イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第8話『あなたを見つめつづければ』感想

 失われた愛が狂気に変わり、乙女の職人根性が戦火に燃える砂糖菓子妖精譚、海辺の城の物語も遂にフィナーレ!
 一切手加減なしのロマンスが全力で暴れまくる、大満足の第二章最終回となりました。
 自分が何を失い何を求めているかすらわからない、でもそのためには命も国も亡くして構わないという、公爵の歪な狂気を正すのではなく、むしろその狂熱に不思議な使命感を抱いて向き合う主人公。
 一見プレーンなヒロイン像に見えて、アンちゃんがかなーり凸凹した造形している事実を確認できる回ともなりました。
 結構砂糖菓子グルイだよなこの子……そこが良い。
 そんなアンちゃんに純愛爆裂、戻ってきた黒髪の美丈夫が乱発するTOKIMEKIモーションにオレの心も沸騰寸前だッ!
 恋に仕事に狂気にロクでもない背景世界、このお話の美味しいところをたっぷり飲み干せるエピソードで、非常に良かったです。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第8話より引用

 というわけで公爵の狂気に全霊で付き合う覚悟を固めたアンちゃんは、銀砂糖細工のモチーフとなる妖精……彼を愛した男の内面へと深く分け入っていく。
 ジョナスの心を折った時は鞘に入っていた刃は、核心に踏み込まれたことで自己防衛的に抜剣され、公爵と妖精のナイーブな関係性を証明していく。
 ここでビビるショボ蔵だったらとっとと”仕事”諦めてるわけで、アンちゃんは死よりも生を覚悟して、自分が作るべき愛と美の精髄へ力強く踏み込んでいく。
 海のお城で繰り広げられた物語を通じて、自分に出来ること、やるべきことへの確信と執着が主人公に生まれ、ただ健気で可憐なだけのヒロインから、一皮向けていく気持ちよさがあるよね。

 同じく妖精を愛した共感こそがアンちゃんを、公爵の特別な職人へと変えていくわけだが、ヒューはその位置を占めれない。
 今回話の焦点はアンちゃん-シャル/公爵-クリスティーナという、生と死、現在と過去に分断されつつ繋がった人間と妖精のカップルにあるわけだが、そこに隣接しつつも問題解決の当事者性を得られないヒューの存在には、不思議な熱量がある。
 可能ならば自分の砂糖菓子で死の運命を覆し、あるいは友人の狂気を慰め未来へ目を向けさせたかったのだろうが、現・銀砂糖子爵の腕前はそんな理想へ届かない。
 主人公として選ばれた才能と心意気だけを持った小娘こそが、地位も技量もあるヒューが望んで手に入らないモノを形にしていく。
 ここのすれ違いには、ロマンスの甘さとはまた違った切ない苦味があって、エピソードに良い奥行きを与えていたと思う。

 健気なミスリルが間を取り持つことで、シャルも愛の真実に気づいて自分がいるべき場所へと戻っていく。
 ここらへんはジョナスを便利な当て馬にして、一時的な離別(があるからこそ、燃え上がる恋)を作ったなぁ……という感じもあるが、生死の際に隔たれてしまった公爵の狂気にアンちゃんが共鳴するためには、シャルとひと時離れる必要があったのかな、とも思う。
 あと一旦シャルが自由な立場になることで、ヒューから裏事情を聞き出しやすいポジションになれたしね。
 領地に降り注ぐ雪は水の妖精が冷たく凍りついた姿にも思え、公爵の心が失われた真実にたどり着かない限り、けして止むことはないのだろう。
 アンちゃんは愛する人の面影を死に沈んだ男から聞き出し、死化粧のように妖精の唇に紅を乗せていく。
 今回の砂糖細工には、死ねば亡骸もなく、葬儀を執り行うことも許されない妖精を再度埋葬するために、エンバーミングを施しているような匂いもある。
 グリーフケアにまつわるお話だったわけね……。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第8話より引用

 アンちゃんとシャルは公爵の前で濃厚な公然イチャイチャも出来るが、目の前で愛に去られた公爵には、自分の正気すら抱きとめることが出来ない。
 主役たちに与えられた幸福な幸運が、簡単にかき消えてしまう淡雪と同じであると示す意味でも、クリスティーナを再生させる”仕事”は大事な意味を持っている。
 王権教化のために屈従を強いられ、それでも示した恭順は常に踏みにじられ、公爵の心に溜まった闇を共有してくれるのは、生まれついての被差別民である美しい妖精だった。
 ただ美しいから愛したのではなく、理不尽への怒りや黒く燃える憎悪も含めて自分を預けられる特別な存在が消え、公爵の瞳は光を失い、公務への情熱も生存の意志も枯れる。
 残るはただ一つ、不確かな面影を求める危うい狂熱のみ。
 ……ダウニング伯のやりくち、王党派極右が行き過ぎて逆に不和を生んでいる気もするが、このくらい苛烈じゃないとこの世界の宰相って務まらないんだろうな、という感じもある。
 相当治安悪いからな、このお話……。

 そういうデカい話は横に置いて、アンちゃんはひたすら”仕事”に打ち込む。
 砂糖細工をどう作るか、その工程が毎回丁寧に積み重なるのはこのアニメの良いところだが、熱々の飴を細やかな細工に仕上げるべく、氷で手を冷やして仕事に挑む描写は、パティシエの過酷さを上手く切り取っていた。
 こういう厳しい工程を経て、依頼主であり患者であり同志でもある公爵の思いを全身で受け止めながら、アンちゃんはクリスティーナのライフマスクを形にしていく。
 そこに宿った美こそが、自分自身何を求めていたのか解らぬまま、危うく彷徨っていた一人の男を現世に留め、ずっと流し得なかった涙を絞らせる。

 ずっと見つめ続けていれば、奇跡は起こるかもしれない。
 アンちゃんは現実主義なシャルが否定した公爵の夢想を、全霊で寿ぐ。
 それは永遠の停滞、思い出への耽溺を引き起こすとても危うい態度だと思うが、それでも彼女は正しさより美しさを、正気よりも愛を肯定する。
 そういう心根の持ち主じゃないと、300からの騎兵が周囲を取り囲む中”仕事”に勤しんだり、踏みにじるのが当たり前な妖精と食卓をともにし、あるいは本気の恋に魂を焼いたりはしないのだろう。
 死んだ妖精のことなどとっとと忘れて、月に一度のへつらいに勤しんで領地と命を守る。
 それがマトモな領主が選ぶべき道だったのだろうけど、公爵はそれを選べなかった。
 正しくなかろうが狂っていようが、そうは出来ない……つまりは別の道へ進まざるをえない猛烈な熱をこそ、アンちゃんは自分に引き寄せて肯定する。
 ここらへんが、ヒューが踏み込めなかった領域なのかなと思ったりもする。

 愛ゆえに狂わざるを得ない柔らかな心を認め、秘められた真実に迫る。
 アンちゃんが今回果たした”仕事”は狂って力強いのと同じくらい、雪の中誰も顧みなかった優しさに手を差し伸べていて、そこが好きだ。
 公爵は露骨に狂っていたわけだが、しかしその奥には誰かを愛し失った哀しさが横たわっていて、それは王権を逆手に握って叩き潰すよりも、自分なり出来る手段を選び取って寄り添うべきものだろう。
 アンちゃんだけが公爵が本当に欲しかったもの、大事にして欲しかったものを見据えて形にし、光を失った瞳に涙を取り戻させる。
 クリスティーナの生を形にすることで、公爵に愛の喪失を受け入れさせ、辛すぎる現実の中でそれでも生きる強さを回復させていく。
 そういう、人間に出来る一番気高いことを主役がやってのけたこと、その助けとなる魔法を銀砂糖細工が宿していたことが、僕はとても良いなと思う。

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第8話より引用

 両腕を胸の前に備える乙女ポーズで階段を駆け下り、シャルの胸の中に強く抱かれるアンちゃん。
 こういうあざとさを真っ直ぐためらわないところが、まーこのアニメの好きな所である。
 一度別れを経験し、生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされた結果、シャルのスレた態度がいい塩梅に引っ剥がされて、愛の戦士たる本分がむき出しになってきた。
 大変良い。
 アンちゃんも照れを乗り越えて自分のLOVEを抱擁に託す感じになってきて、甘酸っぱいロマンスも職人根性と一緒に、修羅場で鍛えられてる感じだ。

 公爵もシャルも、今回の”仕事”を通じてアン・ハルフォードの名前を呼ぶ。
 他の誰でもない己の証を、誰かに認めてもらうこと。
 アイデンティティ確立の喜び、その証明としての名前はかなり大事にされている印象で、いつか恋と運命の大勝負で、これを失う物語がやってくるんだろうなぁ……とは思う。
 銀砂糖職人としての名声、特別な誰かの胸の中呼ばれる甘い名。
 それが失われもう一度見つけられる物語が、アンちゃんとシャルを待っている予兆は、愛する人の姿と名前を見失い、アンちゃんの”仕事”を通じて取り戻してもらった公爵の物語が、彼らの未来と重なっていることからも推察できよう。
 まーアニメでやるかは知らんけども、物語の内的要請としてはそういう話をいつかやるセッティングだよね。

 灯明を捧げ、花を飾る。
 喪の儀礼は洋の東西を問わず共通の部分があって、銀砂糖細工は枯れない花として、祈りを込めて掲げられている。
 妖精の寿命を伸ばす妙薬という、メインモチーフの新たな顔も見えた今回、ただただ綺麗で美味しそうなだけでは終わらない、銀砂糖細工の精神的側面が最後に際立つお話だった。

 公爵がアンちゃん謹製の”クリスティーナの面影”で魂を現世に繋いだように、リズへの愛に呪われているシャルもまた、銀砂糖職人の指先が生み出す魔法に過去を解き放たれ、未来を見つめられるようになるのか。
 甘いお菓子は、死という絶対の離別すら乗り越えられる奇跡を宿しているのか。
 大きな”仕事”を終えて、物語はまだ続く。
 海辺の城のお話を通じて、職人としての意地、人間としての歪で強烈な熱量を示したアンちゃんがどんだけデカく羽ばたいていくか。
 次回も大変楽しみです。