イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

君は放課後インソムニア:第4話『天津甕星 金星』感想

 素敵なものにたくさん出会って、ようやく少し眠れるようになって、でも世界は星ばっかりじゃない。
 君は放課後インソムニア、曇り模様の第4話である。
 ここまで伊咲ちゃんと出会い、理解ある顧問を得て天文部の部長になり、ぶっきらぼうでオモロイ先輩とも知り合って、丸ちゃんを苦しめるインソムニアはあんまり出番がなかった。
 しかしそれは消え去ったわけではなく、当たり前の風景の中にゴロゴロ渦を巻いていて、修学旅行や夏休みが近づく中でさて、どうなることやら……というお話。
 天文部以外の交友関係とか、ひっそり熱を上げていく恋の予感とか、素敵なものもたくさん描かれて、色んなモノが世界にはあって、その中で丸ちゃんが何に喜び何に怒るのか、相変わらず焦らない筆致でしっかり描いてくれるのが、とても良かった。
 淡々とシーンを積み上げているように見えて、その一筆一筆がキャラクターや物語を自分に引き寄せ理解していく助けにしっかりなってくれて、噛みしめるように視聴できるアニメで好きだ。
 こういうお話とゆっくり友達になっていくアニメは、やっぱ自分的にしっくり来るな……。

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第4話より引用

 つーわけで能登半島の夏も深まっていく季節、若人たちは眩い青春の渦中にいる。
 伊咲ちゃんや丸ちゃんがお互いからちょっと離れて、二人でいるときとは違う空気、違う笑顔に包まれている様子を見るのは、すっかり彼らが好きになっている自分としてはありがたいことだ。
 偽装優等生として沢山の友達と、明るく朗らかに日中を過ごせている伊咲ちゃんと、受川くんだけと隣においてなんとか昼をやり過ごしている丸ちゃんの、生き方の違いもよく見えてくる。
 しかし二人の青春に優劣はなく、皆それぞれの形で幸せに過ごしていて、その多彩な豊かさが初夏の涼風によく映える。
 天体観測をテーマとするお話なので、四季の移り変わりが背景に上手く馴染み、ゆったりと流れていく時間を肌で感じ取れる作りなのも、僕の好みだ。

 女子グループの青春ど真ん中感もいいけども、とにかく受川くんの人間力に優しく包まれて、天文部と並ぶ主人公魂の受け皿になっているボーイズ距離感が、やっぱり好きだ。
 受川くん本当に良いよなー……長年ツルんできて遠慮は一切なく、しかし何かと難しい生き方してるダチが見つけた新しい喜びがもっと大きくなるよう、時に茶化し時に気を利かせ、丸ちゃんを後押ししてくれる。
 この青年が隣りにいてくれることで、ギリギリ眠れない日々をやり過ごしてきた丸ちゃんが、どういう子なのか見せる描写も分厚く細やかで、たっぷりとキャラを浴びれる。
 生真面目にノートを取り、『ちゃんとやる』ことに拘って星景撮影に勤しむ様子が、逆に彼を追い込んでいるんだろうと伝わるところとかね……。
 カニちゃんが無茶苦茶ライバル意識燃やしてる成績優秀っぷりが、丸ちゃんにとっては当然やらなきゃいけないものであり、染み付いているからこそ抜け出せない生き方でもあって、その息苦しさに誰が風穴を開けるのか。
 めっちゃイチャイチャしてる伊咲ちゃんとの時間が、その答えを教えてもくれる。
 き、君から行くんだ……いいよ丸ちゃん、凄く良い。

 勝手知ったる他人の家、アオハルの嵐をぶん回して家主が入りにくい状況で、賢い猫が出迎える。
 こういう小さなチャーミングを、時間使って全部切り取ってくるのがこのアニメの呼吸だ。
 それは息苦しさを抱えたまま大人と子どもの狭間にいる青年たちが、どこにたどり着くかという大きな物語にはあまり関係なく、しかしちゃんと描かなければいけない場面として選び取られている。
 そういう時間感覚、価値判断がゆったりとしたペースの裏に硬く感じられて、『こういう一見どうでもいい場面にある幸せが、これから待ち構える人生の小さな難しさを乗り越えていく時、力を分け与えてくれるのだろう』という予感を生む。
 これはここまでの三話、丸ちゃんと伊咲ちゃんの小さな、しかし大事な苦しさが出会いと決断のなかしっかり優しいなにかに包まれて、確かに良い方に転がっていった様子を見させてもらったから、生まれる予感でもある。
 そういう安心感と期待感があるアニメは、やっぱりいいアニメだと思う。
 猫の描写も、毎回最高可愛いしね……。(動物の描き方がいいアニメがとても好き人間)

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第4話より引用

 というわけでスーパー丸ちゃんタイムですけども。
 なーんでこの、黒縁メガネ三白眼太眉性格ネジ曲がり青年がこんなに好きになってるか解んねぇけど、土管の中で猫っぽい姿勢を取る丸ちゃんも、カニちゃんのライバル意識をするーっとやり過ごす優秀丸ちゃんも、どんより曇りだした空に鬱屈と憤怒を抱えた丸ちゃんも、全部最高に良い。
 彼が不眠に追いやられただろう世間の当たり前を、無遠慮に振り回す人たちが近づいてくると空が曇りだして、そういう息苦しさからの脱出口であるカメラレンズを星空に向けれなくなっていくのが、なかなか面白いシンクロだ。
 上から説教垂れる先生のあるある感が、丸ちゃんがなぜ眠れないかを凄く身近に感じさせてくれて良かったし、やる気ね~不良少年に秘められたアツい魂が強火に燃え上がって『これをよ……いつでも俺は待ってるのよ……』という感慨があった。
 クールボーイが燃え上がっちまう瞬間、ホント大好き。

 丸ちゃんは、『ちゃんとする』事に呪われていているように見える。
 それがどこから湧き出すのかは、彼の過去や家庭環境……高校一年生に15年分確かに刻まれている”歴史”を見れていないから、確たることはまだ言えないけども。
 生活指導という形で、世間一般に流通する『ちゃんとする』正しさを凄く無遠慮に、苦しんでいる人の顔を見ることもないまま押し付けてくる態度に、丸ちゃんは凄く苛立っている。
 それが烈火のごとく突然燃え上がるから、丸ちゃんは粗暴で不真面目な『ちゃんとしてない』子どもだと誤解されてしまうけども、その奥には教師がブン回す無遠慮な正しさではなく、自分含めた人間が何に苦しみ、何に救われているのか、肉眼で見届けて欲しいという強い思いがある。
 それが彼を、眠れない夜に閉じ込めてもいるのだと思う。

 でもその怒りは、世界がもっと優しくなって欲しいと願い、優しくない世界の中で自分は優しく、曲伊咲に隣り合いたいと願うから湧き上がる。
 形式だけ守って上から説教していれば『ちゃんとしてる』認定が受けれる、その実まったく『ちゃんとしていない』世間に強く苛立っている。
 それはとても正当な、大事な怒りだと思う。
 これを”正しく”押しつぶされてきたから、この太眉ボーイは厄介に捻くれた高校一年生に育ったのだとも思うけども、受川くんや倉敷先生、白丸先輩といった人たちに見守られながら、彼なりの『ちゃんとする』をたくさん見つけ、形にしていって欲しい。

 

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第4話より引用

 『その手助けを一番分厚くブッこむのは、この素敵な女の子!!!!』ってのを、最後に猛烈に叩き込んで第4話は終了である。
 もう……もうさぁ!!!!(語彙蒸発)
 『ちゃんとしてない』自分と『ちゃんとさせてくれない』世界に苛立ち眠れない時、何かと暗く下がりがちな視線を強引にハネ上げて、笑顔を強制的に作り色とりどりのてるてる坊主を、天文台の中に輝く星空を見せてくれるのは、曲伊咲なんだよなぁ……。
 生きることの鬱屈に引きずられる丸ちゃんの視線が、上に向くと何かが上手く行きそうに思えるのは、天体観測のお話として正しいベクトル操作だよな。
 それはカラフルで、眩しくて、綺麗なのだ。

 丸ちゃんは一番身近に輝く星座として曲伊咲を見つめ、受川くんに茶化されて体温跳ね上げたり、苛立ちを収めて安眠したりするが、その心音と体温が伊咲ちゃんにとってもまた、地上の星なのだとお話は描く。
 もう……もうさぁ!!!!(語彙蒸発リターンズ)
 生命の源が強く鳴っていることに安心を覚える描写は、伊咲ちゃんの眩さに”死”の影を感じ取ってしまう自分としては微かに不安でもあるが、しかし若人二人が青春に隣り合う軌跡は、確かに天文台に星を描くのだ。
 出会いが恋になっていく温度変化を、大変丁寧に味あわせてくれてありがたい限りです。
 可愛い二人がとても幸せになっていくことを、僕は心から願っています。

 

 修学旅行や観測会がどうなっていくか、曇天の行方は定かならずとも、ただ暗いばかりが人生じゃない。
 そう思えるものとようやく出会えたからこそ、本気で怒れる青年の血潮を、心地よく感じられるエピソードでした。
 丸ちゃんがアツいのやっぱ好きだな……彼を本来のアツさに戻す伊咲ちゃんも好き。

 何しろタイトルに”インソムニア”入っている以上、苛立たしい不眠の原因を書くのは大事なわけで、そういう意味でも良い話数でしたね。
 唯一天孫の権威に背いた天津甕星の名を、無遠慮な大人が押し付ける正しさに反抗する回のサブタイトルに選ぶの、俺はスゲー好きよ。
 丸ちゃんは宵の西空に輝く、若く美しき反逆者の星なんだなぁ……。

 鬱屈したパンクスが少女の手を取り、晴れ渡る自分だけの空を探す物語。
 次回もたいへん楽しみです。