イマワノキワ

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うる星やつら:第5話『愛と闘魂のグローブ/君待てども…』感想

 巫女保険医を身内に加え、更に加速するシッチャカメッチャカ学園コメディ、主役二人の関係がちょろっと変わる第5話である。

画像は”うる星やつら”第5話から引用


 見よ、この情感濃いめな気合背景に佇む、初々しい二人を……。
 基本はいつものドタバタなのだが、やはり『君待てども…』でお互いを見つめ直すあたるとらむの情感が特別製で、大変良かった。
 最初から勝負回とみなされる場面をちゃんと勝ちきって、印象深く仕上げるのはグッド。
 アニメだから作れる呼吸と間合いでもって、しっとり落ち着いて熱い関係性の変化に深く分け入る表現になったのは、原作への敬意と自作への野心が同居してて、大変良かった。
 虎ビキニでぷわぷわ浮いてるラムちゃんに慣れてきたタイミングだからこそ、シックな装いで角を隠し、あたるのメンツを守る気配りも良く刺さる。
 つうか長く続いた話だけあって、ラムは結構色んなお洒落しててかわいいよね……。

 

 

画像は”うる星やつら”第5話から引用

 というわけで第1エピソードは降って湧いた呪いのアイテムに、あたるが翻弄されるお話。
 サクラが保険医として学園に常駐することになって、オカルト系のネタもバチバチ放り込めるようになった。
 キャラクターが持ってる属性がそのまま、展開できるお話のバリエーションに繋がっていく構成は群像劇コメディの特色だなぁ……などと思う。
 これがあるからネタの横幅を求めて、連載が続くほどに人数が山盛り膨らんでも行くわけだが。

 愛と暴力が過激に唸る騒動の中で、面堂は容赦なくボコすのにラムは体を張って守るあたるの気骨が、後半への良い助走となっている。
 あたるはがラム以外でも全力で守っただろうし、面堂の儀礼的紳士主義とはまた違う信念でもって、女たらしを続けてはいる。
 普段は軟派の塊のような立ち居振る舞いなのに、ふとした拍子にこうした信念やら、攻められると弱いチャーミングさを見せて、上手く見てる側の脳で凝り固まった『諸星あたるはこんなやつ≒”うる星やつら”はこんな話』つうのを切り崩してくるのは、第5話というタイミングにふさわしい勝負だろう。

 

 

画像は”うる星やつら”第5話から引用

 とにかく女の尻を追いかけ回す漁色家なのに、追われる側に立つとこの表情。
 経験値が高く、字の巧拙で相手の人格を判断して選ぶ側に立てる面堂に対し、ダーリンは追われることに慣れていない。
 しかしラムの熱烈アタックだけは辟易顔でスルリと身を躱し、『ありえない!』とロマンスから逃げてしまう。
 いやまぁ悋気を電撃にしてダイレクトな暴力振るってくるわ、独占欲が強いヤンデレ気質だわ、逃げたくなる気持ちもアニメで見なおすとよく分かるけどね、ラムちゃん……。

 

画像は”うる星やつら”第5話から引用

 同時に重力を無視できる異星人美少女だからこそ、常識に取られず一番かわいいポーズを常時取れるという”発明”も、改めて良く刺さる。
 ホントすごい発明だと思うよ、反重力美少女……。
 ただの人間として重力に縛られ地べたを這いずるあたると、異星の客として制服も着ず自由に過ごすラム。
 二人の立ち位置は実はパラレルで、カップルに憧れて優しく触れ合おうと手を伸ばしても……あたるが足をつけている地面に寄り添っても、上手く噛み合わない。
 なにしろ虎縞ビキニで路上を闊歩だからな……この段階のラムは、あたるが否応なく縛られる人間種の限界点、人の当たり前に寄り添う気が全くない。
 あたるの方も、ラムの刺々しい態度の奥にある優しさや可憐……”普通”の女の子(あるいは人間)としての魅力に眼を閉ざしている。
 この異質性のねじれが、偽ラブレター騒動を通じて解けていくのがBパートの物語である。

 

 

画像は”うる星やつら”第5話から引用

 思い思わせ追い追わせ、嫉妬を掻き立て浮気を演じる恋の駆け引きがこじれて、あたるはクラスの命運を賭けた告白勝負に挑むことになる。
 宇宙人にしかたどり着けない、電柱の頂上という非日常に身を置いたラムは事の顛末を聞きつけ、地球人の少女を偽ってダーリンのメンツを守ることになる。
 これまで日中を主な舞台にしていた、ネアカなぶっ飛びコメディはオレンジの夕日に照らされて、ちょっと特別な色合いになっていく。
 組の男子……ラムに焦がれる面倒すら気づかない正体に、あたるだけが気づいているのは腐れ縁故か、それとも……。

 

 

画像は”うる星やつら”第5話から引用

 夕日に照らされるラムの横顔は、普段の押し付けがましい暴力性が削れて特別な色合いだ。
 ここでラムが冒頭と同じように、人間の重力に従って普通のカップルのようになりたいと手を伸ばし、あたるが躱すのが良い。
 すれ違いに繰り返しに傷ついたラムが空に逃げようとするのを、あたるは初めて追う。
 そこにはラムという異物が人間の側に染まるのではなく、空を飛ぶ自由を残したまま手を繋ごうとする、あたるの素朴な善良さが宿っているように思う。
 色んなハチャメチャがたくさん詰め込まれたこの世界は、その中心にいるあたるにとっても楽しいもので、角を隠して”普通”になられたんじゃ甲斐がない。
 なら自分たちらしく、空中浮遊の手つなぎで縁を深めていっても良いんじゃないか……という場面だと思う。
 ここは無節操で無茶苦茶だからこそ面白い自作を、作中のキャラクターが偽りのない感情を込めて肯定した場面でもあって、ある種のプライドが形になっていて好きだ。
 あたるとラムだからこの宙に浮いた関係が描けるし、それこそが良いのだ。

 そういう決意と歩み寄りが、ラムに人間の服を着せ(かわいい)、普通のカップルのように地面に足を付け、隣り合って手をつないで進むことを許す。
 ダーリンを思って素性を隠す変装は、非日常の象徴であるラムを浮ついてばかりではない日常に引き寄せ、取り込んでも行く。
 ”普通”になることが絶対の正解ではないけども、ワイワイ騒がしい『いつもの”うる星”』だけではけして切り取れない湿った情感は、人間の当たり前に歩調を合わせればこそ描けるものだ。
 ラムもあたるも、そういう普遍的な心の動きの只中に飛び込んで、こんなに美しい風景を共に歩ける……普通の青年なのだということも理解る。
 それは恋愛劇でもあるこのお話を下支えする、地道で骨の太い土台であり、こういうところをしっかりかけるからこそ『いつもの”うる星”』も強いのである。

 同時にドッタンバッタンなハチャメチャな毎日が、今回二人が確かめた小さな温もりで消えるわけでもなく、狂騒劇はずっと続く。
そうやって地に足付かない浮遊感も、等身大の青春の味わいも全部欲張りに組み込んで、るーみっくな世界は転がっていくのだ。
 『それを見ていくのは、やっぱり面白い』と思えるまとめ方で、大変良かったです。
 この夕日色の爆弾をきっかけに、確かにラムとあたるの間合いが変わっていくのは最高にいいんだよなぁ……。

 

 

画像は”うる星やつら”第5話から引用

 それにしたってエピソードの圧縮率が高い22うる星だと、面堂とあたるの仲良しっぷりも相当に加速してて、めちゃくちゃ可愛くて困る(困らない)。
 殴ったりポン刀抜いたり、本気でいがみ合ってもおかしくない間柄なのに奇妙にカラッと爽やかで、普通の男友達として一緒にワイワイ騒ぐことも多く、奇妙ながら魅力的な関係がミシミシ積み上がっている。
 黒と白で、カラーリングのバランスもいいしな……ふたりはプリキュアッ!
 恋敵としてトラブルを巻き起こし、話の主エンジンになることも多いこの二人が、可愛く透明度の高い関係を作ってくれてるのは、はっちゃけコメディを明るく楽しく運営していく上で、結構大事なんじゃないかな、と思ったりもする。
 今後も仲良くいて欲しい。次回も楽しみ。