イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

江戸前エルフ:第1話『東京のエルフのはなし』感想

 所は月島、由緒正しき神社の奥座敷にそれはそれはダメダメなエルフが、悠久の時を超えてダラッダラ暮らしておったという……。
 そんな設定を最大限可愛く生き生きブン回す、下町ファンタジーが待望のアニメ化である。
 作画演出ともに気合十分、艶やかな塗りでもってキャラの魅力を最大限引き出し、気合の入った月島の背景にぴったりと、産土神に収まった不老不死の精霊が収まる面白さ。
 あまり血圧を上げすぎずローカルにハンディに、しかしけして退屈にはならない長耳神様と一緒の日々を、愉快にアニメにしてくれるありがたさを感じられる第1話でした。
 みんなめちゃくちゃ可愛くて良かったなー……。

 

 

 

画像は”江戸前エルフ”第1話より引用

 というわけで兎にも角にも、表情崩しまくりマスコット系ヒッキーエルフのキャラが強いッ!
 エルダの強烈なキャラが屋台骨のアニメなので、ダメダメで愛しい部分を全面に押し出し、奇っ怪生物としてのポテンシャルを初手からぶん回してくれて大変良かった。
 時折マジ顔しながら滲ませる、長命種ゆえの重たく面倒くさい影が良いスパイスとなり、奇妙な隣人とフツーのJKが同じ屋根の下縁を紡ぎ日々を過ごす、相互理解系日常モノとしての手触りは大変良い。
 ただクソオタクなだけじゃなく、人と間近に触れ合うほど寿命差で悲しい思いをさせられるから、触れ合うことに臆病になっているのだと第1話から書いたのは、早い段階から適度なシリアスが作品に注入されて、いい塩梅で話が締まったと思う。

 そんな面白生物の巫として、一緒に過ごしていくことになった小糸Changも元気いっぱいミーハーに過ごしているが、母を亡くした悲しみを白く美しきカミに慰めた貰った思い出を抱え、健気に生きてる側面があって。
 基本的にはドタバタ日常コメディなんだけども、時折湿ったリアリティが滲む瞬間があり、しかしそれだけが世界の真実だと決めつける重たさを上手く退けて、色々あるけど楽しい日々を描いていく。
 『エルフが生き神様として、月島の神社で400年信仰され続けてる』って、結構なファンタジーを初手からブン回すわけだが、そこに違和感や拒絶感より思わず引き寄せられる面白さを生み出せているのは、語り口の巧さかと思う。

 

 

画像は”江戸前エルフ”第1話より引用

 ぶっ飛んだ設定を上手く着地させているのは、実在の月島の最良の部分を上手くアニメに取り込む、筆の強さで。
 過ぎゆくときと継がれていくものが一つのテーマである以上、下町情緒と超高層マンションが現在進行系で同居している、古くて新しいウォーターフロント・月島はとても良い舞台を選んだと思う。
 江戸の風情を今に残し、観光地としてのキャッチーな魅力と、地元民(つまりはエルダの氏子であり、成長を見守った嬰児たち)の息づくローカルな匂いを同居させる場所に刻まれた、歴史の目撃者であり証人でもある永生者。
 そんなエルダが自分を置き去りに転がる時を疎みつつも、愛し愛されて地元に馴染んでいる様子もしっかり描かれて、月島の守護神として日々自堕落に、土地に根ざして生きている手応えはバッチリだ。

 エルダは自分を置いて育ち置いていく人間を愛しつつ、繰り返される営みに重たい寂しさを持っている。
 しかしかつて少女だった電気屋の老婆は、どれだけ時が過ぎ定めが何もかも奪い去っても、変わらず消えない証としてエルダを愛している。
 かつて雪の夜、小糸が憧れたような美しい夢から、永遠の少女へと、人がエルダを見つめる視線は移り変わっていくし、永生者が人を見つめる視線と重なりはしない。
 しかしカミとヒトがお互いを見守り、愛する思いはたしかに交わっていて、そこには代々それぞれの思い出があり、面白さがある。

 わざわざエルフを神様にして、地域に根づいた信仰と親愛の真ん中に置くからにはこういう、結構硬い理念が大黒柱として聳えるわけだが。
 ダメダメなエルダの面白さと可愛げ、それに反発しつつも甘やかす小糸との日常を活き活きと取り回すことで、大上段に構えた説教臭さが上手く抜けて、楽しく飲み込めるようになってもいる。
 そうして喉越し良くエルフとJKの営みを飲み込む中で、古くから江戸の……あるいはこの国の人たちがカミと紡いできた関係、そこから生まれてくる文化や心意気が鮮烈に、立ち上ってくる瞬間もあるだろう。
 その受け皿として、このアニメが描く月島の情景は、心地よい土の香りに満ちて、とても良い手応えだと思う。

 

 というわけで、たいへん良い感じの第1話でした。
 月島という土地の特色、そこに積み上がった文化習俗を楽しく紹介する、カルチャーエンタテインメントとしての側面もあるお話だけど、まずは軸となるキャラクターとドラマをしっかり立てて、楽しく自作を挨拶してくれるスタートとなりました。
 人間ドラマとドタバタコメディ、ローカルな手触りを生かした生活劇、あるいは楽しみながら教養を摂取する知的サプリメント
 原作が持っている多彩な魅力を、素敵なアニメにしてくれそうな出だしになって、大変嬉しい限りです。
 次回はどんな駄エルフが見れるか、非常に楽しみであります。