イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

スキップとローファー:第1話『ピカピカ』感想

 ど田舎から花の都に越してきたピカピカ奇人は、どんな嵐を巻き起こすのか。
 アフターヌーン連載の高校生コメディ、堂々の新学期スタートである。
 大変良かった。
 細めの描線と涼し気な色彩が、ポップでコミカルで温かみがあるお話にしっかり噛み合って、何を描くべきなのかしっかり見据えた上でアニメ化された印象を受けた。
 青春群像劇のスタンダードな強さを真ん中に据えつつ、そのどこに焦点を当て、誰を軸に据えて自分なりの物語を編んでいくのか、確信のようなものが滲む第1話だったと思う。
 こういうハッキリした手応えのあるスタートは、作品が迷うことなく走りきってくれそうな信頼感をこちらに教えてくれて、とても好印象だ。

 

 


 

画像は”スキップとローファー”第1話から引用

 例えば冒頭、やや過剰な主人公のモノローグ(黒沢ともよの声をたっぷり浴びることが出来て、大変にありがたい)が入学への期待と不安を語った後、顔の見えない後のクラスメイト達がそれぞれ、身支度を整えているカット。
 美津未ちゃんが心躍らせる春の風が、色んな子たちにそれぞれ届いていて、クラスに集う皆がピカピカとワクワクと、ちょっぴりの不安に揺らされながら自分の物語が拓けていくのを待っているのだと、よく分かる。
 典型的な自意識過剰系変人……に見せて、能力もメンタリティもかなり特異で尖ったところがある美津未ちゃんはだけが特別なわけではなく、彼女の周囲に縁あって集うだろう人々皆が、ええカッコしいと弾む気持ちと調子外れの力みを混ぜ合わせて、学校へ持ち寄ってくる。
 その軽やかな描き方は、色んな個性が集まるからこそ面白いことが起こる学園物語に、等身大の悩みや難しさや、良さや優しさをそれぞれ持っているだろうキャラクターとの出会いに、期待を高めるのに十分だ。

 今回のお話は美津未ちゃんと志摩くんの出会いにしっかり主軸を据えて進んでいくけども、それだけにフォーカスして作品世界を狭めるのではなく、ここで描かれた顔のない存在がそれぞれの人生、それぞれの主役なのだと解るお話を、これからやっていくのだという挨拶を、このシーンはしっかりやってくれる。
 その爽やかな公平さは、美津未ちゃん主役の青春がとても広々と、心地よい場所をスキップしていくのだというワクワクを、しっかり広げてくれる。
 選ばれた特別な誰かが特別な青春を突き進むお話よりも、その足取りに歩調を合わせていろんな人々の、人生が踊ってくれるお話のほうが僕は好きだし、面白くなると思う。
 『そういう場所に向かって、しっかり進めていけるお話ですよ!』というメッセージが、作品に漂う清らかで美しい雰囲気、それを補強しつつ壊さない整った作画と美術により、強く感じ取れた。

 

 

 

画像は”スキップとローファー”第1話から引用

 そんな広々した場所へと物語を引っ張ってくれそうな、強い牽引力が主役に既に元気なのも、大変に良い。
 都合の良い妄想で頭をパンパンにし、迷って走って戻して忙しい美津未ちゃんは、しかしいわゆる”イタい子”とは書かれていない。
 確かに色々奇矯で世間ずれしていないが、未来予想図は寂れた地元をどう救うか、郷土愛に満ちて前向きであるし、やらかしたピンチを(色んな人に助けられつつ)乗り越えていけるタフさもある。
 なかなか思った通りにはいかないけども、時折見栄も張り思い込みで突っ走るけども、しかし思った以上に面白い出会いの奇跡に、するりと飛び込んでいきそうな素直さ、力強さを感じさせる。
 高校生のパンパン自意識が、世界に引っかからず空回りする様子を嘲笑し、作品に耳目を集める足がかりにしていくイヤな感じは薄くて、美津未ちゃんがあるがまま生きていたら、ドタバタコメディ……であり、彼女なり真剣な青春の日々が、自然と転がっていった感じを受けた。

 そんな彼女の天性が作品に何をもたらすのか、第一被害者となって明るく微笑むのが志摩くんである。
 爽やかイケメンに見えて微かな影を感じさせ、そこがまた魅力でもある彼は、やややけっぱちにやり過ごそうとした入学初日に奇妙な動物と出会ってしまい、一日を楽しいものにする。
 厄介なハプニング、出会いたくない面倒事と片付けても良さそうだが、志摩くんはいきなりぶつかってきた活力の権化がどういう人間なのか、この出会いがどういう変化をもたらすのか、結構素直に受け止め、ポジティブに評価する。
 今後志摩くん以外とも、このような変化が生まれていくのか。
 そうして広がっていく暖かな輪を描くのがこのお話なのかは、まだまだ分からない所だが(そうであってくれると、僕はとても嬉しい)、心地よいテンポで弾む第1話で、美津未ちゃんと志摩くんが果たした出会いは、お互いにとってとてもポジティブな変化をもたらす。

 志摩くんは謎めいたイケメンとして描かれ、いかにも甘酸っぱい恋が始まりそうな気配を背負っているけども、焦ることなくまず透明度高い友情を、元気にスキップさせに行ったスタートも好みである。
 美津未ちゃんは色んな意味でフツーではないので、恋を含めた人間関係に汲々としている一般的高校生とは、ちょっと違った身軽さで新学期を駆け出していく。
 非常にトンチキな向き合い方であるし、チャーミングな都合の良さで勝手に解釈などもするけど、遅刻寸前の駅で幸運にも出会えた人物がどういう顔をしていて、それが何を生み出していくかを直感していく。
 この、相手の魂とそれに行き逢った自分へ凄く率直に、楽しく元気に感応して、ためらうことなく自分たちを未来に押し出していく元気さが、見ていてメチャクチャ気持ちがいい。
 起こっていることはけして派手ではないけども、じんわりと人生の良い部分が照らされていくのだろうという、濁りのない期待感。
 これはとても良かった。

 

 

画像は”スキップとローファー”第1話から引用

 この住んだ空気感を裏から支えるのが、郷里・石川を描く暖かな筆で。
 美津未ちゃんを待ち受ける東京の、青く住んだ色合いとはちょっと違った、土の香りがするオレンジをベースに、彼女の人となりを既に知っている人たちが、その浅はかさや危うさ全部ひっくるめで、愛し信じている様子。
 そこに飯食ったり自分も新しい環境に飛び込んだり、確かに脈を打っている自分たちの生活がしっかり根っこを張っていて、軽やかにスキップする本筋の足を、地につけてくれている。
 『家族や幼なじみに、これほど暖かに見守られているのだから、美津未ちゃんの未来は明るいのだろうな……』と、しみじみ感じ取れる補助線がしっかり張られていることが、お話の先を見させる安心感を生み出す。
 諸星すみれボイスも最高なふみちゃんの、ガチ幼なじみだからこその穏やかで親身な語り口がめっちゃ良くて、彼女を澄んだ鏡にして主役の人徳、作品の行末を信頼できる感じだった。
 マジ可愛いので、美津未ちゃんの人生が新たな環境でどんどん拓けていったとしても、ときおり顔を出して石川の空気を吸わせて欲しい。

 あとこんだけ空気が良いとまったり落ち着いて作品が停滞しそうな所で、顔芸やら奇行やらうまーくお話を揺さぶって落ち着かせず、良いスウィングを生み続けていたのも良かった。
 必死さを嘲笑するヤダ味は全然ないんだけども、美津未ちゃんが相当な奇人変人であるのは間違いがなく、そういう素材の良さを大変いい塩梅に料理して、面白さを的確にぶん回している感じ。
 能力面でも人格面でも相当に優秀で、しかし”いい人”のフレームにはけして収まらないだろう破天荒な楽しさもあって、やっぱ主役の際立った造形がお話をグングン牽引している。
 そういう強さを力むことなく活かす語り口も闊達だし、相当良く出来た第一話、よく出来たアニメ化かな、と感じた。

 

 というわけで、大変面白い第一話でした。
 作品全体に暖かで爽やかな空気が漂いつつ、無理くり波風立たない楽園を繕うとするプラスティックな質感もなく、あるがままのびのび、作品世界を主役が駆け抜けていく心地よさ。
 そんな素敵な挨拶を届けてくれたお話が、美津未ちゃんを待ち受ける新たな出会いが、どんな風にこれから描かれていくのか。
 強めの期待を寄せても裏切られないな……と思える、素晴らしいスタートでした。
 次回も大変楽しみです。