イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

後宮の烏:第3話『花笛』感想

 華やかに切なき後宮霊能ロマンティック・ミステリー、一話完結形式の第3話である。
 運命の出会い、正当なる復讐を描いた第1エピソードが終わり、ややゆったりした筆使いで烏姫の日常を描くお話となった。
 僕はこのアニメの、けして声を張り上げず静かに進んでいく感じがとても好きなだが、声優の演技だけでなくお話の展開も穏やかながら切なく不穏で、よく調性が取れていたと思う。

 陛下も花娘もけして語気を荒げることなく、しかし非人間的に冷たくもなく、押し殺した礼節の奥に人間の体温を隠して、静かに美しく縁を紡いでいく。
 それは暖かで美しいものだが、秘められたしきたりの奥にある騒乱を想うと、無条件に歓迎できるものでもないのだろう。
 なぜ、烏妃は孤独でなければいけないのか。
 心通じる友、温もりを分かち合う伴侶を得ることから自分を遠ざけ、一人花も咲かぬ場所で生きていこうとするのか。
 そんな宿命を己に任じておきながら、寿雪は若き華やぎを心の内から湧き上がらせて、出会いや贈り物に、繋がる心に頬を赤らめる。

画像は”後宮の烏”第3話から引用

 誰とも触れ合わず、孤独に生きる烏妃の宿命に反して、寿雪は咲き誇る牡丹を下女に飾り、帝の寵愛を巡るライバルに成りうる二妃から飾られる。
 そういう優しい心の繋がりに、年若き少女がどんな事を感じているのか、赤らむ白皙がよく伝える。
 『誰よりも優しい人』
 花娘は慧眼の持ち主である。

 

 側近宦官の武力、諜報力を加えることで、烏妃は皇帝の私的諮問機関の様相も呈してきた。
 尋常の方法では探ることが出来ぬ、幽冥の謎を探り当て対抗する、霊界探偵としての腕前も今回、かなり丁寧に描かれる。
 冒頭から即ビンタの治安最悪っぷりに『これだよ……これが後宮ドラマだよ!』と興奮したが、烏妃が見出される過程、夜伽ならぬ勤めを果たす描写には、精妙なオカルトが丁寧に宿っている。

画像は”後宮の烏”第3話より引用

 霊鳥の尾羽根を矢に変え、俗界に紛れた烏妃の継承者を探り当てる術でもって、名を秘された少女は後宮に召し出された。
 先代によく教育され、政治とは別のところにある世界の真実をしっかり学んで、術師としての業前を鍛えた寿雪は、息吹だけで火を灯し、名を識ることで行方を探り当てることが出来る。
 人間としての通り名ではなく、親しい人にしか明かさぬ真の名を教えてもらうことで、烏妃は楽土から特定個人を探り当て、現世に呼ぶことが出来る。
 あるいは下女の名を刻んだ呪符にその髪を巻きつけることで、烏を呼び込み行方を探すことも出来る。
 名が霊智を通じ、確かに力を持つ領域に烏妃は練達していて、これこそが彼女の役割、彼女の力である。
 こういうオカルト的手続きが結構盛り沢山、精妙に描かれていたのは作品の取材力の高さ、テーマにしているものへの誠実さを感じることが出来るし、玄妙な雰囲気が色濃く出て、シンプルに楽しくもある。

 

 名の呪力は寿雪にも当然覆いかぶさり、死してなお乱を残す邪教の主と同じく、鏖殺の憂き目にあった前王朝、その末裔らしい。教祖のオッサンも銀髪だったしな……。
 仮の姓である”柳”ではなく、真の名たる”王”を暴かれた時、烏妃の秘密は一つ暴かれ、穏やかに沈んだ冬が一歩前に進む。

 死せるものが帰ってくる春、それは恋の季節でもある。
 花開かぬ玄冬に己を閉じ込めている烏妃は、永遠に春に届いてはいけない存在。
 しかし”妃”としての本分……恋と性に近づいていくことで、封じられたものは静かに動き出し、戦乱と開放の予感を継げてくる。
 主人公たちに人間ドラマを覆うように、名の魔力と五行の運行が作品に組み込まれている様子が感じ取れ、”呪術をテーマとするロマンス”という作品の独自性が、大変上手く転がっていた。

 春呼びの花笛をフェティッシュとして、王妃の哀しき思い出を描く今回、皇帝は冬気の男として形容される。
 静かだが陰鬱で、日差しあたたかなれど影に怪物を飼う。
 そんな男が寿雪と出会い触れ合うことで、少しずつ変わっていると、慧眼の花娘は告げる。
 春は近い。
 それは華やぎの季節であると同時に、滅ぼされた王朝の長く響く因縁、死者の怨念を呼び覚ます、騒がしい季節でもある。

 九九、花娘、そして皇帝。
 様々な人との出会いをきっかけに、黒い冬から花色の春へと、寿雪の運命は否応なく転がっていく。
 それは自分の豊かな完成、瑞々しい優しさを殺し、宿命に生きようと……”烏妃”であろうと人間・寿雪を抑え込んでいる少女が、人として生きるコトを己に許していく物語になるだろう。
 不可思議な魔力、絢爛たる後宮陰謀を扱いつつも、そういう普遍的な人間讃歌がしっかり宿っている気配が、作品への期待を高めてくれる。
 寿雪ちゃん必死にツンツン顔を作ってるけど、弱き者への対応、依頼を受けるときの公平さ、役目に徹しつつも漏れ出る人情を見れば、ぶっちぎり”人間”なのもうバレちゃってるからなぁ…。
 こういう子が周りの優しき人とのふれあいを経て、重たき因縁を超え自分が自分でいられる場所へ飛び出すお話は、ベーシックだからこそ良い。
 児童文学の香りが微かにある。

 二妃との触れ合い、姫たる謎を追うことで、ハレムの主として漁色に耽ることも可能な立場ながら、皇帝が清潔な交際を己に任じていることも理解ってきた。
 男女の交わりも公務のうち、文句を言われぬ程度に閨には通う。
 現在の恋愛倫理では図りきれぬ古式の性愛をちゃんと描きつつも、現代的な感覚に寄り添った描き方を、皇帝と烏妃の禁じられたロマンスに宿してくれているのは大変助かる。
 側室制度の中でのピュアロマンス、どう考えても厄介なことになるので、花娘が穏やかながら優しい寿雪の味方だと教え、皇帝の思いが愛とは別のところにあると書いておいてくれると、こんがらがらずに済むんだよな。
 呪術だけでなく、こういう所の描写もよく取材され、考えられてる感じが嬉しい。

 前王朝の因縁にしても、三年前の内乱にしても、表の世界では皆殺しで決着したはずのものは、残党や亡霊を巻き込んで長く響く。
 こういう始末しきれぬものを見据え、正しく対処するのが”夜伽せぬ姫”烏妃の任務だと思うし、寿雪はそんな影の仕事をよく果たし、後宮に吹き溜まる呪いを祓っている。
 そこに、報われぬ魂に心を寄せる人間的な慈悲がほんのり、紅さしているのが好きだ。
 そんな責務だけで十分なのだと己を戒めつつ、友情と恋はうら若き乙女の心を揺らす。
 この人生と己へのツンデレが、大変にときめいて最高である。偉いし可愛いねぇ……。
 そんな最高いい子の寿雪ちゃんを、陛下筆頭にみんな好きで、評価してて、ちゃと助けてくれるのも良い。
 そしてそんな暖かさは運命の風に吹かれ、激しく試されていくのだろうという予感もしっかりある。
 とても面白い物語で、続きが大変楽しみです。