イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

チェンソーマン:第8話『銃声』感想

 朝に紅顔あって世路に誇れども、暮に白骨となって郊原に朽ちぬ。
 飲み会直後の大殺戮、世の中そういうモンだよね、チェンソーマン第8話である。

 王様ランキング:第21話『王の剣』感想ツイートまとめ - イマワノキワ でも大暴れした御所園翔太が生み出す、極端な緩急が残酷なドラマとしっかり噛み合い、風雲急を告げるエピソードとなった。
 第1話でぶっ殺したクソヤクザの血縁が、因縁と血刀携えて追いすがる今回のお話。
 思い返せば最初っからクソだった世界が、禁じられてるはずの銃を携えて日常と未来を撃ち殺し、同盟相手は死体も残さず消えていく。
 この重たく乾いた暴力の嵐が世界の真実だとして、それを認められず泣いてしまう”マトモ”な者たちはその只中で、どう生きてどう闘うか。
 お話の核心が、いい塩梅に横っ面を張り飛ばすようなお話である。
 話がこうなってしまうと、最悪な思い出のはずのゲロキスすら愛しく遠く、この落差は狙ってやってんだろうなぁ……。
 よく効いてお腹が痛いね……。

 

 

画像は”チェンソーマン”第8話から引用

 時は巻き戻って姫野の自宅。
 デンジが目覚める前の光景は、定点カメラの動かぬ視点が作り出す過剰な客観と、初体験に高鳴る心音が聴こえそうな過剰な主観を、織り交ぜながらゆったり展開していく。
 冷蔵庫の中の肉じゃが、酔っ払っても風呂には入れる自宅への馴染み方。
 そこには チェンソーマン:第4話『救出』感想 - イマワノキワ で描かれた、早川アキのモーニングルーティーンと同じ時間感覚が宿っている。

 マトモに食って、マトモに暮らして、マトモに生きて、マトモに泣けるマトモな人たちが、育んだ日常。
 それは温度の低いBPMでゆったりと展開して、『デンジ童貞喪失、成るや成らざる』やという一大事を前にしても、ゆったりと転がる。
 ベランダでコーヒー淹れて飲むのも、酔っ払って家帰って連れ込んだ後輩の服脱がすのも、当たり前に転がって当たり前に続いていく(はずの)日常の一幕。
 そこを大事にできる人たちだから、姫野先輩とアキくんは惹かれ合ったのかもしれない。
 そういうもんはこのクソみたいな世界に確かにあって、しかしゴミのように簡単にぶっ壊され、何もなくなってしまう。
 その事実も、アキくんの”我が家”が叩き潰されるあっけなさと、静かに残酷に共通しているのだろう。

 

 

画像は”チェンソーマン”第8話から引用

 デンジくんはあんだけ焦がれていた、誰でもいいと思っていた性行為を棒に振って、チュッパチャップスコーラ味に操を立てる。
 ネズミ以下のゲロ啜りだと粉砕されたプライドが、ズキズキ痛む現実は遠くにぼやけて、間接キスなのにファーストキスより鮮烈な魅惑が、濃厚にデンジくんを縛る。
 眼の前にあるわかり易いものより、大事にしたい何かがデンジくんの中には確かにあって、でもそれが何か、義務教育も受けてねぇクソガキには名付けることが出来ない。
 脱がされるままだった服を自分の意志で着直して、おそらくバキバキに勃起してただろうペニスを慰めて貰うかわりに、独り寝の寂しさを飴ちゃん”眺める”だけで噛みしめる夜。
 それは酒の勢いでヤッちゃうより、デンジくんと姫野先輩にとって良いこと……だったのか?
 ありえんほどの大騒ぎで、ブッチギリに最悪だけど確かに人生に良くある風景だった、あの飲み会とあの夜とこの朝が、どんな意味を持っているのかじっくり噛みしめる余裕は、デビルハンターには用意されていない。

 そんな事実を知らぬまま、ベランダで同盟を結ぶ二人の距離は、マキマよりも近い。
 その背景には(極限まで高まり、結局不発に終わったセックスの匂い含めて)”生活”が宿っていて、憧れと崇拝にぼやかされた夜景よりも、確かな手触りがある。
 ミステリアスなマキマの誘惑を、数杯とも忠誠ともつかない浮遊感で受け取り眺め……しかし口に入れないデンジくんの態度は、ゲロも酒も唾液も(飲み会の勢いで)交換し合った姫野先輩との間合いとは、違う手触りがある。
 そのどっちが正しくて、強くて、嘘がないものなのかは、今後死と絶望の問題集を解きながら、探していく謎だ。

 お互いの好きな人の話をして、自分たちがお互い”それ”ではないことを確認して、気まずくなりそうな過去を笑って噛み砕いて、対等な友達として明日に進んでいく。
 そういう、なんてことない人間の営みを足がかりに、デンジくんのぶっ壊れた人生が一個ずつ治っていく予感を、たしかに宿したこの同盟締結。
 あまりに儚い夢だったことは、後半が証明してくれる。

 

 

画像は”チェンソーマン”第8話から引用

 たった半日前、最悪に楽しい飲み会を一緒に過ごしたはずの人たちは、スローモーションで唐突に引き抜かれる銃によって撃ち抜かれ、終わっていく。
 その唐突な理不尽への悲嘆と恐怖を力に変えて、銃の悪魔は世界を蹂躙した。
 結果変わったはずの世界に、存在するはずがない銃はあんまりに簡単に人を殺す。
 ゆっくり積み重なる日常のBPMとはまるで違う、ノイジーでハイスピードな暴力交響曲は、感情の色がなくのっぺり事務的だ。
 この嵐との対比を出すために、ゲロキスでゲラゲラ笑わせ、デンジくんがようやく手に入れた職場の良さをしみじみ味あわせ、セックスに近接しつつ穏やかに乗りこなし、未来を約束して朝に微笑む光景を、どっしり描いた……ということだろう。
 積み重なる時は一個ずつ丁寧で、終わる時は唐突で急。
 そういうモンなんだろう。

 悪魔と契約せずとも、人間相手ならサクッと殺せる……殺せすぎてしまう乾き。
 それはクソヤクザの孫が因縁背負って、殺し殺されなお終わらない血みどろバトルを展開させる前の、じっとり不穏な空気とも対比されている。
 そこには感情があり、悪縁があり、死んでもなお終わらない”マトモじゃなさ”が宿っている。
 やっすい中華料理屋のやっすい椅子は分断を暗示し、つまりは繋がったりぶつかったりする非・即物的な湿り気が殺し合いに宿る。
 そうやって情念まみれで『負けられない戦い』するのと、あっさり唐突に生きたり死んだりするのと、どこに違いがあるのか。
 モブの死とメインキャラクターの終わりには、どんな差異が宿るのか。
 剥き出しの暴力が美麗に踊るステージは、そんな問いかけも静かに彫り込んで、ゴロンとこちらに転がしてくる。

 

 

画像は”チェンソーマン”第8話から引用

 デンジと同じく悪魔の心臓を埋め込まれた、悪魔でも人間でもない存在。
 それとの殺し合いは勝ち負けと生き死にががグラグラ幾度も揺れて、殺したはずのものが立ち上がり、血を流しても願いは遠く、何もかも捧げても虚しく終わりかねない、とても非情な現象だ。
 戦いの開始を告げる狐の悪魔の一撃が、ビルの壁をぶっ飛ばし人間を宙に舞わせるところ、”AKIRA”的サイキックバトルの快楽がみっしり詰まっていて、最高に興奮したけども。
 ベチョベチョの血糊と、楽しい職場で一緒に恋愛同盟していくはずだったオモロい先輩の悲愴が画面に満ちて、高鳴りには水ぶっかけられる。
 この感覚が、チュッパチャップスの軛で膨れ上がったチンポコを鎮めて、床で寝たデンジくんと不思議と重なる感じで、喜べば良いのか泣けば良いのか、なかなか貴重な視聴体験だった。

 あのホテルで、デンジくんを殺してでも抜かせたくなかった呪いの釘刀を、アキくんがあっさり抜く。
 それほどの土壇場は姫野先輩を当然置き去りにはせず、取り残される苦悩をこれ以上味合わないために、大好きな後輩を守るために、姫野先輩は幽霊の悪魔に自分の全部を捧げていく。
 先輩、朝飯食ってる時は『顔が好き』とかちょけてたのに、命捧げる段になって思うのはアキくんのキレイな心ばっかで、つまりはそういうところ好きになった先輩だってこのクソみたいな血の池地獄でなお、キレイでマトモな心守ってきたって話じゃないスカ……だからこそ死ぬって話じゃないスカ……。
 そのために全部捧げて、デンジくんのパンツ下ろそうとしてた腕もなくなっちゃって、そういう悲しさは全部描かれてる絵からこっちが勝手に受け取ってるもんで、殺し合い自体はザクザクハイクオリティに、残酷に理不尽に展開してって、クソ辛いけどいいシーンだな、と思う。

 

 

画像は”チェンソーマン”第8話から引用

 姫野先輩が命懸けで生み出した幽霊の悪魔は、沢渡アカネが呼び出した蛇の悪魔に丸呑みにされ、パッと消える。
 この唐突な、圧倒的な”不在”の書き方は、服と眼帯以外なんにもなくなってしまった姫野先輩のあっけなささ過ぎる終わりを、死の実相を豊かに描く。
 あれほど暖かく、永遠の未来を約束してくれるはずだった我が家が目の前でぶっ飛んだのと、ほぼ同じ儚さと虚しさで突きつけられる”不在”を前にして、早川アキは復讐者の眼をしていない。
 マトモな人間が、凄く簡単に何もかもが終わってしまう現実を前にしてする顔をしている。
 してしまうアキくんだから、姫野先輩も好きで、命懸けで守ろうとして、何もかも不公平にぶっ壊されていくのだ。

 何度も復活するサムライソードにしても、後出しで超つええ悪魔出してくる沢渡にしても、ぬるっと銃突き出して続くはずだった日常ぶっ壊してくる殺人者にしても、デンジくんの敵対者は皆唐突で、とてもアンフェアだ。
 身体を突き破って映えてくるチェンソーに、デンジくんは幾度も苦しみ、怪物に化けるのをためらってきた。
 サムライソードにそういう素振りはなく、女子供もぶっ殺し麻薬を売りさばいていたクソヤクザを、『昔気質の必要悪』と美化して、何回も死んで何回も蘇って襲ってくる。
 そいつを命懸けのドラマでぶっ倒せると思ったら、急に幽霊の悪魔より遥かにデカい蛇の悪魔が顔出して、なんもかんも丸呑みにして終わらせていく。
 そういうモン、そういうモンだよ。

 それが飲めねぇからデンジくんはポチタを抱いて地獄の幼年期を生き延び、チュッパチャップを抱いて床に寝た。
 唐突な理不尽にぶっ殺されて、楽しいことなんにもねぇ未来よりも、酒飲んでゲロ飲んで同盟くんだ面白い先輩と、ギャーギャーわめきながら一緒に暮らす連中と、ちったぁマシな明日を探してもがいてきた。
 そんな甘ったるい希望は、マトモないつかってやつは、身勝手な暴力でズタズタに引き裂かれて、残骸すら残らず消えていく。

 そういうモン……そういうモンなのか?
 それで良いのか?
 良くないとして、あまりに圧倒的で唐突な理不尽を前に、否応なく”マトモ”な人間達には何が出来るんだ?

 姫野先輩が消えても、アキくんの物語も、デンジくんの物語も続く。
 飲み会に参加した連中の幾人かは銃弾で死んで退場し、人間としての死が終わりではないこの物語の中であるいは再登場を果たし、大事にしたいものを踏みつけにされながら、ゴミと血と涙にまみれた物語は続く。
 終わりの先に続くクソみたいな日常に、否応なくしがみついて転がっていく来週の物語も、とても楽しみである。
 マジでいい塩梅だなッ!!!