イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

デリシャスパーティ♡プリキュア:第36話『らんがデビュー!? きらめくグルメ・エモーション!』感想

 そろそろフィナーレが見えてきたデパプリ、今回はらんちゃんが未来へのスタートにたどり着く進路回……であり、ギャル曽根さんをゲストに迎えた芸人回でもあり、メディアと言葉を巡るエピソードでもあった。
 ハイテンションにルー語を操りつつ、ブッチギリの人間力を誇るタテモッティさんをメンターとして、結構剛力で大盛りにしたネタをまとめ上げた感じの作りだったが、らんちゃんの一年間を納めるエピソードとしては、とても良い仕上がりだった。

 らんちゃんは言動もセンスも一般的ではなく、そんな”変”である自分に思い悩みつつ、己の天性を裏切れない女の子だ。
 雑に”バカキャラ”として消費しても良かったそういう属性の奥、確かに生身の傷と思いが息をしている領域に踏み込みながら、ここまでらんちゃんの物語は紡がれててきた。
 それは他人と社会に自分がどう見えるのか、異質になるしかない自分をどう伝えるかという、普遍的で根源的な問題に繋がってもいる。
 時に無遠慮にざっくり”変”と断じられてしまう(そしてそう切り捨てる側は、そこまで悪意も思慮もあるわけではない)彼女のセンスが、SNSでのグルメレポートという表現を通じて、彼女だけの魅力になる様子は、様々なメディアが世界を満たしている現状を反映して、結構大事に切り取られてきた。
 そんな彼女の物語が今回、往年の影響力に陰りは見えつつ未だキング・オブ・メディアを譲らない『TVの取材』と出会うのは、ラスボス登場感があって良い。

 キュアスタという自分の庭では自在に言葉を紡げるらんちゃんは、父譲りの緊張しいに足を取られて、最初のレポートに失敗する。
 そこにはTVカメラ越しに彼女を見張るマスの瞳、『”変”だからこそ、上手くやらなくちゃ』という意識が、ずっと彼女を縛ってきた事実が反射している。
 天然で元気でハチャメチャに見えて、(他の少女たちと全く同じく)ナイーブな心を抱えた彼女が、憧れ目指す場所。
 自分らしいセンスを自在に発揮して、個性を社会とうまく繋げて生きていける未来への道は、なかなかに険しい。

 

 そこを先んじて生きてるのが、食べる喜びを広く他人に伝える職業を選んだタテモッティさんである。
 彼女がエキセントリックなルー語を操り、それでキャラを立てて仕事を成り立たせているのは、らんらんの未来を先取りしているように思う。
 周囲から浮かび上がる”変”な独自性は、使いこなせば埋もれない個性となり、そうせざるをえない情熱こそが”大好き”を仕事に、社会とつながる足場になっていく。
 タテモッティさんはお守りのようなノート(これも適切な言葉を書き付けた、思いの集合体である)を届けてくれたらんちゃんが、後ろめたく尻込みする”変”を『Eccentric』という言葉に言い換えて、全面的に肯定する。
 そこにこそ、”変”なまま”大好き”を守って生きていく、華満らんの未来があるのだ、と。

 これを先取りするように、らんの”変”が大好きであるプリキュア仲間……その中で最も成熟し、言語の扱いに長けたあまね会長から、らんちゃんnを勇気づける言葉が届けられていたのが、今回とても好きなところだ。
 ”大好き”なものだからこそ緊張もするし、失敗して凹む。
 それは恥ずかしいことでも間違いでもなく、本気の現れなんだ。
 こういう言葉を身近に届けてくれる人がいることが、どれだけらんちゃんの世界を広げたかに関しては、第21話を見ると鮮明に解ると思う。
 あの時否応なく終わっていく世界のあり方と、それでも続けていける希望両方を学んだらんちゃんは、例えば第27話で未来に悩むコメコメを助ける言葉を紡げたし、でも完全に迷わなくなったわけでもなく、未成熟な可能性に震え続けている。

 『それでいいし、そこから始まって続いていくのだ』と、”進路”を扱う今回のお話は告げる。
 らんちゃんは今回、タテモッティさんとのかけがえのない出会いを経て、進路調査票に未来の夢を書き付けただけだ。
 これから先色んなことがあって、沢山の努力を重ねて、らんちゃんの未来が…”進路”が定まっていく。
 その先にどういう生き方があるかは、弛まぬ研鑽をノートに刻み、完璧ではない自分に時に悩みながらも、自分とよく似た小さな戦友の手をしっかり取って、”変”であることに伏せた瞳を未来に向けさせた、一人のフード・インフルエンサーがその身で示している。
 『こういう大人になりたい、なるんだ!』と思える具体例が、加藤英美里の声帯を伴って凄い存在感で立ち現れたのは、何かと人生に悩みがちだったらんちゃんのお話がまとまるにあたって、かなり大事だったと思う。

 今回描かれたのは未来へ舵を定めて元気に進んでいくその一歩目であり、そこに至るまでにも色んな冒険と悩みがあって、これからも時折下を向きながら、それでも出会いと言葉を支えにらんちゃんが前を向いていくことを、今回のお話は教えてくれる。
 そんな無限の可能性を宿した未来が、らんちゃんの前に広がっているのは凄く彼女らしいし、”プリキュア”っぽいなと思った。
 なんつーかな……冷静に俯瞰で見れば人生の全然途中だし、らんちゃんが自分の個性との付き合い方を掌握したわけでもないんだけど、でもだからこそ、未完成な希望がのびのび広がっているのが、満点笑顔が何より素敵ならんらんっぽくて、俺は凄く良かったと思う。
 ”変”であることに悩みつつ、”変”な自分であることを辞められなかったらんちゃんが見つけた、彼女の一番星。
 そこに至るまでの道がずっとずっと長く、未完成に続いていることが、なんだか幸せなことだなと感じたのだ。

 

 ……っていうお話を、クライマックスへのヒキに時間を取られつつもやりきった今回、ホント頑張ったと思う。
 ここにねじ込むしかない要素が色々ぶっこまれつつ、キャラとドラマの核を見失わず、存在感ある超人倫ウーマンをしっかり立ててまとめたのは、たいへん偉い。
 ここで過去ネタ引っ張り出して、失われた記憶を擦ってクッキングダム要素を掘り返しておかないと、残り二ヶ月で話納めるのはまぁ無理だからな……。
 『こんだけいい話だったんだから、良い感じの余韻残して、全部らんちゃんに渡して終わってやってよー!』と思わなくもなかったが、一年スパンでアニメをやり切るのは大変なんや多分ッ!
 メンメンが記憶惑乱する場面、それまでのあったかムードが蒸発しかねない不穏さだったしな……大丈夫なのかマスコットッ!!

 ともあれこれで秘めたる過去とのつなぎも作って、ジンジャーを巡る色々を終盤戦の起爆剤に使う準備も整ってきた。
 あまね会長最後の個別回、念願のナル公再登場を乗り越えてデパプリがどんなクライマックスを用意してくるか。
 大変楽しみですね。