イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

REVENGER:第11話『The Die is Cast』感想

 豺狼二匹、お互いの喉笛を狙い合う発火寸前の長崎に、長く伸びるアンゲリアの影。
 抱えた小判の裏側に、刻まれた恨みの行き先……一切合切の運命が決着する長い夜に向けて、男たちがそれぞれの命運を投げ込んでいく、一天地六のREVENGER第11話である。
 幽烟先生が意味深に眺めていた行き場のない恨噛み小判の真相が顕になり、惣ニは最後に自分をどこに投げ込むか、懐探って引き当てる。
 敵も味方も最後の博打、血しぶき祭りに備えて残念なく進んだその先に、罪を背負ってなお進む道は残るか、絶たれるか。
 このアニメらしい寂寥と色気、血なまぐさい美麗が随所に漂う、良い決戦前夜でした。
 さーて、誰が死ぬかなぁ……。(三ヶ月楽しく付き合えた連中なので、是非に死んで欲しいわけでは無いが、死んでもおかしくはない舞台のルール、死ぬだけの理由と生きる意味両方が天秤に乗っかった状況が、どう転がるか大変楽しみ……くらいの意味を持った鳴き声)

 

 

画像は”REVENGER”第11話から引用

 大立ち回りを次回に控え、色んな勢力のハラを暴けるだけ暴いていく今回。
 貞一党の抜け目ない監視を、逆手に取って隙あらば牙を突き立てんとする職業暗殺者たちの、ピリピリしたやり取りが心地よい。
 とにかく寡黙に揺るぎなく、スナイパーの本分を果たし続ける鷹目の一八を描き続けて、独自の芳香と存在感が出てきているのが、油断ならない裏稼業のザラついた質感に、さらなる潤みを加えてもくれている。
 『コイツラぶっ殺せば、話は幕でございます』と用意された敵役の描写に、結構な尺を使って奥行きを生み、これに応対する主役を描くことで裏稼業の生っぽさ、対等だからこその危機感と知恵比べの良さがより濃く出ているのは、終盤戦を支える良い描写だったな、と思う。
 ダイレクトにやり合う場面もありつつ、殺せるタイミングをお互い躱し合って決着に雪崩込んでいく感じは、殺意が弛緩しなくて雰囲気を守ってくれている。

 この張り詰めた状況で、複雑に絡んだ各勢力の思惑もまた描かれていく。
 褐色の雌狼と強欲なる異端が囲む食卓は、彼らが清廉な神の信徒などではなく、我欲に狂った悪党であることをよく教えてくれる。
 つーかアンゲリアのエージェントだったわけね、シスターさん……礼拝堂はその根っこからして、恨みを抱いた庶民の晴らせぬ”私”をすくい上げるより、公権に都合の良い非公認暴力装置として、便利に使われてた感じか。
 まだ使えると欲をかいて、利便事屋を泳がしていたことがどう嘉納にぶっ刺さるのか、その末路が楽しみである。

 一方日本サイドの公権代表、かいまき与力・漁澤陣九郎は欲にギラついた素顔を隠さぬまま、気づけば巨悪を締め上げる算段を幽烟とまとめていく。
 甘い汁は吸いたいが街を丸ごと腐らせたいわけではなく、清廉潔白には程遠いが暗い愉悦に突き動かされているわけでもない。
 漁澤独特の現実感覚と損得勘定は、巨悪に飲み込まれてその一部になるよりも、悪をせき止める悪にならんとする幽烟の信仰に手を貸し、あるいは手駒と使い倒すところに、自分の居場所を定めた。
 この独自のバランス感覚に後押しされて、利便事屋に必要な情報や支援が近づいてくるのは、自分的に結構納得がいく落とし所だった。
 何しろ金を貰って人殺しなお話、純粋な善意は踏みにじられ巨悪は闇から絶たれていくわけだが、その中間の半端な所でウロウロする連中の、複雑な陰影を見るのが面白い。
 殺し屋という立場から人が譲っちゃならない大事なものを守ろうと、手を赤く染めていく主役たちの影として、お綺麗な志は抱いていないものの自分のため、結果として街を守り名声を横からかっぱぐ知恵者の、ふらふらした足取りを見届けるのも良いものだ。
 幽烟の腕か人間かに惚れ込み、ドライな関係に見えて微かに湿った執着を微かに匂わせて、なんとか生きる道を探そうと流しめくれてくる色香も含め、漁澤は良いキャラだった。

 そんな彼の助けもあって、目指すべき的は治外法権アンゲリアの根城と定まった。
 お話が始まったときから異様な存在感を宿し、しかしその内側に踏み込まれなかった長崎もう一つの支配者が、ここでググっと前に出てくるのは、いかにもクライマックスという感じがして好きだ。
 どーみても悪魔城ナガサキだったもんなぁ、あのお城……。
 ”チェーホフの銃”じゃないけども、序盤から『ここに何かがありますよ! マジロクでもないですよ!』と、ガンガンに自己主張してた場所にカメラが向くのは、期待と納得があるよね。

 

 

 

画像は”REVENGER”第11話から引用

 各勢力の意向や情報なんかを取りまとめるだけでなく、キャラクターが突き動かされる思いの根本、絡み合った因縁も暴いてほぐしながら進んでいく、この最終回一個前。
 前回かけられたカマを自分なり預ける形で、惣ニは彼らしい真っ直ぐさでもって、幽烟の過去を問う。
 徹破先生が小器用に誤魔化そうとするところを、惣ニの本気を受け止めてまっすぐに答えを返すあたり、幽烟も白皙に奇妙な熱を隠した、なかなかに面白いキャラクターである。

 薩摩から長崎への早飛脚を頼まれ、届けた真実はドス黒い恨みを女の喉から吐き出させる。
 障子越しの木陰が惨劇の奥にあった爽やかな繋がりを語ってからの、雷蔵が知り得なかった……しかし暴かれてみれば確かに当然の修羅の形相は、幽烟が身を置き隠してきた因縁が持つ、複雑な色合いをしっかり伝えてくる。
 写実絵師・碓心があるがまま描いたはずの、雷蔵たった一人の女の知らぬ顔を幽烟は知っていて、唯が知り得なかった雷蔵の苦悶と過ちも、また幽烟は知っている。
 解いてみれば行き場のない恨みを、抱えて殺す利便事屋稼業。
 シンプルに割り切れないものを強引に、殺し殺されの単純に割り切って生きようとした挙げ句、因縁に絡みつかれてこのどん詰りであるけども、幽烟の表情に後悔はない。
 為るように為って、ここに至った。
 それだけである。

 そう割り切れないのが惣ニの凡庸さで、それで受け止められて雷蔵はなんとか、何もかもを奪われた虚無を生き延びてきた。
 抱え込んだ余計な荷物の始末を付けて、他人殺してたつきを稼ぐシンプルな生き方に戻るべきか、絡まっちまった因縁を自分に引き寄せて、行くところまで行くか。
 その顔には深い懊悩が刻まれ、かばわれた胸に落ちる血の熱さも、否応なく解ってしまう。
 死地に追い込まれたのもこいつのせいなら、間近にその苦しさを見届けたのもこいつのおかげ。
 その両天秤をどっちに降ったものか、フラフラ迷う人間の当たり前を、ぶっ壊れた変人揃いの利便事屋の中、惣ニが背負ってくれた。
 そのありがたさを、最後に思い返す回でもある。

 

 

画像は”REVENGER”第11話から引用

 決戦の離れ小島も鳰がその目で確認し、最後の祭りの準備が整う中、宍戸はとっておきのダメ押しで悪徳を積み上げていた。
 いやー……最悪がすぎるなこいつホント……。
 何もかんも奪われた雷蔵が剣を筆に持ち替えてつかんだ新しい可能性が”写実”だったのに対し、肉筆の持つアウラや才能を横に置き去りに悲惨を切り取うる”写真”を悪の総元締めの趣味にすることで、悲惨な現実を前に何処に生きるべき美しさを見出すか、綺麗な対比になっているのは好きだ。
 見たまましか描けないリアリズムがその実、自分が見たいと願った苦しみや哀しみ、その奥にある美しさの豊かなイマージュで描かれていると、幽烟の独白で暴かれた今回。
 宍戸が自分が見たい地獄をわざわざ他人に押し付けて、その尊厳を銀塩にこすりつける宍戸の歪さが、自分をいっぱしのアルチザンと思い込んだ醜さで際立つ。
 あまりに残酷な事実を雷蔵に告げられぬまま、彼に筆を与えたその才を羽化させた幽烟が、沈黙の中守ろうとしたもの。
 そういうものは、宍戸が捏造する”写実”には宿らない。

 そして男二人、廃墟に身を寄せ合う夕景にはたしかに、それが宿っている。
 真っ直ぐに進むしかない男の行き着く先を、絡まった過ちと恨みの果てを、見届けたいと思ったのは、信仰を返り血で裏切ってなお捨てれない幽烟が、救いをそこに求めたからか。
 自分の生きざまが巻き込んだもの、出会ったもの、切り開こうとするものを最後に確かめて、二人は地獄へ進みだしていく。
 誰に褒められたもんじゃねぇ、ロクでなしの行き着く先とお互い分かりつつ、それでも魂の一部を相手に預け、手を引き引かれて転がっていくしかなかった。
 そんな自分たちへの憐れみと寂しさと、夜を越えていく静かな決意が滲んだ、良い決戦直前だと思う。

 ここで惣ニの殺意を、当然雷蔵も知っていて間近に身を寄せていたのだと解るのが良い。
 言われてみれば音なき遠距離狙撃を感じ取る武人の感覚が、惣ニの迷いを聞き逃すはずもなく、それも当然の始末と潔く……死に場所を奪われてなお武人らしく、仲間に命を預けていた。
 それにどう答えるのか、凡人は最後の最後まで悩んで、ギャンブラーらしく最後は偶然に道を預ける。
 引いたのは、出会った時と同じ蝶の札。
 ”アタリ”掴んじまったならなかったことには出来ねぇと、博徒の矜持に殉じる形で……あるいは救われる形で、惣ニは自分という賽の目を鉄火場に投げ出していく。
 前回雌狼のイカサマで揺らがされた自分の道を、裏切りの手土産としてではなく真摯な問いかけとして幽烟に投げ、受け取った答えをエイヤと転がし、出た目を裏切らない決着は、そこにたどり着くまでの迷い含めて、とても惣ニらしかった。
 貞が利便事を踏みつけにする仕草とか、宍戸の”写実”とか、主役が大事にしたいもの(作品の柱になるもの)を悪役にさんざん踏みつけさせて、その反発力でキャラやテーマを立てていくこのお話の手筋が、俺はやっぱり好きなんだな。
 シャドウの使い方が上手いフィクション、やっぱ好みだ。

 

 

画像は”REVENGER”第11話から引用

 かくしてそれぞれ身支度を整え、決着の舞台へ夜闇の只中、ずずいと進み出ていく。
 待ち構えるはよく似た外道、誰が野良犬のごとく骸を晒し、あるいは朝日を拝むやら。
 『やっぱ”必殺”言うたら、誰もいない夜道にゾロゾロ決意を込めた連中が集まってくるシーケンスでしょ!』と言わんばかりの、最終回への滑走路だった。
 素晴らしい。
 誰が死ぬのか、どんくらい殺すのかさーっぱり読みきれない、ちょうどいい塩梅でグツグツ煮立ってくれて、ワクワクと最終回を待てるのはとてもいいと思います。
 破滅のカタルシスで引っ張るのかなと思ってばかりいたけども、幽烟と雷蔵の掛け合いは罪の果てにある生をたしかに睨んでいて、そんな輝きを掴めないロクでもなさも随所に匂い、どんな決着も受け入れられそうな、心地よい苦さが立ち上る。
 大変良い感じです。
 次回REVENGER最終回、非常に楽しみです。