イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

大雪海のカイナ:第10話『建設者』感想

 故国崩壊の危機を前に、疾走れ青春大冒険! 大雪海のカイナ、そろそろ大団円が見えてきた第10話である。
 檜山修之という声優の凄みがゴリッゴリ出ている隻腕の亡霊が、一人だけロストテクノロジーで無双ぶっこく中、子どもらは少しでも明るい未来に辿り着こうと、自分の足で必死に走っていた。
 自国民の命に一切興味がない、黙示世界の髑髏本尊になってしまったハンダーギルが振り回す暴力に対し、カイナくん達はあまりにちっぽけで、しかし人としてやるべきこと、自分がやりたいことに嘘なく、必死に駆け抜けている。
 死ぬまでの時間を引き伸ばす乾いた生を、他国の水を奪って続けようとする暴虐に現状打つ手がない感じだが、空から降りてきた優しい少年と、彼を連れてきた誇り高い王女の未来は、どう開けていくのか。
 アトランドがボッコンボッコンぶっ壊されながら、冒険はその果てへと加速していく。

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第10話から引用

 というわけで”建設者”という名前も皮肉な大破壊を、壮大にぶちまけながら亡霊が笑う。
 ハンダーギルのかすれた声は文明の源たる軌道樹が枯れてきて、奪い合うのが当然になりつつあるこの世界に、過剰に適応した証明のようにも聞こえる。
 そういう場所で生き続けるとは、人間が人間である証明を投げ捨ててただただ生きるという事で、亡霊が国家のトップに立つと踏みしだかれる自国民も、侵略される他国民もたまったもんじゃない。
 しかし一人だけ時代を飛び越えたインチキを可能にする、圧倒的な強制力は野蛮で余裕のない世界だからこそ強力で、これを黙らせないことには未来は近づいてこない。
 既に地図から読み取った、アトランドもバルギアも幸せになれる場所へ漕ぎ出すためには、”建設者”を操る亡霊に勝たなければいけないのだ。

 そういう状況下でどーでもいいモブ一人、助けるために必死こいて時間を使うのが、このアニメの良いところだと思う。
 ハンダーギルを悪霊にした、この世界の乾いた現実にヤオナはかなり理解があって、この土壇場でちっぽけな命を助けるか、一瞬思い悩む。
 そういう現実的な判断を迷わず蹴っ飛ばして、人が人であるためにやらなきゃいけないことに迷わず踏み込めるのが、彼の姉であるリリハであり、天膜から来た少年である。
 人が人を殺すという”常識”に戸惑いつつ、その質感を冒険の中学んできたカイナくんは、やっぱり誰かを見捨てることが出来ない。
 父祖から譲り受けたレーザーカッターを救命用具として活用して、誰かを助けることを諦めない。

 その生き方がヤオナに染みて、運命が決する現場に自分も立ち会うことより、どーでもいいたった1つの命を守りきることをクライマックスの仕事として選べたのは、僕は凄く良いなと思った。
 ヤオナが姉やカイナくんの理想主義にちょっと追いついていけない描写は随所にあって、しかしこの冒険の中現実を見据えつつ王族として、人として何を大事にするべきか、彼なり考え選んでいた。
 『クライマックスの温度を上げるべく、あんま余計な人間を舞台にあげない。カイナとリリハに絞る』という、作劇上のレトリックでもあるんだろうけど、彼がここで命を守り送り届ける者として自分を選んだのが、そこにカイナくんの素朴な人道主義が響いているのが、とても好きだ。
 この決断が出来たというだけで、天膜の少年と未熟な王子が一緒に冒険してきた日々は、無駄じゃなかったんだなぁと思えた。

 

 

 

画像は”大雪海のカイナ”第10話から引用

 国ごとぶっ壊す亡霊のやりたい放題に、遂に意味深に旅路を見守ってた謎生命が答えた!
 そびえ立つ謎の柱、神話の実現に揺らぐ戦場、都合のいい奇跡でいざ大勝利!! ……って思ってたら、すげーあっさりぶった切られちゃったゾ。
 この肩透かし感は次回なんかある布石……だと思いたいが、地道に地味に『今、人間が生きる』ってことを描いてきたので、ロステクだよりの一発逆転はあんま馴染まいない……かもしれない。
 ただオオノボリが打ち砕かれて、乾ききった戦場に”雨”が降ったのは瑞兆かなと、勝手に安心もした。
 水を奪い合って起きてる戦争なので、リリハと人民の祈りが結集して生まれた(ように思える)存在が水を連れてきたのは、良い結末にたどり着ける予言なのかな、と。

 まぁそれが形になるかどうかは、自国の軍船すらぶん投げて暴れ狂う髑髏の魔神を、どうにか出来るか次第なんだけども。
 ハンダーギル、あんまりにもハチャメチャ調子乗りすぎ人間なんだが、そのぐらい乾いて狂っていなきゃ、この大雪海で簒奪国家とか運用できないよな、という納得もある。
 これまでも散々自分以外は全部……もしかすると自分すらもどうでもいいやけっぱちのエゴイストなのだと描かれた彼の、生き様が乗った船投げであった。

 賢く隠れることを選ばず、堂々と未来に向けて踏み出したことで、リリハは”建設者”のセンサーに捉えられ、窮地に陥る。
 神話時代の奇跡はあっけなく殴り壊され、善良な人の無力が廃墟にこだまする中、ただの人間に一体何が出来るというのか。
 地道な冒険を続けてきた物語に、東亜重工製のインチキがぶっこまれた結果落とし所が微妙に見えなくなってますが、次回どう転がすかでお話の収まり方も決まってくるでしょう。
 大変楽しみです。