イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

TRIGUN STAMPEDE:第6話『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ホープランド』感想

 約束の地へ向かう砂漠の弾丸特急は、思い出経由地獄行き。
 ヴァッシュだけに辛い思いはさせねぇぜ! 俺たち全員祝福の子! ロクでもねぇクズに子供時代を剥奪された、血みどろの超人兵士さッ!! という、異様な勢いで手を変え品を変え陰鬱ショタをいびり倒すアニメの第6話である。

 いやー……モネヴの改変でかなり驚いていたのに、それがウルフウッドの悲惨さを増すための助走だったたぁ、全く見抜けなかった。
 致死性のクソ薬物で強制的に大人にされた少年兵だと考えると、彼の擦り切れた現実主義は熟考の果てに選び取られた人生哲学というより、そうならざるを得なかった鮮血の迂回路であり、モネヴへの一撃は同病相憐れむ慈悲の弾丸になってくる。
 くわえタバコも煤けたニーちゃんの魅力を引き立てるアクセサリというより、過酷な星の極悪教団に振り回された人生を、微かに紛らわすために胸に流し込んでいる背伸びの産物で、ラズロの殺戮兵器っぷりと合わせてあんまりにも悲惨である。
 腐れ人体実験野郎なのに善人ぶって『命を粗末にするな!』とかほざくドクターも、イカレきって人間の情をぶっ潰しに来るキモい青髪野郎も、ナイヴズに連なる連中の人非人っぷりが一気に加速し、『逃げるのも理解るけどよ……オメーが潰してくれねぇと、オメーと同じように可哀想な子どもが、延々量産されちまうからがんばれよ!』という気持ちが俄然強くなってしまった。
 主役がやるしかねぇ当事者性が強くなるのは良いことだが、砂漠の星で必死こいて生きてたガキどもを薪にして勢い付けるのマジやめてよ~……。

 

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第6話から引用

 というわけで冒頭、青い砂漠に裏切り者を撃ち抜く処刑人は、月夜に長い十字架を背負う。
 最初見た時は『ウッヒョ~かっこい~、煤けたアウトローの悲哀~』って感じだったけども、設定暴かれた今となっちゃぁ、ただただ悲惨で重たい場面になってしまった。
 もともとなりたくて成り果てた殺し屋稼業ではないが、孤児院の家族を自分と同じ怪物にしないためには教団の意向に従うしかなく、育った外見に似合わぬ幼い心は、殺して殺して殺し続ける日々の中、砂より乾いて細かく砕けてしまったのだろう。
 殺すことでしか救いは買えず、殺してやることでしか救いを与えられない。
 ヴァッシュのか弱き博愛主義を非難する口の奥には、運命の奴隷として血の沼に沈むしかない無力感と、それでも渇ききれない情が隠されているわけだ。
 ウルフウッドは教団の被害者なのに、同じ立場の反逆者、脱落者、負け犬に善人をぶっ殺すしか道がなく、おまけに今回はどうやっても守りたかった弟が刺客に差し向けられた。
 『俺たちは、ヴァッシュ・ザ・スタンピードをイビるためにSTAMPEDEを引き起こしてるんじゃねぇ……全人類平等にいびり倒すんだよぉ!!』という、新アニメに賭けるスタッフの意気込みが分厚い。

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第6話から引用

 様々な階級の人間を乗せ、砂漠を駆け抜ける超巨大弾丸特急の生活をOrange作画で楽しみたかった気持ちもあるが、それより先に銃を構えた過去がウルフウッドに追いついてくる。
 前回ラストで引き裂かれた二人の心はまだくっつかないままで、ヴァッシュの口から飛び出すのはあくまで非難の言葉。
 卓越した身体能力も刺客を無力化するには足りず、屍兵に改造されたリヴィオ銃口を跳ね除けるだけの力はない。
 やっぱSTAMPEDEのヴァッシュは長年生きてる割に未熟で無力で、子供っぽさを遺した存在として描かれている気がする。

 その弱々しいあがきは、ヴァッシュの夢を縦断飛び交う現実から糾弾していたかにm,いえたウルフウッドにも、実は共通している。
 大事なもののために何もかもを犠牲にできる”覚悟”ってのを、持ってるはずの兄ちゃんが見せた表情は、不意を打たれてあまりに幼い。
 ヴァッシュはナイヴズによる宇宙船団墜落事件で、ウルフウッドはプラント教団による”祝福”で、それぞれ強制的に幼年期を終わらせられて荒野に放り出され、誰にも抱きしめられないまま、身の丈だけが伸びていった。
 ここまでヴァッシュが見せた情けなさと同じものが、乾いた殺戮主義を選び取るだけの経験があったように錯覚させられていた、ただ酷い目にあい続けてるクソガキから漏れてくる回だ。
 ……ネタが解ってみると、ぶっ殺されかかってなおモネヴに手を差し伸べ、その魂に語りかけようとあがいたヴァッシュの方が、厳しすぎる現実の圧力に押し流されて弾丸を選んだウルフウッドよりも、ちょっとだけ大人に見えてくるから不思議だわね……。

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第6話から引用

 そしてスペシャルな2D作画で唐突に叩きつけられる、原作読者も知らねぇニコ兄の思い出~~。
 ウルフウッドの設定改変はSTAMPEDE全体のテーマ性を定める、相当デカいネタだと思うので、ここでリヴィオとの過去、大人びた彼がその実マジでただのガキでしかない事実を強く冴えた表現で叩きつけてくるのは、とても良いと思う。
 マージでふたりとも大変可愛らしく、このクソみたいな星で親もなく、それでも必死に生きようとする”人間”代表って顔してて、そうは生きられないノーマンズランドの厳しさを、ハードコアに引き立ててもくれる。

 砂虫の足を吹かして大人気取りして、天使様の鐘が僕たちを見守ってくれると安らかに眠る。
 そんな眩しい時間が全部、悪魔が用意した残酷な脚本の1ページでしかない所含めて、”大事な思い出”は大変良かったです。
 天使教団がどういう成り立ちでどういう組織か見えきらないけど、こういう恵まねぇ……だからこそ必死なガキをかっさらって実験動物に仕上げて、ヴァッシュを追い込む駒に利用してる悪辣さは、新たな物語の悪役に相応しい最低っぷりよなぁ……。

 

 

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第6話から引用

 かくして幼い夢は終わり、ニコラス少年は一気に大人になりました。
 すんなやマジでッッッ!!!
 思い出を鮮やかに彩った2D表現の特別さがさかしまに、ウルフウッドの心と体をズタズタに引き裂いた”特別な才能”の過酷さを表す筆に生きるのは、大変良い演出でしたホント……。
 自分を怪物にするアンプルを噛み砕き、あの屋上で演じた”大人ごっこ”に夢を繋いで檻の出口に飛び込むけど、レガートの異能に身体を折りたたまれて地獄に逆戻りするのも、STAMPEDEがウルフウッドをどういう存在として書きたいか、よーく伝わった。
 マジで情けも容赦もねぇ……貴重な実験体を簡単に壊されたくないだけのドクターが、ある程度マシに見えるくらいの最悪っぷりだ。

 新生レガートは大変にキモく、内山くんの酷薄な演技が最悪にムカついてたまらねぇ。
 後にサンドスチームのメインシャフトをへし折る規格外の異能を、ウルフウッドに異様なフォムを取らせる強制力として見せてくるのは、『あ……俺もこのキッショイ青髪嫌いだな……』と思えて、大変いい感じだ。
 情愛や優しさに価値を見出せないその生き方はウルフウッドと真逆で、ナイヴズがヴァッシュの影であるように、STAMPEDEのレガートはウルフウッドとの対比で今後描かれてくんだろうなー、という印象だ。
 マージでゴミカスクズ人間の吹き溜まりすぎて凄いよ、プラント教団上層部……散々悪事働いて主役を試した後、ぜってぇぶっ潰れてくれ。
 俺は救いという黄金で飾り立てたゴミの城が、世界で一番キライなんだ……。

 

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第6話から引用

 罪深き怪物に堕ちてでも守りたかった家族は、自分と同じ鉄砲玉に仕立てられ、あまりに過酷過ぎる現実が、子供でいられなかった子供を追い回す。
 リヴィオ自身は表情の変わらない屍兵なんだけども、彼と対峙することで大人として覚悟決まってるように見えてたウルフウッドが仮面の奥、どんな顔をしてたかが浮かび上がってくる。
 彼は(モネヴと同じく)ヴァッシュが一番助けたかったタイプの人間で、だからこそ多分ナイヴズとその一派がヴァッシュを追い込む弾丸として選んだ、哀れな犠牲だ。
 自分が化け物に改造されても終わらない、むしろそこからこそ続いた厳しすぎる現実の中で、信じきれず諦めた希望。
 煤けるしかなかった日々の中でも、唯一守りたかったもの。
 お人好しな生き方は何度言葉と銃弾でその生き方を否定されても、そういうものにこそ手を差し伸べたい。
 しかし信じて裏切られすぎたウルフウッドの純朴は、綺麗ごとばっかほざくムカつくターゲットを、どうしても信じきれない。
 頑なに優しさを跳ね除けることでしか、十字架を背負うことでしか立ち続けられない迷い子に、ヴァッシュは思いを伝えられるのか。

 ここが次回以降、相当デカい山場になってきそうだ。
 こういう形でヴァッシュとウルフウッドの繋がりを、STAMPEDEらしい仕上げ方で作り直してくるのは、俺結構好きな筆だな。
 原作ではよもやま旅を続ける中でジワジワ積み上がってきたものが、そんな余裕がない切迫感の中、受難者の共鳴で一気に叩き上げられてくる感じがある。
 それは長期連載作品から1クールのアニメシリーズへ、表現の舞台が変わったのなら絶対必要な挑戦だろうし、そうやって描き直されてる”トライガン”を見届けたい気持ちは、今回グッと強くなった。

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第6話から引用

 魔人の見えざる手が進路を書き換え、バド・ラド団が車体に牙を突き立てる。
 そーいや第3話の酒場に、賞金首の手配書張られてたわなぁダイナマイト・ネオン!
 悪意の蜘蛛の巣に捉えられた少年兵たちは、絡みつく糸を断ち切って自分たちの未来を掴めるのか。
 あまりにも険しすぎる問題集は、悩む時間もなく難問を叩きつけてくる。

 つーかクズ共が余計なちょっかい出さなければ、ガキどもがガキでいられる時間もそれなりに確保されて、擦り切れ流され諦めた果てに『殺すしか無いよね、そういうもんだよね』みてーな答えを出さなくても済むんだよっ!
 レガートがサディスティックにウルフウッドを嬲る手付きは、プラント船墜落以来ナイヴズが、この星の文明とそこに寄り添ってきた”人間”ヴァッシュに、投げかけてるのと同じ色なんだろうなぁ……。
 エレンディラにザジと、敵にも子供の外見したのが多いのがまーロクでもないよ本当に。

 

 というわけでSTAMPEDEがぶん回す陰鬱さがヴァッシュだけを的にしていない、たいへん公平な地獄であることが分かった折り返しの第6話でした。
 一見正しくも思えたウルフウッドの現実主義が、クズに追い込まれた結果ガキがガキじゃいられなくなった諦めなのだと解った以上、ヴァッシュはまずそこに言葉と手を伸ばし、掴み取らなきゃいけない。
 逃げ回り、暴虐をはねのけようとしてなし得ず、されるがままの弱き不死者。
 その思いが何かを成しうるのならば、まずは無理してタバコにむせてる黒衣の葬儀屋を、正しく救って欲しい。
 そう思っております。

 プラント教団がなんもかんんも最悪なラスボス組織だと見えてきたことで、奴らが軽薄に振り回す”救い”にカウンター当てる仕事が、主人公に回っても来てるからな。
 怪物的な力を使わなくても、弱っちい人間の側に立ち続けたからこそ生み出せる微かな希望を、かわいそうなニコラスに今度こそ届けてあげて欲しい。
 そう思っております。
 痛快SF西部劇とは全く違った味付けに仕上がってきましたが、コレはコレで楽しいSTAMPEDE。
 次回も大変楽しみです。