イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

TRIGUN STAMPEDE:第0話『HIGH NOON AT JULY』感想

 運命の双子が天を駆け、星を巡る激浪の最終決戦、TRIGUN STAMPEDE万感の最終回……であり、完結編への第0章である。
 オイオイオイオイ聞いてねーゾ、”続き”あるってよぉ!
 トンガリ頭に戻ったヴァッシュ苦難の旅路、ロベルトおじさんの遺志を継いでタフになったメリルと新人ミリィの凸凹旅、煉獄から彼方へと届いたメッセージ、儒來喪失から始まる新たな物語。
 こんなんワクワクするしかねぇけども、それもこれもこの”真昼の決闘”が原作テイストを最後の最後で一気に取り戻し、全力全開のSTAMPEDEを暴れまくってくれたおかげ。
 楽園を求め悪鬼になった男の切ない生き様と、自由への逃走を答えに選んだ優しい天使の物語、その最後をどう感じたか、僕の感想を書いていきます。
 いやー良かったなぁSTAMPEDE……終わってねーけどなッ!!!

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第0話から引用

 というわけでお話は、ザジくんが”あずまんが大王”のちよちゃんみたいな姿勢でブンブン飛びつつ、マジ焦り忠告してくれる所からスタート。
 マジ萌えキャラだよなぁ、STAMPEDEザジ……ワムズ代表として、時代の趨勢を見届ける独特の存在感が可愛げとともに結晶してるの、スゲーいいと思う。
 完結編でもその萌え萌えっぷりを、存分に暴れさせて欲しいですね。

 キャラ萌えトークはさておき、漆黒の門を飾る美しい彫刻に貶められたバッシュに、メリルは諦めず呼びかける。
 STAMPEDEのサディズムもここに極まれりという絵面だけども、プラント技師としてヴァッシュがガラス越し呼びかけ続けてきた行いを、ロベおじからデリンジャー受け取ったメリルが叫び返す構造は本当に好き。
 望まず刻み込まれた怪物の力を、誰かに強要された殺しのためではなく、ロベおじから受け取ったタバコの借りを返すため、ようやく命を守るために使うニコラス坊やも、やっぱ好き。

 誰も殺したくないのに星ごと人間皆殺しにする道具にされて、ナイヴズが押し付けた/戻りたかった/浸りたかった二人きりの幼年期にまどろみ、尊厳を踏みつけられる。
 やっぱSTAMPEDEナイヴズの矛盾って、あんだけプラントへの暴虐に怒りつつもいちばん大事なはずの弟を、便利な道具に貶めることでしか繋がれない所にあると思う。

 それを壊すメリルの叫びは、ここに至るまでヴァッシュが進んできた歩みの送り返しで、彼は赤い決意を呼び覚ましてもらうことでなんの罪もなかった時代から進み出し、少年から青年へ、そして片手を奪われ銃を取った男へと、100年の歩みを取り戻していく。
 ナイヴズが言うとおりそこには悲惨と苦悩が山積みだったが、それでもレムから受け取った赤を総身にまとって、人とプラントと自分が流れ着いた地獄で少しでも安らかに、心をつなげる道を探してきたのは嘘じゃない。
 甘い夢、その先にある殺戮の楽土をヴァッシュに押し付けることは、子どもが大人になる必死のあがきを全部否定し、その生を無に返すことに他ならない。
 たとえ誰かに便利に使われるために生まれ、運命に翻弄されてねじ曲がった道だとしても、その歩みはヴァッシュ・ザ・スタンピードだけの物語なのだ。
 だから、ヴァッシュはナイヴズを拒絶する。
 幾度目か、女を選ぶ。

 

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第0話から引用

 かくしてコートを黒く染め直し、そしてナイーブなツーブロックからツンツン逆だった生意気ヘアーに”戻し”て、進むべき道を見つけたヴァッシュがナイヴズに対峙し直す。
 なるほどなー……この一瞬を際立たせるためのデザイン変更であり、原作っぽいケレンある銃撃戦の封印だったのか。
 『長すぎだろタメ期間! もう11話使ってTV版最終回だぞ!!』って当然叫んだけども、”この”ヴァッシュ・ザ・スタンピード復活のカタルシス、そして完結編が待ってるという”事実”で全部許した。
 三ヶ月のテレビ放送は、STAMPEDEがMAXIMUMに達するまでの長い長い準備期間だったんだよ!(暴論)

 極限までグツグツ煮立ったナイヴズの執着が、兄弟愛とも同胞愛とも性愛ともつかない、エロスとアガペ全てが入り混じった”愛”そのものだと濃く描いていく、ここまでの11話とこの0話。
 レムにしろルイーダにしろメリルにしろ、ヴァッシュを人間の側に引き寄せナイヴズから遠ざけるのが軒並み”異性”なのが、なんか独自の空気を生んでいて面白く、また切ない。
 独立型がどういう性傾向持っているのか(そもそも”性”自体があるのか)分かんねぇわけだが、傷ついた子供の形を強く宿し、そこに人間と同じ形の柔らかな魂を詰め込んで地獄に投げ出された彼らが、信念で背骨を支える大人になっていく中、自分に似て自分ではない”誰か”を求めるのは道理で。
 それがナイヴズにとってはヴァッシュただ一人であり、虐げられるプラント同胞であったのにたいし、ヴァッシュにとっては短い命を必死に生きる人間だった。
 この隔絶がどうにも相容れない断絶となって双子を引き裂き、お互い傷つけ合いながら運命の儒來決闘へと、二人を押し流していく。
 ヴァッシュにとってもプラントは同胞で、ナイヴズはたった一人の兄弟で、でも同じ道はどうしても歩めない。
 その激しさが、今までのションベン弾は何だったんだと言いたくなる超絶バトルアクションでしっかり証明されていて、俺の血液は沸騰寸前だ!
 やりゃ出来るじゃねーかOrange!

 

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第0話から引用

 黒翼の超天使と化したヴァッシュはしかし無敵の怪物ではなく、百万の悪意に撃ち抜かれて赤い血を流す”人間”のままだ。
 駆り立てられ、撃たれる側が『逃げろ!』と叫ぶ歪さに、哀れな人間は気づかないまま断罪者の刃に切り裂かれ、幾度も繰り返された悲劇が再び顔を出す。
 『天使兄弟がビルの狭間を飛び回りながら、超高速でビシバシやり合う最終決戦最ッ高ォォォオ! 頭バカになっちゃう~~~~』とか、イカれた感想垂れ流してる場合じゃない重たさが、最終決戦を前にもう一度重たくのしかかる。
 イヤでもマジ最高だったよ、儒來高速飛翔バトル……地面に足つけて弾丸と刃でやり合う屋上バトルも良かったし、最後の最後でせき止めてきた”MAXIMUM”を全力全開惜しみなし、本気で叩きつけてきたわな。

 ナイヴズが人類殲滅を誓った人の非道は、プラントにすがらなければ生きていけない過酷な惑星の定めが、補強し際立たせる悪夢だ。
 優しくいること、子どものような甘っちょろい夢を見ることを世界のすべてが拒絶する世界の中で、それでも人は夢を見て、希望を抱いて他人から奪い、奪われて誰かを憎む。
 この宿命に囚われてなお、奪われる優しい誰かで居続けることをヴァッシュは選んでいて、その悲惨さを優しくて凶暴なお兄ちゃんは見てられない。
 『俺が守ってやる』が『何もかも薙ぎ払い、奪い返してやる』になってしまう過激さは、剣として生まれてしまったナイヴズの宿命であり、ヴァッシュが不殺の花であるのと同じく、けして譲ることが出来ないスタイルだ。
 それがぶつかりあって、他人の血も自分の血も燃やしながら搾り取っていく。

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第0話から引用

 ゲートから溢れる星を砕く力を新世界への架け橋に求めるナイヴズと、自分以外誰も傷つけさせないため逃げ続けるヴァッシュ。
 ”大暴走”と”脇目もふらない逃走”両方の意味を持つ”STAMPEDE”を副題に選んだこのお話が、ヴァッシュ・ザ・スタンピードに選ばさせた道を聞き届けた時兄はとても寂しそうな顔をする。
 炎に焼かれながらナイヴズが吠える夢は、人の側から見た時の暴虐に反して天使のように優しくて、やっぱりとびきり残酷だ。
 屈辱も痛みもない、俺と兄弟が”人間”として幸せに生きることが出来る楽園をこそ、殺戮の天使は求め続けてきた。
 同じように安らかな場所を求めてヴァッシュも走ってきて、しかしお互い腕を奪い大事なものを奪い合いながら、今この暗い闇の果てで運命を奪い合うしかない。
 身を切るような切なさと、そこに至るしかない宿命が松岡・池田両氏の喉から激しくほとばしっていて、演技面でも最高の最終回だった。

 天に打ち上がりながら醜いはずの奪い合いを演じる兄弟が、それぞれの黒白片翼を寄り添わせることで”天使”の幻

を一瞬作るの、本当に残酷だなと思ったよ。
 ヴァッシュのエンゼルアームから迸る炎に焼かれて、妄執の悪鬼と化したナイヴズがそれでも、そこまで追い込まれたからこそ脳裏に思い描く、二人だけの幼い楽園。
 それがそのまま守られていればずっと天使でいられたのに、幸せな時代は遠くに終わり果てて、ヴァッシュはナイヴズを選べず/選ばず、ナイヴズはヴァッシュに寄り添えない/寄り添わない。

 その意地は彼らが自分たちの魂の叫ぶまま100年生きて、運命に蹂躙される可哀想な少年兵であることに抗議した結果……大人になってしまった成れ果てだ。
 無邪気なままではいられないから誰かから奪ったり、踏みにじられるまま逃げたり、かわいそうな子どもを新たに怪物に変えたり、たくさんの罪が積み重なっていく。
 兄弟を誰より愛していたはずなのに、同じくらい大事なものが確かにあったから、それに導かれ捻くれた旅路。
 その衝突は平和で優しい答えなんぞにたどり着くことはなく、儒來を巻き込んで強く強く炸裂する。
 街一つ消し飛ばすその衝撃よりも、『俺以外の誰かを愛して、俺を殺した罪の中を生きろ』と末期に告げてくる呪いのほうが、ヴァッシュには痛かろう。
 オメー弟のこと矛盾だらけだって吠えるけどさぁ、キミだっていちばん大事なはずのヴァッシュが選んだ共存の道を憤怒で跳ね除けて、剣の断罪者としての生き様貫いてるわけでさぁ…。
 どうにもままならないまま、ここに行き着くしかなかった二つの生き様が、今街を消す。
 本来星を消し飛ばすはずだった光がその程度で済んだのは、天使達の哀しみと祈りが空に弾けたからなのだと、知る人はいない。 

 

 

画像は”TRIGUN STAMPEDE”第0話から引用

 というわけで”ロスト・ジュライ”のど派手な語り直しも終わり、行くぞ新章完結編!
 すーっかり砂に揉まれてはすっぱになったメリルは、新人引き受けて”先輩”になる知らせを貰う。
 わざわざ忠告しに来てくれるザジくん、やっぱ萌えキャラ力高いと思う。
 レガートとウルフウッドの因縁とか、回収したリヴィオとか、使い切ってねぇ伏線山ほどあるし、人間の愚かさはとどまることを知らないし、あの時ほとばしらせた光が地球にノーマンズ・ランドを気づかせたし、もうやるしかないでしょう最終章!
 超意味深に、記憶を失い立ち尽くす男の横顔も描いちゃったしよー。
 二年後のメリルが、メチャクチャロベおじっぽい厄介女になってるのは、マジ最高ですね。

 

 

 というわけで”TRIGUN STAMPEDE”、その名に恥じぬ大暴走で見事、TV放送を走り切りました。
 Orangeの研ぎ澄まされた表現力を、弱々しくエッチにリファインされたヴァッシュをボッコボコに殴り飛ばすことに使い、重苦しく暗くスカッとしないお話に作り変えてきたTVシリーズ
 ヴィジュアルの刷新は軒並み最高にキマっていて、罪と罰の物語として”トライガン”を描き直す再解釈も個人的には納得がいき、陰鬱ながら楽しく見てきました。
 ウルフウッドにリヴィオにモネヴ、ヴァッシュとナイヴズ兄弟。
 残酷な大人に強制的に背丈を伸びさせられ、子供のままでいられなかった少年兵たちをたっくさん並べて、これでもかと言うぐらい悲惨を積み重ねる執拗なサディズム、その美しさを切り取るフェチズムは、独自の妄念を宿して力強かった。

 そんな11話を全部前奏にして、MAXIMUMなケレン満載で兄弟相克の決闘を描き、異様な興奮でぶち上がる最終回が、すなわち”0”でしかないという衝撃。
 ここから描かれる最後のSTAMPIDEが、どのようなものになるか。
 リミット無視で暴れ狂うドンパチを作品に取り戻し、身を切るような切なさはそのままに荒々しさを手に入れたSTAMPIDEが、何を描くか。
 期待しかありません。
 ”トライガン”を再解釈し今にぶっ刺す試みとしても、原作テイストを取り戻したこの先こそが描くべきものだと思うし、それは原作が持つ重苦しさ、湿り気、罪悪を彫り込む暗い愉悦に延々向き合ったTVシリーズがあって、初めて撃てる銀の弾丸だと思う。

 人間が優しくいることを許してくれないこの星で、たくさん生み出されてしまった哀れな少年兵達の魂が、一体何処に行き着くのか。
 つーかロベおじぶっ殺しておいて萌えキャラみてーなムーブかました、最新型の残酷少年兵であるエレンディラの結末を見届けねーと、俺も美味いタバコは吸えないわけよッ!!!
 完結編、心待ちにしています。
 そしてここまで素晴らしいアニメを作り、届けてくれた人たちに感謝を。
 ありがとう、楽しかった、お疲れ様!