イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

シュガーアップル・フェアリーテイル:第12話『離したくなかった』感想

 一年越しの品評回、夢叶う輝きの代償はあまりに重すぎる。
 シュガーアップル・フェアリーテイル、第12話である。
 『第2クールに続くし、一年前取りこぼした念願は叶うし、ドン底まで下げて引いても大丈夫やろ!』とばかり、衝撃的な離別で三ヶ月後に続く終わり方が、いかにもこのアニメらしい。
 アンちゃん、ブリジットさんがぶつくさ文句垂れるのも納得の主人公補正持ってるのだが、それをなぎ倒して余りある厳しさで作品世界がマウント取ってくるので、結果として甘さが飛んで少女ど根性物語が締まるという……かなりピーキーなバランスよね。
 予定調和のイベントとして課題が上から降ってくる感じもあるけど、その重たさがハンパないので、あんまダンドリ感がないというか、毎回毎回ヒドすぎるというか……。
 美しい形をした意志なきモノとして、シャルに”命令”をためらわないブリジットさんは、アンちゃんが一年前に否定した己の影。
 銀砂糖細工師として星を掴み取り、”仕事”のお話に一段落つけた代償を、奪われたロマンスをこっからどう奪い返していくのか。
 7月からの後半戦に、期待が高まる良いエピソードでした。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第12話より引用

 つーわけで工房おん出されてもまだまだ続く、陰湿で執拗な嫉妬と羨望。
 腕の証明になる自作の銀砂糖をすり替えられ、大ピンチが予想される中シャルは一人ひっそり、アンを見守る。
 過去刻まれた心の傷、どれだけアンちゃんが人間扱いしてくれても迫る『妖精=奴隷』という現実が、愛に素直になるのを禁じているとは思うのだが、一人で勝手に色々気負いすぎ、背負いすぎではある。
 職人として人間として、タフに難局を乗り越えていくアンちゃんの姿を間近に見ても、シャルの中で対等な人生のパートナーというより、守るべき幼子という意識が強いのかなぁ……。
 まぁ擦れっ枯らしの長命者と青春真っ盛りの少女という年の差カップルなので、人間と妖精の壁だけでなく、人生経験と世界観の壁も乗り越えないと、二人が真実抱き合うのは難しい。

 その断絶に漬け込むクソアマ!
 新しいタイプのカスが、このクソゲボ世界からまた算出されて驚きだよ……どんだけクズのバリエーションあるんだ……。
 シャルに合う度目を蕩かせる体温高めの発情っぷりが大変にキモいが、彼女のアンちゃんへのじっとりした反発が何処から来るかは、7月からの新章で暴かれていく感じか。
 なんか事情があってねじ曲がった感じなのか、生来そういう動物なのかはまだ判らんけども、有形無形に女を虐げ妖精を奴隷と扱う世界のスタンダードに乗っかって、自分も加害者になってる姿勢はおぞましい。

 シャルの羽にどれだけの重さがあって、アンちゃんがそれを大切に扱ってきた様子がここまで描かれた分、我が意を得たりと頬ずりするブリジットの無邪気さは、なんとも醜悪だ。
 どれだけ美しくても妖精は劣等種族であり、劣等種族であっても美しいから、心のないままモノのように差し出されても、価値が減じない。
 心を伴わない愛を投げつけられて、取引の材料としてしか価値がないとしても、ブリジットはシャルを”所有”してご満悦だ。
 それが愛ではないと、外野から観察している身からはなんとでも言えるけど、実際羽のやり取りを通じてシャルの魂と権利は簒奪されていく。
 自分を売って愛する人の夢を購う行為は、果たして愛なのか。
 ここも、今後問われる難題だろう。

 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第12話より引用

 他でもないシャルとともに、妖精と人間の真実に向き合ったことで生まれた、抽象的理念を見事に結晶させたアンちゃんの銀砂糖菓子。
 その圧倒的な美が、陰謀を跳ね除けて誠実を証明し、未来への道を切り開いていく。
 不当に主人公補正貰っているというより、全身全霊で”アン・ハルフォード”であることが結果として権力者の心を打ってる感じなんだけども、そういう事実を真っ直ぐ見れないカスほど他人の足を引っ張るもんで、ここら辺の生臭さを常時盛り込んでくる筆は好きだ。

 卑劣の極限まで自分を投げ捨てたサミーだけども、アンちゃんの銀砂糖を奪ったのは『それが美しかったから』であり、”美”に魅入られる怖さが、ブリジットとは別の角度から照らされている感じがある。
 この世界では銀砂糖細工は聖なる存在であり、人間のどす黒い妄執を跳ね除けて絶対的な”美”であるべきと、後の宣誓にも謳われている。
 しかしそれを追いかける人間はあまりにも矮小で、誰か一人正しく高潔な人がいても、その正しさを認められずに間違え続ける。
 主役には背負わせられない浅ましさと、そこから這い上がってちったぁ正しくなっていく希望を背負うのが、激ヤバ人間からフツーの臆病者へと、じわじわ変化していってるジョナス……なんかな?

 キースの敗因が具象を追いかけすぎたことなのは、彼が父の幻影に囚われすぎてここに立っているのと重なり、なかなか面白い。
 一年前、シャルやヒューに教えられて母の思い出を越えて、自分だけの夢を追う意味を捕まえたアンちゃんが、既に克服したステージに縛られていたから、彼は負ける。
 そのロジックを自分で感じ取り、当然の負けと受け止められているのが、嫉妬と羨望に飲み込まれて自分を貶めたサミーとの違いか。
 そういう人ばっかり世の中にいれば色々暮らしやすいはずだが、そうなってないのは……現実と同じだね。
 

 

 

画像は”シュガーアップル・フェアリーテイル”第12話より引用

 ようやく掴んだはずの栄光が、何を生贄に差し出されたのか。
 目元をけして描かれないシャルが必死に隠したものを、裏から教えるオメーは誰なんだよ、エリオット・コリンズッ!
 こいつのハラの奥も7月以降彫り込んでいく感じだとは思うが、まーここでアンちゃんが何も知らないまま護られる子どもの位置に置き去りだと、身悶えする時間が長くなりそうだからな……。
 エリオットの余計な一言でもって、アンちゃんは真実を思い知らされて傷つき泣いて、むき出しの現実に立ち向かわなければいけない場所へ、ようやく進み出す。
 『離したくなかった 』と、過去形で愛を語って去っていく男に、少女の涙は何を為せるのか。
 物語はまだまだ続く……。

 と、アンちゃんとシャルの問題みたいに書いてるけども、問題なのは正義の対価に隷属を求めたカス女と、その価値観を否定しない奴隷制社会だろーがッ!
 世界が変わるのは望み薄だし、そういうスケールの話でもないと思うので、カス女がちったぁまともな生き方に踏み出せるよう、今後頑張っていく感じだとは思いますが、それにしたってロクでもねぇな、この世界。

 中世ベースのファンタジー世界が、その価値観から染み出す毒でどんだけ汚れているのか、色んな角度から抜け目なく描き続けるお話も、一旦の幕。
 すんごいパンチある所で引いてきて、三ヶ月ワクワクと待てる良い構成だと思います。
 『必ず、最後に愛は勝つ』とありきたりな真実を健気な二人に信じたくとも、ままならない現実の泥はいつでも夢を汚す。
 それでもキレイなものを探して進み続ける物語が、どこに漕ぎ出していくのか。
 7月からの第2クールも、大変楽しみです。