イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

NieR:Automata Ver1.1a:第6話『[L]one wolf』感想

 魂なき鋼鉄の心に、積み重なるたった1つの記憶。
 その軋みだけが少女を戦士にするのならば、歩みの果てに待つものとは……。
 夢を見ないアンドロイドが、終わりなき戦いに揺らいだ切なき白昼夢を描く、ニーアアニメ第6話である。
 アンドロイドの長、リリィがかつて闘った激戦の記憶を、あの時共に居た家族と同じ顔の他人に語っていく。
 シームレスに現在と過去が重なり、アンドロイドもヨルハも共に笑い死んでいった記憶が、終わりの見えない荒野の花のように、確かに咲いている。
 それは実を結ばぬ徒花か、未来に託された種子か。
 ここでリリィが2Bに今の自分を確かに支える記憶を伝えたことが、どんな意味を持ちうるのか。
 この段階でも激戦の絵の具でもって、アンドロイド達の壮絶な魂を素描しているが、今後さらに謎が暴かれ、記憶が積み重なり、物語が刻まれる中意味が大きくなりそうなエピソードだった。

 

 

画像は”NieR:Automata Ver1.1a”第6話より引用

 いつ終わるとも知らない荒野を歩く、エピソードとエピソードの間。
 レジスタンスとヨルハ部隊の連携を問う9Sの声に、震えるリリィの瞳を2Bは確かに”視て”いて、機械の心臓に無遠慮に滑り込む言葉を押しのけるように、歴戦の勇士を庇う。
 禁止されている感情は確かにアンドロイドに存在してしまって、家族を思えばこそ銃を取り、希望を抱けばこそ終わりのない闘いに疎む。
 それが地球と月、レジスタンスとヨルハで分断されていないことをリリィは思い知っていて、2Bが自分に向けてくれた小さな優しさに答えるように、アンドロイドを悩ませる夢について語っていく。

 過去と現在は重なり合いながら、ほぼタメなしで切り替わる。
 その素早さが、リリィの語る思い出(あるいは悪夢)が遠い場所にあるのではなく、家族を守りながら新たなヨルハと向き合っている”今”と繋がっていることを教える。
 都市の廃墟と薄暗い森を同ポジで見せる画作りからも、リリィがかつて自分たちと共にあり、死んでいった家族を現実に重ねて進んでいること、そこに2Bもいることを語っている。
 機械の塊にも、時は流れていく。
 誰かの背中に隠れ、役立たずな自分に怯えながら小さな銃を握っていた少女も、痛みを背負って大人になっていく。

 何も守れないちっぽけな暴力を、誰に向かって撃ち放つのか。
 あるいは誰かを守れる大きな銃を、去っていく思い出から受け取って強くなっていくのか。
 リリィが語り刻んでいく旅路の行方は、眼帯の奥に心を封じた2Bの物語を、深く照らす鏡なのだろう。
 相似は合同を意味せず、ヒトの形をしていることがヒトであることを保証しなくとも、何かがわたしと似ているあなたに、心は近づいていってしまう。
 それは至近距離で震える思い出の中、奇妙に人間臭い気遣いを見せる”ニ号”と同じ顔の2Bに、思い出を語るリリィだけの感傷ではない……と思いたい。
 2B(が背負う、謎めいて無慈悲な月面)が何考えて何隠しているか、リリィが率直に過去と気持ちを伝えるこのエピソードで秘匿されてるのが、お話に奥行きを作っていていい感じだ。

 

 

画像は”NieR:Automata Ver1.1a”第6話より引用

 2Bと同じ顔の女は死に至る病に陥ったリリィと、残酷な終わりを否応なく受け入れ続けてきた彼女の家族に、新たな道を切り開く。
 2Bが機械生命体を斬り殺すために使っている刃を、ニ号は誰かを守るために使い、レジスタンスもヨルハ部隊もその後に続いて、水に濡れることもいとわず役立たずを救う。
 魂も感情も夢も許されなくても、確かに私たちは家族で、それでも終わりのない闘いの中で色んなモノを諦めていく。
 それに抗いうる光と熱が、確かに何かをひっくり返し未来へ繋ぎうるのだと、リリィ救出のための奮戦は良く語っている。
 ここでニ号が諦めなかったことで、後に散っていく者たちの意思は少女に受け継がれ、記憶は途絶えない。
 ……リリィが過去と重なる現在において散ったとしても、今回語った物語は継がれて消え去らないという構図が、そういうエピソードに覆い焼きされているのエグいなぁ。

 論理ウイルスにより、精鋭部隊すらぶん投げる異様な力を発揮するリリィ。
 その瞳が戦いに狂った機械生命体と同じ色に染まっているのは、彼女を狂わすものが”敵”由来だからか、今時に戦い時に対話する相手と同じもので、アンドロイドが構成されているからか。
 アンドロイドと機械生命体を繋ぐ/切り分ける線は思ったよりも太く思われて、人間を模造する機械同士、殺戮を定められた道具同士、歪な鏡合わせを感じる。
 前回戦いをやめた機械生命体が”mave[R]ick”と綴られ、同じく”はぐれもの”を意味する”[L]one wolf ”が副題になった今回、アンドロイド達が戦いに散りながら、魂の火花を散らしていく物語が展開されるのも、なかなか読ませる構図である。
 定められたプログラムだけを真実と、道から外れず進める群れから迷い出す、個別の魂。
 それを隣に立つ誰かに認めて、特別な繋がりを家族と定める行動も、両者に共通している。
 それを愛と言うべきなのか、バグと言うべきなのか、物語はまだ答えを出さない。

 

 

 

画像は”NieR:Automata Ver1.1a”第6話より引用


 命の捨てどころを地上で生まれた新たな家族の隣と定めて、瞳を覆い隠す忠誠の証を引っ剥がし、自分の目で、自分の血で、最後の一歩を踏み出していくヨルハ達。
 ”Lone Wolf”の血を目覚めさせた彼女たちの犠牲で、月から見捨てられた戦士たちは自分だけの物語を、確かに形にしていく。
 永遠に繰り返す戦いの中で、確かにそこにあった絆と思いを残酷に噛み砕きながら、戦争という機械は果てもなく動き続ける。
 リリィが泣き崩れるように悪夢としか言いようがないが、しかしそこで散っていく命と繋いだ記憶は、幻のように覚めるものではない。

 そのために作られたモノが、戦いの中で散っていく……それだけのこと。
 そう自分の命も他人の魂も割り切れるのなら、決戦に挑む戦士たちは盲目のまま死んでいっただろう。
 自分だけが今、隣りにいる誰かと繋いだ心を確かめて終わっていきたいから。
 自分たちが生きたことを、悪夢だとは思いたくないから、ヨルハの戦士たちはその証を外した。
 精鋭独立部隊として、レジスタンスとは遠い存在に思えたヨルハが月から見捨てられた事が、真実彼女たちが”家族”になるための通過儀礼になるのは、あんまりにも悲しすぎる。
 だーかーら、この時間軸でオペレーターがベールを付けてない理由も教えてくれって言ってんのッ!(唐突な意味深描写へのキレ)
 月面連中の見ざる言わざる聞かざる描写、絶対エグい意味あるよなー……。

 

 

画像は”NieR:Automata Ver1.1a”第6話より引用

 不確かな記憶の中で、生き延びるべきものと散りゆくものが引き裂かれ、少女が少女ではいられなくなった瞬間が描かれる。
 護られるべき役立たずの象徴で、自分を撃って悪夢を終わらせようとしたリリィに伸ばされた手は、残酷な檻を超えて届き、未来へと送り出していく。
 リーダーが託した大きな銃、かつて狂った自分を”始末”しようとして二号に阻まれた銃は、家族のために最後まで戦える強さと、悪い夢の先にあるはずの希望を諦めない心を、確かに継ぐ。
 ここで戦士に生まれたときから押し付けられていた殺しの道具が、それ以上の意味を強く宿して現代へと受け継がれていくのは、Lone Wolfのお話だなー、と思う。
 たとえ血みどろの指が死にゆく運命に爪痕を残せなくても、虚しく何もかもが滑り落ちても、確かにそこにあった記憶と、受け継がれていく物語。
 すれ違う掌は、そんな甘やかな慰みを生きて死んでいく鋼鉄のリアリズムが簡単には肯定してくれないことを、うまく可視化する。
 どれだけ拒んでも、永遠の戦場は戦争の機械を使い捨てにしていく。
 敵も、味方も、微塵に砕け何も残らない。

 

 

 

画像は”NieR:Automata Ver1.1a”第6話より引用

 それでも、残るものは確かにあるのだと信じてリリィは狼の眼光で未来を睨むし、2Bもその心情に寄り添う言葉を紡ぐ。
 夢を許されず魂もないアンドロイドが、それでも心に刻む記憶。
 デフラグされてなお断片化され、その割れて砕けた刃が思い出に赤い血を滲ませる、自分だけの物語。
 そこに2Bが価値を見出していると、しっかり言葉にしてくれたのは嬉しい。
 俺はこのアニメ、2Bが想像を遥かに超えた熱血野郎なところが好きなんだよな……涼しい顔の奥で、めっちゃギラギラ煮立ってるでしょ。

 微笑みながら2Bの人間性にリリィが投げた問いかけが、答えられぬまま9Sの帰還で遮られ、代わりに問われる夢。
 あの時失われたはずの仲間が……家族が生き残って、いまだ闘っているという希望。
 差し込む光をリリィは”夢”と呼ぶが、アンドロイドは夢を見ない。
 2Bと同じ顔をして、積み重なった記憶と傷跡の分だけ髪を伸ばした女は、どんな物語を背負っているのか。
 第1話の炸裂と第2話の静謐が語るように、ヨルハ部隊の精神はサーバーにバックアップされ、終わることのない戦いへと再び投入されていく。
 死すら終わりではなく、終わりたいなら群れを逸れるしか、見捨てられるしかない……のか?
 戦いは終わらず、お話は続く。

 

 そんな感じの、孤狼となって未だ家族を忘れない者たちの長い夢でした。
 銃を手放さず新たに与えられることで、戦士として独り立ちしたアンドロイドの物語に”一匹狼”と名付け、武器を手放すことで新たな道を手に入れた機械生命体の副題に”烙印を押されていない仔牛”を選ぶ。
 リリィとパスカル、肉食獣と草食動物、武器と平和。
 それぞれ単独で受け止めても力のある物語でしたが、前回と合わせ響き合うことでより深い意味を持つ回だったと思います。
 終わりのない撤退戦の先にある未来を夢見、醒めない悪夢に家族を喰われてなお、積み重なる記憶。
 ヒトを模して戦争を続ける機械達が、残骸の果てに見つけるモノは。
 次回も大変楽しみです。