イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

もういっぽん!:第9話『柔よく剛を制す』感想

 あの日見た夢の先へ、未知の快進撃を描くもういっぽん! アニメ第9話……と思いつつ、お話の焦点は勝ってる主役ではなく負けていくライバルにこそある回。
 金鷲旗の会場に集った誰もが自分だけのドラマを持ち、負けてなお『続けて良かった……』と思える一瞬を噛み締めながら、仲間とともに柔道を続けていく。
 このお話が横幅広く捉えている”部活”の顔が、博多南を鏡にすごく分かりやすく描かれていて、大変良かった。
 これまでの練習を糧に主役が無双する話なんだから、そっちの手応えにもっとフォーカスしても良さそうなところだが、勝ち進む爽快感は大事にしつつも負けていくものの物語を忘れない。
 つくづく、柔道に青春をぶつける全ての人を大事にしたお話である。

 

 

画像は”もういっぽん!”第9話から引用

 というわけで、小兵の強みとライバルから学んだ技を生かして強敵を打破し、勢いに飲み込む形で二人抜き。
 デカい相手をぶん投げ、勝つととにかく気持ちいい。
 前回夢に見た未知の原点を、福岡の畳の上で炸裂させるような勝ちっぷりである。
 奮戦する緑子の背中を見て、合同練習の成果を同時に発揮する背負の冴えは、敵味方の垣根をひょいと乗り越えて己を高めていく、未知の柔道が良く滲んでいて良い。

 サブタイトルにもなっている”柔よく剛を制す”を、第1試合で体現してしまった未知。
 それは彼女だけのモットーではなく、柔道精神の根本とも言える金言だ。
 敵手と相対して飲み込まれず、自分の強さを活かす。
 積み上げた練習がそんな高みへ未知を(ノリにノッた一瞬だけでも)押し上げていくが、対する博多南の梅原は、名門復活に吹き上がるオジサンの野太い声に耳をふさぐ。
 選手を置いてけぼりに外野だけ盛り上がっちゃうヤバい感じ……とはまた違って、現役で青春ぶつけてる子達のドラマと、かつて同じ舞台で頑張ってきた(からこそ、周りが見えないくらいにアガっちゃう)オジサンたちのドラマが、上手くコミュニケーションできていない感じ。
 一見寡黙な野木坂ちゃんが、『これは私達の試合だ!』と釘を差して、大事な友だちの大勝負に専念させてあげる姿は、激しくも優しい。

画像は”もういっぽん!”第9話から引用

 先鋒戦では体格的な意味で成し遂げられた未知の”柔よく剛を制す”は、この第三試合では梅原がここまで歩いてきた柔道人生を振り返りつつ、連勝の勢いをどう捌いてこちらの勝ちに繋げるか、自分の柔道に意味を見出すか……という色を帯びてくる。
 道場に揮毫された理想を自分ではなく敵が体現してしまう状況は本来悔しく寂しいもののはずだが、色んな女の視線を引き寄せてきた未知の魅力は福岡でも健在で、全身弾むように”柔道”する姿が、爽やかな心意気を梅原に手渡していく。
 渾身の内股すかしに勝ちの影が見えて、意気込んだところを綺麗に切り替えされて、結果は三人抜き。
 しかしOBとしっかりコミュニケーションして寝技の外し方を教えられ、必死に追いすがった歩みは負けの悔しさと同時に、それに縛られず明日に踏み出せる軽やかさを与えていく。
 それは今まで自分がやってきた歩みがけして無駄ではなかったのだと思える、仲間と一緒に進む道だ。

 そんな博多南の一回戦と、勝ってはしゃぐ今までのスタイルではなく、ずっと追い求めていた爽快な勝ち筋をチームの勝利に繋げられて、しみじみと泣く未知の今は、確かに重なっている。
 『諦めよう』と瞳を伏せた所から始まったこのアニメ、過剰な湿度と重力を抱えた道着女にもみくちゃにされつつ、ゼーハー汗流してたどり着いたこの金鷲旗。
 求めてきた”勝ち”の味はやはり別格で、しかしそれは『勝ちが勝ちである』という空疎なトートロジーではなく、一個一個の技、それを形にしてくれる体、それらを作り出した鍛錬と友情が、みっしり詰まった実感だ。
 勝利の喜びにも、哀しみと感慨の敗北にも、ともに寄り添ってくれる誰かがいてくれること。
 そういう中身のみっしり詰まった勝ち負けを、互いに生み出せる相手と柔道をすること。
 お話が追いかけているものを、凄くクリアにあぶり出す回だったと思う。

 

 

 

画像は”もういっぽん!”第9話から引用

 かくして一回戦を終えて、好敵手達がむっちゃイチャイチャするッ!!!
 アツい試合が終わった後も練習と交流は続いて、それこそが強さの源泉になったりするわけだが、激戦を通じて生まれた絆のアフターフォローが濃いのは、このアニメの凄く良いところだと思う。
 湿った熱視線を投げかける重たい女ばっかり横に備えているせいか、塩対応の緑子に未知がかなり熱を上げて追いかけ回している様子が、とびきりチャーミングでいい。
 体格やスタイルが近いからか、部の外だと一番いい刺激受けてる相手だしな……。

 あとあんだけ重たく凝った関係性でお互いを縛っていた天音先輩と永遠後輩が、むっちゃ肩の力が抜けそこに”敬”が詰まった間合いでもって、たこ焼き食べて駄弁ってるのすごく良かった。
 一つのドラマが終わって、新しい自分の物語を進んでいるからこそ、より良い間柄で向き合い直し、お互いを追いかけて先にも進める。
 思いの全部を畳の上、本気でぶつけ合ったからこその変化が二人から、健全に香っていてめっちゃ良い。
 結晶まで快進撃を続けて再戦を叶えても、それはならずにまだまだ物語が続いていっても、どっちも彼女たちの”柔道”だな、という納得と期待感があるのは、このアニメが勝負論だけに拘らず描いてきたものの意味を証明する。

 同時に勝負にこだわればこそ見えてくるものもあり、というか二人を新たな場所へ押し出したのはまさにそれであって、試合には出ない南雲も持ち前の生真面目さと未知LOVEで、対手のデータを洗い出す。
 流石に剣道部インハイ出場の立役者、勝ち方がしっかり背骨に入っていて、部活全体にそれを活かすのに躊躇いがないね……。
 頼れる仲間の後押しに気合十分、道着来たままのきららジャンプで明日に全力!
 まだまだ続く金鷲旗、次回も大変楽しみです。