ヴィンランド・サガ SEASON2を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
忘れたはずの思い出は、熾火のごとく灰の中で燃える。
奪い、奪われ、殺し、殺される繰り返しが、鎖を引きちぎり嵐と迫る。
女奴隷が語るのは、戦場に身を投じた末路。
老父が絞り出すのは、暴虐に膝を曲げた果て。
進むか、立ち止まるか。
運命は決断を待たない
そんな感じのよっしゃ思い出地獄絵図!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
過去は惨劇で舗装され、未来は嵐の予感に満ち満ちた、大変ヴィンランド・サガらしいエピソードである。
いやー…死人が出ちゃってる以上円満解決は難しいこの状況で、クヌートの軍勢が接収に押し寄せて組んで書この後?
険しいなぁ…。
客人の頭領として、”蛇”はガルザルを制した。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
死と暴力を売って立場を作っている以上、仲間を殺され引いたとあれば、彼の立場はない。
その冷酷な横顔は、血の繋がらぬ孝行息子としてスヴェルケルの世話をし、奴隷たちとも平らに接していた男の、もう一つの肖像だ。
どちらが嘘で、どちらが本当。
そういう話じゃないと曖昧に、多様性豊かに収めていくには、ノルド人社会は荒くれに過ぎる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
ケジメを付けなければ何もたちいかない場所で、何者かであるためには強く、厳しくなければならない。
ケティルが富で贖い、避けようとしていた暴力的社会基盤。
それがどんな悲劇を生むのか、女奴隷と老父の立場から語っていく回でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
闘いに加担する決断も、屈辱に膝を曲げる選択も、どちらも悲劇を生んだ。
嵐を前に進みだしても、頭を下げてやり過ごしても、傷跡は残る。
その上で何かを選ばなければいけないが、目の前に広がる現実は複雑で容赦がない。
惚れた女のために体を張るという、聞こえの良い英雄的行為は、ハラワタ穿ってみれば、斧を手にとって人殺しになる、ということだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
そうして果たした筋が新たな恨みを芽吹かせ、力で奪い取ったものはいつか、力で奪い返される。
じゃあ何もせず、力が成し遂げる惨劇を見ていれば良いのか。
絶対的に正しい、答えはここにはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
この難しさを前に、孤独な覇道を選んで農場に迫りくるのがクヌートであり、かつて隣り合ったトルフィンにも、道を選ぶ時が迫っている。
やるせない業の犠牲者たちが、お互いの喉笛を噛み合う現世の地獄を前に、『もう沢山だ』と誰もが思う。
しかし繰り返される悲劇を誰も望まずとも、神の愛なき世界を生き延びるために、否応なく武器を手に取る瞬間がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
そうしたら、必ず取りこぼされるものもある。
何かを選べば何かが傷つく、人間の極限。
それを前にアルネイズは心の熾火が燃えるまま、嵐へ踏み出していく。
夫が差し出す掌に、そこに刻まれた狂気と罪に、アルネイズは脅え耳をふさぐ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
暴力稼業の頭領として、身内を殺された戦士として、”蛇”がその曲刀を振るう後ろで、エイナルは斧を手に取りトルフィンがしがみつく。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第14話より引用) pic.twitter.com/KNPAv9D7Ww
狂っているから、あるいは武器を手に取ったから。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
そんな事で正しさを判断できるお優しい状況はこの曇天には何もなく、それぞれの正しさと過ちが複雑に絡み合って、のっぴきならない修羅場を編んでいる。
闘いを選ぶもの、選ばせないもの。
それぞれに必死だ。
ガルザルの意識は幸せだった過去に囚われ、自由民当然の権利として屈辱を濯ぎ、家族と幸せになるための闘いに剣を突き立てる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
しかしハタから見れば彼は狂った奴隷で、息子は死に妻は既に誰かの所有物だ。
自分の生死も左右できないのに、そこに異議申し立ては出来ない。
出来ない、とする世界事態が狂ってんだよと、近代的理性と人権意識でマトモなご意見ほざこうとも、こういう時代を経た上でそういうモンが”常識”になっているわけで、暴力と不公平がむき出しのまま絡み合ってる時代に、なにか言うのは難しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
そういうもんだと頭を下げて、巨大な力をやり過ごす。
あるいは殺さない強さを選んで、握った斧を手放すか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
どちらに加担するか、正しさの基準は理解らぬまま、トルフィンは自分と同じ人殺しに親友がならないように、斧にすがって必死に止める。
それはエイナルが彼の虚無と後悔に、血を沸き立たせながら共に歩んだ結果、生まれる決断だ。
自分は人殺しで、あまりにも悲しいことが世界には多すぎて、それでも生きてしまっていて。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
そういう混沌の只中に間違いなく立っている自分を、エイナルが思い出させてくれたからこそトルフィンは、殺させない決断へと必死に踏み出す。
それはなんの解決にもならず、確かに何かをせき止めてもいる。
そういう、ひどく判断の難しいものが折り重なって、人生やら世界やらを作っているのだという、ハードでソリッドな質感。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
ひどく”ヴィンランド・サガ”らしいものが、数話前まで暖かな喜劇の舞台だった場所で、幾度目か顔を出す。
まぁ、ずっとそういう話だったよね…。
暗い炎が燃える小屋の中で、アルネイズは己の半生を絞り出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
そういう、むき出しで危ういものを差し出さなければ、自分を慕う男を止めることは出来ないのだと覚悟して、殺され奪われ犯されてきた恥辱を、言葉にしていく。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第14話より引用) pic.twitter.com/WkEeRNMpfO
アルネイズは紛争の源泉となった鉄の、鍋釜以外の使い道を見据えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
剣に鍛え上げられ、誰かから奪い己を富ませる特別な力。
狂えるガルザルが手にとって自由を勝ち取り、そこから生まれた返り血が運命を、のっぴきならない場所へと追い込んでいく鋼鉄の羅針盤。
それを独占し活用することで、何が成し遂げられるかを作中最大級のスケールで展開しているのが、デンマーク=イングランド両王国王、クヌート殿下だったりするが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
家族と同胞の安全のため、餓えず奪われない未来のため、男たちは鉄を求める。
予防的暴力、平和のための剣。
そんなきれいなお題目がバックリ切り裂かれた時、何が生まれるかをアルネイズの悲壮な叫び声は、何より強く教えてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
それを告げられた時、トルフィンの瞳が暗い闇に飲まれるのは、自分が顔のない暴力の嵐であった過去を、その罪の重たさを、再び思い知らされているからだろう。
殺すものにも殺されるものにも、人間らしい理由があり、しかし剣を手に取るとそれは塗りつぶされて、勇者は顔のない嵐へと変わっていってしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
運命なるものが持つ暴力的側面、あるいは暴力が持つ運命的側面は、男を英雄にし女を犠牲に食いつぶす。
そういう、マッチョでシンプルな対立の話でもない
剣を握り、殺し奪う側に立ったものが何も満たされていない様子を、この物語は既に幾度も描いている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
剣を持たないものの充実を奴隷の暮らしは新たに刻んだが、アルネイズの告白は剣を持ちえない弱きものが、どれだけ悲惨な傷に引き裂かれるかを、切実に教えもする。
そこに新たな道を刻もうと刃を手に取れば、また血が流れての堂々巡り。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
共に汗を流して土を耕し、同じものを食べて笑いあった日々が、嘘っぱちだと突きつける思い出。それが鎖をちぎって蘇る中、何を選ぶのか。
いかさま、重たい問いかけである。
アルネイズは新たに宿った命を足がかりに、嵐を前に何もしない道を賢く選ぶ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
選ぼうとする。
しかし消えたはずの灰に宿った焰が、理性が正解と告げる決断を跳ね除けて、女を月下の荒野へと誘う。
過去か、未来か。ガルザルか、ケティルか。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第14話より引用) pic.twitter.com/otNaWWJE7I
トルフィンとエイナルの前では、賢く穏やかな聖母の表情をしていたアイネルズが、その胎の奥底で未だ残す熱。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
それは愛する息子を無惨に殺され、奴隷の立場に追いやられてなお消えない、人間の証明なのかもしれない。
人間らしい幸福は嵐を前に崩れ去ったが、確かにそこにあった。
その思い出が悲惨な日々の中、人が獣に落ちるのを留めてくれるのだと、例えば第1話描かれたエイナルの過去にも刻まれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
ならばそれを取り戻そうと進みだして、何が悪いのか。
言葉とは裏腹な情動に突き動かされるアルネイズには、剣を握らぬが故の迫力がある。
これに釣り合うだけの重たさを、寝たきりのジジイがずずいと差し出してくるのが、なんともこのお話らしい構図である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
闘いを選ばずとも、理不尽な嵐は幸福を砕き、耐え難い痛みと後悔に人は、強く拳を握る。
相変わらず、掌が良く喋るアニメだ
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第14話より引用) pic.twitter.com/fTKwSGIw20
ケティルが貪欲に富を求めるのも、スヴェルケルがその危うさを見据えるのも、既に終わった悲劇が背景にあった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
富者は恨みと妬みを集め、唐突な悲劇が何もかもを灰に変える。
”鉄拳”の異名を背負わない、生身のケティルの原点たるロマンスが、立場を変えて再び蘇ろうとしている。
力付くで若く美しい女の愛を奪うのも、富故に付け狙われるのも、かつてケティルを置いてけぼりに展開し、否定するべく生き様を賭した物語だったはずだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
しかし今、ケティルは無自覚に奪う側、付け狙わ得れる側に回って、人生の総決算を強要されつつある。
因果応報と片付けるには、あんまりにも…。
隠棲した老賢者に思えるスヴェルケルも、猛き一族の長として、何を犠牲に何を守るのか決断しなければいけない時代があった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
その決断が灰に変えたものを、重く受け止めればこそ富を拒絶し、土に根ざして生きることを選んで、老人は今死につつある。
しかし、何も終わってはいない。
老いと病いの床から己を立ち上げる術はなくとも、己の皺に刻まれた後悔と痛みを教え、苦悩を前に拳を握る強さが、同じものだと告げることは出来る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
そんな賢ぶった判断が、老人に己の起源を語らせたわけではないと思う。
聞いてしまった、女奴隷魂の根源に報いるには、己も同じ重さを返すだけ。
そんな理由のないものを最後の餞別と、不自由な命で唯一自由になる意思で、焔のように燃え上がる魂で、語り伝える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
そういう、一種の闘いが展開される場面であった。
Sagaを題名に刻むこのお話、”語る”って行為は重たく、大事なことだねぇ…。
無明の闇を前に、女は嵐に立ちすくむ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
奴隷が選べる最後の自由が、なんのためにどう死ぬかという畢竟にしか無いのだとしても、蘇った焔を消す手立てはない。
国家という、全てを灰燼に帰す巨大な暴力が迫る中、もう一つの烈火が月夜に燃える。
(画像は"ヴィンランド・サガ SEASON2"第14話より引用) pic.twitter.com/1Wvbr1NhPi
”自由”をサブタイトルに冠しながら、登場する者たち全てがあまりに不自由な今回。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
叢雲かかる月は道を示さず、それでも何かを選ばざるをえない定めが、運命の奴隷たちを急き立てていく。
その不自由な鎖が魂を縛り、血を流させる中で、吠え声のように綴られる、それぞれの物語(Saga)。
それは過去から長く長く続いて、誰かの物語を巻き取って未来へと続いていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
ハッピーエンドなど約束されていない、残酷で理不尽な荒野へと、人々は押し流されていく。
待ち受けるのは、ただ嵐。
進むか、立ち止まるか、選ばざるをえない強い風は、アルネイズだけに吹いてはいない。
さて、トルフィンとエイナルは何を選び、あるいは何を選ばないのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2023年4月12日
この決断だけでも重たいってのに、クヌートの王権がなんもかんも灰にするべく迫ってくるってんだから、こいつァ何とも…何とも!
ずっしり重たいこの手応えこそが、まさに作品の醍醐味である。
あるのだが、それにしたってさぁ…。