イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第10話『ペイジ工房の令嬢』感想

 品評会での勝負を前に、まず闘うべきは偏見とストレス!
 甘やかなファンタジック・ロマンスに生臭いヤダ味をぶっかけた、独自の味わいが光る地獄系お仕事アニメ、動乱の予感第10話である。
 『これでライバルが嫌なヤツだったら息できなくて死んでるから、そらーキースは爽やかにするよな!』と納得の、職人マチズモがブン回る銀砂糖工場のむせ返る空気と、一見理解者のようでいて社会の奴隷規範と女性差別ナチュラルに内面化した令嬢の合わせ技で、大変むせる回でした。
 こういう毒ガス抜いてくれるロマンスも、バリバリ押し寄せるストレスが互いの思いをすれ違わせて、大変こんがらがった展開に。
 タメにタメたモヤモヤを、スカッとぶっ飛ばす展開が待っているのか、今までの世界観的殴りつけが強烈な分先が読みきれないのが、なかなかいい感じだと思います。
 最終的に収まるところに収まるんだろうが、それが駐車場の壁をぶっ壊しながら強引に横付けするスタイルになりかねない激しさある所が、俺は好きなのだ。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第10話より引用

 というわけで残り10話にして最悪気味な女性蔑視職業風習がぶっ放され、周囲全員敵なギスギス感のなか、アンちゃんは孤軍奮闘を始める。
 もうもうと熱気が立ち込める環境の悪さ、大掛かりな砂糖精錬のフィジカルなキツさ。
 『パティシエは肉体労働』てのを結構な精度で刻んできた筆が、最後の最後でブンブン暴れてる感じが大変良い。
 こんな差別的な職業風土の中で、アンちゃんママはよく職人やれてたな……などと思うが、屈していては勝負の舞台にすら立てない現状に歯を食いしばり、アンちゃんは必死に頑張る。

 現場監督ポジションのクズが一番やばいとして、ジョナスは牙を抜かれた風味で……トップを務める伯父さんは身構えていたよりフェアな扱いしてくれてる感じはある。
 じっとり熟成されてきた女性蔑視の空気を入れ替えるのは上の一存では難しいだろうし、機会の均等を心がけているだけマシ……なのかな?
 女性に向けられる”当たり前”に固着した視線を、キッチリ内面化してアンちゃんの向こうに立つブリジットお嬢様と合わせて、今後裏事情やら内面やらが彫られるキャラ……だといいな。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第10話より引用

 未来がかかった品評会決戦、その前哨戦たる最悪職場だけでもハードなのに、ここで恋の嵐が吹き荒れるからまた厄介って話よッ!
 海辺の城の物語を経て、か細いカカシちゃんをどんだけLOVEか自覚し始めてるシャルくんに、迫る地獄の一目惚れ。
 一見運命のロマンスのようでいて、その実『愛してあげる』という高慢と偏見に満ち満ちたブリジットからの視線を、シャルは冷たく跳ね除ける。
 シャルの恋心をリトマス試験紙に、この世界では常識はずれの変人になるしかないアンちゃんの平等な態度がどんだけシャルを惹きつけているか、社会規範が求める”普通の女”になったブリジットじゃ妖精への思いがかなわないかが、きっちり塗り分けられている感じがある。
 望んで差別やっているというよりも、この世界で普通に生きていく以上学習しなきゃいけない価値観を、素直にぶん回しているとブリジットの愛玩に結晶化していくんだろうなぁ……。
 後出しの形だけども、フィラックス公がクリスティーナに捧げた恋がどんだけ狂っていたかが、分かる感じの展開でもある。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第10話より引用

 仕事はハード、品評会の期日は近い、職場の空気は最悪な上にテキトーな仕事するカスがデカい面ぶん回してる。
 そらーアンちゃんの不満も爆発寸前だよ! ……って所で、キースくんは上手いこと空気を抜いてくれる。
 『俺たち男様こそが職人でござい』みたいなツラしておきながら、顧客ナメた下準備を平気で通すゴミしかライバルいない状況なら、そらーキースもアンちゃんに期待するよな……。

 クズに同調してると自分の腕も腐ってると意識できるなら、今工房に漂ってる淀んだ空気からは距離を取りたいだろうし、せっかく自分を高めてくれそうな相手がドブに沈みそうなら、手くらい貸すよね。

 しかしそのマトモさがよりめんどくせー所に乙女を運んでいって、妙に緊迫感のあるクッション効いた演出が不安を煽るッ!
 窓ガラスの強度を補う鉄枠を上手く使って、お互いの本心が見えにくいすれ違いを可視化してくる演出は、ドラマティックでとても良かった。
 人間様相手には恥ずかしくて出来ない告白を、愛玩奴隷相手には堂々ぶっ放してくるブリジットの不均衡に、冷たい軽蔑を返すシャル。
 話している内容までは聞こえないので、色々グラグラ揺らされてるアンちゃんにはシャルの気持ちは届かず、なおさら不穏に揺すぶられる。

 そこに助け舟出してくれるキースくんの爽やかさが!
 黒髪の重たい男を更に重くしていくわけよッ!
 今アンちゃんを揺さぶってるストレスがしっかり書かれたからこそ、そこからいっとき連れ出してくれる好敵手のありがたさは良く解るし、お互い思い合っているのにすれ違うやるせなさも凄い。
 そして病んでる場合じゃねーぞシャルッ! お前が支えろアンちゃんの騎士様だろーが! 感もな。

 ついノリで”騎士様”って言ったけども、色々助けられれつつもアンちゃんとシャルの関係はあくまで対等なパートナー、インスピレーションを与えられたり、悲しい過去を知らず癒やされたり、お互い様で進んできた。
 ブリジットから一方的な恋を差し出されることで、人間様のクソみたいな部分を無自覚になすりつけられて、シャルもかなりイラッと来ているのは解るが、ここは土俵際踏ん張ってアンちゃんに寄り添いたい所だ。
 ……っていう素直な展開に突き進むには、キースのモデルになって色々重たい事実知らされて、素直に駆け出せない重石が多いって現状が、なかなか上手いね。

 

 恋は障害が多いほど燃えると良く言われますが、かーなりヘヴィな壁がよりどりみどり、色んなヤバさで立ちふさがる最終章。
 果たしてアンちゃんはクッソムカつく職場を乗り越え、偏見と嫉妬まみれの品評会を勝ち抜き、グチャグチャに絡まりだした赤い糸を正しく手繰り寄せられるのか!
 なかなかいい感じにグツグツ言いだした、ファンタジックお仕事物語の決着が、大変楽しみですね。