イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

スキップとローファー:第3話『フワフワ バチバチ』感想

 能登半島から舞い降りた可愛い奇人が、幸福な変化を穏やかに広げていく学園群像劇、スタバだ渋谷だ映画館だ! な、スキローアニメ第3話である。
 ここまで二話、チャーミングでパワフルな主役がどんな人なのか、力強く描いてきた物語。
 今回は中心軸をちょっと変えて、美津未ちゃんと触れ合うことで変わっていく側、彼女を好きになっていく側を描いていく。
 美津未ちゃん無自覚ゆえに影響力があるタイプのカリスマなので、主観から客観に足場が変わるとより鮮明に、彼女のどんな部分が他人を引き付け、より良く変えていくのかが理解ってくる。
 同時に美津未ちゃんがあんま囚われない(からこそ、影響力を持ちうる)つまんねー常識とか偏見とかが、主役と出会わなければずっとそれに囚われていただろう人を通じて描かれることで、作品世界に良い立体感が出たと思う。

 ファンタジーとリアリティが絶妙なバランスを保ち、『あるッ! そういう事は確かにあるッ!』という手応えと、『こ、こんな青春まぶしすぎるッ! 羨ましいッ!!』という憧れが、程よく同居する高校生活。
 そこで自分を自由にしきれない、脅えつつも頑なな青年たちがどんな風に生きているのか、苦しいのか、それを美津未ちゃんがどう解き放ってくれるか……。
 ここまでとは違うアングルから、微笑ましくも力強い描写を丁寧に積み上げることで、お話が描いているものがより鮮明になった。
 そこで切り取られている青春の多彩さ、複雑な人生模様の重なりも面白く、とても良いエピソードでした。

 

 

 

画像は”スキップとローファー”第3話から引用

 というわけで今回のセンター担当は、眼鏡が分厚いモッサリ系女子の久留米さん。
 偏見にピリピリ尖って過剰な自己防衛に陥っている彼女は、最初美津未ちゃんを不気味で怖い怪物として見る。
 裏番、チャラ男、ギャル。
 借り物の看板を軽く貼り付けて、あるがままの他人を見ようとしないから、眼鏡の奥の瞳は隠されたまま、自分の姿も見えやしない。
 臆病と尊大が入り混じったこの孤高は、どうにも身につまされる絶妙なバランスで、美津未ちゃんの小さな勇気がそれを解していく手付き、軽妙で心地よい笑い含めて、大変に面白い。
 ギャグが重すぎず軽すぎず、必要なだけ笑えてクドくないの、作品の大事なとこ支えているなぁ、と思う。

 久留米さんが最初思いこんでいたほど、美津未ちゃんは自分を強く確立しているわけでも、それを誰かに押し付けて自分の居場所を作っているわけでもない。
 彼女と同じように、あるいはそれ以上に、ヘンテコで優しい夢のために異郷に漕ぎ出してきた美津未ちゃんも不安で、しかしそれを好奇心とワクワクで乗り越えて前に出ることで、欲しい物を掴んでいる。
 生徒会の扉の前、進みたい気持ちを抱えて足踏みしていた久留米さんは、美津未ちゃんの行動力に引っ張られる形で、宇宙服を着て新天地に挑む。(意味深かつ的確に重い部分をちら見せして、視聴者的にも底が見えない志摩くんが”宇宙人”なのが絶妙)
 この段階で既に、美津未ちゃんにとって久留米さんは青春を一緒に旅する仲間なのだ。
 誰かを好きになるのが早くて深いのは、ホント人間としての強みだと思うね。

 

 学園生活をどう過ごすか、大事な要素である部活動にも積極的に、気疲れした身体を憧れのフラペチーノで癒やす。
 モチモチに夢中な美津未ちゃん(かわいいが過ぎる)は動物動画めいた癒やし力に満ちて、大変に可愛らしい。
 ”チャラ男”と警戒してた志摩くんの自然な気遣い、喜びや楽しさを力まず他人と共有できる資質にも導かれて、久留米さんは目の前の女の子がどういう存在で、彼女に手を惹かれた自分が何を楽しんでいるか、ようやく裸眼で見つめる。
 それは他人を思い込みで判断して、勝手に怯えて壁を作っていたときよりも、全然幸せな時間だ。

 浮ついた季節限定メニューに心躍り、友達と一緒にいるのが楽しいと思える自分が、確かにそこにいた事。
 美津未ちゃんはそれに気づかせてくれる、特別なのだと力まないまま隣にいれる、とても特別な存在だ。
 他人の心を武装解除して、なにかに囚われてる息苦しさから解き放ってくれる自分の凄さに、美津未ちゃんは全く無自覚だ。
 幼くいられた故郷の空気をそのまま持ち込んで、何かと複雑な高校生活でも余計な力みと思い込みを解いて、目の前のあるがままを心から楽しむ強さ。
 それを自分一人に留めず、どんどん手渡して周囲に広げていける力が、彼女が好きな人を増やしていく。
 それは愛される美津未ちゃんだけでなく、彼女を愛する人たちにとっても幸福で、実りの多い変化を生む。

 

 

 

画像は”スキップとローファー”第3話から引用

 というわけでBパートは、石川出身のピュアガールにすっかりズブズブにされた正反対……に見える二人が、友だちになるまでのお話。
 美津未ちゃんとのファーストコンタクトが上手く行ったことで、自分が偏見にとらわれていること、新しい体験に脅えていることを知った久留米さんが、それを足場にして別の人の素顔をしっかり見て、手を差し伸べる小さな勇気を絞り出している姿が、メチャクチャ良い。
 この歩み寄りにももちろん、美津未ちゃんはワタワタしつつもド天然間を取りもっているのだが、露骨に苦手なタイプである結月ちゃんもあったけぇ気遣いの人なことが、触れ合いが痛みにならない大事な要因である。
 あるがままの自分はなかなか他人にわかってもらえないし、そもそも自分にも見えていない。
 美津未ちゃんを鏡にすることで、世界に対し構えていた力みが抜けて、それぞれが抱えている良さが表に出て結び合う様子が、ウキウキな渋谷初体験に弾んでいた。

 久留米さんは美津未ちゃんを好きになることで、思い込みと気構えで曇った眼鏡を外して、めっちゃ気を使ってくれてる結月ちゃんの素顔を見れる。
 でもそれは簡単な道じゃなく、塩とキャラメル交互で美味いと、バクバク無邪気に食いまくる珍獣女子が無自覚な橋渡しをしてくれて、初めて進み出せる変化だ。
 高校生の人間関係は、当たり前に複雑で難しく、でもけして解体不能にこじれているわけではない。
 とびきり愉快でキラキラ眩しい特別な物語でありながら、誰もが経験する普遍的な悩みに上手く触れているのが、凄く良いと思う。
 美津未ちゃんが無敵の人格強者ってわけではなく、能登の素直な流儀を都会に持ち込んで変化を促しつつ、都会の複雑さに頭を悩ませている所が、絶妙な人間味を生んどるな。

 

 結月ちゃんもぶっちぎりな顔面強度で他人に勝手に警戒されたり妬まれたり、ガードの高い人生だったわけだが、高校初日美津未ちゃんに出会えたことで、世界がそういう人間だけで構成されていない事実を、素直に認めた。
 この変化が久留米さんへの率直な気遣いを、自分から表に出す勇気にも繋がって、二人はギクシャクを超えて仲良くなっていく。
 期間限定フラペチーノを楽しむ自分が、確かにそこにいたように。
 顔面良すぎるギャルと仲良くなる自分に、踏み出したって良い。
 美津未ちゃんが生み出した喜ばしい体験が、少女たちのなかで豊かに膨らんで、美津未ちゃんとは直接手を繋がない形で縁が繋がっていくのは、主役が主役たる理由を応用的に教えてくれる。

 

 他方ポジション取りに必死なミカちゃんは、芋系女子を見下したり素材が強い同級生にビビったり、まだまだ眼鏡を外せない。
 その隣ででガンッガン、より良い自分へと踏み出していく久留米さんが眩しいからこそ、似通って個別に違う悩みを抱えたミカちゃんの、不自由な足踏みが際立つ。
 親切な仮面を付けて他人が立つべき位置を、勝手に決めてしまう傲慢。
 それは立ち位置が脅かされないよう、棘を生やして自分を守る過剰な意識の現れなのだろう。
 志摩くんの自然な……のか、かなり冷静に計算高く生み出されてるのか、なかなか分からない気遣いも、バリッバリにキメた武装を外すには足らないのだ。

 囚われていたものから解き放たれ、あるがままの自分でいる。
 そんな小さく根源的な奇跡をもたらすのは、やっぱり超絶ピュアな変人主人公で、さてどんなふれあいが彼女を変えていくのか。
 ミカちゃん攻略エピが、今から楽しみである。

 こんだけイノセント無双ぶっこむ主役なら、逆にエグミ出てきそうな感じだけども。 
 美津未ちゃんマージ可愛い奇人面白珍獣すぎて、そういうありきたりな判断から上手く距離取ってるの、良い造形だなぁと感じる。
 とにかく一挙手一投足が的確に面白くて、『ああ、こんな子が隣りにいたら人生楽しいだろうな、いい方向に転がっていくだろうな』っていう肌感覚が、自然と染みる。
 そう感じられるようキャラを造形し、世界観を作り込み、ドラマを編んで雰囲気を創るのは大変なことで、高校生たちが悩み翻弄されている『自然である』という意味を、別の角度から教えてくれる。
 創作が作り事である以上、そこに漂う”自然”とは細やかな配慮m山ほどの試行錯誤の産物でしかなく、水面下のあがきと力みを見てるものに感じさせず作り切ることで、このナチュラルな楽しさが成立しているのだ。
 『自然である』とは、かくのごとく難しくも楽しい。
 作品が纏う語り口と物語の真ん中にあるテーマがしっかり重なっていると、独自の手応えと推進力がアニメに備わって、見てて楽しくなるよね。

 

 

 

 

画像は”スキップとローファー”第3話から引用

 そして最後、主人公にカメラが戻ってきて漂う、甘酸っぱく爽やかな恋の風。
 土地の記憶が人と結びつくのなら、志摩くんと一緒に歩いたからこそ好きになれる渋谷とはつまり……つまり……つまりッ!!!
 甘やかな乙女心を詩学の暗号に乗せて、運命に導かれ出会ってしまった素敵な二人が一体どうなっていくのか、幸福にヤキモキさせる種まきも、最高にブン回る。
 久留米さんを主役に、週間で世界が歪んだりそれが開放されたりをたっぷり書いた最後に、美津未ちゃんの主観で志摩くんがどう見えているのか、その背筋がどれだけ颯爽と伸びているのか、教えてくるのは強い見せ方だ。
 未だ名前はつかずとも、塩屋の里に恋の花……。

 賢く周囲を見渡して、ズルく先回りする生存戦略を選んでるミカちゃんが、危惧する恋の芽生え。
 ミカちゃんにとって志摩くんは権力のアクセサリであって、イケメン彼氏を手に入れクラス内ヒエラルキー上位に君臨することで、誰にも揺るがされない安心を求めている。
 でもそれは、ただただそこに在る志摩くんを見ない、ということだ。

 美津未ちゃんはあるがままの自分をトンチキな手触りで無防備に……でも繋がる難しさに確かに震えながら差し出して、色眼鏡なしで相手を受け取る。
 自分を愛してくれた人がたくさんいるから、人生賭けて恩返ししたい故郷と同じように、その素顔があまりに眩しい少年と歩いたから、多分好きになれる渋谷という場所。
 そこに立っている自分自身が、どんな奇跡の隣りにいるか気づかないから、美津未ちゃんは特別だ。
 でもいつか、自分を取り巻く風に色を付ける心の高鳴りが、どんな名前を持っているのか、美津未ちゃんに気づいて欲しい。
 そうして始まる物語は、この素敵な子達をもっと幸せにしてくれるだろうから。

 

 そんな事を思わせる、素晴らしい春の夢でした。
 美津未ちゃんから物語の中心をちょっと離して、久留米さんの曇った眼鏡を外し、結月ちゃんとの触れ合いを通じて生まれる変化を描き、そして美津未ちゃんに戻って終わる。
 ドラマがどう転がるか、コントロールが精妙かつ自然で、コクと奥行きのある楽しさを力まず楽しませてくれました。
 周囲に好ましい変化を広げる美津未ちゃんの強さが、能登の美しい風景に育まれたのだとそのオリジンがしっかり書かれているのが、人格無双ジュブナイルに納得与えてくれてて良いよなー……”強さ”に素直な理由がある。
 次回も大変楽しみです。