リコリス・リコイルを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
雪に見送られ、それぞれの未来へ巣立ったたきなと千束。
跡を濁さぬために巣をたたみ、向かう先は死地か明日か…という決戦直前、静かな鳴動のお話。
ミカと千束、真島と楠木の対峙が色んなものを照らして、作品の奥の方を感じ取れることが出来るエピソードとなった。
兎にも角にも、痛切な話数である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
幼少から死を覚悟し、救世の理想を追いかけ進んできた千束には、ある意味非人間的な透明感がある。
”錦木千束”というエゴが何を願い、何にしがみつくかを綺麗に切り離して、親しい人や守るべき相手を最優先で考えてしまう、優しい哀しさ。
サクッとリコリコ閉店を決め、クルミとミズキが残念なく未来に旅立てるよう、あくまで明るく朗らかに。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
他人の明日を楽しげに聞くのに、そこに自分がいなくなるよう、慎重にさり気なく最後の対話をまとめていく気遣いが、あまりに悲しい。
賢く優しい若人が死ぬ。
世間に沢山ある悲しみでも、特に悲痛なその手触りを、とても丁寧に追いかけていくお話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
それは銃ではなく晴れ着を最後の手向けと父が手渡し、訪れぬ成人の儀を思いつつ、たった二人これまでとこれからに向き合って、悪くなかった人生を決算する姿で、際に達する。
あの華やかな衣装は約束された死に向かって走る千束の経帷子であり、しかしあまりに正しい彼女は己の終わりを悲しまない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
周りに悲しむことを許さないし、それを強制ではなく共感でもって、涙ではなく笑顔でもって飲み込めるよう、微笑みながら死んでいく。
自然の花が、咲いて散るように。
それはモニタの向こう側から見守らせてもらった僕らにも辛いのだから、そこに少女を追い込んでしまった負い目を背負いつつ、愛し守り抜いてきたミカにとっては、身を裂くような悲痛だろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
クルミ達を遠ざけた千束が、ミカだけは本当の終わりまで間近にいることを望み許していることに、特別さが宿る
ミカは保護者としてのらちを越え、抱え込んでいた嘘を涙ながら告白する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
千束をここまで運んだシンジへの祈りが、殺しの天才を求める悪魔の契約に裏切られていたこと。
それを明かせば、千束の命も魂も掻き消えると思い、告げれなかったこと。
これだけは、別れの前にどうしても差し出す。
大きな声を出し、感情を顕に剥き出しの生身で迫るまで、ミカは透明なほほ笑みを浮かべて、千束の始末に付き合う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
恋人との約束を裏切ってでも、目の前の少女がなりたい自分であるために、全てを自由にさせる。
そういう決意があるから、唐突なリコリコ閉店もスルリと飲み込み、ただ従う。
しかしあまりにも美しく哀しい晴れ姿が、ミカの大人でも神様でもない部分を揺らして、優しい罪を告白させる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
それは”先生”と背中をついてきた愛子に、弱く脆い…だからこそ人を愛し守れる自分を、対等に預ける決意の行動だと思う。
我が子はこの真実を受け止めれるほど、強く育った。
そう信じて衝撃の真実を抜き付けるのは、そう育て上げた自分と、悪魔の奸計と天使の優しさを併せ持って、身体は遠くにあっても共に千束を今の形に育て上げたシンジを、強く信じればこそだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
弱くて強い、優しくて残酷な人間と世界を全部まるごと、微笑みながら涙を流し受け止める。
そういう足腰が自分達にあると信じたからこそ、ミカは千束の神様であることをやめて、当たり前に間違える対等な人間として向き合う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
そして千束は、その過ちも弱さも全部ひっくるめて己を育ててくれた事実に、感謝と喜びを返す。
透明で、無垢で、幼くありながらあまりに成熟した、立派な答えだ。
この美しい決意に嘘がないよう、矛盾だらけの世界でそれでも何か綺麗なものがあるのだと主人公が示せるよう、千束のキャラを積み上げてきた成果が、あの瞬間生きたと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
世界がひっくり返るような真実を恨まず、憎まず、そこから生まれた美しい成果として、己と世界を肯定できる。
正しく聖人の行いであるけども、そこに因縁の重力、感情の質量から浮遊した上っ面はない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
錦木千束という人は、そういう言葉を己の中から絞り出すだろうなという、納得がある。
こういう形で、人が人たるべき理想を主人公に背負わせれるのは、強い話運びだと言えよう。
さてたきなが帰り来たDAは、東京の欺瞞をテロルで揺らす真島を追いかけ、常に後手に回って真実を暴かれていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
平和国家・日本という幻想の、根幹を担う機関にしては詰めが甘いな…という印象も受けるが、真島の才とアランの助けが合わさった結果、手玉に取られた形と、納得しておく。
今回は思想家としての真島が良く彫られる回で、欺瞞と真実、平和と暴力のバランスを取るべく、爆薬で嘘をぶっ飛ばし真実を暴く彼のスタイルが、良く描かれていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
電波塔と延空木、過去と未来、破壊と想像。
(画像は”リコリス・リコイル”第10話から引用) pic.twitter.com/L5A4dJwFBY
楠木と語らう時切り取られる背景は、彼が見据えている天秤をよく示している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
千束を筆頭にフキもサクラもたきなも、リコリスは皆、今を生きる瑞々しい魂を宿す人間だ。
しかしその戸籍も尊厳も命もないがしろにすることで、この美しい空も、街の繁栄も維持されている。
『それで良いのか?』という真島の問いかけは、テロルという天秤を正す手段の是非は横において、理論としても感情としても、ある程度以上の納得を有している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
良くないのだ。
あんなに良い子達の命を基石と踏みつけて、維持される平和があってはいけない。
しかし、それは確かにそこにある。
ならば銃弾と爆薬で揺るがし、死が持つ否定し得ない重たさでバランスを取って、真実を突きつけなければならない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
腐った現状よりも、破壊の先に待つ真実のほうが有意義と信じて、真島はアランに見込まれた殺しの才を、存分に発揮する。
それに対峙するDAも、テロルをその手に握る。
政府と個人、白色と赤色。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
微かな違いはあれど、現状を暴こうとする真島と守ろうとDAが、無法の暴力でもって何かを強要していることには変わりがない。
実力を持って意志を強要する、政治と軍事と犯罪のシンプルな真実を、横にのけて生み出された”平和な日本”。
その天秤は、どう考えても軋んでいる。
真島は今回の状況まで突き進んだ時点で、アランが見込んだ天命を半ば果たしたのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
東京にばらまかれた暴力の権化、一千丁の拳銃。
誰かが誰かを殺しうる自然状態を、強制的に具体化しうる凶暴な真実を、平和に眠る街に解き放って、問いを投げる。
そこに説得力と実効力がやどり、赤い血が隠されることなく流れる状況が生まれた時点で、リコリスを前提とするアンバランスな社会は崩れている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
それは間接的に、たきなや千束が当たり前の少女として生きられる僕らの祈りを、叶えるかもしれない”正解”だ。
同じ殺しの才能を持ちつ、同じく外側から押し付けラ得れるものではなく、己の内側から湧き上がる願いで動く存在ながら、千束と真島は真逆の道を選んだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
真島は殺してバランスを取り、千束は活かして共に未来を探す。
シンジを攫って銃を突きつけ、彼を助けるために死地に進む。
そんな二人を天秤に乗せて揺れてきた物語は、シンジも望んだように、東京が剥き出しの狩猟場となったことで加速していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
誰かを犠牲にし、真実を殺して維持されてきた”今”が揺れる中で、登場人物は皆、マァトの天秤に何を乗せるのか、選ぶ必要が出てくる。
真島は、そこにテロルを乗せた。
そして楠木は千束という切り札を表に出すか、裏に守るか揺らされる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
千束が受け取った2つの電話も、ニ極に揺れる現状を上手く可視化している。
殺すか、さもなくば殺すか。
二つの電話の先にあるのは、実は同じ答えだ。
(画像は”リコリス・リコイル”第10話から引用) pic.twitter.com/QDlreAV7fn
世界で一番美しい死に装束、そこに宿った祈りと愛をまとった千束は、どちらも選ばない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
殺ししか乗っていない、見せかけ上釣り合った”現実”の天秤の先にある釣り合い…生きることと死ぬこと、終りと始まりのバランスをとるために、3つ目の道へと父とともに進むのだ。
それは真島が、己の才と天命に抗わず選んだ虚偽と真実、平和と暴力の天秤とは、また違ったバランスである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
殺すの殺されるの、奪うの奪われるのだけが人間の本当だと、思わせたくないからミカは、少女に嘘をついた。
その優しさが千束の信念になって、間違え傷つきながらも捨てられない活き方を支えた
嘘から出たまことには、シンジ自身”アラン”であるために切り捨てようとした個人としての愛と優しさ、世界が平和であって欲しい祈りが宿っていて、千束は銃を握ってそれを、シンジ本人に返しに行くのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
あんな残酷なことを告げられてなお、そういうことを決意したのだ。
立派である。悲しいほど。
社会や国家という巨大な機構を動かし続けるために、個人の幸せは犠牲にならなければいけないのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
ミカが教官時代”是”と考えていた天秤は、恋人の祈りを引き受け願いを裏切る中、”否”に傾いていった。
千束はこの綺麗な服を着て、大人にならなきゃいけない。
そんなとても素朴で、血の通った願いにこそ己の全部を駆ける魂を、負うた子に教えられて浅瀬を渡るように、ミカも育んでいった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
ファーストの赤い制服に着替え、共に死地に進む二人は、しかし死ぬため殺すために銃を取るのではない。
生き抜くために、未来へ進むのだ。
それが真島にとっては、爆薬で世界を揺らし、銃を蒔いて社会の欺瞞を暴くテロルという形をとる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
人の生き方、魂の形は様々で、それをのっけた世界はアンバランスに揺れ続けている。
その均衡を取るには、畢竟命のやり取りしか無いのかもしれない。
あるいは、その奥にある魂のぶつかり合い…か。
大人/親-子供という人間の軸でミカと千束、守護者-破壊者という生き様の軸で真島と千束、国家-個人というテロルの軸で真島とDA。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
様々な天秤が揺れてる現状を、上手く共有できる話運びだったとも思う。
これが揺れきって落ち着いた時、どんな答えが出ているか。
千束は、輝ける未来に戻ってくるのか
ハラハラしつつも楽しみな、よいクライマックスだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
千束がほーんといい子、いい人間なので、なんとか生き延びて幕を閉じて欲しい気持ちも強いし、一旦離れた仲間たちがあえて、天秤が揺れる物語の中心に自分の意志で飛び込む展開が、そんな都合のいい奇跡を捕まえて欲しくもなる。
真島の暴いた不均衡には、血みどろながら奇妙な納得と、不正が正された心地よさがあった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
しかしこの狂騒に身を任せては、千束が大事に抱いた祈りはかき消えてしまう。
殺さぬ銃を握る少女は、どんな形で赤と白のテロルに、自分だけの答えを突きつけるのか。
次回も楽しみである。
追記 いやだって、晴れ着の千束が綺麗なほどに悲しくて、こんな正しいガキが物分かりよく死んでいく結末なんざぁ真っ平御免と、彼女が大好きな不器用人間が俺らの願いを片手に抱え吶喊しかけてくれるの、皆望んでるでしょ?
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
こんだけ正しく物わかり良く、己の夭折を飲み込んでしまっている千束を強調している以上、彼女が人間に戻したたきなが獣の吠え声を上げながら土壇場に飛び込み、千束の人間の部分をむき出しにする展開が待ってるんだろうなー、とは思う。
予兆を作ってそれを解決する能力が、極端に高い話なので…
その読みやすさは底の知れた浅さではなく、期待に答えつつ想像以上の力強さで、そのキャラこの物語だからこその答えを描画して、僕らを驚かせてくれる喜びに繋がっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2022年9月5日
”わかり易い”ということの最も強く難しい部分を、上手く生かしている作品だなーと感じる。