青春のトンカチを握って、少しだけひび割れた友情を手直ししてきたアニメもついに最終回。
故郷へ帰るジョブ子に大事なお土産をもたせ、三条市に残るぷりんとせるふは新たな思い出を手作りして、完成なったツリーハウスには永遠の友情が輝く。
あまりに……あまりに良い最終回であり、良い作品だった……。
ありがとう”Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-”、最高のアニメだった。
お疲れ様でした!!
で、終わりで正直全然いいんだけども、見事天へ飛び立った龍に余計な足をつけることにする。
作品の素晴らしさは全て作品の中にあるが、それを受け取って感じたものは一応僕だけのもので、この素敵なアニメを見届けた感慨はちゃんと残しておきたいので、そうするよ。
俺このアニメのこと好きだし、このアニメを好きで、それを書いている俺のことも、結構好きだからね。
部長が差し出し、せるふが打ち込んだねじがツリーハウスを完成させて、幼なじみたちは喜びに抱き合う。
ここまでどんなお話を続けてきて、何を生み出したかがあまりに端的に描き出されるスタートである。
第1話では自分の不器用さ(”役立たず”と思い込んで、結構シリアスな惨めさを内側に抱え込ませてきたもの。それをなんとかしようとして、ぷりんとの距離感がこんがらがったもの)を上手く扱えなかったせるふは、導いてくれる偉大な先達と、共に笑い創り上げる仲間を得て、電動ドライバーの扱い方を覚えた。
相変わらず完璧とはいえないせるふの”当たり前”を味として、受け入れてくれる場所。
そこでちょっとずつ、何かを成し遂げ野放図な夢を形にしていく手段を身に着けて、せるふはずっと自分を見つめ続けていたぷりんを、見つけ直せる視力、抱きしめ直せる掌を手に入れた。
せるふもまた、そんな風に成長していく幼なじみに優しく……とは素直になれない、彼女らしい難しさと向き合いながら誠実に、いつの間にかこんがらがっていた自分の”当たり前”と仲直りした。
ここまでの全部があって、この最終話の出だしがある。
凄く良い始まりだ。
何回目撃しても、ぷりんとせるふが率直に思いを伝えあっている様子はあまりに眩しく、人間が生きている尊さがギュッと凝集されているように感じる。
つくづく、愛の話であった。
再び出会い直せたものがあれば、新たに巣立っていくものがあり、しかしそこには哀しみだけが宿るわけではない。
思い出のおはぎに舌鼓をうつジョブ子も、それを愛娘に持たせてくれたぷりんママも、あまりにありがたい”人間”の肖像画すぎる……。
皆が手土産に送るモノにはそれぞれの個性と思いがしっかり詰まっているが、ぷりんとせるふが贈ったのが笑顔の肖像画……せるふの野放図で力あるイマジネーションが形になったものを、ぷりんが手ずから額装したモノなのも、大変良い。
そらー、ジョブ子は泣く。
彼女が12歳だからではなく、いやそれは勿論大事な要因なんだけども、このヘンテコな場所で見つけて繋がった思い出がとても楽しくて、素敵だったからこそ泣くのだ。
そしてその涙すらも”ま、いっか!”と思えるような武器を持たせて、仲間たちは楽しく美味しく、最後の宴を過ごしていく。
退会とか勝負とか一切なし、(表面上)起伏のない(ように思える)話を牽引するエンジンとして選ばれた部員問題は、結局解決を見ずに終わる。
部費廃止は相当な大問題であるが、しかしツリーハウス建造の紆余曲折は少女たちをたくましきDIY戦士に鍛え上げ、自力で何とかする前向きな”ま、いっか!”を……せるふの人生心情を皆で共有して、前に進むことになる。
新部員が加入して問題が解決する(という言い方も、またちょっと違うけども)兆しを描写しつつ、メインはあくまでたくましく、あるものを生かしないものを腹の底から絞り出して、どうにかやっていく方向性だ。
DIY部に入る以前、せるふの”ま、いっか!”はある種の現実逃避であったのかもしれない。
出来ない自分、何かと傷つき壊してしまう生来の不器用さに押しつぶされず、現状を泳いでいくための魔法の言葉……価値論的麻酔薬。
しかしDIY部で実際に物を作り、彼女なりのペースと個性でスキルを身に着けていった結果……そしてなにより、自分は”役立たず”ではないと認めてくれる仲間が隣りにいたことで、せるふはなんとか出来る自分を見つけることが出来た。
あるいは、仲間と繋いだその手で創り上げることが出来た。
望ましき自己像と、それを支えてくれる実際の行動と、離れてなお続く豊かな関係性。
厄介な問題があったとしても、諦めず地道に取り組んで、どうにか善くしていけるという自信と実績。
そういうものも、ツリーハウスや様々なモノを創り上げる中でDIYしてきた。
そんなせるふの成長が、”部”という小さく優しい社会の中で共有されて、みんなの大事な財産になっているのが、僕は好きだ。
それこそが、ジョブ子が持ち帰る一番大きなお土産かもしれない。
そして、ジョブ子が旅立つ時が来る。
ここめっちゃガッシリやってくれるの、最高でしかねぇな……。
ツンツン素直になれないぷりんがどんだけ善良で素敵なのか、同居人であり”妹”でもあるジョブ子が間近に窓の内側からしっかり見届け、時に年の差を超えて間近に導きを与えたことで、良く見える話だった。
ぷりんを……彼女を主軸にするお話全部を好きになるための窓を開けてくれたのは間違いなくジョブ子で、彼女が旅立つ前心に浮かぶ小波と、それをしっかり受け止めて旅立てる頼もしさ、見送る仲間たちの爽やかな寂寥を、しっかり焼き付けてくれた。
素直になれない似た者同士だからこそ、年の離れた同居人は心の底から通じ会えたのかもしれない。
最後の最後で、ジョブ子が素直になれない難しさと、それを壊して大事なものを取り戻す武器として、DIY部の思い出が輝いていると語ってくれたことは、大変良かった。
DIY部に加入するまで10話、ぷりん思春期の難しさとがっぷり組み合ったこのお話であるが、その歩みは”ツンデレ”とシンプルに記号化出来ない、普遍的な難しさに満ちていたと思う。
丁寧に、窓辺の向こう側に向ける視線を幾重にも重ねて削り出した、流れていく時が生み出してしまう変化と、様々な難しさ。
なりたい自分と、なってしまった自分をぴったり接着できれば何より楽だし、全ての厄介事も解決するはずなのに、なかなかそう上手くは行かない。
理想と現実を繋げる唯一の接着剤……率直な強さを手に入れるための、とてもありふれた難しさ。
それは二次元に切り取られたアニメ美少女だけの特別な悩みではなく、その外側で彼女たちの青春闘争を見守った僕らみんなに関わる、とても普遍的な問題だった。
DIY部の一見ノスタルジックでアナログな歩みが、凄い速度で変化していく技術と社会という、まさに現在進行系の問題をしっかり見据えていたのと、同じ視線だ。
母の喪失により”家”と自分の心に、生まれてしまったひび。
そこから逃げ出すように日本に来たジョブ子は、三条市で学び取った自分と世界の新しく、そして懐かしい強さを胸に携えて、もう一度父と向き合う。
ママとの思い出によく似て、でも全然違うツリーハウスを、ヘンテコで面白い年上の仲間たちと一緒に、汗を流し知恵を絞って作った。
そんな最高の思い出話は、一度壊れかけた親子の関係を新たにDIYしていくだろう。
そんな未来を確信できる描写だけで、ここまでの物語がみっしり埋まっているのは、ジョブ子には絶対幸せになって欲しい(アンタだってそうだろ!!)自分としては、大変にありがたい。
かくしてDIY部の”妹”を未来に送り出した後は、幼なじみたちが思い出を取り戻し、あるいは新たに作り上げていく。
とにかく率直さを取り戻した須理出未来の視力が良く、あくまでイメージでしか無いはずのせるふの夢から、まだ実現していないブランコを拾い上げ、それは伝えていないはずのせるふの願い……『ぷりんと一緒に座れる素敵な椅子』を実現していく。
せるふのぬぼーっとした視界では見落とすものを、せるふはずっと見つめ続けていて、しかしそれを伝える手段を封じてきた。
せるふが見つめてる自分を見つけ直してくれることで、せるふは持ち前の素敵な優しさを活かす方法を取り戻しても行く。
『そういう心の中の宝物を。形にしていけるのが人間の手なのだ』ということをずっと書いてきたアニメは、ラストDIYでとにかく手をたくさん描く。
夢を刻んだタブレットを触れる手、幼なじみの欠落と傷にばんそうこうを貼る特権、電ノコ握って材木を整える手、思い出のネームプレートを愛しく撫でる指、ぷくーっと膨れた幼なじみのほっぺたを触る特権。
同じ掌のはずなのにいろんなものに触れ、動かし、形作り……しかしそれは、あくまで同じ手である。
色んなことに触れ、形にしていける無限の可能性が、物理的実体でしかないはずの手に宿って、とても豊かな意味論的空間を作っている。
その掌で、せるふとぷりんはもう何だって出来るし、作ることが出来る。
思い出に触れることも、優しさを手渡すことも、愛しさを撫でることも、なんだってもう出来るのだ。
人間、心に抱えているものを率直に伝えられるくらいに強く優しくなると、こういう手の使い方が可能になるわけだ。
DIYってスゲーなッ!!
物語の最後は、お互い大好きな二人の距離感がこんがらがった原因を、しっかり解いて終わっていく。
せるふは幼く無神経で、ぷりんは賢く面倒くさすぎた。
ふたりの成熟が歩調をもつれさせた結果生まれた愛しき衝突であったが、DIYと三条市と仲間たちが沢山助けてくれた結果、真っ直ぐな言葉で思いを伝えあって、大事なものをもう一度確認するチャンスが訪れる。
第9話での描写を見るだに、”役立たず”である自分、ぷりんに補われないと社会生活が困難な自分が、せるふは結構嫌いだったのだと思う。
だから自立を果たして距離を取り、世間一般に適正とされる立ち位置に自分たちを持っていこうとしたわけだが、幼なじみ好きすぎる純情少女にとって、それは自分を”役立たず”と告げるにも似た、残酷な行為だった。
そんなシリアスな重さを、太平楽な主人公が自覚しているかは正直怪しい。
しかし色んなものを見落としつつ、人生でいちばん大事なものだけは真っ直ぐ見据えているからこそ、幼なじみが託したウィンドチャイムを大事に持ち続けもする。
それさえ守ってくれていると分かれば、ぷりんはせるふを許せる。
どれだけ失敗が多くても、むしろだからこそその善さを社会と繋ぎ、傷に絆創膏を貼る特権こそが自分にあるのだと、『せるふを助けるぷりん』を肯定できる。
そしてせるふも、ぷりんにだけ特別に自分の傷にばんそうこうを張ってほしいと思って、ずーっと間近に身体と心を寄せ続けてきた。
そしてやっぱねー……DIY部の広範な善さ、そこで生まれる太い絆をしっかり描きつつも、女がたった一人特別な女を求め燃える視線の色合いをド濃厚に描き続けてくれたのは、圧倒的に強いしありがたいんですよ。
せるふが変わろうと、取り戻そうと思うのはいつだってぷりんだし、ぷりんの心に風を蒸すのはいつだってせるふなんですよ。
そういう特別で緊密な間柄をたった一人と結んでも、他の誰かやそこから広がる世界と手を切り離して、孤独でいる必要もないんですよ。
むしろ新たに広い場所へ導いてくれるヒトやモノ、DIYというコトに出逢ったことが、せるふとぷりんをより善き未来へ、自分らしさを最良の形で発揮できる自分へと導いてくれた。
そういう欲張りな希望の描き方が、窓やウインドチャイムといったフェティッシュを生かし、多感な少女たちの心にどういう風が吹いたかを丁寧に追いかける演出に、しっかり支えられていた。
せるふのキラキラ輝く瞳と、ぷりんの前髪を揺らす風。
作中幾度も繰り返され、とても印象的だったモチーフが最後の最後でしっかり息しているのは、やっぱ最高。
かくして手を繋ぎ直した二人は高く飛び上がり、新しい未来を始めていく。
この到達点と幕引きは、新しく始まっていく物語のスタートでしか無い。
だからこそ毎週最高を更新してきたOPをお話の総まとめに流し、『オイィィ……この可愛いツンデレはいつ、ここで見せてるような最高率直ラブリースマイルを、みんなと共有して頑是無く踊るようになるんだッ!!!』と思い続けた気持ちを、しっかり回収してくれる。
いやだってさー、みんなOP見ながらそう思ってたでしょ!!!?
『こんな風に、須理出未来が”みんな”になる未来、マジで本編で見てぇよ……』って思い続けてきたわけでしょ!!!!!?
それは叶って、でもそこで終わりじゃなくて、色んなことが起こるだろう夢の続きに、ぷりんとせるふは手に手を取って進み出す。
だから最終回ラストで”オープニング”だッ!……てのは、あまりに自分たちが作ったものの意味と価値を解りすぎた大正解すぎる。
思い出を大事に倉庫にしまって、新しい約束を風になびかせて。
物語は新たに始まりながら、確かに終わっていく。
最高のアニメだった。
『あー、またおじさんがやることをJKにやらせる系アニメね……』とナメてた気持ちをきっちり殴り飛ばし、話数を重ねるごとに明らかになっていく思春期への通底した視線、DIYという活動が人間形成に及ぼすポジティブな影響、その実務的で手応えのある描線、生まれる友情と暖かさ、それを包むローカルな温もり……と、様々なものを欲張りに過積載し、全て描ききってくれました。
ゆったりのんびり進んでいるように見えて、女の子の可愛さを十全に新鮮に削り出しつつ、それに甘えずコンパクトで普遍的な素直になることの難しさ、古い技術と新しい可能性をどう繋ぎ合わせるか、凸凹した個性をどう集団と社会に繋げるかなど、骨の太いテーマ性を難しくなりすぎず、親しみやすい手触りで削り出してくれました。
『この座組とテーマなら、ここまでやってくれると嬉しいけど……まぁやらねぇだろうな!』みたいに、勝手に安全マージン取ってた腐れアニオタのドタマを全力で毎話張り倒してくれて、最高に嬉しかったです。
『旧くて新しいものと出会い直し、その意味を掴み直して未来に進む』っていう歩みが、DIYと先端テクノロジー、せるふとぷりんの青春という二層構造で、豊かに呼応しながら徹底して掘り下げられていったのは、本当に良かった。
オンボロな部室に集うくせの強い仲間たちは皆可愛く、尊敬できる逞しさと清々しさをしっかり宿してもいて、彼女たちの部活動をワクワクと見守りたくなる、強い魅力に満ちていました。
そんな群像劇の魅力をしっかり備えた上で、あくまでせるふとぷりんのありふれた青春がどこに転がっていくか、けしてありきたりではない新鮮な表現力と、それぞれの個性と心にしっかり向き合う誠実な描線で、体幹の強い物語を生み出してくれました。
変な色目をキョロキョロ振りまくのではなく、あくまで『このアニメはせるふとぷりんのアニメだ』と定めたことが、その中軸をしっかり支える形で、他キャラクターの魅力を120%で引き出してくれた。
問題もたくさんあるけど、だからこそ応援したくなる主役たちにマジありがたい手助けをしてくれることで、他のキャラへの愛着もモリっモリ育ったからな……。
みんな素敵であったし、心から幸せになってほしいと願える楽しい仲間たちで、キャラを好きになれるアニメって最高だなと、しみじみ思い出せた。
ちょっと素朴さのあるキャラデザも、青春のちっぽけな、しかし一番難しい問題にがっぷり向き合う展開としっかり噛み合い、作品独自の魅力を生んでいました。
青春の揺籃として三条市のローカルな空気を大事に、理想的でありながら現実的でもある独特の距離感で描いた美術も、凄く良い仕事だった。
あと劇伴な~……圧倒的にスゲェ! って思うタイプではないんだけども、場面やキャラ、雰囲気としっかりマッチして、作品全体を下支えして最高の所まで持っていってくれるような、素晴らしい音楽でした。
実はアニメの全領域でメチャクチャに凄いんだけども、その凄みで見てる側を殴り飛ばさず、一緒に感動を手作りしてくれるような、まさにDIYな仕上がり。
もう一度言いますけど、最高でした。
ありがとうございました、おつかれさま。
本当に楽しかったです!