イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

デリシャスパーティ♡プリキュア:第40話『俺に出来ること…ブラックペッパーと拓海の決断』感想

 そろそろフィナーレの足音が聞こえてきたデパプリ、まずは品田家周辺を整え、ブラックペッパーの決意を確認する第40話である。
 被害規模が世界レベルに拡大したり、セレクトルー説得への準備が着々と整ったり、『あー、終わるんだなぁ……』って感じが、濃く漂う回だった。
 半分くらい最終決戦への準備回ではあるが、拓海くんからヒーローたりうる資格を一回奪って、その上で真実の決意を書き直す歩みはしっかりしていた。
 その真実を受け取ったゆいちゃんのリアクションが、彼女の中で”品田拓海”がどんだけ特別なのかもしっかり伝わって、二人の現在地としては結構納得行く形だった。
 これからまだまだ続いていく道を、真っ直ぐ見据える終わり方という意味では、第36話のらんらんに近い……のかな?

 

 『俺たちは物語に終わりを告げる使者……』とばかり、話を複雑にしすぎないために遠洋漁業に出てたオヤジ連が故郷に戻ってきて、『テメープリキュアじゃないし戦士でもねぇから、魔法の石返して普通の男の子に戻れ』と言い出すところから、お話始まりましたけど。
 散々体張って、迷いながらも真摯に戦い続けたたっくんを知ってる身としちゃ正直『ハァッ!!?』って感じではあったけど、戦う意味は一度奪われ取り戻す時に、一番強く問いただされる。
 今回は奇をてらわず、真っ直ぐにたっくんとブラペの現状を描いた上で、彼がどうなっていきたいのかを強く彫り込んでいく展開だ。
 特別な女の子として変身アイテムに選ばれたわけでも、魔法の国に認められた戦士でもない。
 戦う理由が外側にない状況を突きつけられた上で、思春期の少年らしい気恥ずかしさに軽く身悶えしつつ、たっくんは一度魔法の石……自分を特別にしてくれる外側からの力を返す。
 しかし自分が止めようが終わらず、大事な人を傷つけ続ける戦いを前にして、内側から湧き上がってくる闘志が彼を前に押し出す。
 今回は瞳のクローズアップに強い力がやどり、真実を前にしたゆいちゃんの当惑とか、戦う意味を掴み直したたっくんの決意とか、余区伝わる演出で良かった。

 ただ、俺がしたいからそうする。

 その真っ直ぐな答えは品田拓海だけでなく、ここまで結構長く積み上げられてきたプリキュアにおける男性戦士全体に伸びていた気もする。
 メインターゲットである女の子を特別化し、社会一般には『はしたない』と封じられる暴力的活躍を手渡すべく、プリキュアの”男”は戦闘における決定打を担わず、肝心な時に弱い存在であり続けた。
 ニチアサ的ヒロイズムのど真ん中に少年戦士が立ち、迷いを経て自分なりの答えと、闘争の行方を決めうる強い力を獲得する展開は、これまで”プリキュアの男”が許されてこなかった、捻くれた歩みの末にある王道だ。

 それを言うまでにはジョナサン・クロンダイクの無念があり、クローズの凶猛があり、相良誠司の無様があり、ピカリオの屈折があり、カッパードとの対話があり、アンリの飛翔があった。
 だから今回結構な尺を使って、『女の子だって暴れたい!』というプリキュア・スタンダードから外れた男性戦士が今、自分が闘う当事者性をしっかり問いただされ、品田拓海でありブラックペッパーでもある意味を己に引き寄せて、確かに吠えたことは、自分の中では結構大事な事件だ。
 それはプリキュアたちにとって、少女であり戦士でもあること……二つの名前を持っていることと同じく、重要なアイデンティティだろう。

 

 たっくんは今まで秘めていた、ちょっと気恥ずかしい秘密もゆいちゃんに伝える。
 俺が、ブラックペッパーだったんだ。
 これを受け取ったゆいちゃんが、鉄火場でありながら戦いを忘れるほどに呆然とし、全てが終わった後赤子のように泣きじゃくってしまう描写が、めちゃくちゃ和実ゆい”らしく”なくて良かった。
 前回再確認したように、ゆいちゃんにとって適切な言葉を選んで、思いを形にして届けることは大事だ。
 それで色んな人を救ってきたし、今セクレトルーの歪な完璧さを切り崩すべく、必死に言葉を探してもいる。
 不定形の感情をどう研ぎ澄まして、共有可能なロゴスへと変えていくかは、和実ゆいにとってかなり重要なアイデンティティなのだ。
 ……親しみやすいおバカキャラを装着しつつ、その実魂の根っこが理性的で硬いの、星奈ひかるに似てるな……。

 しかしたっくんの真実はそういう、色んな物事を言葉を使って整理し、不定形のままで放っておかないゆいちゃんを崩す。
 拓海がブラックペッパーだった事で、自分が何を感じているのか。
 なんで、こんなにワケわからない状態になっているのか。
 それをゆいちゃんは言葉に出来ないし、それでも(だからこそ)涙は溢れてきて、たっくんはその隣に優しく寄り添う。
 ブラックペッパーとしてはキュアプレシャスが今果たすべき、敵との対話へ道を切り開き、品田拓海としては当惑しつつもずっと隣りにいて、おにぎりを差し出し涙を止めてやる。
 ゆいちゃんがかなり堅牢な自我を置き去りに、不定形の涙へと押し流されてしまうほど大きな感情は、ブラックペッパー=品田拓海である自分をようやく伝えてくれた、幼なじみの少年からしか生まれ得ないのだ。

 それが愛であり恋となっていくか、ゆいちゃんは未だ良くわかっていない。
 解っていないから、世界中の子どもがそうするように、ただただ涙したのだ。
 胸の内側にとどめておくにはあまりにも大きいけど、それがなんなのかラベルを付けられない思いに出口を与えて、それを抱きとめてくれる人が必ずいるのだと心の何処かで信頼して、思う存分泣けたのだ。
 ゆいちゃんはお祖母ちゃんの死によって心を鍛えられ、危機にも泣かない強さを物語開始時から持っていた。

 そんな子が珍しく泣くのが、たっくんの前であるのが僕は嬉しい。
 自分の内側で荒れ狂って、まるでただの子どもみたいに涙を溢れさせたものが何であるか、今のゆいちゃんは言葉を見つけていない。
 しかし理性的なラベルがつかないなら、思いや真実はなくなってしまうわけでも、誰かと共有できないわけでもない。
 不定形で柔らかな、何にでも変わりうる強い思いが、逞しい主役でありタフな戦士であり、ただの子どもでしかないゆいちゃんにはまだまだあって、それを引き出す特別さがたっくんにもある。
 その繋がりが意味するものを二人が見つけていくのは、まだ先の話なのだろう。
 でも、それは確かにそこにある。
 だからこそ思い切り流れた涙は、言葉にならないものがいつか名前を手に入れて、確かに二人の間で共有され豊かに飛び立っていく未来を、強く照らしている気がした。

 相手に届く言葉を探す意志、それを見つけられる理性はとても大事だ。
 けして解り会えない敵同士と断絶を諦めるのではなく、自分の方に相手の立場と心を引き寄せて橋をかけるためには、言葉が決定的に大事になる。
 ゆいちゃんはそういう戦いの先頭に立って、言葉を大事に進んできた、相当大人びた子だ。
 でもそんな子こそが、言い表す言葉を見つけられない、外側にも共有できる形に整えられない強い思いを、確かに持っている。
 それを外側に溢れさせても良いのだと、40話作品を支えてきた主人公に言ってあげる……ゆいちゃんを聞き分けのない、悩める子どもに戻してあげる回でもあったかなと思う。
 ”プリキュアの男”が戦士として、人間としての自分を見つけ出し吠える話に一話使えたのと合わせて、最終決戦前に大事なところを整えたな、と思った。
 俺はこういう、長く続くお話の自己決算を見るのが好きだ。

 

 海外見てきたシナモンが告げる、全世界的料理概念消失。
 『それが存在していた事実ごと消すので、プリキュアの介入がないとレシピッピ強奪は事件化すらしない』という描写は、世界律に直接触ってくる敵の厄介さを再確認させてくれて、結構好き。マジヤベーよな、今更ながら……。
 世界から料理概念全部が吹っ飛ぶまで後一個と、最終決戦のカウントダウンも始まって、いよいよデパプリ最終月間である。
 今回たっくんが見せた決意を背に受けて、クライマックスをどう盛り上げていくか。
 次回も大変楽しみです。