イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

大雪海のカイナ:第8話『漂流』感想

 勇気と出会いが道を開く、奇妙な世界のジュブナイル、さらばバルギアさぁ漂流だ! という第8話である。
 ”漂流”という字面が持つハードコア・サバイバルな質感はあんまなくて、これまでの旅路を振り返りつつ三人が仲良く過ごし、いつもよりラブコメ味とエッチ風味がやや濃い、ちょっと落ち着けるエピソードでした。
 バルギア最下層の実情を見たことで、戦争以外の結末を子どもたちが求める理由も強くなったし、天膜由来の優しい知恵がどんな未来を切り開くか、カイナくんと姫様の暖かなロマンスはどこに転がっていくのか……今後が更に楽しみになった。

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第8話から引用

 つーわけでハリボテ要塞から希望を託されて、ボロ船が大雪海に漕ぎ出していく。
 盗賊団の健気さが良く描けてて、『この子らと水をたらふく飲める新天地で再開する結末、ぜってぇ見てぇ……』ってなったの、中盤の追加燃料としてメッチャ良かったと思う。
 死ぬのを引き伸ばしているだけの日々でも、今じゃないいつか、ここじゃないどこかを夢見てしまう人間のサガは、どこにいても同じだ。
 リリハだってそれに突き動かされて天を目指し、カイナくんも視界の先にそれを探して大雪海を見ていた。
 遠い場所にもそういう繋がりを持てる人間がいて、一緒に進めることを確かめるべく、このお話は旅を多く書いているのかもしれない。
 自分の足で行き、己の目で見なければ確かめられないものを沢山抱えて進んでいく冒険で、自分たちが何を得たのか。
 戦争のさなかに子どもたちが語る口ぶりは幼く自慢げで、儚く優しい。

 ヤオナが何かと姉に触りたがるのが、メッチャチャーミングで良かった。
 それはリリハとカイナくんの秘密のふれあいとは、また違った関係と意味を持つのだけども、愛しさと暖かさは共通している。
 大事だから共にふれあい、温めたいと何かを託す。
 そう思える相手がバルギアにもいて、髑髏の誓いと希望の船を受け取れたのは、とても大事なことだったと思う。
 暗い海のなか、冷たい雪が舞い降りて不安だけども、主人公の旅路を照らす視線には不思議な暖かさと明るさがあって、ガキの甘っちょろい夢を大事にしようという、作品の眼差しを感じる。

 国家間情勢も世界規模の資源枯渇も、甘い理想をはねのけるように厳しい現状だが、冷たい雪海にも身を寄せ合って、お互いを大事にできる子どもたちがいる。
 そんなガキ共の小さな願いが、大きな未来を切り開いたっていいじゃないか。
 人間が人間でいられないほど追い詰められ、喜びに満ちているはずの生が死を待つ延長戦にしかならないような厳しさに、ちっぽけな出会いと冒険が意味を持ったっていいじゃないか。
 そういうひどく古臭く、いつだって大事な物語をしっかり進めてくれているのが、僕には大変ありがたい。
 雪の海の語らいで、自分たちがどんな冒険を果たし何を受け取ったか、自慢し合う微笑ましさと、そうやって宝物を確かめて明日へ進んでいこうとする逞しさ。
 両方あるのは、いいアニメだと思う。

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第8話から引用

 かくして雪晴れて故郷、アトランドに還り来る英雄たち。
 国民のリアクションが軒並み『バルギアを倒す』に繋がってるあたり、戦争前提な大雪海の厳しさが垣間見えたりもするが、兎にも角にも命はつながった。
 国が見えた時のリリハの無邪気な笑顔も、オリノガ隊長の無骨すぎる感謝も、この作品らしい可愛げが濃く煮出されていて、大変良い。
 感激が過ぎて怒っているような顔になってしまうの、あんまりに”善”でありがたい……。

 再開の奇跡は横に置いて、アトランドはリアル・ポリティクスの真只中にあり、希望の大軌道樹はほら話……良くて矛先をそらすブラフ程度にしか扱われない。
 冷たい現実を動かす”証拠”ってのを次なる目標に定めるための話運びではあるが、バルギアに住む人と直接言葉をかわし、未来を約束したリリハにとっては、良き為政者になるための大事なテストでもある。
 願いだけでは理不尽は乗り越えられないが、現実に膝を曲げた解決策は生きる意味を人から奪う。
 骸骨めいたハンダーギルから漂う疲れ果てた空気と、真逆なリリハの活力。
 それが父王の頑ななリアリズムを切り崩さなければ、子どもたちが冒険から受け取り、その先に夢見る幸せは遠いのだ。

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第8話から引用

 というわけでまずはサウナだ! 全てはそれからだ!!(俺は”ミチコとハッチン”第12話『泥煉獄108℃のテレパシー 』がいつでも大好きです)
 急にお姉さんが二人も出てきて『なんだなんだ、俺のカイナくんが強制的に大人の階段登らされるのか許さんぞッ!(ガタッ)』となった後に、国一番のマッサージおじさん登場で一回”ハズシ”いれて、緩んだ腹筋に本命のリリハ叩き込んでポロリでフィニッシュしてくる組み立て、ラブコメ力が高くて大変良かった。
 今回は天膜での出会いからここまでを振り返る、総集編的な味わいもあったので、主役とヒロインがどんな思いを互いに抱いているのか、若き心身が何を自然と求めているか、その先に何があるべきか、コミカルながらちゃんと書いているのはいいことだ。
 こんな終わりきった世界にも確かに、恋と性の朗らかな芽生えがあって、着実に育っていると確認すると、なんだかめちゃくちゃホッコリする。
 清潔にパッケージされたラブコメというより、手びねりで人間がぶつかり合う手応えを拾い上げてる感じがあって、このお話のロマンスの描き方はやっぱ好きだな。
 ”虹”とかな……。

 久々の二人きり、リリハはカイナにしか伝えられない思いを率直に預け、カイナも二人の夢のために何が出来るか、自分の手札を必死に探る。
 ここで儀礼化しつつも古代の知恵を伝える”看板読み”が、大局を子どもが揺るがす武器として生きてくるのは良い。
 天膜の素朴で素敵な暮らしが、世界を動かし約束を果たす助けになる方が、なんもかんも諦めて戦争に突入していくより断然ハッピーだもんな。

 太古の海図を手に希望の旅に踏み出そうとする若人と、避けられない死をあざ笑う老人が対峙する、遙かなる大雪海。
 未来は一体どっちに進んでいくのか、故国に戻ってひろがる新章、大変楽しみです。