イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

もういっぽん!:第8話『夢の続き』感想

 一度は夢破れた最終兵器を加え、六人で挑む金鷲旗初戦……もういっぽん! アニメ第8話である。
 遠く福岡まで足を運んだ浮かれムードから始まり、友に汗を流した仲間と特別な時間を過ごす嬉しさ、はつらつと弾む楽しさを積み上げて、段々と空気が研ぎ澄まされていく。
 新たな出会いもありつつ、最高に気持ちいい『もういっぽん!』に主人公が向き合うまでを、非情に丁寧に描いたエピソードだった。
 こういう作りで1話使う所に、スポ根的勝負論よりも”部活”であることを大事に話を進めている、このお話独特の空気感が滲んでいたと思う。
 ぼくはその、少女たちが”今”柔道をやっている気配を味わうのがとても好きでこのアニメ見ているので、今回大変良かったです。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第8話から引用

 というわけで異郷福岡、観光にラーメンにはしゃぎまくるおバカ女子の浮かれっぷりから、物語はスタート。
 未知は相変わらず常識ぶっ壊れた浮かれポンチであり、どんなときでも明るく元気に前向きに! という”らしさ”が大変元気でいい。
 南雲も待ちに待った幼なじみとの零距離時間を堪能……すると思いきや、一緒に勝ち負けを背負う立場に離れない寂しさに、思わず眉毛が八の字になる。
 喜びも寂しさも、細やかに切り取る感情の解像度こそがこのお話の強み……と思ってたら、夏目先生も昔の女にめちゃくちゃ湿度と重力ある視線を投げ込んできて、大変ビビる。
 『え、そこも!?』と思っていたら、姫野先輩語る過去に湿り気を増やされた南雲が即座に幼なじみに身体接触カマしてきて、とにもかくにも凄かった。
 そこで零よりも零な領域へ突っ込んでいく理由あんま無いんだろ……と思うけども、大事な幼なじみとの大事な時間、怪我程度で棒に振ったら最悪だもんね……。
 自分の安心を手のひらから奪取する意味も込めて、とりあえず未知を触りに行く南雲のフィジカル、ほんま凄いと思います。強すぎる……。

 冒頭の浮かれポンチ感から、今は”大人”やってるヒトにも確かにあった幼く危うく輝いていた時代を彫り込み、それを守るために気を張ってるありがたさ、見守られている側の湿った距離感まで踏み込んでいくのが、メリハリ効いてて良かった。
 底抜けおバカに浮かれられるのも、その楽しい日々が壊れないよう親友マッサージしながら祈るのも、今隣りにいる誰かが心底大事だからで。
 色んな現れ方をする不定形の青春、その諸相を一個一個削り出してちゃんと書くスタイルは、かけがえないその時間に”柔道”がどんな助けを手渡しているか、メインテーマの価値を高める意味でも靭やかだ。
 笑ったと思えば陰り、厳しい姿勢の奥にある祈りを感じて心を動かす。
 一瞬も立ち止まっていない少女たちの魂が、福岡をキャンバスにどう震えているかいきいき見せてくれて、大変嬉しい。

 

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第8話から引用

 開会式から第一回戦へ、式次第は順調に進んでいき、未知の”柔道”もどんどん前へ転がる。
 柔よく剛を制し、デカい相手をぶん投げる柔道始原の楽しさ。
 それを規格外の人格エンジンに突っ込んで、初対面の”敵”とすらすぐさま仲良くなって、既に闘いを果たした相手とは健闘を誓いあえる。
 選手宣誓で語られていた『自他共栄』の理念を、けして優等生とはいえない未知がしっかり体現しているところが、このお話の魅力であり強みでもあろう。
 旅館の浮かれた空気が一個ずつ引っ剥がされていって、近づいてくる勝負の瞬間に向けてちょっとずつ引き締まってくる(つまりは、試合が始まるまではまだ緩い)感じも、生っぽくて良い。

 お風呂シーンの裸身がむっちゃヌボっとしてて、『あー、10代女子が楽しく風呂入ってるだけだな!』っていう風通しがあるの、俺は好きだ。
 肩関節に入るピンクが容赦なく幼さを刻みつつ、今は恋より部活と友情。
 そういう時間に身を浸してる女の子たちが、ごくごく自然の営みとして一緒にお湯を使っている。
 そういう気配が体の描き方にあって、凄く良いなと思う。
 あんま誰かが貼っつけた性欲ドリヴンではなく、あくまでそれぞれの青春を主機にブン回ってる作りが、不要に媚びてなくて心地よい。

 

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第8話から引用

 対峙する中で、渾身の力を込めて相手の袖を掴み襟を持たれる中で、語らずとも確かに伝わるもの。
 今目の前にいる相手は絶対に勝ちたい敵であり、大事なものが同じな仲間であり、こうして本気で勝ち負けを決めるからこそ、友達になれる知らない人だ。
 緩めの観光気分から始まり、段々と譲れないもの、勝ちたい理由を思い出して、会場の空気に引き締められていく表情。
 一話の中で未知の態度がどう変わっていくかを焦点にし、底抜けの『楽しい!』とともにある『勝ちたい!』の意味を掘り下げていくこの語り口は、凄く良いなと思った。
 題目をセリフで語られるよりも、未知の姿勢が試合が近づくにつれ自然と伸びて、視野が広がり色んなものが見える様子で、伝えなければいけないもの。
 真剣だからこそ楽しくて、大好きだからこそ本気で、そうやって真っ直ぐ突き進んでいく先にこそ、掴める勝利と敗北。
 そういうものが描かれていた。

 話が盛り上がる勝負の現場にいきなり入っても良いんだけども、そこに続く寄り道……に見える場所にこそ、なんで勝負をしなきゃいけないのか、なんで勝ちたいと思うのか、答えが転がっているから丁寧に拾う。
 そういう焦らない筆こそがこのお話の魅力だと思っていて、異郷で早速友だちになった相手と組み合う中、未知が見せる真剣な表情、技の冴えが、その行き着く先をしっかり描いてくれた。
 青西にも博多南にも、試合上の外で声を出してくれる仲間がいるのだと、今取っ組み合ってる二人の支えを書いてるところが、優しくて強くて好きだ。

 そういう場所に身を置くからこそ、頑張れる事がある。
 そういう場所で続けるからこそ、積み上がるものがある。
 一度は諦めかけたそれぞれの道に、皆で手をつないで踏み出したからこそ立っている”今”が、どんな軌跡を描くか。
 青葉西高校の金鷲旗は、その意味を際立たせる最高のキャンバスになってくれそうです。
 次回も楽しみですね。