イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

UniteUp!:第8話『外さないと』感想

 独特のテンポで青春を刻む新世代アイドル群像劇、今回はワイハでファンサ! 回。
 ……いや大丈夫? JAXX/JAXX回とかやっとくべきじゃない?
 いらん心配も思わず口から飛び出すが、まーこのアニメが一般的な呼吸で動いてないのは、過去のトラウマからしょぼくれた灰色人生送ってる幼なじみが好き過ぎてややヤバい小デブの幼なじみをコトコト煮込んだ第1話から、既に解っていたからな……。
 肩の力が抜けた水着回的ファンサービスとしても、万里くんの成長を異国の奮戦記で見せる回としても、結構いい感じの仕上がりだったと思うし。
 前回一話丸々貰い、回をまたいだロングパスを気持ちよく決めた千紘くんみたいなガッツリ手応えではないけども、マスクとグラサンに肥大化した自意識隠してきた彼が今どこにたどり着いているのか、このお話らしい画角から描くいいエピソードでした。

 

 

 

 

画像は”UniteUp!”第8話より引用

 というわけでsMiLeaプロの秘蔵っ子達が、南の島でくつろぐオフショット連発サービス回だよッ!
 上品淡麗な味付けのこのアニメらしく露骨な肌色はないけども、既にキャラを好きになっているファンに向けたウィンク満載の回であり、そういう層が画面の中の物語と画面の外の自分をシンクロさせるための話数かな、と思ったりもする。
 ファンが携えた携帯電話で、あるいはメンバーが持ったインスタントカメラで、切り取られ消費されていくアイドル達は物語が収まった後、EDで描かれる作中SNSのなかで、かなり生っぽい質感で”答え合わせ”される。
 今回の白眉はあのEDで、アイドル人生に主役として生身で生きてる青年たちとはまた違う、願望と欲望と祈りを混ぜ合わせてデカい商売の上に乗っかっている”アイドル”というメディアを、相当活き活きと抜いてきた。

 劇中描かれるプライベート・オフショット……であり、弾丸ツアーで一気に駆け抜けるお商売でもある彼らの人生は、そこの質感を際立たせるための食材……っていうと言い過ぎか。
 でもやや弛緩したファンサービスに、その主体であるアイドルと受け取る客体であるファンの往復作用として描き直すことで、別の意味合いを持たせて立体感だすのは凄く良いな、と感じた。
 こういう感じの表現者と観客の相互作用が、事前に描画されていたら第6話の受け止め方もまた違ったかなぁ……などとも。(しつこい)

 

 

 

画像は”UniteUp!”第8話より引用

 そんな忙しなくもハッピーな時間に取り残され、始まる万里くん南国一人旅。
 いうたかてそんなハードな状況にはならず、一見強面実は優しいおじさんに助けられて、歌を武器に一人で何とか乗り切っていく。
 人と触れ合うのが苦手だとさんざん描かれた万里くんが、一番苦手なシチュエーションだと思うのだけども、お披露目ライブを筆頭としたメディア攻勢、”仕事”になるまで打ち込んできた歌は確かな自信と縁を生み出して、彼を強くしている。
 その試金石としては正直軟い話ではあるけども、前半のリラックした雰囲気との接合、万里くんのキャラを考えると悪くないチョイス……かな?
 ここで手に入れた”笑顔”という武器が、今後……特にクライマックスを飾るだろうPROTOSTARの大勝負で生きるかが、このエピソードの値段を決める感じか。

 トランジットのお姉さん含め、色んな人が”PROTOSTARの直江万里”を見知っている状況は、選ばれて練習してお披露目して、デカい資本に乗っかって”アイドル”になっている彼の輪郭を、社会的反響というペンでなぞっていく。
 ド底辺から這い上がる泥臭さよりも、恵まれた環境とバカでかいメディア影響力でガンッガンに突き進んでいく感じは、SMEJ肝いりの巨大プロジェクトが三次元で既に動いていて、このアニメもその物語の一部だという、メタ的な状況に嘘をつかないための運びかもしれない。
 ……そのわりには、時折仕事のスケール感がガバるけどな!
 ワイハに一人置き去り、アフターフォローがあるとはいえ、かなりありえんだろ……Youtuberの罰ゲーム企画かよ!!

 

 

 

画像は”UniteUp!”第8話より引用

 というわけでかなりシャレにならない大ピンチだった万里くんのリアルは、ハッシュタグ付きで流通する”物語”として電子の海に放流され、消費されていく。
 やっぱこのEDは凄い良くて、sMiLeaプロを包囲し芸能闘争最前線に押し上げているファンの熱意や期待がどんな手触りか、かなりの生っぽさで教えてくれた。
 ファンが見てるツルンと整った(自分たちが見たい物語性に応じてツルンと整形された)物語と、生身の人間が汗かいてる実像にズレがそこまでない世界なのは、例えば第5話の”ドキュメンタリー”の見せ方とかからも感じ取れるワケだけが。

 嘘で繕って夢を売るというよりは、現実を無理ない範囲でヤスリがけして、ファンが嚥下しやすい物語を売る(それがSNS上で摩擦熱高く流通することが、所属タレントの経済価値を上げていく)場所に、足場を置く青年たちの群像。
 人との繋がりに難しさを抱えつつ、ここまでの経験で自分を変えてなんとか向き合ってる万里くんが『コミュ力高い! リアル王子様!!』とキュンキュン消費されてるの、水面下のあがきをファンに見せず夢を守っているとも言えるし、実像とは乖離した所で物語を消費する危うい残酷に、この子らは足をのっけているとも取れる。
 そういう『本気で嘘をつく仕事』の華やかな怖さとやりがいが、EDを無邪気に駆け抜けていくソーシャルな泡沫にじわりと滲んでいて、すごく納得と没入感の高い演出だった。
 リアルの反応をトレースした結果こういう表現になったのかもしれないし、本物より本物らしい作り物として気合い入れて仕上げた結果なのかも知んないけど、sMiLeaの子たちがどういう角度から見られ、どういう速度と温度で商売してんのか、よく伝わってきたね。
 作品が醸造している空気からして、この視線が凶器になるってことはないんだろうけども、このキラキラポジティブな反応の奥でグツグツ”毒”煮えたぎってんだろうな……て所まで妄想がぶっ飛ぶ、いい生っぽさだった。

 

 というわけで認知度もファンの熱量も上がってきて、偶像商売に馴染んできた新星の姿を描く南国の一日でした。
 肩の力が抜けたファンサとしても、万里くん回としても、自分の中の作中解像度を上げるヒントとしても、かなり良かったな。
 お披露目ライブを経て多くの人の期待と注目を集めるPROTOSTARが、sMiLeaプロの仲間が、これからの後半戦どこへ駆け抜けていくのか。
 次回も楽しみです。