イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

【推しの子】:第3話『漫画原作ドラマ』感想

 キラキラとドロドロが交錯する青春ステージサスペンス、第3話は元売れっ子子役と最悪現場に殴り込み!
 自分から暗い所に踏み込んでいくアクアを補うように、健気で可愛く面白い超絶ヒロイン・有馬かなちゃんの本格顔見世回である。
 『よーし……見た人全員に、かなちゃんを好きになってもらうぞッ!』という気合が総身にみなぎり、良い作画と演出でボコボコぶん殴ってくるパワー勝負を動画工房がしかけてきた。
 その戦い方(スタイル)……めっちゃ正しいよ。
 可愛かったなー、アニメのかなちゃん。
 アクアの抱え込んでる重たい闇に、上手く光を投げかけ笑いを作り、メチャクチャいいバランスで必要な栄養素を足してくれてる感じ。
 作中でも分を知り作品を大事にする名優に育っているけど、メタ領域から見てもこのお話を成り立たせる仕事を任せられる、とても良いキャラだ。

 

 

画像は”【推しの子】”第3話から引用

 僕はこのアニメの目の描き方が、とても好きだ。
 怪物アイドル・星野アイから継がれた血が、赤と青の星として宿ってる双子……だけでなく、全霊を大嘘付くことに注いでいる才能たちの動向には銀河が宿っている。
 とても複雑な色合いをして、綺麗にまばゆいその色合いは、青春群像劇と仄暗いサスペンス、芸能界お仕事体験期と下世話な暴露話が入り混じってる、作品自体の複雑さを象徴している。
 イケメン山盛りキラキラドラマの奥では、感じ悪い現場の湿った空気と、低きに流れようとする作品を必死にせき止め、せめて良いものを作ろうと足掻く個人がせめぎあう。
 輝く母との思い出は転生者が一瞬夢見た嘘で、血まみれに汚れた後は復讐を囁く呪いで、その道具と割り切っているはずの芝居仕事に、気づけば血が熱くなっている。
 そんな複雑さはアクアに一番色濃く、白目を鏡に現場全部が反射する細やかさで焼き付けられているけども、主役の専売特許ではない。
 艱難辛苦を舐め尽くしてなお現場にしがみつく、かなちゃんの瞳にも複雑な色の銀河は広がっている。

 そこには『世の中こんなモンだよ』を山盛り当てこすってくるニヒルな作風に反して、瞳に銀河を宿した一個人にこそ世界の全部があるのだとする、捻くれたヒューマニズムが反射している。
 必死に何かを愛したからこそ、惨めな状況でも顔を上げて頑張れる。
 本気で愛された思い出があればこそ、知謀を巡らしコネに頼り、母の死の秘密に迫ろうとする。
 瞬く星の高みか、ドス黒い絶望の底か。
 ベクトルは違えど、遠い場所へ人を導くのはあくまで人間の中に眠っている大きな宇宙であり、それがぶつかり炸裂する大きな器として、嘘を商売とする芸能ビジネスがある。
 そしてその情熱は巨大過ぎる夢売り稼業の現実に飲まれ、揉まれ、儚く消えたり、叩き潰されもする。
 そんな自分が選んだ物語への視線が、瞳の中の銀河には色濃く宿っていると思う。

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第3話から引用

 とにかくかなちゃんの存在感がビカビカ瞬く今回、コメディにシリアスに八面六臂の大活躍、初手から好感度高めにグイグイ来るちびっ子美少女に、俺らの心はメロメロだ!
 アクアが人生二回目の復讐鬼で、何かと老けてて暗いため、子役時代に人生の苦味を噛み締めたかなちゃんも老成してる部分があって、釣り合い取れているのがいい感じだ。
 アクアが二度目の人生人殺しのために捧げて、後ろ向きに暗い階段降りているのに対し、かなちゃんは大きめの挫折にふてくされることなく、落ちぶれた自分を直視しながらまだまだ這い上がるのだと、タフに明るく生きている。
 おんなじ年不相応の成熟でも、狭く閉じて暗い場所を目指すアクアと拓けて眩しい高みへ進むかなちゃんは真逆で、でも根っこの部分では芝居への真摯さ、引力を引きちぎる熱さが繋がっている。
 かなちゃんが手を差し出し握ってくれることで、壁のない拓けた場所を見せてくれることで、アクアは一人抱えた秘密の殺意にだけ絡め取られず、自分がやりたいと願うことに進んでいける。

 こういう人生の触媒としてのヒロイン力が今回大変元気で、かなちゃんがお話にいる意味をしっかり浮かび上がらせる回だったと思う。
 才能がない、復讐のための道具にすぎない。
 シケた言い訳を並べて、燃え盛る殺意と確かに同居しているピカピカな夢から目を背けようとしてるアクアの事情を、かなちゃんは知らない。
 知らないながら、幼い陽たしかに自分を撃ち抜いた才能を今でも信じて、ウザいくらいグイグイ手を引いて、一緒に進んでくれる。

 それは透明度の高い無私の献身ではなくて、世知辛く濁ったトホホな奮戦記ではあるのだけど、苦労がいい感じのウェザリングになって、キャラの魅力を上げてもいる。
 ツルンと清潔ピカピカな手弱女ではなく、ギャーギャー騒がしいコミカル小動物だからこそ、わきまえたふりでメラメラ健気に燃えてる野望とか、夢を語る時の眩しい笑顔とかが、ズバッと刺さるのだ。
 ただのネタ要因では終わらない、青春の伴走者である可憐な爆弾でもある有馬かなの重層的な魅力で、視聴者をグイッと引き付けていたのは良かった。
 ここら辺、ビッグプロジェクト故のスケール感、圧倒的な質を大変正しい角度で、思いっきりぶん回せてる感じがある。

 

 

 

 

画像は”【推しの子】”第3話から引用

 かなちゃんが泥の中に叩き落されてなお光を目指す星の子ならば、アクアは燃え盛る炎を隠して闇を這う怪物だ。
 サスペンスフルな場面でも作品の室の高さは最大限発揮発揮されて、かなちゃんが放つ陽性のオーラと噛み合い、いい感じの緩急を生み出す。
 世界がフッと暗くなり、大人のドス汚れた事情とか、転生高校生の抱えた感情とかが溢れ出す時の重たさが、しっかりした質感を持っていること。
 プロデューサーがかなちゃんの純情を踏みにじりながら、現場をナメた寝言ほざいてるシーンの歪み加減と重量感、めっちゃ良いもんな……。
 この暗さをちゃんとやることで、明暗入り交じる多層的エンタメのポテンシャルも、マキシマムでブン回るってもんよ。

 僕はアクアがネジ曲がってキモい、あんま主人公っぽくない主役なのが好きだ。
 患者であり推しであり母でもあるアイとの関係が、理不尽極まる殺人で断ち切られて魂ネジ曲がり、転生者の知性を活用して仇を追い詰める闇の住人になった。
 そのための道具に思えるキラキラ二度目の高校生活は、ぶつくさ文句言いつつも楽しくて、新しく家族になった妹にも、最悪使い潰して見捨てなきゃいけないかなちゃんにも、情を寄せて身を乗り出す。
 ハンパな復讐者で、役者を夢見る人間をやめれない、賢い怪物。

 復讐以外はどうでもいい、自分も含めて全部は道具。
 最悪に大人びたニヒリズムに身を投げているようで、高校一年生という入れ物にふさわしい熱が残ってもいて、ぶっきらぼうな態度から漏れるその暖かさが、かなちゃんに届いて引き寄せてもいる。
 自分自身本当はどうなりたいのか、転生者の冷徹な知性でなんもかんも解りきっているように見えて、その実一番ブレてるキモさが、僕はやっぱり好きだ。

 復習に取り憑かれてしまってるアクアは、あらゆる人を容疑者として見る。
 コネで仕事をねじ込みゴミ捨て場を漁る、卑しい所業を己に押し付けてでも。
 他人を仇候補か便利な道具としてしか見ない、最悪の生き方に汚れてでも。
 やらなきゃならないことはある……のに、良いやつが蔑ろにされると魂が燃え出すし、芝居をナメてる輩がいるなら、メチャクチャやってかき回したくなる。
 そういう揺れる人間味が、かなちゃんが全身から放つ澄んだ光に面白く照らされて、いい塩梅に主役キモかったです。
 命を救う医療従事者っていう、生前のアイデンティティ全部投げ捨てて聖なる殺人者になろうとしてるのも、最高にキモいんだよなぁ……。

 

 親を殺されようと、夢が破れようと、二度目の人生だろうと、嘘と秘密に塗り固められていても。
 夢を追い、願いを叶え、まばゆく輝く権利はあらゆる人にある。
 あるはずだ。
 しかしアクアが引きずり込まれた暗い運命も、復讐を果たすために飛び込まなければいけない芸能界も、そんなピカピカな綺麗事では動いていない。

 望みは叶わないし、良いやつほど報われないし、何もかもがシケた最悪の中でなんとなく終わっていく。
 そんなもんだ。
 そういう現実的な諦観はあくまで前フリで、思いの外熱血なキモ主役の奮戦でもって、世界は明るく拓けていくってのが、熱血芸能ストーリーでもあるこのお話の、見てて面白いところだ。
 そしてそうやってピカピカ、泥の中の星を拾い集めた所で、しょせんは血塗られた復讐譚。
 嘘にまみれた不自然な転生に、それでも輝いて見える絆と夢は、雨漏りのする煤けた現場でどんな炎を上げるのか。
 次回も大変楽しみです。