イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

もういっぽん!:第1話『いっぽん!』感想

 年始猛烈に着弾した、青春柔道群像劇の第1話。
 柔道を諦めかけていた少女の胸に点る炎、その引力に惹きつけられていく女達の感情が爽やかに燃え上がり、ド迫力の試合シーン、青春の躍動を力強く見せる手際と、想定外の角度から心地よく打ちのめされる初視聴となった。
 とにもかくにも組手のシーンが良く、腕にこもる剛力のせめぎ合い、相手の重心と気持ちを間近に感じながら生み出される技が、生き生きと描かれていた。

 柔道は、楽しい。

 メインテーマをしっかり逍遥するクオリティの高さが、そこに立ち戻るまでくすぶっていた主人公、等身大のチャーミングな立ち姿をしっかりもり立て、期待の高まるスタートになっていた。
 天真爛漫な太陽娘、未知ちゃんが放つ無自覚引力が出逢う女軒並み狂わせている感触も濃く、『競技も感情もバリバリやってくぞ!』という、強いメッセージが初手から元気だった。
 萩原監督が撮影出身だからか、光の表現が全体的に鮮烈で、シンプルに絵として見ごたえと情緒がある仕上がりだったのも、今後が楽しみになる。
 辞める理由を山ほど口にして、諦めようとしたところから始まってしまう物語。
 一体どんな開花を見せるか、こいつぁ春からトンデモねぇのが叩き込まれたぜ……。

 

 

画像は”もういっぽん!”第1話から引用

 というわけでで冒頭、時間軸は本筋を先回りしてまばゆい夏である。
 キレのある前回り受け身、総身から楽しさが漏れ出る乱取り、必死に汗を流して倒れ込む畳の心地よさ。
 ”部活”というものをぎゅぎゅっと圧縮したスタートは、むせ返るような夏と青春の香気に満ちあふれている。いい絵だなぁ……。
 物語に先回りするある種のイメージカットであるが、作品がどういう絵を作り、どういう表情を切り取り、どんな季節を活写できるか、その腕試しとしては凄く鮮烈かつ的確で、しっかり期待の膨らむスタートだったと思う。
 第1話開始時では部員”三人”な所を、ぱっつん太眉の南雲ちゃんが加わっているミステリは、まーお話のど真ん中に据えて熱くやってくれるのだろう。
 どう考えてもこの女、未知が好きすぎて軽く頭がおかしい系なので、そして未知の周囲にはそういうタイプの変動重力源しか存在しないので、強めの感情炸裂が随所に埋まってる感じも期待を煽る。

 

 

画像は”もういっぽん!”第1話から引用

 とはいうものの、この夏の景色にたどり着くためには結構な回り道が必要なようで、未知は人生最後の試合を無様な失神負けで終わらせ、夕焼けにキラキラな高校生活を夢見る。
 臨場感と躍動感……そして何より譲らぬ闘志がある”いい試合”が良い作画で暴れた後に、しっとりと重たく自分の柔道の終わりを語る未知と、それに踏み込めない女達の肖像画が切り取られていく。
 パワフルな競技シーンの、大胆かつ的確なカメラワークが目立つ作品であるけども、燦然と輝く笑顔で自分の柔道を語る未知と、それを見つめる少女たちの表情がとても細かく、美しく描かれているのは印象深い。
 試合と日常、動と静の緩急が的確に付き、躍動する柔道作画が競技の面白さを際立たせてくれるからこそ、それが繋いだ縁を手放したくない優しい未練も、素直に心に入ってくる。

 あれだけ本気になれるものを諦め、柔道のない高校生活に突き進もうとする未知自身は思いの外さっぱりと湿り気なく、そんな彼女の背後の死角、気づかぬ場所でうつむく瞳は、しっとりと重い。
 溢れる闘志に当てられてか、ここで初めてあった永遠ちゃんもまた未知に何かを感じたようで、しかし声は届かず手は伸びない。
 すべてが終わって三人の帰り道、眩く美しい夕焼けには何かが焼け残っていて、何も終わらず始まっていない。
 ここの情感、未知が他人の青春を波立たせる引手の強さは、彼女が主人公としてどんなお話を編み上げていくのかを、豊かに教えてくれる感じがした。
 当人は無自覚に、だからこそ他人の感情と人生メチャクチャにしていく系超質量女子……オレの好みのタイプだッ!

 

 

画像は”もういっぽん!”第1話から引用

 そんな青春嵐の爆心地、女女間合いが近すぎて指導必至の乱取りが、諦めかけていた夢を蘇らせていく。
 自分の柔道終わらせた女との再会をこの距離でぶっこむだけでも危険なのに、早苗ちゃんにも無自覚運命捻じ曲げ叩き込んでいて、『これだから太陽系女子は……』という気持ちが大変強い。
 道着を着てるととても凛々しいのに、普段着だと声すらかけられない永遠ちゃんが何を思って畳にしがみつき、柔道部で未知を待っていたのか。
 事情は後から追いかけてくるとして、そこに宿った思いの強さ、”柔道”がどんだけ心地よくそれを炸裂させてくれるかは、素晴らしい仕上がりの”いっぽん!”がしっかり教えてくれる。

 言葉を越えて、とにかく生まれて蘇ってしまう熱い感情。
 それはさんざん柔道を腐しておいて、その奥にある気持ちよさを思い出して新たに走り出す未知だけのものではなく、彼女が真摯に打ち込んでいた柔道に心震わされ、彼女と共に進みたいと思った仲間たちにも共通している。
 問われてもその重さ故に素直に差し出せなかった、早苗ちゃんが柔道をする理由。
 これが偶然であり必然でもある”いっぽん!”で顕となり、物語が動き出す流れも大変良かったが、永遠に未知を”取られる”形になった南雲の孤立が、今後ヤバい一撃を入れてきそうな予感に震える。
 ぜってー”デカい”だろ三人とも……期待しかねぇな!

 

 名前も形もなく、ラベルがつかない生の感情がぶつかるキャンバスとして、武道場の畳がどれだけ爽やかに心地よく、激しく熱いのか。
 それが良く伝わる、大変良いスタートでした。
 喋りすぎては指導を貰う、言葉よりも技と体で心を伝える”柔道”のフィジカルな手触りが、しっかり動く絵に支えられて大変元気なのは、凄く良い。
 物わかり良くおしゃべりして答えが見つかるなら、くっせぇ道着着込んで骨折られたり、絞め落とされなんざしてねぇ。
 そういう不定形の熱量を青春に混ぜ合わせて、とんでもない炸裂を生み出す決意と力量を示して、三人の部活は始動した。
 さて、どんな眩さが未来に待つのか。
 次回、大変に楽しみである。