イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

もういっぽん!:第4話『3人いるから、大丈夫』感想

 遂に始まったインターハイ予選、交錯する視線と汗は少女たちをどこへ連れて行くのか! という、もういっぽん! アニメ第4話である。
 これまで未知中心の引力で回ってきた作品であるが、今回は天音パイセンと永遠の拗れた関係性が激しくぶつかり合い、不本意な別れの後お互いが積み重ねたものを、必死にぶつけ合う熱量が凄かった。
 ”敵”である天音が迷いの中にいて弱いわけではなく、彼女も彼女なり霞ヶ丘の先輩・後輩と築いてきたものが支えとなり、強く立てるようになっている。
 むしろ割り切れない過去に迷った隙を突かれるのは主役サイドの永遠であり、後ろ向きになった気持ちを前に向かせてくれる仲間に励まされ、忘れ物を取りに行くために目の前の相手にぶつかっていく。
 そうやって”敵”とすら心を繋げてくれる柔道の懐を、誰もが青春に必死な群像劇のまばゆさに照らして教えてくれる、熱のあるエピソードとなった。
 何かとビビりな早苗の戸惑いと意地、霞ヶ丘にも強く宿る友情など、横幅広い描写も良かったね。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第4話から引用

 というわけで青葉西高校女子柔道部先鋒、滝川早苗往きますッ! からお話は開始する。
 散々トイレに飛び込むあがり症、周りも自分も見えていない時は眼鏡がオデコにONしてて、未知の一言で自分を取り戻した後はそれが戻るというのは、分かりやすい描写だ。
 後に永遠と天音のエース対決で描かれるように、みっちり鍛え上げた身体と技術に万全な心が乗っかって初めて”柔道”出来るわけで、今自分がどこにいるのか、周りに誰がいるのかを確認できる視力は、とても大事だ。
 今回は(今回も)誰が誰を見ているのか、”眼”の描写が強い作品でもあるので、早苗を主役に演じられる『高校部活によくある風景』は、メインテーマに選んだ競技で何が大事かを、よく切り取ってくれる。

 周りに流されない不動心が常に備わっているのなら、それは既に達人の領域なわけで、早苗は雰囲気に飲まれ、(これまで何度もそうだったように)未知に助けられて勝負の場に戻ってくる。
 前回描かれた『空気を読まず、空気を変える』未知の美質は相手も場所も選ばず、むしろピリついた試合の現場だからこそ、部にとって得難い強さになっていく。
 ここらへんをちゃんと見守ってから、顧問として大人としてメガネを戻した早苗に声をかけ、万全で勝負に挑めるよう声をかける夏目先生は、やっぱ良くできてるなぁ、と思う。

 三人だから、負けても大丈夫。
 そんな言葉をありがたく思いつつも、早苗は泥臭く相手にしがみつき、ポイントを取られてなお勝ちを狙う貪欲さで、一本をもぎ取る。
 未知の野放図な存在感はとても大きく、それを主軸に回っている話であるけども、彼女に惹かれる者たちが”脇役”なのかと言われれば、けしてそうではない。
 ゲロ吐きそうになりながら相手と取っ組み合っているのは他でもない早苗自身であり、自分を支えてくれるものが良く見えるからこそ、一本で勝ちたいと強く願う。
 そういう切実さが誰にでもあって、それでも叶わない現実があって、なおかつ負けてなお立ち上がる強さも、少女たちの中にはある。
 早苗の迷いと奮戦は、そんなお話の芯をよく伝えてくれる。
 つーか未知……その”距離”へ無自覚に侵入できる、お前が怖いよ……。

 

 

画像は”もういっぽん!”第4話から引用

 早苗が一本取るまでの20秒は泥臭くて長く、天才・氷浦永遠は瞬きを許さないほどの速さで勝ちをもぎ取る。
 ある意味残酷な対比であり、永遠が無自覚に振り回してしまう”才”の刃でぶった切られた結果、天音は狭い携帯電話の画面に捉えた女に、一生思いを縛られている。
 そしてその視線は一方通行で、永遠の”今”は情熱赴くままに跳ね回る未知へと向けられ、思いは噛み合わない。


画像は”もういっぽん!”第4話から引用

 っていう地獄の一方通行感情多角形を想起させておいて、『霞ヶ丘にだって”ある”んだぞッ!』と、風通し良くぶち抜いてくるのがこの作品である。
 見よ、亜美先輩の菩薩の笑み。
 見よ、天然ちびっ子へのあま姉ーさんの面倒見。
 ”敵”にも主役と同じ等身大の青春がしっかりあって、何かにとらわれていたとしても共に汗をながす日々の中で強張りは緩んで、自分を支えてくれる大事な人の顔を、ちゃんと見られる時間が蘇っている。
 強い思いが生み出す等別な強さを、ありきたりで大切な尊さを主役の専売特許にせず、『みんなそれぞれ、どデケェ宝物を抱えとるんだッ!!』と描いてくれるのは、贅沢であり誠実でもある。
 そらそーだ、みんな必死に柔道やって生きてんだもんなぁ……書割じゃねーのよ。

 長縄まりあボイスも最高な妹尾後輩、もぐもぐWバナナでマスコットな可愛さをアピールし、青西にはキツい顔ばかり見せる天音の可愛げを引き出し、大変良い仕事をしてました。
 ここで過去に呪われ時間を止めた”思い出の死人”として天音を描くのではなく、永遠と同じく心にわだかまりを抱えつつ、自分なりの逞しさで自分だけの物語を、新しい仲間とちゃんと積み上げてきた一人物として立ててる所が、”人間”に敬意があって良い。
 そうやって横に視野が広がること……広げてくれる存在と出会えたありがたみを噛み締めつつ、だからこそ自分の真ん中を占拠してしまっている誰かとぶつかり、思いをほぐしていける特別な競技。
 描かれる感情と関係が、しっかり畳の上に集約して爆裂するよう話が組まれているのは、スポーツを題材にするお話としていい作りだな、と思う。

 

 

画像は”もういっぽん!”第4話から引用

 かくして迎えた先鋒戦、引き気味に闘いたい早苗の弱気を、とにかく前に出続ける妹尾の勢いが飲み込み、合わせ一本で決着。
 一回戦では諦めずに粘ること、ポイントを取った相手の心の隙間に滑り込むことで一本掴んだ早苗が、ここでは圧力に押されて後ろに下がりたい気持ちを狙われて、敗北を喫することになる。
 心のないロボットが戦っているわけではなく、揺れる思いを抱えて挑めばこそあっけなく負けることも、思いがけず奮戦することもある”柔道”の面白さが、怪力の小兵・妹尾緑子独特の勝ち筋にうまく映える場面だ。
 『とにかく前に出て、あま姉さんに繋げる』という敬慕が、圧倒的な推進力を与えていた。
 慕われてるねぇ天音さん……。

 身体の小ささをハンディとせず、下に入り込んで崩す独自のへスタイルと、それを支える筋力で磨き上げた妹尾の闘い方には、気合いとプライドが宿っていた。
 これを真正面から受け止め飲み込み返すタフさは、今の早苗にはまだない……ということだろう。
 つまりもっと強くなれるということで、こういう”余白”を勝負の只中、さらっと描ける筆は強いなと思う。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第4話から引用

 修羅の形相で打ち込みに励む先輩を、夜がふけるまで見つめた瞬間があった。
 そんな相手だからこそ負けたくないと……あの時ねじ曲がって伝わってしまったものを、組み手で伝え直したいと願って、二人は試合場に向き合う。
 叫ぶように伸びる速くて強い組手争い、並の相手なら即倒されている渾身の投げ。
 第1回戦で永遠の強さをあっさりと描いたからこそ、それに並びせめぎ合う天音の強さ……その裏にある感情の太さも、よく伝わる。

 この闘いは才能に恵まれた両校エースのぶつかり合いでもあって、未知や早苗がなかなか到達できない高みで競り合うと、”柔道”がどういう激しさを宿すかも描いてくれる。
 会心の一撃を狙って激しく動き回り、渾身の技を飲み込んで押し返す。
 その速さと圧力がしっかり作画に宿って、別格の熱量が生まれていたのは大変良かった。

 視線のすれ違い、食い違いをここまで積み重ねていたからこそ、二人の始まりを描く筆……そこで確かに交わっていた思いと瞳には、『おっ!』と思わされる衝撃がある。
 天音も永遠もお互いをしっかり見つめて、支え合って前に進んでいた時間を忘れてはいなくて、しかし気づけばまっすぐ向き合えないネジレに巻き込まれて、ようやくここまでたどり着いた。
 相手を油断なく見据え、本気で仕掛けなければ勝負にならない、青春の試練場。
 ここでなら普段伝えられないものを伝え、見つめられないものを見つめられると信じたからこそ、天音は『てめー中堅で来いよ! 逃げんなよ!』とあらくれたこと言ってたわけで、ぶつかり合う形でしか素直になれない乙女たちに、”柔道”は良い告白場所を提供してくれる。
 二人は恋をするように、お互いの首を狙い合うのだ。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第4話から引用

 そういう土壇場では、心が後ろに下がったほうが死んでいく。
 大好きな先輩との絆を断ち割ってしまった背負に入る時、永遠の心には青い影がよぎって、天音はその一瞬を見逃さない。
 自分なり決着を付ける土台を、霞ヶ丘の仲間と整えたからこそ決着を挑んできた女の前に、陰りはない。
 その強さに飲まれてしまいそうな時、光の方へと向き直るきっかけをくれるのはやはり仲間の頼もしさであり、特に園田未知である。
 やっぱ人間が太ぇなぁ、この主人公……。

 前回車中で南雲と向き合った時は”光”担当だった永遠が、ここでは”影”に入るの面白いな、などと思うが。
 ここで彼女を捉えたのは変えられない過去であり、救ったのは変わっていく今そのものだろう。
 なかなかうまく行かないことも、変わってくれない自分も確かにある中で、それでも動き出して掴んだ新しい可能性が、自分だけの喜びが目の前にはある。
 そんな事実を思い出すことで、永遠の眼を塞いでいた闇は払われて、この勝負で伝え生み出したいものや、それを求める自分自身と向き合う事ができる。
 そういう自我の足場を整えることで、ようやっと目の前の他人と等身大、全力で組み合うことが出来るようになる。
 様々な思いが交錯しつつ、ネットリとしたその湿度を弾き飛ばして身体が躍動するこの勝負は、心と体がどう繋がって少女達を突き動かすのか、その周りをどんな光が生き生きと輝いているかを、丁寧に描いてくれる。

 

 

画像は”もういっぽん!”第4話から引用

 次回決着へと温度を上げていく勝負の中で、投下された思いではあんまりにも火力が高くて、全てを焼け野原に燃やし尽くしていく。
 『柔道着を着ると勇気が出てくる』も『後輩のための大事なパフェ』も、冷たく壊れてしまったかのように思われていた二人の思い出の仲、既に描かれた物語だった。
 それが大事だから手放さず、新たに進みだした場所でもう一度繰り返すその隣に、もう貴方はいない。
 それでも、だからこそ。
 溢れてくる心に潤む瞳は同じで、しかし少女たちは感傷に溺れて戦いを止めはしない。
 柔道家だからだ。

 やっぱねー……終わり果て悲しい結末になってしまったのだと一回受け止めたものを、ひっくり返して氷の奥のマグマが未だ燃えている様子を、敵味方に分かれてなお繋がっていて、断ち切れなくて、しかし結び直せていない未完成の思いをドガンと叩きつけられちゃうと、まーやっぱ染みるわけ。
 かたや引っ込み思案、かたや当たりの強い意固地と、素直な心根がなかなか表に出ない二人だからこそ、大好きな柔道を通じ本気でぶつかり合うことでしか、お互いの”今”を伝えられない。

 そんな拗れた関係性を汗まみれでほどき、もう一度繋げてくれる特別な手助けとして、”柔道”という競技は凄いもんだなと、試合に宿るど濃厚なエモだけでなく、エース同士の激しいぶつかり合いから教えてくれるのは、大変素晴らしい。
 凄く湿って柔らかな感情を抱えつつ、試合自体は鬼の形相汗まみれ、一切緩まずバチバチにぶつかってる所に、彼女たちがどんだけ柔道好きで、相手が大事か見える感じなんだよな。
 試合描写の切れ味を、キャラクターとテーマを鋭く削り出す刃として生かせてる感じがある。

 この筆を引き継いで次回の決着、未知と亜美先輩の大将戦、情念の爆心地から芽生える新たな思い……と、次も間違いなく良いもん描いてくれると思います。
 大変楽しみです。