イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

TRYGUN STAMPEDE:第11話『新世界へ』感想

 過酷極まる世界に落とされた天使達が、それぞれの救いを求めてもがく物語もそろそろフィナーレ。
 弟が好き過ぎて確実に頭がおかしいナイヴズお兄ちゃん、本領発揮の一羽まるまる精神操作なSTAMPEDE第11話である。
 第3話初登場の時点で異様な存在感とにじみ出るヤバさを誇っていた男が、どんだけヴァッシュが欲しいのか、心も体もゴリゴリに塗り替えていく執拗な筆先で、たっぷり教えてくれるエピソードとなった。
 ヴァッシュを”人間”たらしめている記憶に深く潜ることは、そこに食い込むナイヴズの本音を暴くことでもあって、狂愛ゆえに行くところまで行った男の内面を知るには、なかなかいい仕上がりだったと思う。
 あんまりにも愛が濃すぎて、正直ゲップも出たがなッ! それぐらいがちょうどいい!!
 ドラマの進行度的には結構なタメで、儒來に咲いた巨大な徒花が何を巻き起こすのか、独立型プラントという人型災害に行きあってしまった者たちの運命を描くのは、次回最終回になりそうです。
 色んな意味でめっちゃSTAMPEDEらしい物語を貫いてくれそうで、フィナーレへの期待が良い感じに高まる、最終回一個前でした。

 

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第11話から引用

 というわけでメインの兄弟愛憎精神旅程に切り込む前に、ウルフウッド坊やの決断直前について、思ったことを書く。
 パニッシャーとして押し付けられた、世界最強のお人好しのお守りと地獄へのガイド役を終えて、ウルフウッドは首を突っ込む理由がない。
 血染めのデリンジャーを受け取り、自分の物語を真実動かし始めたメリルとは対称的だ。
 大人の真似事にしてライナスの毛布でもある喫煙行為に心を逃がそうとして果たせず、メリルに銃を与えたのと同じロベルトから、タバコを譲り受けることで岐路に立っている自分を認識するのは、フツーのおじさんが果たす物語的仕事を、沈黙の中語っていて面白い。

 殺しを生業にしてきたウルフウッドは、今更人間一人死体になっている現実に涙しないし、出来ない。
 そこで泣きわめいている自由をこの星は許してくれないし、同じく泣くことを奪われた子どもであるナイヴズの刃に、幼年期を貫かれて怪物に変えられた少年ならなおさらだ。
 それでもここでロベルトに生きあったことで、ウルフウッドは後退を止めて一息ついて、(メリルと同じく)選択の時が自分の前に広がっていることを思い知らされる。
 ロベルト自体は惑星の定めに流されるちっぽけな一人間として、生き方を選んだような選ばされたような曖昧さに身を置いたまま、運悪く死んでいった。
 しかしそういう当たり前の人の当たり前の生きざまと、当たり前の死に様を受け取って、大きな物事を動かしうる主役たちの道は明るくなる。
 そのための光源が真っ赤な血で染まっているのは、まぁノーマンズ・ランドの定めというやつだ。
 奇妙な成り行きで肩を並べここまでたどり着いてしまった、”俺ら”の旅路の一里塚として、物言わぬ骸になったロベルトが無言のまま、大人ぶるガキに差し出した成熟の証明。
 どんな味がして何を選ぶか、最終回のウルフウッドは楽しみである。

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第11話から引用

 というわけで全裸のナイヴズと水槽の中一対一、愛の剣をズブリ♂されて記憶を散々現れるという、『さっすがSTAMPEDE! 手弱女顔のシャイボーイの尊厳を全力で踏みつけるのに余念がねーぜ!!』と小躍りしたくなる展開で、ヴァッシュの大事なものが消えていく。
 記憶領域では色んな姿になれるけども、現実レイヤーだと常時全裸のムキムキマッチョが宙に浮かんで、ここまでフードに隠してきたコクのある愛憎を全力で叩きつけてくるので、なかなか名状しがたい感情がメキメキ湧き上がる。
 ほんっっっっっと今週のナイヴズは弟LOVEが極まって大変にキモく、『ようやく剥き出しの”剣”出してきたな……』という満足があった。
 フードに素顔を隠して超越者ッ面しているより、弟が好き過ぎて嫌いすぎて大事だからメチャクチャにしたい、感情の人型台風(ヒューマノイド・タイフーン)の素顔を堪能できるのは、大変ありがたい。

 精神攻撃を散々に積み重ねて、ヴァッシュは辛い思い出を再生産されたり自分を支える柱を赤い花に切り崩されたり、最後の凌辱に必死に耐える。
 失われた腕がそこにあってしまう都合の良さを、夢の証明だと拒絶する姿には、あえて命の選別を行わない柔らかな強さこそが、彼のヒロイズムだと滲んでいて、大変良かった。
 言葉よりもダイレクトでえげつない形で、心の傷をえぐり何もかも忘れさせていくハードコアな状況は、ヴァッシュの根源に何があり、彼が”人間”を諦めない理由を暴いていく。
 結局根っこにあるのは赤いゼラニウムの花びらであり、”決意”の意味を教えてくれたレムという女/母/人間こそが、彼の魂を守護している。
 男/兄弟/プラントであるナイヴズの対極として、殺してなお奪えない鉄心を弟に与えた、憎むべき相手……であり、否定してもしきれない愛の根源でもあるのだろう。

 剣として生み出されたナイヴズは何かを壊し誰かを殺すことしか出来ず、プラントとしては何も生み出せない欠陥品のヴァッシュを、書き換えて高次元と繋ぐハブに変えることでしか、プラントの受肉……同族現臨を果たせない。
 力がないゆえに人間に共感できたヴァッシュは孤独を感じる必要がなかったが、人智を超えた怪物(あるいは神の子)だからこそ脆弱な人間を同族と思えなかったナイヴズは、弟にヤバいぐらい固執し、プラントが自分と同じ独立型になることで、人間の世界を終わらせようとする。
 百万の悪意が引き起こした悲惨、その是非は横に置くとして、やっぱり一人きりの寂しさを、世界でたった一人の同族が理解してくれない辛さが、ナイヴズの暴挙には漂う。

 

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第11話から引用

 ナイヴズの人間不信を決定づけた、自分たちと同じ独立型に対するヒトの所業。
 バラバラに切り裂かれた実験材料がなお”ALIVE”な異様さを、レムは大きな背中と誠実な誓いで覆い隠そうとしたが、ヴァッシュが信じられたものをナイヴズは信じられなかった。
 『そらそーだわな』という納得は結構強い。
 人類が発見し生み出した高次元へのアクセスゲートであり、無限のリソースを生産可能にする人型工場(Plant)は、個別の命を持つヒトの形をした植物(Plant)でもある。
 あるはずなのに人間は生存に不可欠な機械として酷使し、その生が終わるときに鞭を入れて最後の乳を絞り出し、死体を切り刻んで凌辱を続ける。
 こんな人間、生きてる勝ちあるのか?
 そういう問い掛けを否応なく引っ張り出す極限がノーマンズ・ランドにも、深く深く潜っていく心の海にもある。
 それにしても、弟の精神をメタメタにして自分色に染め上げていく時の喜悦がトンデモナイことになってて、マジでSTAMPEDEナイヴズ超キモいな……。(最上級の褒め言葉)

 ヴァッシュを篭絡し孤独を癒やすためのナイヴズの侵食は、否応なくナイヴズ自身の内面を逆に冒し、その根本を暴いていく。
 ザジくんが賢く正しく観察しているように、プラントは人間とは異質の生態、意識、文化を持つべき別個の生命体で、どちらかが霊長として星に君臨することしか出来ない排他律に思える。
 ヴァッシュは生まれつきプラント性が弱いからこそ人間と繋がり、プラントを癒やし、ゲートを開けて始原に繋がる資質を持ちえたが、プラント性の強い独立型であるナイヴズは、人間には染まらない。
 自分と同種の尊い存在が奴隷機械の扱いを受け、有象無象のゴミが短い命にしがみつくこの星は、ナイヴズにとって不快極まりない地獄に思えるのだろう。
 ヴァッシュが人との触れ合いに傷つきながら、その渦中に飛び込んで傷ついても良いのだと納得できるのと、真逆のベクトル。
 その生理的嫌悪と憤怒、孤独と希望を結局、ヴァッシュは肯定できない。

 だから全てを塗りつぶして、何もかも書き換えて、自分の便利な道具に変えていく。
 ナイヴズに過ちがあるとしたら、毛嫌いする人間の傲慢と同じ強制を弟にぶっ刺して自覚がない所で、それは結局分かりあえず命を取ったり魂を書き換えたり、苛烈な”現実”に飲み込まれる選択しかないのだと、世界を狭く理解してしまう子供の弱さなのだろう。
 ヴァッシュが散々踏みつけにされ涙をのみ、目の前で己の無力を思い知らされ……それでもなお手放さなかった不殺と不屈。
 そんな”弱い強さ”を己の存在定義に加えられないのも、ナイヴズが(弟とは真逆に)プラントとして優秀で、超越種としての強さでプライドを支えているからだろう。
 ここら辺、世界で最も弱い”死体”になったからこそ、若造二人に道を示しているロベルトおじさんの在り方と真逆で、結構好きな描き方である。

 

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第11話から引用

 精神操作が完了したヴァッシュが異形の木や花にになっていくのは、”PLANT”という言葉の多義性をヴィジュアルが補足していて、大変好きである。
 色んな改変があるSTAMPEDE、”ロスト・ジュライ”がこういう形で終末の巨人を生み出してクライマックスに成し遂げられるのは、大変”らしい”と思うけども。
 本来ただ物言わず美しく、優しく人間を養ってくれるはずの植物が、凶暴な牙をむき出しに街を覆い尽くし、星を書き換えんとグロテスクな美しさで咲くのは、凄く良い終極だなと感じる。
 最後にワムズも寄ってきて、『ザジくんも見守ってるよ~~~~!!』と教えてくれるサービス精神とか、結構好きだな。
 活劇要素をバッサリ切り取り、キリスト教的受難と救済を少年兵へのサディズムに絡めて話の真ん中においてきた大改編に色々賛否はあろうけども、とにかくヴィジュアルが強かったところは、STAMPEDE褒められていいと思ってるよ僕は。

 ドクターも100年の妄執を無事果たし終え、ナイヴズ念願のゲート開陳新世界到来を見届ける。
 先週『可哀想なガキを切り貼りして、過酷な環境に耐える新人類を作る!』みてーな寝言をほざいていたわけだが、それが全部ウソでないにしろ、可哀想なナイヴズに背負わせてしまった十字架を下ろして、お友達がいっぱいいる場所への門を開いてあげて、自分も重荷を下ろしたかったのだろう。
 ナイヴズのキモ面がようやく暴かれたように、理性の機械として計画を推進してきた老人が、どんだけ悪意の刃を愛していたか見えてくるのは、情念の物語として大変良い感じである。
 ヴァッシュが好き過ぎて頭がおかしかったレムと、ナイヴズが好き過ぎて頭がおかしくなったドクター、救世主の継親二人が愛蔵綱引きをやった結果、異様な角度にもつれていったお話……とも言えるか。

  今回開陳され加速していくナイヴズの野望は、表面なぞると『星の新たな支配者』つうホコリ被ったラスボス仕草なんだが、根っこには弟が自分を解ってくれなかったり、クズ人間共が友達に酷いことしまくってたり、幼く善良ですらある思いがうごめいている。
 その行き着く先が最悪の虐殺なのは疑いようがないけども、人間どもがプラント犠牲にしがみつく生の、ちったぁ綺麗で尊い部分と同じものを願って、ナイヴズもドクターもたっぷりと間違えきった。
 この始末をどうつけるのか、なかなかのっぴきならない状況に頭突っ込んでるけども、見てるばっかで何も出来てないメリルのデリンジャーが、どう火を吹くのか。
 ロベルトおじさんから大人の証を受け取ったウルフウッドは、何を決断するのか。
 奇妙な旅を共に進んできた仲間が、どう”人間”の形を捨てて”PLANT”に変えられたヴァッシュに思いを届けるか含め、なかなか良い最終回一個前でした。
 次回も大変楽しみです。