輪るピングドラム 第9話を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
深く、もっと深く。
白兎ならぬ謎のペンギンを追って、陽毬は冥府を下っていく。
謎めいた司書が語る物語は、取り戻し得ない過去と少女の心を抉り出す。
それは夢か、はたまた真実か…というエピソード。
作品を暗く覆う死靈、渡瀬眞悧初登場のエピソードである。
晶馬が事故った衝撃のヒキから、武内宣之の画面構築センスがブッ千切る謎の過去編に繋がれ、放送当時当惑…しつつ魅了されたのを憶えている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
第1話時間軸を一度死んだ陽毬の視点から書き直し、この段階では表に出ないものを不気味な光で照らすような、美麗な悪夢のようなお話。
一応物語を全て観切った立場から見ると、様々なものが示唆されつつやはり謎は多く、考えるよりも感じる心地よさと不安が、色濃く感覚を揺さぶってくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
地下61階まで伸びる逆向きのサンシャインは、条理を大きく越えたワンダーランドである。
陽毬はそこに迷い込み、あるいは誘い込まれていく。
"不思議の国のアリス"と冥府下りの神話を混ぜ合わせ、村上春樹とウテナ黒薔薇編で煮込んだような奇っ怪なオマージュは、圧倒的な美的センスにしっかり支えられ、異質な秩序を保っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
沢山あるのに、どこにもない本。
確かにあるはずなのに、見つけられないもの。
"カエルくん東京を救う"が、阪神大震災と地下鉄サリン事件を視野に入れてること…村上春樹の作品世界を暗く彩るアンダーワールドが、強くこの作品と呼応することは、既によく語られている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
学校に行かない(行けない)陽毬は、図書館に慣れ親しんでいる。
そこで得た様々な想像力は、ダブルHをスターダムに押し上げた時間の流れから彼女を置き去りにして、ペンギンに喜ぶ幼い存在に取り残している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
死者はもう、歳を取らない。
陽毬は『皆と同じ』レールを走る社会的、時間的乗り物に、乗り残った少女である。
ここまで8話、兄たちの視線だけで構成された物語においては、飾られた寝台に微睡むお姫様だった陽毬だが、今回眞悧の礼儀正しい…しかしよく聞けば悪意と傲慢に満ちた踏み込みによって内面を切開されていくと、無邪気でも無敵でもないことがよく解ってくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
諦観と悪意。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
透明な存在として現実から切り離されながら、生者がより善く生きようとする試みを徹底的に呪い邪魔してくる、凶暴な死靈。
氷の大陸に挑み、取り残された存在を名前に持つ者たちを、遠くから見据え操る、既に運命の至る所に辿り着いて動けないもの。
悪辣でありながら寂しがりやな彼は、自分の同類を冥府に引きずり込もうと、様々なものにアプローチする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
それが陽毬だったり真砂子だったり桃果だったり、常に"少女"という属性をまとう所に、ウテナのディオスめいた拗れた王子願望、手を差し伸べているようで支配を狙う狡猾な弱さが透ける。
陽毬は東京が救われる物語(カエルが犠牲になる物語)を探し、『いつもの図書館』では見つからず運命の扉をくぐって、更に深い場所に降りていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
飛べない鳥の導きによって、深く深く地下に降りていく。
それは記憶の海であり、死と真実に近い場所だ。
苹果ちゃんが記憶に…こうあるべきと囚われている幸福な家族の過去に潜るときも、水のイメージが常に付きまとう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
地上に適応しきれない人魚姫達は、しかし完全な水生生物になることも出来ない。
陸と海の間で、ときに沈み浮かびつしながら、危うくさまよう存在。(さらざんまいの河童とのリンケージ)
それを自分の岸に寄せようと、眞悧は"高倉陽毬"を物語化し、過去を勝手に読み上げ、全知ながら何も直接には触れない亡霊の領域から、少女の心に踏み込んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
そういう存在に狙われて、彼女の復活があるのだ、という釘刺しを、このエピソードは静かに果たしている。
果たせなかったトリプルHの夢、あり得たかもしれない未来。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
それが破綻する時、母は(冠葉をガラスから守った父と同じく)陽毬を庇って傷つき、その心に一生消えない傷を残す。
透明でありながら、確かに存在するもの。高倉の父母は、それに傷つけられて、子を庇って聖痕を刻む。
身体の傷は守った側につくが、心の傷は護られた側にこそ深い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
透明な嵐の当事者とならなかったこと、護られた経験…あるいは誤ってしまったという意識が、子供たちの未来を決定していく。
愛は呪いとなり、守護は束縛ともなる。
後に過酷な運命に物語を投げ込むテーゼは、既に幾度も繰り返されている
両親不在の高倉家の現在は、しかし死せる者の影響下に強くあって、あのポップで明るく幼いお家は今でも、亡霊たちの住処である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
この長い長い残響は、例えば"M"に呪われた苹果ちゃんや、桃果との出逢いを呪いに変えた二人の生存者、あるいは今回顔を見せた眞悧にも通じる。
あまりにも猛烈に、自分の人生を決めてしまったものの残滓を、どう処していくのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
このお話(あるいは幾原邦彦作品)の登場人物は、皆これ一つに悩んでいる、とも言えよう。
それがなければ生きられないほどの、鮮烈な運命はしかしいつしか色あせ、祝福は呪いへと落ちていく。
そんなエントロピー。
陽毬もまた、子供ブロイラーから見つけ出され、選ばれ、差し出された経験を決定的に刻まれて、それを忘却する呪い、しかし抜け出せない祝福に囚われながら、生きてきて死んで、また生き直す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
狂ったワンダーランドでの体験は、夢なのか現実なのか。
死後の生は、目を開けたまま見る悪夢なのか。
この段階では答えどころか問いかけすら鮮明ではないし、しかし見返してみれば、全てが既に投げかけられてもいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
同じリボン、同じステージ、同じ輝き、同じ生。
ダブルHと陽毬が…永遠の友情が同じレールを走ることは、ついぞなかった。
池の鯉を捕獲し殺害せんとするシーンは、ポップなBGMがさかしまグロテスクに、その無邪気な狂気を強調する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
永遠の友情に思えるものは、無辜なる犠牲を必要とする。
おそらく飲んでも傷は治らなかっただろう生き血を、実際絞っていたら、幼い日の思い出はどんな色になっていただろう?
あるいはそんなグロテスクすら、自分だけに差し出された特別な愛なのだと抱きしめられることこそが、特別な縁を紡いでいくのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
しかし、犠牲は犠牲である。
その重たさ、取り返しのつかなさは作中に秘された過去の中で、未だ到来しない運命の果てに、鮮烈に焼き付いて影を伸ばす。
死靈たる眞悧が強く望む、呪いへの同族意識。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
掴めなかった未来に暗い感情を伸ばすよう、誘うかのように陽毬を"読む"彼の視線は、悪辣でありながら寂しげで、それがまた、少女を引き寄せる邪悪な罠の気配を漂わせてもいる。
口づけを遮る人差し指は、生者の領域に踏みとどまるための防壁だ。
ペンギンを送り出すベルトコンベアーに、"カエルくん東京を救う"を忍ばせられたということは、眞悧は既に陽毬が欲しいと言っているものの所在を掴み、差し出せる位置にいた、ということだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
しかし彼は、あえて陽毬という物語を読み、戻らない過去を突きつける。心をかき回す。
『そういう所が、欲しいものを掴めない理由だぞ…』って感じではあるが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
特権的に翻弄し、操作し独占する大人のポジションにいるようでいて、結局何も掴めない敗残者。
氷の大陸に取り残されている現状を見つめられず、だからそこから踏み出せない静止者。
陽毬は眞悧の接触に飲み込まれず、崩壊していく図書館から落下し、モルグに落ちていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
死の国から落下することはすなわち復活で、彼女は死ねなかったからこそ、愛すべき兄弟を呪いに誘うことにもなる。
それが、花冠を授けた死靈の思惑通りか、否か。
己の全てを賭して世の不条理、過酷な定めを越えていく青年達の物語は、この不可思議な脱線の後に加速しながら続いていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
眞悧は王子めいた余裕の仕草で、その愚かしきパレードを操作しているようでいて、最終的には何も掴めないまま足踏みする。
その姿が、学園という檻からまっすぐ旅立っていくアンシーと、再び決闘ごっこを仕込む暁夫にも重なって、このエピソードはやっぱり、特に生原邦明味が濃いなぁ、などと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
安全圏から何かを弄んでいると、自分の優位を確信するものほど、安全圏に囚われ停止…あるいは逆行しているのだ。
『そこにとどまるためには、全力で進まなければならない』と、赤の女王仮説でもって"不思議の国のアリス"モチーフに戻ってきた感じもあるが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
陽毬は眞悧が見据える/読む/求める暗い後悔を、真実の友情を手がかりに跳ね除けて、死者の国ですら前に進もうとしている。
そこには、今まで物語の中心にいた兄たちはいない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
陽毬は陽毬で、友情という名前の武器で武装し、彼女自身の物語を戦う一人の騎士なのだ。
護るべきと勝手に思い込み、それを支えに進もうとする存在が持つ、独自の逞しさと尊厳。
それを見落とせば、献身もまた鎖に、刃になるだろう。
仕組まれた復活、世界の裏側…運命の至る場所からの干渉。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
物語が終わった地点から見返しても、鮮明には語りきれず『こう! …じゃないかなぁ…』と及び腰に、自分が読んだものを差し出すしかない作品の構造が、夢に惑うアリスの歩みに透かし彫りにされるエピソードでした。
今回はあえて精査の手間に立ち止まることなく、過去作(あるいは未来の作品)との近似や連動を断言したり、この段階では定かならぬものへの言及を分厚くしてみたが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
そういう変則のアプローチでないと、言いたいことが言えないイレギュラーな回でもあろう。
変化球こそ真芯をえぐるというのが、なんとも捻くれたこの物語の得意パターンで、そこが面白くもあるのだが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
語り手、物語の舞台、向き合う相手と描かれるもの全てが、ここまでの8話と大きく異るこのエピソードにこそ、後の物語を貫通する様々なテーマ、モチーフ、謎の欠片が埋まっている。
タイトル自体が、”南極物語”を大事なモチーフとする作品全体を、井上陽水の声でコーティングして差し出すような、切れ味に満ちている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
”窓の外ではリンゴ売り
声をからしてリンゴ売り
きっと誰かがふざけて
リンゴ売りのまねをしているだけなんだろ”
”まね”である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
運命の林檎をこの段階で差し出した眞悧が、赤心少女の未来を背負うべく彼女を見つけ、手を取り、口づけた存在のギズモでしかないことは、既に示唆されている。
”吹雪 吹雪 氷の世界”
死靈が立っている場所も、また。そこはひどく寂しく、寒々しい世界だ。
落下し、時間を越えて生者の世界、あるいは現代に戻ってきた陽毬は、愛する者の危機を電話越しに聞く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年9月8日
時間という列車は運命のレールに乗って、時に変則的に行きつ戻りつしながら、けして止まることはない。
次の通過駅はどこか。加速しつつ、物語は進む。
次回も楽しみだ。