ヴィンランド・サガ SEASON2 第4話を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
”蛇”の介入によりトルフィンとエイナルは窮地を脱するが、暴かれた過去を前に加害者は悪夢にうなされ、被害者は苦悩に呻く…という回。
ド濃厚な顔面作画が迸り、覆しえぬモノをどうにか噛み砕いて前に進まんとする、男の決意が月夜に冴えた。
働き恋し怒り生きる、エイナルの前向きな姿勢は暗いお話の清涼剤であるが、彼自身この世の地獄を生きている者として、何もかも許し気楽に過ごしているわけではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
仇を前に歯を食いしばり拳を握り、持って行きどころのない感情に焼かれている。
そんな生身の身悶えを、半歩間違えれば…
人間簡単に殺し殺されの血の沼に沈んで、出てくるのは容易ではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
それはトルフィンが一足先に飛び込んでしまった場所であり、奴隷仲間の悪夢を間近に受け取って、その首にかけた手を緩める。
かわりに襟首を掴んで、生きたいと叫ぶ心身の声を、そこまで運命を持ってきてくれた者への思いを代弁する
殺してしまう方があまりに楽な世界で、それでも殺さず隣に立つことを、出口のない苦悩に方を貸すことを選んだ男の、背中はデカい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
そして月光の下、選んだ道が正しいのか悩みながら、いつまでも震えている。
そのあまりに人間的な肖像に、トルフィンの虚無は果たして共鳴するのか。
平和でのどかなこの世の果てで起きた、小さな変化。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
それが未だ悪夢に捉えられ、確かにあったはずの幸福や希望を見据えられなくなっているトルフィンの、運命を拓いていくのか。
未来は叢雲の月のように不確かで、しかし確かに風は吹いている。
とても良い、第二幕第一章の終わりだった。
”蛇”の慧眼はトルフィンの過去を射抜き、その一刀は死人のような男の魂を燃やす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
瞳の中に蘇った、仇であり親代わりでもあった戦士の残影。
アシェラッドの思い出が、灰になったはずのトルフィンを”生存”へと突き動かしていく。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第4話より引用) pic.twitter.com/oagQYeNwBL
キツネの悪ふざけ…で片付けるには、後にエイナルが抗議するように本気で気軽な暴力が満ちすぎていた事件を、”蛇”は圧倒的な暴力と迫力で制圧していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
死を適切にひさぐことで成り立っている商売のアタマに必要な能力を、適切に活用できるからこそ、”客人”の規律はギリギリで保たれている。
死を前提とした暴力的脅迫。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
雷を落とすタイミングと、釘の指し方。
それだけで終わらない凄みを叩きつけられたから、キツネになぶられていた時は反応しなかった身体が、思わず防衛の技を振るう。
血臭とともに身にしみ付き、もはや呪いとなった闘いの術。
思わず反撃が飛び出してきたことに、トルフィン自身が最も驚いている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
自分は、生きたいと願っているのか。
本来自明なはずの答えすら、今のトルフィンの瞳には良く見えない。
それが考え抜いた末の絶望というよりは、自己防衛のための停滞に近いことが、今回描かれても行く。
今回のエピソードは、いつにもまして人体のパーツを細やかに切り取っていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
生存への力と意志も、復讐に滾り怒りに食いしばられた口も、統一された一つの身体ではなく、統合を喪った、空回りする個別の器官としての色合いが濃い。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第4話より引用) pic.twitter.com/7TEqn5ZQhG
そういう非人間的な(だからこそ、矛盾に分断され妄執に苦しむ、あまりに人間的な)カットを繋ぐように、やや引いたカメラで人間と人間の現状を…そこに反射する未来の予感を照らす画角も強い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
人に優しくされた時、どうすればいいのか。
学べず解らなかった元少年兵に、エイナルがかける言葉。
暖かな手触りのあるやり取りに重なるように、顰め面をした子ハリネズミを導く、親ハリネズミのペーソスが描かれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
傷に薬を付け、服を与えられ、理不尽から守られる。
そういう恩を受けたら、人は礼を言うものだ。
エイナルの隣に立つ青年は、そんな当たり前から遠い場所に浸りすぎた。
傷を癒やすよりも広い場所へと進む事を選んだトルフィンに、仕方ねぇなぁと追いついていくエイナルを描く時にも、画面はバラバラに分断された人体のパーツではなく、世界と一つの人間が、人間と人間がひとまとまり、ある種の統合を保って進んでいける今(つまりは未来)を切り取る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
殺戮の罪と痛みを、生き延びてしまった現状と繋げられずうなされるトルフィンにしても。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
満たされていたはずの過去を焼き尽くされ、自分の生死を自由にできない奴隷に貶されたエイナルにしても。
彼らの過去と現在、そして未来は不確かなまま浮遊し、何をするべきか明瞭には見えていない。
バラバラだ
生きていて何も良いことなどなかったと呟き、それでも生きてしまっていて、生きようとする身体。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
何もかもを奪った過去に復讐するように、素っ首へ伸ばしかけた手を離し、血を吐くように人の生き方を問う心持ち。
若者たちは時間的にも心理的にもバラバラな自分と、自分たちを持て余したまま、夜を征く
しかしそれがいつか…”二人でいること”を核に統合され、揺るがぬ己と己達を生み出して、広い世界へと漕ぎ出していく予感もまた、画面の中に濃く満ちているように思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
グロテスクに強調されるパーツの不安さを、受け止めるように切り取られる、やや遠目のアングル。
それは彼らの現状で、未来なのだ。
それは統合の可能性だけを語るわけではなく、訥々と告げられる殺戮の過去を受けて、二人の間は引き裂かれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
苦役を共にしても埋まらない、戦士と農夫、加害者と被害者の溝。
強者が弱者を殺す以外の、ルールが見つからない死の国。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第4話より引用) pic.twitter.com/FfQKK4Y29X
過去に思いを馳せる時、トルフィンは枯れ果てた森にいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
それは彼の現在を包囲している生きた樹、これから切り倒され死んでいく(その事で、別の意味では生かされ直す)樹とは、違った色合いだ。
過去と現在、心と体が統合され、生きている実感に満ちた緑の森は、トルフィンを包まない。
”蛇”がその剣気で、エイナルが血の滲む吠え声で、それぞれ指摘してした今を生きてしまっている、樹を切るトルフィン。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
その現実から乖離した、記憶の中の白い死の森こそが彼の牢獄であり、そこから出る術を現状、戦士は知らないことが見えてくる。
だからこそ、悪夢にもうなされる。
差し出された言葉と過去の重さを、エイナルは噛み砕ききれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
今目の前にいるぼんやりした男と、幸福な過去を奪い去った”ヴァイキング”を重ね合わせ、トルフィンという名前を与える余裕は、エイナルにもないのだ。
バラバラな二人を包む森に、斧の音がただ木霊する。
炎の記憶に苛まれ、眠れぬ夜にむくりと起き上がって、憎悪のままにトルフィンの首を絞める時、エイナルはその総体を描かれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
眼、歯、掌。
どれも獰猛な殺気と獣のような凶悪に満ちて、剽軽なアンちゃんの色はない。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第4話より引用) pic.twitter.com/m8Mc5WxsjS
それがバラバラの部品だから、人間としての真実は宿らない…ということでは、けしてないと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
家族を殺され、故郷を焼かれ、自分が自分であると信じられるなにもかもを引き裂かれたのならば、凡庸で平和な男もバラバラに砕かれて、その一つ一つが鬼になる。
獣になる。
人間をそういう風に、統一性のない遊離した存在に変えてしまう大きな波に、飲まれてトルフィンは”ヴァイキング”になった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
数えられぬほど殺し、エイナルの家族と同じ無辜の民を踏みつけにして、復讐を望んで果たせなかった。
そうやってなにもかもを奪い、奪われてなお、生きてしまっている虚無。
エイナルもまた、そういう場所に己を投げ込みかねない危うさに生々しく震えているからこそ、分割され怪物化した身体のパーツを、個別に描かれるのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
悪夢にうなされるトルフィンを闇討ちにしかけるエイナルは、第1期でトルフィンが辿った道を突き進むか否か、大変危うい崖の上に立っている。
しかしそうして鬼の瞳で睨む男の、夢の中には地獄が眠る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
虫を踏み潰し、炎の中で殺し、殺し、殺し…果たして、出口なし。
そんな苦悩を間近に感じて、エイナルは人間の顔を取り戻し、首にかけた手を緩める。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第4話より引用) pic.twitter.com/kaf6QHY969
殺す相手の目を見てしまえば、もう殺せない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
仇と自分に分割されていたエイナルの認識は、目の前にいる男が己と同じく苦しんでいるという共感を架け橋にして、確かに何かに統一された。
オレとコイツは、殺したものと殺されたものは、確かに同じところがあって、でも同じじゃない。
そんな認識のバランスをすんでのところで取り戻すことで、エイナルは修羅に落ちかけた自分を崖っぷちから取り戻す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
そうすることで、エイナルは意思なきパーツの集合体から、統一された意思と意義を持つ総体へと、自分を再獲得していく。
それは過去と確かにつながる、今の自分を取り戻すことでもある
あまりに悲しいことがあり、どうにも戻らない理不尽に復讐するべく、八つ当たりのように隣人の首を絞める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
そういう道からエイナルを引き戻したのは、砕かれ踏みにじられてなお彼の心に残っている、家族と故郷の記憶でもあろう。
それは、それだけは、地獄の中でも消えはしない。
あるいは他でもない俺が消さないのだと、この運命の夜に決断を果たしたからこそ、エイナルの家族が確かに幸福に過ごせていた時間は、死と理不尽に飲まれてなお、永遠であることが可能なのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
それは優しさというにはあまりに険しく、辛い輝きだ。
トルフィンもまた、燃え盛る悪夢の中でバラバラに引き裂かれつつ、殺す相手の目を見た瞬間を思い出し、目を覚ます。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
何かを求め空をかく手に、呻く叫ぶ喉笛に、確かに宿る後悔と罪。
その重たさを、エイナルは背中で感じる。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第4話より引用) pic.twitter.com/1NPsRazmmZ
ここでトルフィンの苦悩にまっすぐ向き合う強さと正しさが、青年エイナルに(まだ)ないのは正直な描写だと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
煮えたぎる心は簡単に、現状を飲ませてはくれない。
殺す側なのだと理解った同僚を、理不尽に恨む自分が確かにいる。
しかし、それが自分の全てでもない。
(自分と同じく)苦しんでいるコイツに、なにかを差し出してやりたいと、当たり前に考える自分も今、ここにいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
様々な感情とパーツに分断された自分の、一体何が本当なのか。
悪夢にうなされ叫ぶ側も、それを絞め殺そうとして止めた側も、答えなんてわかりゃしない。
それでもなお、炎の中で泣きじゃくる子どものまま、澄んだ瞳で見上げてくる男の魂をひっつかんで、顔を上げさせたい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
そんな思いに突き動かされるから、エイナルは真夜中に吠える。
生きるに足りる何かが、確かにあったはずなのだ、と。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第4話より引用) pic.twitter.com/Tx1Mfza3ol
憎悪を締め上げる事を止めたエイナルの手は、しかしトルフィンの生身を掴みはしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
恩讐を彼方に置き去りに、生きている奇跡をまっすぐに抱きしめられるような聖人ではない、ただの農夫が出来るのは、襟首つかんで支え支え、思ったことを不器用に叩きつけることだけだ。
オレの中で、こんなどん詰りに追い込まれてなお、目の前で殺されてなお、家族の記憶は輝いている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
お前もそうじゃないのか、と。
身勝手な共感が境目を超えて、過去と現在を、被害者と加害者を結び合わせていく。
少なくともその可能性が、強く握りしめられた拳には宿っている。
過剰に自己を分解する意識は、同時に過剰に何かを結びあわせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
戦士憎さに全てを忘れかけて、自分に言い聞かせるように『お前が殺したわけじゃねぇ』と叫ぶエイナルの背中は、やはり不確かに強く揺れ続けている。
そう思いこんで突き進んでも、何も戻らず何も報われない。
理性と情感がそう囁いてなお、エイナルの一番ドス黒い部分が復讐をささやく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
それでも。
彼は首を絞めるより悪夢から覚ます方に、自分の手のひらを使うことにした。
何かが確かにあるはずだと信じる己の意思に、己の肉体と行動を統一することを選んだのだ。
そこには、魂の血が強く飛沫ている。
虚しさに横たわり目を閉じようとした時、初めて届く『ありがとう』の声。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
悪夢から目覚め、新しい場所へ進んでいくのは一人きりではないのだろう。
牛馬のように藁の中横たわる瞳には、人でしかありえない輝きが確かに蘇りつつある。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第4話より引用) pic.twitter.com/giOgyYNGfu
瞳に輝きを取り戻したのは救ったエイナルだけでなく、救われたトルフィンもまた、悪夢に引き裂かれる日々の終わりを確かにこの夜、果たしつつある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
誰かに、ありがとうと伝えられる自分を取り戻すこと。
それは何も良いことなかったはずの、苦難に満ちたここまでの歩みを、新しく/懐かしく照らす。
傷つけて苦しむものと、奪われてのたうつものの間に不可思議な共鳴があるからこそ、暴力に暴力で答える道を自分の手のひらで塞いだ夜の後に、小さな灯火も灯る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
お互いの魂が交錯する前は無明の闇に横たわっていた二人を、照らす月光。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第4話より引用) pic.twitter.com/f7aKVP3944
それは月下の覇者にも確かに伸びていて、トルフィンが無価値な泥濘に己を投げ込まざるを得なかったあの激動を経て、クヌートはいかなる王へと育ったのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
次回も、物語のうねりは止まることを知らない。
奴隷の身分に落ちて、エイナルとの暮らしを静かに、確かに照らしたかそけき光。
運命に引きちぎられた己を決意とともに繋ぎ直し、人間として統一された形を決死に掴み取り直す営みこそが、魂の傷を癒やすのだとしたら、あの時”王”として完成された少年を照らす栄光は、むしろ冷たい苛烈に満ちているのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
だが敗残の奴隷にこそ誉れあれとは、とても言えない。
自分の生死すら自由には出来ない、社会最底辺の奴隷の惨めさと、運命に押し流されたどり着いた岸辺に響く苦鳴。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
人間存在を複雑に引き裂き、統合を失わせる荒波のなかで、なお自分と同じく引き裂かれた魂の喉笛を絞めるのではなく、共に立ち上がることにその手を使った男の決断は、何処へ続くか。
物語は続く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年2月2日
極めて苛烈な現実を、目を背けることなく描き切るカメラが、無明の闇に確かに男二人、同じ光の中に見を横たえる姿を描いたことに、微かな希望を託しつつ、次回を見る。
エイナルが苦悩の中果たし、トルフィンが目を開けた薄明こそが、人を人たらしめる導きなのだと、僕もまた信じたい。