界を左右できるとしても、真心という形のない価値に気づき、それに戸惑っている存在のほうが勝者にふさわしい、ということを意味する。
キャラの属性やトンチキなお歌演出など、新しい革を被って入るもののダンデビの根本的な倫理は、オーソドックスで伝統的な(『古臭い』とすら言えるかもしれない)ロマンスの価値観によってジャッジされているのだ。
乙女ゲーというナウいギャルたち御用達の擬似恋愛装置の一つが、こうも古の基本文法を忠実に守っているのはこの話に特有のことなのか、はたまた乙女ゲーというジャンル(つう括りも乱暴だとは思うが)に共通のものなのか、気にはなるが不勉強で確言は出来ない。

どっちにしても、アズナの死体が意味する人間的な価値観を無視して、自分の欲望だけを回転させる三馬鹿(特に死体に敬意を払わなかったシキ)は今回でほぼ恋愛コースアウトであり、お疲れ様って感じだ。
つーか、一番体張って無残に殺されちゃったアズナの遺体を、軒並み無視するってのはどうなの……まぁ悪魔ばっかだからしょうがねぇし、ニーサンはリツカ最優先で逃がすタイミングではあったけど。
思いの外アズナは視聴者(というか僕)に刺さっているキャラなので、もう一いじりするつもりの死体遺棄なのかもしれんが。
ヴァンパイア陣営がゾンビにして襲ってきたりしたら、絶対許されざるよホント。


ヴァンパイア陣営といえば、ニーサンのトーサンが藤原さん声で参戦してきた。
パンツ仮面の悪行から考えて死ぬ役だとは思うが、ここに来て新勢力とは荒々しい。
現状グリモワールを巡る勢力図は結構複雑になってきていて、

・リツカ(レム本音/リンド)
・アーロンド家(レム建前)
・悪魔的個人主義(三馬鹿)
・マキシス家(ローエン)
エクソシスト協会
・ヴァンパイア(ジェキ/リンド父)

辺りのアクターが、お互いの思惑を持ってぐるぐる渦を巻いている状況。
誘拐されて以来放置されているリツカママンの行方もあるし、恋愛バトルと並列して、こっちも煮込んでいくのかしらね。
アズナだけ死んで男はみんな無傷ってのもむかっ腹が経つので、緊張感を上げるために一勢力くらい皆殺しにしても良いんじゃないかな。(健気な乙女に血の捧げ物を系過激派)
実際の話しグリモワール争奪戦は人数多過ぎなので、来週以降脱落が激しくなるんじゃなかろうか。

そんな感じで、ニーサンが恋愛競争二番手として美味しい出番をもらいつつ、グリモワールを巡る状況はシリアスさを加速させる話でした。
回想シーンの幼い作画に気合が入っていて、『この健気な子が将来、年上の女の子をバクバク落としまくる魔性の小学生に育つとはなぁ』と思ったのは秘密だ。(何でもかんでもプリパラにつなげるマン)
ライバルであるニーサンが自分のクエストをほぼ果たした以上、次回以降はレムに話の重点が寄って行くのだろう。

参加者が一気に増えたグリモワール争奪戦の行方。
ついに戦闘中に歌い出して、危険領域まで高まったフォニックゲイン。
今後がいろいろ気になる、ダンデビ終盤戦第一回でした。