イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

大雪海のカイナ:第9話『古王宮の旗標』感想

 戦火を切り裂く古の知恵、雪海の地図は未来を示すのか! という、大雪海冒険紀行第9話である。
 遂に始まってしまったバルギアとの決戦、その裏をかいての本国落としの奇策、城の地下で展開される地図読みという闘いと、三局面が同時進行する話数である。
 環境悪化により戦争と略奪が当然になってる大雪海の、スタンダードから外れた知恵の闘い。
 誰もが回避不可能な現実と諦めている横をすり抜けて、皆が幸せになれる道に踏み出すリリハと、その道標となる天幕の少年。
 中世の攻城戦に急にエヴァンゲリオン持ち出してきたドクロ仮面に、子ども達の知恵と夢がどんだけ対応できるか含め、最終幕のギアが上がってきた感じがあります。
 ハンダーギルとの闘いではなく、バルギアと協力して大船作って断絶を超えて、未来の希望にたどり着くのがクライマックスなのだと今回示されたのは、メチャクチャこのアニメらしいなと思う。
 闘いよりも冒険なのよ、やっぱ。

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第9話から引用

 アトランドの次代を担うリリハは、ハンダーギルの征服主義を視界に入れず、その目で確かめたバルギア要塞……難民船ごと幸せになる道を、目指すべき未来と定めていく。
 敵国に攫われ脱出するまでの大立ち回りで、この理念に共鳴する協力者を作り上げて、不安定な世情につけ込む形でプロパガンダ戦が開始されているの、衝突の後の融和に向けての地ならしとして、ちょっと面白い描写だった。
 アトランド謹製の大筒出てきて、この時代の決戦がどういう形で行われるかもまた興味深いんだけども、それはあくまで抗戦意志をくじくための手段であって、この大雪海でも戦争は意志によって行われる。
 国民の大多数が戦争にうんざりしているのに、厳しすぎる環境は戦争以外の現状維持を許してくれず、しかし大軌道樹という希望が現実になるなら、戦う意味ももはやない。
 子ども達の夢を押し通すべく、『新たな環境インフラが獲得できたら、闘争自体を無化出来る』という解決含めて、資源紛争のリアリズムを削り出しているのは面白い。
 ここらへんに独自の手触りがあるのは、序盤どっしりこの世界での衣食住の描写を入れて、軌道樹にしがみついて生きるってのがどういうことか、その厳しさの中で人はどんな夢を見るのか、しっかり届けた結果だと思う。

 バルギアの征服主義に故国と夢を潰されたアメロテは、こうなってたかもしれないリリハ(とアトランド)の未来だ。
 伝え聞くバルギアの歴史を思うと、亡霊のように枯れ果てたハンダーギルもまた、かつては理想に燃えて現実に膝を屈し、自国民含む他人から奪うことで命をつなぐ生き方を選んだのかもしれない。
 アトランド首脳陣含め、大人たちの誰もがそれ以外道はないと思い込み、実際に今炸裂している戦争の現実を、根っこから変えうる知恵。
 それを読み解ける異質な知恵は、遙かなる天膜に保存され、カイナくんというメッセンジャーにリリハが触れ合ったことで、地上に降りてきた。
 必死に太古の遺産を読み解こうとするカイナくんの横顔が、今まで描かれた『素朴な少年』『天から降りた異邦人』とはまた違う、知の探求者としての鋭さを宿しているのが好きだ。
 カイナくんは色んな顔見せてくれるから好きだな~~やっぱ。

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第9話から引用

 オノリガ決死の単独行が敵本国に王手をかける中、アメロテは敵手の狙いに気づき、バンダーギルは顧みない。
 ”国”という形が存在する意味がバルギア最高権力者の中ではすでに蒸発していて、何のために生きて何のために殺すのか、彼自身見失っているのだろう。
 政治の手段というアイデンティティを喪失し、軍事だけが独立して動くと色々悲惨だね……などと思いつつ、そんな暴走とは逆コースを叡智の光で照らしながら、少年たちは地図を読み解いていく。
 王が背負うべきボロボロの国土を要塞に偽装し、背中を向けて顧みないハンダーギルの冷たさと、光を手に皆が生きるための道を読み解いていくリリハたちの対比が、鮮烈で少し寂しい。

 このアニメ、全体的に少し時代遅れでオーソドックスにすぎるところが僕は大好きなんだけども、ここで天膜で培われカイナくんに託された知恵の光が、大団円への道標になっていくところも、どっしり腰の落ちた表現だと思う。
 ”啓蒙”なるホコリをかぶった表現こそが、光を片手に知恵を用いて道を探していく地下の闘いにはぴったりなのだが、反知性主義渦巻く昨今、この解決はちと懐かしすぎる感じもある。
 しかしどんだけ現実に膝を曲げたニヒリズムが大手を振るって暴れても、人間に許された唯一の武器は、勇気と知恵と友情だ。
 口にするのも小っ恥ずかしいそういう真理に、真正面から泥臭く冒険譚で挑みかかるこのアニメの姿勢が、俺は大好きなのだ。
 眼の前の戦争を片付ける助けには全くならないが、それが終わった後全てを解決できる希望を探り当てるのに必要なのは、ここではない何処かへ飛び込む勇気と、見知らぬものが出会って蘇る賢さと、冒険を通じて培われる絆。
 すごく真っ直ぐなメッセージを、ちょっとトボけて可愛いドラマと、魅力的に作り込まれた異様な世界を通じて届けようとする姿勢が、古い地図を照らす光には強く宿っていると思う。
 カイナくん達が忘れ去られしかし価値のあるものを甦らせるように、力を失ったかのように思える善を物語を通じて甦らせる試みとして、このアニメを受け取ることが出来るだろう。
 僕は、そういうお話が好きなのだ。

 

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第9話から引用

 子ども達の知恵は大海溝という絶望と、それを超えていける可能性を眩しく照らす。
 アトランドの国力では大軌道樹に至る船を作れず、不思議パワーを秘めた石を足すことで大敗と絶望の象徴だったバルギア難民船がともすれば、希望の方舟になれるという話運びはマジでいい。
 実情を知るまでは恐怖を煽る黒い箱だったけども、蓋を開けてみればしみったれた絶望、どうにかしなければいけない哀しさがたっぷり詰まっていたあの船が、希望の明日へ皆を導く”国”になれるなら、それ以上のハッピーエンドはない。
 そこにたどり着くためには目の前の衝突をどうにか収めなきゃいけなくて、一人だけシドニア時空にぶっ飛んでったハンダーギルをどうするか、さてはてどうするどうなる! という局面である。
 まだ話が通じるアメロテを、同じく為すべきことを知ってるオリノガと共にバルギア本国に離して置いたこの布陣が、次回以降のお話にどう生きるかかが気になるね。

 同じ古代遺産でもハンダーギルがぶん回すのは怪物的な暴力で、カイナくん達が見つけたのは希望への航路。
 王としての責務も生きる意味も見失ったハンダーギルが、ドクロの仮面をかぶるのはまぁ、大変納得である。
 ここら辺ハレソラ国王が側近の制止を振りちぎり、オノリガとの約定、貴種の責務を果たすべく危険な櫓まで近づいてくるのと、わかりやすい対比ね。

 人生を死ぬまでの引き伸ばしと受け止めるニヒリズムは、他人や国家を実りのない方向にズリズリ引っ張っていってしまうわけだが、その力は破滅的だからこそ強力だ。
 ”建築者”と名付けられたわりには現状、破壊しか生み出さない場違いなオーパーツを相手に、進むべき道を太古の遺産から読み取った子ども達は何が出来るのか。
 次回もとても楽しみです。