イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

ヤマノススメ Next Summit:第一話『ヤマノススメぷりくえる/1st season春』感想

 第三期からは4年、第一期からはなんと9年の時間を開けて、まさかまさかの30分枠でやって来た、四度目のヤマノススメである。
 資本関係が相当に変化しているらしく、KADOKAWAが製作委員会筆頭(≒一番投資割合が高い)となり、放送形態も新作三分アニメに一期総集編がくっつくという変化球。
 しかし山本監督とエイトビットというコアスタッフは継続であり、江崎慎平力全開の新作短編、吉成鋼がコンテ演出原画撮影、制作以外の全工程を一人でやった狂気のEDからも、時が立っても薄れない気合と”血”を感じることが出来た。

 新作短編は”ぷりくえる”の名前のとおり、高校入学前のあおいを補足する感じのヤマノススメ/ZERO。
  総集編ではそこらへんの空気上手く抜いていたが、一期のあおいは過剰に漫画的というか、記号化が行き過ぎてヤバい部分が多々あったので、そこを削って生っぽい人間味を押し出す作り。
 江端テイスト全開の、人間の揺れる存在感をたっぷり取り込んだ作画。
 ソフトフォーカスに霞む眩い光と、リアルでありながら絵画的でもある情景。
 今あおいを包んでるセカイを、今”ヤマノススメ”というアニメがどう書くのか、どう描きたいのかを強く打ち出した、良い四期の挨拶だった。
 あのゆらっゆら揺らめく実在感に、初期あおいの漫画的コミュ障少女として戯画化された存在感は全くなじまないわけで、総集編の巧みな編集と合わせて”人間”雪村あおいを再設計し、現状にフィックスさせる話数とも言える。

 あんまりにも山と女に真摯に向き合い、一筆入魂のクオリティで挑みきった結果、初期ヤマノススメに漂っていたある種のジャンク感が、今や”ヤマノススメ”にそぐわない不純物になってる感じもある。
 あのコミカルで雑な感じも結構好きなのでちょっと寂しくもあるが、しかし今後展開されるだろう超クオリティーの自然描写、そこで展開される繊細な青春を思うと、いかにもオタクアニメっぽい単色で塗りつぶした、デフォルメの質感はそぐわない……かもしれない。
 なので中学の段階からあおいはナイーブな青春美少女であり、露骨ど忘れしてた運命の相棒とは忘却された縁があり、山も心の奥底に眩しく光っている……ことになった。
 三分間のエモーション爆弾で、かなりいい性格して生き方が雑だった少女があたかも繊細美少女だったかのように上書きしていくパワー勝負、実際それを成り立たせてしまう圧倒的力量と合わせて、すげぇ不思議で面白い体験だったな……。

 僕はあおいの俗っぽく情けない等身大感も結構好きなので、総集編終わった後もちょくちょく、そんな泥っぽさを出して欲しいとは思う。
 同時にアニメスタッフが『これがワシラのヤマノススメじゃ!』と五分間に全力投入し、オタクを湧かせて九年四期まで続く一代シリーズに仕上げた原動力……美しい自然に育まれる繊細な青春も、大変好きだ。
 一期では表に出てなかったひなたのクソ重感が、再編集により彼女のコアであると示され直しているような、明瞭な意図のある再筆。
 これが新たに動き出す物語の中でどう生きて、あおいとひなたのナイーブな距離感を息を詰めて追いかける緊張感、緊密でマニアックな視線に萌えてくるのか、なかなか楽しみである。
 一期ではそこまで感情の生物でもなかっただろ倉上ひなたッ!

 正直結構忘れている部分も多いので、総集編スタートは助かる……が、四話までオール総集編は少々攻めた構成すぎる気もする。
 一ヶ月の”おあずけ”に既存ファンが耐えられるのか、とか。
 ここで新規ファンへの敷居を一気に下げて、KADOKAWA保持のIPへの流入を加速させたい思惑、とか。
 そんな作品外(にあり、作品と切り捨てられない)の諸事情などを思いつつ、『一期は演技プラン、全体的に淡白だなぁ……』などと、しみじみ思った。
 全員獣性を隠しているというか、”高尾山の女天狗”ここなちゃんのタフさとか、頼れるリーダー楓さんの超雄っぷりとか、後に前に出てきてキャラの味になったものが、まだまだ煮込まれていない感じが新鮮。
 登る山もあおいのビギナーっぷりを反映して負荷が低いし、まだまだ”ヤマノススメ”に微睡んでいた穏やかな時代の空気を、久々に感じられた。
 こっから女たちの感情も山の負荷と喜びも、気合が入りすぎた自然の描写も、登山作画に宿るフィジカルな息遣いもガンッガンに加速して、新作短編の異様な実在感と詩情にたどり着くわけだが。
 残り三話の総集編、そこら辺の変遷を思い出しつつ辿っていくのも、なかなか面白い気がする。次回も楽しみ。