イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

UniteUp!:第1話『アイドルしないと』感想

 ソニーミュージックグループが本腰入れて展開する、新規多次元アイドルプロジェクト……そのアニメ版に”君の膵臓をたべたい”の牛嶋新一郎監督が挑むッ! という第1話。
 下町の煤けた景色と出口のない鬱屈を大事に転がして、幼なじみの超巨大感情で図髄と前に押し出していく、やや落ち着いて体温低めのスタートとなった。
 この温度感は監督の持ち味だと思っているので、丁寧な描線で”アイドル”彫っていく決意表明としても、ナイーブな思春期にどう触るかというテストケースとしても、なかなかいいスタートだったと思う。
 メインで売り出されるだろうキラキラなアイドルちゃんではなく、主役が好きすぎて若干頭がおかしい小デブがドシンと話の真ん中に座り、悲劇のヒロインになれるほど重たい事情を持たず、しかし当たり前の屈折に身を置いてはいる等身大の主人公、その第1のファンとして背中を強く押す。
 『かっちゃんの存在感をこんだけ高めちゃって、今後大丈夫なんだろうか……』と、変な方向で心配にはなるが、誰かが誰かを思う気持ち、それが生み出す”Unite”の描き方としては、静かで生っぽい熱があって、とても良かったと思う。
 この湿度と彩度で、新しい世界に飛び込んでいく明良クンが出逢う男たちとの、間に生まれる感情の火花を切り取り積み上げられるなら、かなり面白い物語と”アイドル”が書ける気がする。
 この期待感は、”アイドル”って題材があまりに沢山の物語を生み、すっかりレッドオーシャン気味な現状においてはとても大事だ。

 

 

  

画像は”UniteUp!”第1話より引用

 初手、終わった伝説であり少年たちを導く大人でもある”Anela”のライブでブチかます作りであるが、激しいパフォーマンス、華やかなステージングの合間合間に、どこか寂しさをまとった静けさがある。
 銀で統一されたカラーリング、レンズ効果を効かせた観客越しのモノトーン、あるいは交錯するアイコンタクト。
 このお話の”てっぺん”は人間を遠くに置く圧倒感と同時に、人と人が繋がり合う手触りを大事に切り取られていて、”Unite”をタイトルに置くお話としては、そうして生まれていく縁が大事なんだろうな……と思った。

 同時にアイドルミリしらから業界に飛び込んでいく明良くんにとって、この眩く大きなステージは目指すべき極星であって、華やかな凄みを出すのは大事だ。
 そして事務所ではすっかり落ち着いたお兄さん感だしてた二人が、なぜこの高みから降りて普段着をまとったのか、一つのミステリの置き場所でもある。
 明良くんがこれから12話突き進んでいく栄光の旅路は、”Anela”が既に終わらせた道のりであって、若き夢が駆け上がっていく上り坂と、降りてなお続いていく”アイドル”の歩みはネジレながら交錯している。
 まだまだ動きだしたばかりの物語だが、こういう形で陰影と立体感がでているのはなかなかに面白い。
 ピカピカ輝くアイドル一年生の間近に、華やかな輝きが焼き付くからこそ”終わり”が濃い大人の、セカンドキャリアを置いてあるのは渋いバランスだろう。
 ”アイドル”という星は輝いて終わって、繋がって続いていく。
 ”Anela”の過去は、そんなお話のテーマとルールを示してくれる。

 

 

画像は”UniteUp!”第1話より引用

 極めて華やかだったスタートに比べ、不在の父と煤けた下町、折れ曲がった夢に包囲された明良くんの現状は抑圧の効いた筆致で描かれ、大変に生っぽい。
 やや引いた構図で作中人物が身を置く世界のリアリティを描いていく手筋は、例えば制作会社が同じな”ぼっち・ざ・ろっく!”にも似ているが、彼らが身を置く世界はあまり理想化されず、フォトジェニックな輝きよりも生身の実在感が強い。
 実在のマテリアルが持つ太めの輪郭をはっきりと書き込んで、夢舞台とは程遠い……でもけして悪くはない現実の空気感を、美術から吸わせる。
 この穏やかで周到な画作りはかなり好みで、見たかったもののど真ん中来たな……って感じがする。

 

 

画像は”UniteUp!”第1話より引用

 この落ち着いて屈折した生々しさの隣に、明良くんとかっちゃんが抱え込むネジレた思いが”野球”を核として埋め込まれていく。
 屈託のない笑顔で、世界の特別になれた幼い時代はもはや写真の中にしかなく、しかし全て終わったこととボールを手放すには若すぎる。
 どこかに行きたいけど、どこにもいけない少年のありふれた鬱屈は、部室の壁が凹むほど幾度も叩きつけられて、しかし壁自体を壊しはしない。
 明良くんがいる現状は、まぁそういう場所である。
 キラキラアイドル夢ストーリーと思いきや、想定以上に湿って重たい感じ……最高に良いよ。
 お父さんも死んでるしなぁ……かなりナイーブで内省的な味わいあるよね。

 このどん詰りから強引に、状況を動かしていくのが明良好きすぎ人間かっちゃんである。
 いやマージでこの小デブ、幼なじみ好きすぎて若干頭おかしいだろッ!
 僕は愛情のあまり人間のレールを軽く踏み外してるタイプの動物が大好きなので、自発的には動けない明良くんの物語の点火役が、一切の断りなく幼なじみの可能性を未来に解き放っていく、激ヤバファンにして鬼プロデューサーなのは大変良い。
 かっちゃんが横車押してくれないと、明良くんを捕らえている(そして”アイドル”するなから崩され解き放たれていくだろう)鎖は緩んでくれないし、そのためには相手の同意を得ない過剰な愛情をぶん回すしかない。
 そうやって一番身近な友達を、ヤバい行動に駆り立てる”なにか”が明良くんにはあって、もしかしたらそれこそは彼が”アイドル”やる上での、一番強い武器かもしれない。
 アイドルモノには定番な、ドルオタで親友で一番なファンがこういう味付けなのは、なんだかとってもいい感じだ。

 かっちゃんも学校の便利屋として、狭っ苦しい部室で修繕頑張る以上の”何か”が欲しくて、明良くんの背中を勝手に押したのかもしれない。
 かつて確かに金色に輝いていて、気付けばどこかに消えてしまった特別さを、勝手に託して盛り上がって……せめてその始まりにだけでも、明良くんのアイドル道に寄り添いたかったのかもしれない。
 そんなエゴイズムを微かに漂わせながら、しかし『俺のダチは……ここでくすぶってる奴じゃねぇ!』と思い込んで全力で突っ走る男には、清らかな献身が確かに匂う。
 軽く頭おかしいぐれーじゃねぇと、当たり前の包囲網を突破して物語が動き出すなんてこたぁねぇんだッ!

 

 

画像は”UniteUp!”第1話より引用

 というわけでわけも分からぬまま連れてこられた新しい世界は、これまで明良くんを包囲していた当たり前のリアリティより少し、天上が高くて広い。
 都会的な空気をまとった内装、芸能に必要な洒落た感じを漂わせた事務所が、明良くんはけして自分の居場所だとは思えない。
 夢に向かって汗を流す先輩たちのレッスンはあくまでガラス越しで、目を煌めかせて『自分もやりたい!』とはならない。
 それが、彼の現在地……だった。

 色々唐突で複雑で困惑してた明良くんが、目を向けて開ける先にはかっちゃんとの友情があり、”KIKUNOYU”として匿名の仮面をかぶり生まれ直した自分がいる。
 日常の鬱屈を燃やす、ストレス解消の手段でしかなかったはずの歌にかっちゃんは惚れ込み、明良くんが自分の武器を客観視出来る場所、それが評価されている実感を、勝手に整える。
 それは同意を得ていないエゴの産物なんだけども、あの日以来ずっとくすぶっていた思いが形を見つけていく、確かな助けになっていく。
 それは清瀬明良最初のファンであり、最古のファンでもあったかっちゃんの熱量が、下を向いてばかりの少年の顔を上げさせ、日常を別の色……青春の青に塗り直す決定打になる。

 お前が、そこまで俺を思ってくれるなら。
 キラキラ遠い星の国には可能性を感じられなかった明良くんは、自分を包む煤けた景色の中、そこから繋がってなお向う側にあるものに、ようやく目を向けていく。
 この起爆剤が激ヤバ幼なじみのデカい感情なの、『この話はそういう動力で動くことになってますからねッ!!!』という、強いメッセージが初手から出てて大変良かった。
 そういうの、オレの好みだからよ……。

 

 

 

画像は”UniteUp!”第1話より引用

 新しい夢に漕ぎ出すにしては、明良くんが自分を閉じ込める壁に向き合う画角は暗めで、確信の光に満ちてはいない。
 『アイドルやりま……す?』と、どうしても疑問形になってしまう内向きな少年の現在地としては、この描き方こそが嘘のないチョイスなのだと思う。
 こういう煮えきらず、疑り深い画風からどういうふうに、”アイドル”が生み出す輝きと繋がりを削り出していくか、
 ユニットメンバーとの運命の出会いは話のラスト、今回はかっちゃんとの特大感情尾ネトネト煮込んだので、初手特別EDは二人の幼年期に捧げられる。

 ……本当に大丈夫なのこのシフトでッ!?
 アイドル面には程遠い小デブが濃厚に第一話焼き付けた、デカすぎまぶしすぎる感情の嵐を今後、この信号機残り二人と編んでいけるかって聞いてんのッ!!?
 そういう気持ちにもなる、大変いい感じのスタートでした。
 全体的にまぶさいさを抑え、地面に足がついた感じで転がっていく画作りとドラマには独特の滋味があったし、慎重に丁寧に”アイドル”って画題を扱っていく姿勢も感じ取れた。
 その落ち着きを加熱させ加速させる感情の強さも、かっちゃんを薪にしてガッツリ感じ取れて、大変良かったです。
 このナイーブな表現力を生かし、運命の三人がどういう出会いを果たし、どうぶつかってつながっていくか。
 このいい感じの挨拶を受けて次回以降、どういう物語を積み上げていくのか……と手絵も楽しみです。