ヴィンランド・サガ SEASON2を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
打った拳に打ち返されて、落ちた悪夢は血塗れの過去。
どこにも敵はないと告げる父から離れ、永遠の闘争を繰り返す修羅界へ投げた身が、崖っぷちに揺れる。
顔なき犠牲の流す涙を、背負って登れと仇が告げる。
泥まみれの誓いを友と分け合い、今新たに光の方へ…
そんな感じの少年兵士血塗れの新生(ボーン・アゲイン)、ヴィンサガSEASON2第9話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
憤怒のままに振るった拳はトルフィンの魂を揺らし、幽冥にさまよう魂は去っていった男たちと出会い直す。
既に出されていたはずの答え、踏みにじって溺れかけた血の池、しがみつく人倫の崖。
ある種の臨死体験を経て己の罪と未来を見つめ直し、空っぽの器に新たな誓いを宿して、トルフィンはエイナルとともに進み出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
顔も覚えていない誰かの人生を、何も知らぬまま奪ってしまった罪の贖いは、果たして叶うのか。
長く苦しい道になることは、トルフィン自身が一番知っているだろう。
それでもあの血の池から出てしまった自分は、二人の”父”が道半ばたどり着けなかった真の戦士となって、後悔と罪を背負って光の方へと、己を這い上がらせて行くしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
遙かなるヴィンランドへと続く決意が、闇夜の星のように燦然と輝くエピソードである。
この誓いを剣に、トルフィンは時代と闘う。
生きていて何も良いことなかったと、絶望と虚無に沈み込んでいた奴隷が、己の人生を買い直す一歩目が、力強く踏み出されるエピソードだった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
主役の後悔と決意を色濃く描く仕上がりもいいが、どっしり時間を使って、土に汚れる生活の息吹、戦場を離れて宿る人の業を削り出した手付きが生きる回だ。
エイナルの肩を借りて、荒らされた畑にもう一度鍬を振るう新たな船出の意味を問うには、血みどろの地獄から抜け落ちてたどり着いた場所の手触り、そこで癒やされ許され、そうされてはいけないのだと悩む表情の一つ一つが、全部必要だったように思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
復讐が消え魂が砕けたように思えても、体は生きる
汗水垂らして労働に勤しみ、その成果にやりがいを感じてしまう、あまりに当たり前の心も、そんな肉の器に蘇ってくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
火花散る戦場を離れても人間の世界には嫌なこと、ままならないことが満ちていて、それでも人体は息をしてしまう。
そんな現実を、どう生きるか。
そしてトルフィンは誓いを立てた。
人命も尊厳もあまりに軽い1000年前、彼が目指す場所はあまりに遠く、道程は険しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
しかし生きる難しさと喜びを、細胞の一つ一つで受け止め、間違えきった過去と向き合って出された答えには、錬鉄の靭やかさがある。
血と汗と涙で綴られた、生きて死ぬ実感のある燃え盛る理念。
一足先にあの雪原で、クヌートが豁然と悟り覇道を選んだのとは、また違った闘い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
主人公と物語がはるかなるヴィンランドへと進み出すに相応しい、重たく苦しく嘘のない夢と、夢の先に続いていく未来のお話でした。
ここに至るまで九話、開墾奴隷ライフ書き続ける構成は凄いよね…”正解”だ。
今回のお話は夢(過去、あるいは死)に迷い現実に戻ってくるお話で、気絶したトルフィンを包む世界の鮮烈な色合いと、現実の煤けた色彩が幾度も重なって描かれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
仇を奪われ心を砕かれ、生きるこの身は空虚に墜ちた。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第9話より引用) pic.twitter.com/s840xFU7HZ
バラバラに引き裂かれたトルフィンという存在が、その原点に戻ることで統一性を取り戻し、進むべき道を定めるエピソードと言える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
罪悪感と空虚に引き裂かれた自分を再生するためには、自分を構成する過去の全てと、もう一度向き合わなければいけない。
殺され殺し返しの”ヴァイキング”、思い出を構成するのは悲しみと後悔、戦と死ばかりである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
その重荷を背負いきれないからこそ、物語が始まったばかりのトルフィンは自分には何もないと、荷物を捨て去り無縁の自己認識で、心を守っていたのかもしれない。
何もないと思えば、傷つき苛まれることもない
しかしトルフィンはたしかに生きてしまっているのであり、”蛇”が突き付けた刃、エイナルと共に流す汗が、そんな自分を教える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
どれだけ自分は空っぽだと思い込もうとしても、世界も他人も身体も、今生きてしまっている自分の輪郭を容赦なく縁取ってくる。
身体があるからぶん殴られて気絶もするし、拳で相手の顎も砕く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
血と光に鮮烈な心の領域に比べ、いかにもしょぼくれた冬の気配に包まれていても、まだ死んでないトルフィンの居場所は、苦しいことばかりの現実である。
夢と現し世の重ね合わせは、そんな身体性を強調する。
遙かなるヴィンランドを思わせる心地よい夢は、死せる父との対面で虚しく陰り、もはや無辜なる幼子ではないトルフィンは亡者に足を引かれて、奈落に落ちていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
光は気高く強く正しいまま死んだトールズだけを照らし、現世に迷う男には届かない
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第9話より引用) pic.twitter.com/BmPJxpZD9u
夢なのだから、都合よく無邪気でいられた幼年期を続ければ良いものの、現実の続きである心の領域は、そんな甘い幻を許さない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
眼の前で矢衾に倒れた父も、殺し殺され奴隷に成り果てた今の自分も、戦の犠牲が伸ばす手を躱す手段はない。
死の無明は、長く長く尾を引くのだ。
ここら辺は壮絶な運命にもみくちゃにされ、戦場の血潮で魂を洗ったトルフィンが、どれだけ重たく殺し殺される意味合いを受け止めているかを、語る描画でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
誰もが死からは逃れられず、絶対的な終わりを越えて輝くものは、どこにもないのだと思い詰める。
同時に答えは既に示されてもいて、剣に剣を最後まで返さず生き抜いた偉大なる父は、トルフィンがこれから落ちていく奈落から遠い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
そんなトールズも、戦鬼としてたっぷり殺した果てにこの光に身を置いているのであって、トルフィンは親父が進んだ道を自分の足で歩き直す、真っ最中である。
ヴァルハラはいかさま鮮烈に赤く、ローマ式の柱に腰掛ける仇は、そここそが現世なのだとうそぶく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
出口のない殺し合い、全てが敵の修羅界。
そういう場所に身を置いた事実は、トルフィンからけして消えない。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第9話より引用) pic.twitter.com/ZPPuvXUzTe
トールズが”正解”を告げる光の父だとするなら、灰被りのハゲは”過ち”を教える闇の父なのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
トルフィンが悪夢に苦しみつつ、その正体と向き合えなかったモノ。
それを突き付け、対峙させる厳しい役目は、生きていた時と同じだ。
さすが先代主人公、久々の登場も存在感デケーな…。
いかにも”ヴァイキング”的だったビョルンの狂奔を見つめる時、アシェラッドの眼には口ぶりほどに軽蔑が宿っていない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
殺し奪い嘲る、同じく”ヴァイキング”を生きた…ように見えて、誰よりもその生き様を軽蔑し、抜け出し得なかった男。
その嘘に憧れ、死地まで共に走った男。
終わりのない奈落に落ち果ててなお、アシェラッドの皮肉な態度は変わらず、シニカルな知性で自分たちが行き着いた場所を、”ヴァイキング”の誉れたるヴァルハラの亡者を見下ろしている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
石柱は終わりのない狂奔からアシェラッドを遠ざけるが、すでに死んでいる彼は崖の上に戻れない。
苦しくとも崖にしがみつき、少しでも高い場所へ這いずっていく特権は生者にしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
人間の証たる瞳を奪われ、個体を識別する術を失った亡者は、同じ地獄にトルフィンを引きずり込むのではなく、ただただ苦しみからの救いを求めていた。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第9話より引用) pic.twitter.com/1mKJVF02Wq
殺戮と絶望、未来と希望の間に苦しくぶら下がる自分と、亡者が流す涙は同じなのだと、トルフィンは亡者の顔を間近に見て、罪を吐き出す中で思い知る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
その重たい認識に引きちぎられず、光のある方へと進めと、アシェラッドは柱から下りて叫ぶ。
わざわざ、血の修羅界へと身を投げて。
殺し殺され、イカれた戯け者として自分の物語を終わり果てたアシェラッドは、トルフィンと同じ場所へはいけない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
しかし現世を共に進むエイナルが『よく分かんねぇ』ものを、同じく戦士だったアシェラッドは嫌というほど良くわかる。
それは自分が生み出し、押し付け、踏みにじり、託したものだ。
仇の言葉に背中を押されて、トルフィンは灰色の現世に戻ってくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
血に汚れ、実りの秋の予感はもはや遠い場所に去って、良いことなんて何もない場所。
それでも隣りにいる誰かが、魂の奥からあふれるものに肩を貸す場所。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第9話より引用) pic.twitter.com/G8FsFN3euF
繰り返す日常の中では無自覚に、滴る雫が代わりに流していた涙を、悪夢から這い上がったトルフィンはようやく流す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
自分は悔いていたのだと、傷ついていたのだと、涙を流せる自分を蘇らせていく。
その再生を、誰が支えるのか。
エイナルの瞳の色は、何より雄弁である。https://t.co/Aim5kS0Xcb
泣けぬほどに心を枯らすことで、己の罪と哀しさから身を守っていた青年が、ようやく泣ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
それは新たな産声であり、共に労務に励みながら心を蘇らせてくれた、ヒゲモジャの産婆役がいてくれたからこそ、その涙も拭える。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第9話より引用) pic.twitter.com/8LPf0hEKQ8
未だ怒りに任せて振るわれる傷だらけの拳を、地を耕すために使う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
武器を捨ててなお真実戦士である道へと、身体を泥に汚して進み出ればこそ、罪と後悔を引きずってなお未来へと踏み出す誓いは、果たされていくだろう。
”父”達が抜け出したいと願い、叶わなかった旅路の果て。
ようやく過去に対峙した…対峙できるようになったトルフィンは、瞳に強い光を宿して”そこ”を見据える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
おそらくは、後にヴィンランドと名付けられる場所を。
死をひさぎ、暴力を商う安易で苦痛に満ちた袋小路を越えた先にある、人類未踏のフロンティアを。
非暴力と平等に今回トルフィンが誓いを立てたのは、暴力と圧政の果てにこそ楽土があるのだと突き進む、クヌートとの対比を鮮明にする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
現実主義を徹底することで理想へ到達せんとする王者と、理想で現実を突き破ることで未来を掴もうとする奴隷。
一度は離れた二人の道を、引き寄せる運命の引力。
その手触りもジワリと熱くなってきた所で、トルフィンとエイナルは再び鍬を握り、黎明の紫に高く掲げる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
修羅界の赤とも、救済の光とも違う、曖昧で美しい色合いは、運命に傷つき流されてきた青年新たな船出に相応しい、特別な光を宿している。
ここから進み出た先に、また無数の困難と喜びが待つのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
自分が背負うべきもの、拳に宿るものを思い出し、立てた誓いを杖として、トルフィンは進んでいく。
その歩みに、どん底を共に進んだ兄弟がよりそう頼もしさも、強く刻み込むエピソードだった。
大変良かったです。
次回も楽しみ!
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年3月7日
己の罪を問う復讐者に見えて、救済を求める哀れな被害者だった亡者にすがられるトルフィンが、磔刑に処される贖い主に見えるのは、狙って描いた構図なんだろうなぁ…。
ヴィンランド入植の始末を年表から拾うと、なおさらだな。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第9話より引用) pic.twitter.com/KIai5xFQyv