イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

あまんちゅ!:第5話『仲間と初めての海のコト』感想

めそめそ女がカラッとガールにズブズブ依存していく過程を描くガール・ミーツ・ガール、今週は未知との遭遇
『お前ら二人っきりにしてくとすーぐネトネトするからな! もっと広い世界にとびだせ!!』とばかりに、双子の先輩たちと邂逅し仲良くなるお話でした。
ノリと勢いで社会規範を踏み倒した落とし前をコメディタッチで巧く料理し、ポエジー溢れる黒板の海で絆を深め。
内にこもっていたてこの視界がどんどんと開けていく様子を、さらに加速していく出会いのエピソードでしたね。

Aパートは至極真っ当な怒りに燃える姉ちゃん先輩を、か弱い新入生コンビがどうにかして沈めようとドタバタあがく話。
いかに素敵な時空に侵食されているとはいえ、ここは一応リアルでドープなハード・コア熱海。
不法侵入と機材あらしにお冠な妹ちゃん先輩を描くことで、ふわっと夢いっぱいな世界を守りつつ、ケジメと落とし前をナァナァで済まさない公平さを担保するお話でもあります。
こういうことをしっかり収めておかないと、逆の方向から作品世界は壊れちゃうからな。

とは言うものの真正面から怒りを叩きつけると作品世界が壊れてしまうので、愛ちゃんの怒りはあくまでコメディタッチで描かれる。
ヘンテコ顔を多用し、時折誠への蹴りという形で高まった怒りを噴出させ、わいわいがやがや楽しい感じで右往左往させるのは、上手いクッションのかけ方だと思いました。
間抜けな半脱ぎブルマスタイルも場面のシリアス度を下げるいい仕事をしており、ナイスアニメオリジナル要素でしたね……てこにフェティッシュな格好させたかっただけかもしれんがな!

愛の怒りをややオーバーに描いたのは、怒りを沈めていい先輩に収まる今後の展開から考えても必要な行為だったと思います。
ダイビングを愛すればこそ高まる怒りを15分の間に全部出させることで、わだかまり一切ない状況を引き寄せ、てこやぴかりの世界が広がっていく手助けをスムーズに担当させる。
愛ちゃん先輩を発想力と行動力、責任感と楽しさを兼ね備えた『いい先輩』にクラスチェンジさせる意味でも、てこぴかが夢を見た代償をしっかり払わせ、過剰にシリアスにさせない話運びは良かったと思います。


やや対立基調だったAパートから一転、Bパートは和やかにご飯を一緒に食べ、未来について話しあい、同じ夢を黒板に描いていくお話し。
火鳥先生もそうなんですが、ダイビング部の破天荒な行動力、予定通りではないけど楽しいことに自発的に飛び込んでいく姿勢は、大きな魅力です。
黒板へ海を描くシーンは愛ちゃん先輩も弟くんも同じ魅力を兼ね備え、引っ込み思案の黒髪がそこに一歩を踏み出していく象徴として、良い機能を果たしていたと思います。
海に一歩も入らなくても、想像の海を黒板に出現させ共有できる詩情も見事な仕事をして、『日常の中の素敵』を追いかける作品にふさわしいシーンでした。

その前段階として『食事をともにする』シーンがあるのが、僕は好きでして。
衝突と謝罪から始まったちょっとギクシャクした関係が、机を並べ同じ場所で同じものを食べることで、段階を踏んで近づいていく丁寧な描写として、弟くんのおごりの弁当食べるシーンはなかなか良かったなと思います。
二次元でしかないアニメーションの中で、三次元的な感覚のリアルが取り込まれ、関係の変化が身近に感じ取れる演出が好きなんだな、僕は。
なので、衣食住をないがしろにしないアニメが好きなのよね。

『衣』という意味では、ぴかりもてこもよくヘアスタイルを変え、オシャレを楽しんでいます。
ここら辺は女性原作者らしい細やかな仕事だなと思いますが、相変わらずの女体のカーヴへのこだわり含めて、『己を飾る』ことへのポジティブで自然な姿勢がこのアニメにはあると思います。
他人と差をつけたり、優劣を競うためではなく、己の人生を輝かせる手段の一つとして気負わずやっている『衣』への意識は、やっぱ好きだな……その描写が骨格の上に筋肉が乗り、その上に布が乗っかるという認識に基づいてるのも、エロくて好き。

ジャージ着ててすら、骨盤のハリが強調されてんもんなぁ……あと女性の体型の差異を細かくつけるとこね。
わかりにくい表現になるんだけど、女の人の身体を『男が楽しむもの』ではなく『己が胸を張るもの』として誇り高くエロく描いているのが、僕はすごい好きなの。
世界に一つしかない己の身体を無言で信頼し誇っている感じが、てこの黒髪や愛ちゃんのおっぱいの描写を見てると伝わっているというか……やっぱ分かりにくいな。
こういう骨太な身体感覚は原理的に男女問わんはずなので、弟くんの身体描写ももっと増えていいと思うけど……そこら辺は、天野先生のフェティシズムが元気にならんところなのだろう。


さておき、今回は話の落とし所が『てこの携帯電話』に集約するところも好きです。
これまで携帯電話は後ろ向きで閉じたてこの世界の象徴であり、基本的には否定される存在でしかなかったわけですが、今回あh消えてしまう一瞬を形に残すことが出来る、文明の創りだした魔法としてポジティブに描かれています。
顔を上げて広い世界と向き合い、素敵なことを楽しむようにしていけば、新しく出会ったものだけではなく、これまで持っていたものも意味を変えていく。
てこの夢を詰めた黒板が永遠のものになった今回の収め方は、そういうメッセージを巧く発信できていたように思います。

可能性を広げていくという意味では、今回『水』が回想以外では描写されないのも好きで。
このアニメは『水』が肌に触れる快楽をすごく大事にしていて、その新鮮な驚きを想起させることで、てことぴかりが出会う世界の美しさに説得力をもたせています。
ダイビングをテーマにしている以上その描写はとても正しいわけですが、それだけが世界の美しさだとしてしまえば、開放を目指すはずの物語は閉鎖的な方向に道を間違えていく。
『水』がなくとも世界は綺麗だし、心を揺さぶる体験もたくさんあると示す上で、陸上や学校内部で展開した今回のお話しは、結構大事だった気がする。

『水』を離れた価値を描くことは『水』の特別さを壊すことではなく、お互い相補いあい高め合う世界の広さを保証してくれるわけで。
今回のお話が先輩と衝突しながら出会い、和解しながら体験を共有するお話だったのも、色んな要素がありうる世界の広さと、そこで出会う『素敵』の尊さを増幅するために、てことぴかりの世界を広げるためでしょう。
お互いがお互いを受け止め合うバディの大切さも、それとは違う関係性との出会いも、『水』の中の経験も、丘の上での思い出も、みんな別々の価値を持って輝いている。
そういうキレイ事を成り立たせるためには、異質な体験の異質な美しさを、一個一個鮮明に描く筆が必要であり、このアニメはそれを成し遂げられているなぁと感じます。


そんなわけで、運命の邂逅を果たしたバディたちが、また別の人達と関係を創っていくお話でした。
対立と社会性、融和と思い出、学校生活と先輩・後輩。
これまでのお話ではあまり掘り下げなかった部分にズズイと踏み込み、新しい価値をしっかり輝かせてくれる楽しいお話で、非常に良かったです。

ダイビング部という新しい社会性を獲得し、先輩とも豊かな関係を築き始めた一年コンビ。
しかし特に黒髪のクソっ面倒くさい方の心には、まだまだ大量の青春地雷が埋まっております。
相棒に先輩に先生に、色んな人の助けを借りながら一歩ずつ『水』に近づいていくてこの青春旅が今後どこに転がっていくのか。
非常に楽しみですね。