憂国のモリアーティを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
”緋色の研究”を切っ掛けに、シャーロック・ホームズの名声は高まった。
しかし押し付けられる事件に憂鬱は高まり、ついに彼はワトソンと衝突する。
飢えた獣のように、謎を求め彷徨うホームズの鼻が見つけたのは、宿命のライバルだった。
鬼さんこちら、手の鳴る方へ…。
そんな感じのコカイン! 鬱病! 癇癪! ”シャーロック・ホームズ”っぽくなってきたじゃねぇ!! な、モリアニ第10話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
前回極めて正しい方向に啖呵を切ったホームズくんだが、生粋のミステリ・ジャンキーっぷりは抑えきれず、マジモンのクズとして暴れ倒してきた。
ここまでの蓮っ葉で風通しの良いアンチ・ホームズ的な人物像が、モリアーティの用意する事件に溺れ、身を持ち崩してだんだんホームズ的になっていく歩みには、原典を面白く変奏する伝奇の醍醐味が宿り、大変面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
やっぱ、コカインでメロメロになってるホームズ見るんは面白いなぁ…。
というわけで、ホームズくんのダメな所がドシドシ顔を出す今回。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
モリアーティPの影からの広報で、すっかり有名人になったは良いけども、押し寄せる雑事にうんざり顔である。
劇場計画の広告塔に使うんだから、そら情報も流すわな。
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ここでマス・メディアを制御する立場にいない辺、ホームズの権力基盤の弱さ、あくまで”貴族”であるモリアーティの強さが垣間見えて面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
”憂国”の看板は伊達ではないと言うか、支配者階級から構造を崩す矛盾と引き換えに、モリアーティ一味は世論を操り、大きい波を動かす力が大きいわけだ。
対して市井の探偵に身をやつしたホームズは、国とか報道とか、デカい装置を上から動かす力が弱い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
モリアーティが操る舞台装置から、降りてひっくり返す基盤がない、というか。
これを維持するために、ウィリアムは”モリアーティ”を乗っ取った、とも言えるか。現実主義者だ。
この世界のマイクロフトがどんな存在かは判らんけども、コックニー訛りを演じストリートに落ちることがなければ、ホームズも世評の波を乗りこなす立場にいたはずだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
しかし、今の彼はそこにはいない。無力な平民に落ちるだけの嫌悪が、貴族社会にあったのだろう。
そこで実利を捨ててベイカー街に身を投げれる所が、ホームズの理想主義であり脆さ…かな。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
ドブの中からドブ掃除するべく、ドブの元締めに近い場所を簒奪する。
家をボーボー燃やして乗っ取ったモリアーティは、シビアな算数ができるから一歩、探偵に先んじるわけね。面白い対比。
興奮できる謎への手がかりは蹴っちゃったし、有名になっても仕事つまんねぇし…一発キメるぜ! つうわけで、紫の煙に酔い出すホームズ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
ドラッギーな酩酊描写は、”シャーロック・ホームズの素敵な挑戦”思い出すね。
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殺して魅力的な謎に溺れるか、生かして正しい道を進むか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
後者を選んだホームズだが、後悔は憂鬱を呼ぶ。
コカインでも癒やされない、重度のミステリ・ジャンキー。殺意の赤に染まった銃弾を、あの時打ち込んでいればよかった。
そんな考えが、紫の煙とまとわりつく。
緑は疑念、赤は殺意。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
画面を単色で染めぬく演出がいん商的なこのアニメだが、幻惑の紫は初めて出てくる色彩である。
謎追い人として、”モリアーティ”の敵対者として、正しい道を選んだ結果、彼はひどくシャーロック・ホームズ的な憂鬱に悩まされることになった。
彼の部屋もまた、赤く染まっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
死と謎が織りなす魅力的なダンスに、脳髄を焼かれたジャンキーとして、その立ち位置はひどく犯罪者に近い。
一歩間違えば簡単に落ちる道で、フラフラと彷徨う宿命は、まだ終わったわけじゃない。
というか、ホームズ的日常が始動して、より強くなったね。
弦の切れたヴァイオリンを投げ捨て、虚空に向けてぶっ放す。そんな狂気に片鱗すら、謎を追う手がかりを引き寄せる計算が滲む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
才気と狂気、犯罪者と解決者。ウィリアムとはまた別の危うさが、その宿敵にも宿っている。
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ダウナー極まった所でコークバチギメして、バッド入って銃乱射。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
奇行に見えたものが実は、どん詰まりの憂鬱を晴らすための緒を、なんとか掴もうとするあがきだった。
ひげそり中の警部を呼びつけるには、あんまりに乱暴なご挨拶には、紫煙でも鈍らない彼の理性が滲む。厄介なジャンキーだな…。
というわけで、仏頂面でヨークくんだりまで足を伸ばし、地べたに鼻をこすりつけることにもなる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
田園と鉄路。非常にイギリス的な風景が最高のクオリティで垂れ流され、眼福の極みである。
やっぱ美術、最高にリッチだよなぁ…ありがたい。
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目の前の謎を精査せずかぶりつく仕草も、鼻面草に埋めて探し回る有様も、婆娑羅にしてスタイリッシュな名探偵とは程遠い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
それほど彼は味の濃い謎に飢えていて、切れるとすっかりダメになってしまう。安定供給してくれる元締めを、恋い焦がれ荒れ狂いもする。
それは殺人とはまた別の悪徳…麻薬による汚染を思わせて面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
貴族による邪悪の一貫として描かれていた、依存と支配。
死による支配は失敗…ある面では成功したけど、期せずして”モリアーティ”はホームズの謎依存を餌に、彼をコントロールできる立場に立っているわけだ。
野良犬のように謎を探し回り、荒れ狂い、強く求める。そのためなら、非殺の決断にもツバを吐きかける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
なかなかいい感じのクズっぷりに、ワトソンくんもマジギレ三行半である。
切符の管理してもらってるベイビーちゃんのくせによぉ…
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ワトソンくんアフガンでたっぷり死体を見てるので、『だからこそ殺さない』って決意は重いし、そこから離れるならどんだけ気の合うホームズでも、ステッキ突きつけ決別を言い渡すのよね。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
モリアーティー印の麻薬が切れたジャンキーは、まだその重さを判ってねぇ感じ。
光を通す鉄骨と、闇に染まる天井。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
謎に溺れるか、非殺の探偵として活きるか。
ホームズの未来は今、明暗の間にある。外付け良心装置に繋がる扉は、癇癪で閉ざしてしまった。
気晴らしにでかけた食堂車でも、無明を閉ざすように梁が映り込む
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それが、”モリアーティ”に出会うことで晴れる。カメラはスッと障害物を避けて、対等のライバルに出会えたホームズの喜びを写す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
ここら辺は、静物を的確に使いこなすレイアウトとカメラワークの妙味で、非常に面白い。こういう表現力の高さは、相変わらずのぶっちぎりだよなぁ…。
恋人に出会った少年のように、ホームズは瞳を輝かせ、危うい推理を投げつける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
麻薬のように自分を惹きつける、巨大すぎる謎。事件の裏、輪郭だけが見えている怪物に焦がれている自分を、隠すことなく晒していく。
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死を弄び、メディアを操る。自分が追う謎の裏にある存在のデカさは判っているし、危険も承知だと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
それでもなお推理を並べ立て、焼け付くような期待を告げるのは、彼が愚かで狂っていて…英明で憂鬱だからだ。
あまりにも優れているが故に、見えてしまう世界。鮮烈なる孤独。
それを癒やすべく”モリアーティ”は犯罪を選び、ホームズは解明を選んだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
犯罪者と探偵。明瞭に分けられているようで、その分水嶺は危うく揺らぐ。
揺るがすように、ウィリアムもホームズも振る舞う。
そこには、子供めいた無邪気が匂う
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疑念の緑に世界が染まり、ルイスは食事の道具を凶器と握りかける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
かつて自分が殺した”モリアーティ”…醜い貴族と同じ存在に墜ちかけた所で、ウィリアムは数学者らしくブラフを躱し、一触即発の状況は去っていく。
悪魔の証明は、持ちかけた方の不手際。クレバーな指摘に、ホームズも矛を収める。
それでも、お前が俺の宿敵でいてほしかった。事務所に押し寄せるクソみたいな謎ではなく、噛み付くに足りる地獄を共有してほしかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
その告白に、ウィリアムは黄金を見る。
鬼さんこちら、手の鳴る方へ。
そう、ラブコールを受ける。
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(アルバート含め)犯罪の依頼者には、ついぞ見せなかったラフで子供っぽい、心の底から楽しそうな表情。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
貴族らしさを取り繕わない、ぞろっぺぇストリートの姿勢…ホームズとの”おそろい”。
”Catch me if you can”は、鬼ごっこのはやし文句だ。探偵からの遊びの誘いに、犯罪卿は乗った。
隣りにいるルイスも、ここにはいないアルバートも、二人の幼く無防備な関係には入り込めない。巨大感情がこんがらがってきたぞッ!!!(歓喜の叫び)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
血と炎で刻印された縁より、危うく蠱惑的なものが漂う時、紫の幻惑も緑の疑念も、そこにはない。
あるのは、人生の意味を見つけた時の黄金。
犯罪を差し出す時、ウィリアムはそれをまとっていた。しかし差し出す側は、麗しき罪に輝きを見出していたのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
己を破滅させ、崇高なる計画を破綻させかねない宿敵にこそ、己を導く光を見出してはいないか。
そんな危うさ、子供っぽい無邪気は、探偵と犯罪者で完全に釣り合っている。
しかし岸を越えて二人が手を取り合う未来は、そこにはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
かたや探偵、かたや犯罪者。殺す側と殺さない側、謎を差し出す側と受け取る側に引き裂かれているからこそ、二人は出会い、惹かれ、利用し、潰し合う。
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ひどく不謹慎なダンスは、ガラス越しの死体を肴に続いていく。密室の中の謎、安全圏で踊る死。さぁ、楽しい推理比べと行こうじゃないか!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
ルイスは殺意を尖らせながら置いていかれ、ワトソン君は犠牲の血を流す。え、マジ大丈夫?
…という所で、物語は後半に続く。
死と謎を弄ぶろくでもなさは、探偵小説とミステリの特色だと思う。それを密室に閉じ込めうる”近代”あってこそ、ホームズが生まれた、とも言えるが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
そんな時代の軋みを揺るがすべく、犯罪を選んだ”モリアーティ”に、どれだけホームズが焦がれているか。
そしてモリアーティが、どれだけ惹かれているか
それが良く見えるエピソードとなりました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
クソジャンキーで変人でゴミカス。
先週清廉なところを見せた探偵が、目の前にぶら下げられた餌によだれダラダラ、どんどんホームズ的な存在に堕ちていくのも面白かった。
ワトソンくんが押し留めてた”モリアーティ”的な部分が、ダダ漏れになったとも言える
外付け良心装置は撃たれちゃって、しばらく探偵ははウィリアムと一人で遊ぶことになりそうだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
分厚く被った仮面を外し、ひどく子供じみた表情で遊べる唯一の相手。宿敵同士の鬼ごっこは、どう転がっていくのか。
つーか兄と弟から寄せられる感情が、釣り合ってないのバレたな…待ってるの地獄だなコレ
アルバートは差し出された犯罪とウィリアムの存在に黄金を見たけど、ウィリアムは兄貴に光を見てない感じなんだよなぁ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
隣で冷や汗かいてたルイスの殺意も、ラブコールに微笑んだ兄貴の思いとはすれ違ってるし。
兄弟共犯気取ってても、その実断絶が太く入ってんのね。
理想主義者と現実主義者。街路と邸宅。真実と嘘。推理と銃弾。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
正反対に見えつつも、運命に導かれ出会い、魂が惹かれ合う男たち。
ホームズと”モリアーティ”の危険なダンスは、銃声を伴奏に加速していく。血で繋がった共犯者も、そこには入り込めないのだ。
次回も楽しみですね。
追記 やっぱクール気取りの澄まし顔が、運命叩きつけられてベロリとムケる瞬間が最高だな。
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
やっぱ巨大感情の擦れ合いが好物なので、ホームズという対等にして正反対の存在がグイと前に出てきて、ウィリアムが生っぽい熱量を燃え上がらせてくれると、作品と自分の好みが噛み合ってきた感じで嬉しい。
兄弟も一味も、どっかウィリアムの魂を黄金にはしてくれない”遠さ”が、ここまであった。
それを引っ剥がして、子供めいたナマの顔を引っ張り出せる相手が、ホームズを痺れさせる最強の謎、最悪の犯罪を差し出せる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
ホームズの推理の刃だけが、”モリアーティ”を殺せる。
原典にある宿命感が、ここに来てメラリ燃えてきた印象。素晴らしい。
ライヘンバッハの滝に続くと約束された、二人の熱く絡み合う視線。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
ここに入り込めない兄と弟とワトソンくんが、どんな巨大感情を拗らせぶつけてくるかも楽しみなんだよなぁ…。
絶対この断絶とすれ違い、無茶苦茶なことになるでしょ。社会転覆を企むクソテロリストなんだから、それでイイのよ…。
宿命に導かれ、約束された破滅へと惹かれ合う探偵と犯罪者。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年12月15日
そんな二人の縁の強さを、ロマンスの色合いを絡めながら書いてるのは、とても良い。恋にすら似た殺意…ッ!
強い感情を描く時、”艶”ってのはやっぱ大事よね。エロスとロマンスだけが、否応なく人を突き動かすものに色を付けるのだ。