輪るピングドラムを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
眞悧との契約により、陽毬は幾度目か、死の淵から目覚めた。
晶馬の口から紡がれる、彼の罪と罰。
三年前急に訪れた幼年期の終りは、未だ長い残照を伸ばしていた。
再び動き出す物語は、しかし今までのレールには戻らない。
運命の至る所へ進む、最後の幕が上がる。
EDも切り替わって、ピングドラム新章開幕である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
前半激ヤバ大迷走の主役として話を牽引した陽毬ちゃんが、非常に明朗で前向きな運命論に実感込めて語る〆だけ見ると、なかなかいい終わり…なんだけども。
誰かの終わりは何かの始まりでしかなく、ここから一気に物語はその顔貌を変えていく。
現実に置いてはあくまで穏やかに、特に誰もアクションは起こさない…ように見える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
しかし冠葉は眞悧と接触し、愛の意味を問われ契約を果たす。
世界でいちばん大事なものと、釣り合うと思うだけの対価。
陽毬の値付けはあくまで主治医ではなく、冠葉がやり冠葉が払うことになる。
ダイレクトに運命に介入できない亡霊として、眞悧は奇跡を差し出し人を動かす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
兄妹揃って悪魔のクライアントになってるあたり、まったく真砂子と鏡合わせである。
その願いが、愛するものの死を越えるというものなのも、似た者同士で悲しい限りだ。
情が深すぎる脆弱性を、的確に突かれている。
冠葉が眞悧と出会い、晶馬が苹果ちゃんに告解を聞いてもらう(聞き役と語り役、苦しむものと寄り添うものの関係が第1クールと反転しているのは、結構な注目ポイント)裏で、陽毬は苹果を抱いて眠り続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
それは三年前、きょうだいの幼年期の終りとシンクロしている。
陽毬はか弱いお姫様として、現実の厳しさに対決することを許されない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
抗うことの出来ずに死に、同意を得ることもないまま蘇生されて、護られ捧げられる対象として、行為の権限を剥奪されている。
無力で無邪気なお姫様。
永遠に成熟することのない子供。
そんな、陽毬の檻。
眠るものが何も知らないわけではなく、陽毬が世界を…それに翻弄される自分をどう感じているかは、眞悧初登場となった第9話で、既に示されている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
ヒロインでいることしか許されない眠り姫は、未だ氷の冷たさを知らぬまま、護られ捧げられ続ける。
それが、彼女の運命だから…?
眞悧が本格登場する今回、かなり素直に犯行動機をゲロっていたのは、なかなか面白い発見だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
運命なるものが存在するのか、それはどんな顔をしているのか。
哀れな生存者たちを使ってそれを確認する、ある意味科学者的な興味と執着。
それが、亡霊の駆動装置である。
ペンギン帽を相手に、桃果への捻れた感情を吐露していた素直さも、また再見故に面白く見える部分で。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
実際に大爆走キメるタロジロコンビが目立つけど、コイツも桃果と出逢ってしまったことで人生狂った一人だったんな…。
つくづく、救世主は罪深い。希望を見せてしまうから。
非情な運命を覆し、ハッピーエンドを掴みうる可能性も、とても正しい理も示しておきながら、贖い主は(贖い主であるがゆえに)生き残れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
世界を壊してしまうほどの危機に己を捧げて、人が生きるべき場所を残す。
それが出来るのが、特別に選ばれた救世主だけだから、己を捧げる。
自己犠牲を前提にするなら救済は、犠牲となったもの…に救われて、救い主が去っていってしまった傷口を膿ませて呪いに変えていく生存者たちを救わない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
運命を書き換えられた記憶、特別な誰かに選ばれてしまった思い出が、凶暴なノスタルジーとなって取り残されたものを突き動かしていく。
眞悧はニヒリズムの権化であり、この世を食らう魔王であるが、救済を求める人の声は聞こえている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
それを果たすべく、世界の虚偽を暴力的に剥ぎ取って、剥き出しの真実に白く冷たく、世界を染めようとする。
さよならだけが人生だ。
死という真実こそが、眞悧の救済である。
冥府の王である彼が”医師”のペルソナを、黒うさぎに取って付けられているのは大変面白いが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
眞悧が見て聞く、普通人が軒並み聞かなかったことにしている悲鳴を桃果も聞く。
彼女の救済は常に生の方向に向いていて、奇跡の対価は(眞悧や冠葉のように)世界に払わせるのではなく、自分を焼いて払う。
己を捧げることでしか他人は救えず、自分を守ろうとすれば世界を殺す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
必ず片方しか選ぶことの出来ないシビアな世界の中で、眞悧と桃果は同じものを見て、真逆の決断をする。
だから二人は不倶戴天に、永遠に相争う。
記紀神話だと女性が担当する根の国の主が、ここだと男性なのは面白いネジレ。
遊戯のように嫌がらせのように、眞悧は運命を弄んで生者を試す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
悪魔のゲーム盤に乗っかった人間が、多大な犠牲とともに辿り着く結論は彼にはない。
亡霊になってしまった以上、彼の物語に結末はなく、それに付き合えるのも桃果だけである。
宿敵だけが、彼と永遠を分かち合うのだ。
眞悧は運命が好きでも嫌いでもない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
それが本当にあるのかをずっと試し、人間に証明させ、その結論を引き受けて変わることはけして出来ない。
己の半身と愛した桃果が、自分を否定した地点で足を止めてしまって、己を鑑みることが出来ない。
亡霊は静止している。
変わることが出来ること。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
それは生者だけの特権で、苹果ちゃんは晶馬に向き合ってもらったことで自分の生きざまを変え、”M”を諦めていく。
多蕗と公園で語り合う時、彼女の奇妙な恋は破綻しているが、そこに宿る空気は今までで一番良い…だけで終わらず、ジリジリと不穏でもあるが。
晶馬が罪と罰を告白したことで、多蕗が笑顔の奥に燃やし続けている黒い炎はブスブスと、表に出てくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
復讐、憎悪、あるいは愛。
表面上大人になって、それを既に乗り越えたと語る元少年の前に横切るのは、凶兆の黒猫である。
一匹と三匹。意味深で、やっぱり読みきれないsigne。
苹果ちゃんは姉を奪った晶馬の罪を、全く正しく恨まない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
血縁によって巻き込まれてしまった理不尽な苦しみに、意味があってほしいと祈りながら運命を祝いでいく。
最後のモノローグは彼女が初登場した時と同じだが、その意味は真逆に反転している。
”M”を追っていた時は(家族への強すぎる愛が変質した)己のエゴしか追っていなかった視線は、執着の具体である日記を破かれ、奪われ、晶馬に何者にもなれない自分自身を認めてもらったことで、広く外側に向いている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
自分が追い求めていた青年が、くたびれ傷ついていることも良く見える。
皆数奇な運命に囚われ、それでも希望を追って足を進めている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
崩壊した家庭から自分を置き去りに、新しい家へと逃げていったように思えた父も、その一人。
そう受け止め、新しい関係を結び直す靭やかさが、今の苹果ちゃんにはある。
そうなれたのは、晶馬がドタバタに付き合った結果だ。
巻き込まれただけの相手。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
大事なものを守るため、踏みにじるべき犠牲。
そう冷たく割り切るべきものが、どれだけ歪んでどれだけ苦しんでいるかを、晶馬は見てしまう。
そうして寄り添ってもらったこと、ギャーギャー喧しくぶつかり合えたことで生まれた絆が、苹果ちゃんのレールを変えた。
ここまでお人好しの好青年でしかなかった晶馬の物語は、苹果ちゃんのジャンクションにシンクロするように、一気に深く下降していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
己のせいではけしてなく、しかし血の絆を自分に引き寄せていたいのならば、切り離すことは許されない罪と罰。
それが薄暗い場所へ、晶馬を引きずり込んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
…というか既に彼は暗い場所にずっといて、それに抗うようにあのブリコラージュな家で暖かな家族を演じ、ノンキな好青年を演じてきたのだ。
変貌に見えるものは、その実殻が割れた結果でしかない。マグマはずっと煮立っていたのだ。
眞悧が冠葉と契約したことで、運命を探る実験は再度テロルへと加速し、高倉の子供たち、救世主に救われた生存者たちを飲み込んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
その嵐の中で、ヒロインに何が出来るのか。
大人ぶった者達の身勝手と、子供に思える者達の至誠が衝突するレールが、ここから静かに引かれていく。
三年前、まだ子供でいられた兄弟が口にする不発弾の例えは、二重に善い象徴である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
一つは、地下で爆発したのは間違いなく本物の爆弾で、気分逃しの冗談で口にする仮想の不発弾などではけしてなかったから。
自分が生まれた日に沢山死んだ人たちは、血を宿し明日を求め、確かに実在していたのだ。
その重さを知ればこそ、晶馬は己を責め罪の贖いを求めて、ずっと苦しむわけだが。それもまた、仮想の不発弾ではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
もう一つは、輝かしき高倉家の日常の奥にずっと、悍ましき殺意と罪は眠っていて、それが炸裂すれば確かに、全ては更地になってしまったからだ。
爆心地にでも、生き延びてしまった人々は生活を立てる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
食事をし、対話し、相手の意見に自分を否定され、そうして崩れたアイデンティティを新たに作り直していく。
そのために必要な糧と助けがあれば、苦しいことも悲しいことも、確かに幸福に繋がっているだろう。
だがその営みよりも、全てを薙ぎ払った喪失に、冥界から溢れる死とニヒリズムに囚われてしまえば、世界は焼け野原として固定され、生存者は永遠の責め苦を味わうことになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
忘却、克服、あるいは復讐。
止まった時間を進めるためには、尋常ではない何かが必要にもなる。
晶馬は加害者の子供として、被害者の妹(であることが暴露された)に誠実に、自分が背負う罪を告白した。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
地下から不発弾を掘り出し、苹果ちゃんの前で炸裂させたのだ。
血を吐くような叫びに込められた痛みに、少しでも救いがあってほしいと、少女は自分を助けてくれた少年の顔をようやく、見る。
炸裂の炎は必ずしも全てを薙ぎ払うだけでなく、再生のための着火剤ともなりうる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
苹果ちゃんの歩みはそんな希望を体現するが、それと並走して動き出した物語は重たく、冷たく、静止と呪いを蔓延させていく。
喜ばしき変化と決断に満ちた生と、冷たく凍りついた死。
その両方が一人の中で完結はせず、必ず世界と誰かを巻き込んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
桃果の特別な力とカリスマ、誰かの傷を見落とせない優しさ(それは、妹そっくりである)が、彼女が去った後に取り残された者たちにとって、深すぎる傷になったように。
運命を観測する冥王が、奇跡を求める愚者を手駒に、世界にテロルを撒き散らさざるを得ないように。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
人間という現象、運命の放電はけして、単独で完結はしない。
望むと望むまいと、希望と絶望は触れ合って発火する。その炎から、誰も逃れることは出来ないのだ。
そんなルールに支配された物語は、かくして静かにレールを変える。あるいは、今までも同じレールに乗っていたことが、ココから次々暴露されていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
ノンキな青春コメディに見えていたものが、確かに晒していたヒントを繋ぎ合わせ、物語の実相を見せる解答編が動き出す。
再見していくと、サスペンスを構築する手際がかなり良くて、ヒントと答えのバランスがいい作品なんだな、と思える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年10月6日
このヒリツイた骨格に、ぎゅうぎゅうと切実な魂の叫びを、愛と死に満ちた世界の有り様を詰め込んで、物語は加速していく。
その歩みに、容赦は一切ない。
次回も楽しみである。