イマワノキワ

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アークナイツ 黎明前奏/PRELUDE TO DAWN:第3話『帰還 Escort』感想

 苛烈なる大地に刻まれる天災の傷跡、戦乱の血。
 その果てにあるものを探る戦士たちの旅路、アークナイツアニメ第3話である。

 多大な犠牲を支払って完遂された、ドクター奪還作戦。
 チェルノボーグの地獄を逃げ延びた一行は我らが家……陸上医療艦ロドスへと帰り着て、一度羽を休める。
 次なる目的地は、故郷を追われた難民が多数流入する龍門……というお話である。
 

 

 

画像は”アークナイツ 黎明前奏/PRELUDE TO DAWN”第3話から引用

 人間サイズの天災ともいえるタルラの攻撃に、アーミヤは瞳に修羅を宿して抗う。
 容赦なく降り注ぐ隕石に対し、ロドスの代表は仲間をかばって盾を作り、レユニオンの首魁は自分だけを覆い同志を見殺しにする。
 同じ感染者、同じ異能者、同じ長であるが、タルラとアーミヤ……彼女たちが”頭”となる組織の性質は、このように異なっている。

 ……と、シンプルに纏められないのがこのお話の難しく、面白いところで。
 アーミヤが自分をギリギリまで追い込みながら貫く博愛主義は、医療機関であるロドス全体の信念であるが、タルラの苛烈な生存主義がレユニオンの全てかと言われると、なかなかに難しい。
 虐殺の描画一つとっても、十分殺して仲間を止めるものもいれば、まだ足りないと血を求めるものもいると、既に描かれている。
 被差別民の反乱であるレユニオン・ムーブメントは、その名前の通りバラバラのものを再統合(Re-Union)して抑圧に対抗できる力を生み出しているが、その理想には裂け目が広がっている。
 アーミヤはロドスに帰還した後、タルラが投げかけた厳しい問が心に抜けず苦しむが、死病と差別に塗れた『非情な現実』をひっくり返すべき立ち上がった暴徒集団にも、追うべき大義があり、非道に手を染めつつ捨てられない夢がある。

 タルラの炎は敵を焼くが、味方を守らない。
 アーミヤの黒い雷は敵に届かないが、己を滅して味方を守ろうと務める。
 二人のリーダーのあり方が、組織を通じてこの過酷な大地にどんな爪痕を残すか……それは長い、長い物語である。
 その端緒から、可愛いかわいいウサギちゃんにこういう顔させるのが、アークナイツというお話でもある。

 

 

画像は”アークナイツ 黎明前奏/PRELUDE TO DAWN”第3話から引用

 アーミヤが進む険しい未来が、夢想主義者への嘲弄と悪罵で終わらず、試されてなお立ち上がる強さと、誰かを守れる優しさに満ちていると己の生命で示す、Ace隊長の散り際。
 腕一本生命一つ、若人の未来のためなら安い。
 死地に瀕してそう笑えるのはこの益荒男の武徳であるが、同時に彼が背負ったロドスの理想……タルラの蔑した”無力な綺麗事”が、どれだけ人間の底力を引き出すかを示してもいる。
 このチェルノボーグ撤退戦、ずっと殿を務めてきた男は最後まで、果たすべき使命に向き合い、暴力と絶望が仲間に届かぬよう盾を構え続けた。
 そんな風には生きられない常人を切り捨てることなく、自分のように強く生きられる未来を信じて、笑いながら死に向き合った。

 アーミヤとドクター……ロドスという組織はこうして託された言葉と生命を背負って、それに報いる理想を諦めることなく進まなければいけない。
 それは人間には背負いきれない重荷であるが、それでもAceが守ったものを諦めてしまえば、人は理性なき獣に落ちる。
 尊厳の奈落と理想の峻峰……その間にある細い道をどう渡っていけば良いのか、答えはなかなか見えない。
 しかし一人の男がその生き様を以て確かに、力強く道を示してくれたことは一つの救いであろう。
 こういう気高い死人を足場に敷いて、ロドスはテラを進んでいくのだ。

 そこに挑む以上アーミヤは泣くことを許されず、誰かの痛みに手を差し伸べ続ける気高く過酷な生き方へ、己を投げ込んでいく。
 アニメは彼女の細っこい身体とか、瞳によぎる感情の揺れとかを丁寧に切り取って、『アイツただのガキでしかねーんだぞッ!』って事実を、イヤってほど思い出させる。
 それでもなお自分のための涙を流さないアーミヤの隣に立ち、一緒に未来を見る特権をドクターに許してくれているのは、良い当事者性の足場だよなぁ……。

 

 

画像は”アークナイツ 黎明前奏/PRELUDE TO DAWN”第3話から引用

 その大地は……まぁ大変に過酷でロクでもない。
 死病を撒き散らす源石は天災を呼び、天災は源石を大地に広げ、それをエネルギー源に現在の文化は成り立っている。
 巨大な都市が自在に動けるのも、ロドスが沢山の生活を抱え込めるのも、災禍の中心たる源石あってこそで……しかしその利便は、多数の感染者の死骸で成り立っている。
 レユニオンを決起させた感染者差別も、源石エネルギーの上澄みだけを支配者層が盗み取り、付随する病や天災を弱い存在に押し付ける搾取が背景にある。
 モニターの外側に広がる我々の大地でも、イヤってほど繰り返し答えがない、生々しい問題だ。

 輸送機を遥かに上回るスケールの源石山脈がどでんと鎮座し、それすらも広大な風景の一部でしかないテラの残酷な巨大さは、絵になってみると説得力が凄い。
 この残忍な世界にそれでも人々は生き、飯を食い、人間らしくあろうと努力をして、誰かを差別し誰かを殺している。
 矛盾と渇望に満ちた苦界は、朝日に照らされて不可思議に美しく思える。
 そういう厳しい場所が、そこを進む希望の船がどんな顔をしているか、雄大な描線でしっかり見せてくれたのはとても良かった。

 ロドスの内部事情を語るモンタージュは沢山のオペレーターを写し、ゲームをプレイしている立場としてはたいへんご褒美である。みんな動いてたなぁ……。
 ここまで3話、メチャクチャ背景設定多い原作をうまく咀嚼して、地獄の脱出行の温度を下げることなくドラマを転がした上でチュートリアル要素を分散してねじ込んだ手腕も、大変良い感じであろう。

 

 

画像は”アークナイツ 黎明前奏/PRELUDE TO DAWN”第3話から引用

 かくして故郷に帰り着て、二人は遠く地の果てを望む。
 アーミヤが敵の苛烈な問いかけを、ドクターが仲間から託された希望を、それぞれチェルノボーグから持ち帰ったと教える対話は、序章のまとめとして凄く良かった。
 割り切れない矛盾と生きることの難しさ、現実にすり潰され生まれる犠牲に満ちたこの世界で、二人はまだ、誰かの声に耳をふさいでいない。
 命の瀬戸際まで追い込まれつつ、タルラの言葉には聞くべき理があり、自分には正すべき過ちが残っていると、アーミヤは考える。
 記憶もないまま戦地を駆け抜けたドクターは、自分とロドスを信じて思いを託してくれた戦士の言葉を、震えながら立ち尽くす少女に届ける。
 ロドス代表として、常に”正しさ”を考えなきゃいけないアーミヤが忘れがちな希望が、Aceからドクター……そしてアーミヤへと生死を超えてリレーされていったのは、闇の中確かに光る星のようだ。

 Aceの犠牲は、アーミヤが思い悩む理想が簡単には実現せず、そこで喪われるものは耐え難い痛みを伴うのだと、良く教えてくれる。
 それでもロドスが行く先を見失えば、他によるべもない感染者達は荒野に投げ捨てられ、暴力を持って差別を殴りつけるレユニオンのやり口以外、世界には残らない。
 互いに喉笛を狙い合う自然状態を超えて、人が人らしく生きることを許すには、あまりにテラは過酷過ぎる。
 しかし理性を投げ捨て獣のように生きるにしても、人間が人間である以上理想の旗印は求められてしまう。
 レユニオンがただの野盗暴徒ではなく、世界に吠えるべき主張とタルラというカリスマを掲げていることが、夢を見るがゆえに苦しむ人の辛さ、ロドスが進む道の険しさを良く語っている。
 その舳先に立つ二人が世界を真っ直ぐ見つめて、過酷な旅路で自分たちが何を得たのか、ちゃんと語り合える間柄だと解ったのは、凄く良かった。
 己の立ち位置と進むべき場所に悩み、おっかなびっくり手を取り合って進むのが、独善の悪徳を退ける唯一の道……なのだろう。
 まー『アーミヤとドクターが仲良しだと……俺は嬉しいッ!』つう話でもある。アニメの二人かわいいよなー……。


 チェルノボーグから帰り来て、休む間もなく龍門。
 人であることを諦められないロドスの歩みは、過酷なまままだまだ続く。
 次回も楽しみです。