イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

僕だけがいない街:第9話『終幕』感想

なんどでも繰り返される悲劇に挑むアニメーション、今週は雛月編終章とその先。
圧倒的なヒロイン力で話を引っ張ってくれた雛月に(一応)ハッピーな離別が訪れるものの、真犯人の長い腕は別の生け贄を狙っているので、まだまだ小学生が頑張らないと! というお話でした。
Aパート終わりの『私だけがいない街』に込めた感情があまりにぶっちぎりで、『悠木碧さんマジすげぇな』ってなるなった。

雛月を巡る問題のめんどくささは、そのまま家族という檻が持っている堅牢さ、踏み込み憎さだったと思います。
児童相談所の介入という公的なアプローチを持ってしても根本的解決には至らない、クッソ面倒くさい問題を踏み倒すために、最後の切り札として雛月の祖母を引っ張ってくる展開は、意外性とカタルシスが両立していて好きです。
虐待の連鎖というありがちな言葉では、雛月が追い込まれた苦境を説明し切ることは出来ませんが、彼女が閉じ込められていた檻の複雑さを考えると、良い落とし所だと思います。

母はかつて娘であり、娘はやがて年老いて母になるわけで、その因果が繋がった結果雛月の母は己の母に、まるで子供のように泣き縋り事態は解決する。
それはそれで収まりの良いお話なんだけど、母が拗らせた孤独に踏みつけられ、傷めつけられた雛月はそれを見ようとしない。
身勝手で残忍なようにも見えるけど、当然とも言える態度をちゃんと切り取ってたのも、妥協がなくて良かったです。

連続殺人の犠牲者にならなくても雛月が追い込まれた状態はすごくしんどいし、その原因になった母を無条件で許せる小学生は、なかなかいないでしょう。
しかし今回、他人の事情に悟(とその母親)が強引に踏み込んだことで運命は変わり、雛月は多分、これまでの運命線では手にいられなかった『未来』を手に入れることができた。
雛月が母親との関係をどう処理するかは未だ先の物語ですけども、恨むにせよ許すにせよ、何らかの可能性を掴める『未来』を、『死』というどん詰まりの代わりに雛月が手に入れられた終わり方は、やっぱ良かったなと思います。
いつか時間が過ぎて『娘』が『母』になったとき、その傷ついた想像力がかつて『娘』だった『母』に及ぶことがあると、救いがあってありがたいんですけども、さてはて。

彼女が手に入れた『未来』を、『私だけがいない街』にキッチリ凝縮して描写するまとめ方は、演出の力が非常に強く、圧力を感じました。
かつて絶望の色で語られた同じ台詞が、全く違った色に聞こえてくる異化作用は、これまで悟が必死に頑張り、広げてきた可能性の価値をしっかり高めていて、彼らを見守ってきた視聴者にありがたいものでした。
あまりにも痛い扱い含めて、雛月は感情移入力が高い仕上がったヒロインでして、そんな彼女が自分のエピソードを完結させ安全な場所へ『上がり』になる今回、こういう叙情的なシーンでしっかり終わらせたのは、とても良かったですね。


とは言うものの、悟の目的は『雛月の物語を終わらせること』ではないし、真犯人も雛月一人に拘っているわけではない。
お話はするりと次のラウンドに移って、まだまだ少年探偵の苦労は終わらんわけです。
あんまりにも雛月周りのエピソードがエモいので、思わず『良い最終回だった……』言いたくなるがな……そこ自覚的だから、サブタイトルが『終幕』か。

『お前ホントに小学生?』と聞きたくなるケンヤの鋭さとか、チート気味な悟の知識を受け入れてもらう様子とか、第2幕は結構順調に見えます。
が、露骨に先生が怪しく描かれていて、神の視点で見ている視聴者としては、この順調さこそが怪しく感じられる。
父親不在という悟のオリジンを巧くクスぐり、雛月クエストの最終解決策を先生が持ってきた
のも合わせて、悟が先生に体重を預けている様子が『マジやべぇ! 悟逃げろ!!』って感情を加速させるわね。

まぁあの人は結構露骨に犯人オーラ出してる人であり、今回露骨に出してきたヤバさは、一つの終幕を受けて、これまで見えにくかった要素を表に出してきた結果だと思う。
『努力と報酬』とか、ギャグっぽく流した飴とか、言葉の端々に漂う不穏な棘とか、そこかしこにヤバさが漂っていて、それが視聴者の足を止めさせ、先生のアリバイをチェックさせる傾向になってる気がする。
これに促されて注意してると、完全犯罪が可能な先生の立場と、それが露見しないように立ちまわっている狡猾なサイコっぷりが少し透けて見える計算、なんだと思う。
そろそろ犯人を露骨にする頃合いというか……ここまで言っておいて、先生犯人じゃなかったら土下座じゃすまんな。

犠牲者を巡る悟と犯人の知恵比べが、一時悟側に傾くお話でした。
可愛い雛月がなんとか無事に済んだのはありがたい限りなんですが、そうやって息を付かせておいて腹に一発入れるのがこのアニメのやり方ですので、油断はできません。
露骨に黒いオーラを出してきた先生が、どういう手を打ってくるのか。
立ち向かう悟は何に気づき、何に気付かないのか。
カタルシスの予感が高まる来週が、非常に楽しみであります。