イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

スキップとローファー:第5話『チクチク いそいそ』感想

 六月初頭!
 新たな環境に魂も馴染みだし、出会いの萌芽が瑞々しい色合いですくすくと伸びる中、屈折した感情の行き場を探す女がいた!
 外面気にし過ぎ牽制しまくり、ちょーっと嫌な子として書かれてきた江頭ミカ、その魂に優しく触れていくクラスマッチ回である。
 大変良かった。

 ナチュラルに人生の正解をつかんでしまえる美津未ちゃんの、パワフルな人生藪こぎを気持ちよく体験させてもらえるこのお話で、ミカちゃんの屈折は異物感が強い。
 しかし考えてみれば、僕らのほとんどは美津未ちゃんのようには生きられず、ゴキゴキねじ曲がったコンプレックスに縛られ抱え込み、作りに作った何かを恐る恐る差し出しながら、不安定な居場所をぎりぎり確保している側だ。
 だからこそただただ真っ直ぐ進んでいける美津未ちゃん快進撃にスカッとするわけだが、既に描かれているように美津未ちゃんもそれなり以上の痛みや脅えを抱えた上で、成すべきことに進んでいる普通の人間である。
 同じようにミカちゃんも主人公が乗り越えるべきイヤな書割なんぞではけしてなく、彼女なりの過去と苦しみを経て自分を鎧を作り、必死にいろいろ考えながら生き延びている。
 そこには人生を戦ってきた者特有の傷とかさぶたがあり、それが分厚く重なって出せない……でも本当は出したい自分があり、そういうモン全部ひっくるめで高校一年生、必死こいて前に進んでいく。

 

 

 

画像は”スキップとローファー”第5話から引用

 時間と場所を超えて同ポジで描かれ続ける、置いていかれるものの視線。
 それは美津未ちゃんや志摩くんのようには生きられないと、彼らが開いていく明るく素直な世界には追いつけないのだと、諦めてなお背中は向けられない視点だ。
 眼の前に広がっている素敵なものに、素のままの自分ではけしてたどり着けなくて、節制を重ね体面を作り、憧れに近づこうと必死に努力しているモノの視界だ。
 その寂しさと惨めさと、それでも見つめたち続けるあり方がどういうモノなのか、積み重なる背中はすごく静かに、しかし豊かに江頭ミカの現状を語る。
 そこには傷つけられてなお這い上がって、なんとか青春を生き延びられる自分を掴み取ろうともがいている、奮戦と尊厳が確かにある。

 選ばれた主役が、見ているもの全てが『はようくっついてくれ……』と思える超ピュアラブリーカップルが、突き進んでいく場所がどうしても遠い脇役……と、充実した外装で身を守りつつ自分を位置づけてしまう、ちっぽけな等身大。
 小学校の教室でミカちゃんを貫いた痛みが、そこに固定してしまった寂しい遠さから、高校一年生の彼女がなかなか動けない現状を切り取りつつも、そこに蔑みの色はない。
 主役が体現するナチュラルな幸福をお話の真ん中に据えつつも、そこから離れた影に縛られ、だからこそその引力に惹きつけられて、ちょっとずつちょっとずつ自分を前に進めていくしかない少女の背中を、真摯に見つめながら描いている。
 それは、とても優しく靭やかな目線だと思う。

 

 

画像は”スキップとローファー”第5話から引用

 この鋭い視力は詩情を切り取るのにも活用されていて、春の温もりが去り初夏の涼しさが風に宿る頃合い、美津未ちゃん達がどんな風にクラスマッチの準備を頑張ったか、たんぽぽの綿毛が散る速度でしっかり教えてくれる。
 ここマージで最高に良い演出で、最高に好きで、最高だった。
 ここまで嫌味な外面で覆い隠してきた/柔らかな中身を守ってきたミカちゃんが、飾ってられない本気の練習を通じて地金を出してきて、その熱気が美津未ちゃんにビシバシ伝わっていく感じもモンタージュによく宿っていて、のちの大きな変化の下準備をしっかり作ってくれる。
 緑の情景が美しく描かれていることが、豊かで甘やかな感情が瑞々しく踊る季節、そこでそれぞれの個性や感情をぶつけていく子ども達のキャンバスとなって、とても素晴らしいものを焼き付けてくれるのは、見ていてとても幸せなことだ。
 ほんっとにこの、綿毛の青春時計は最高に良かった。

 

 

 

 

画像は”スキップとローファー”第5話から引用

 ミカちゃんは等身大に生っぽく歪んだ感性の持ち主だが、美津未ちゃんのピュアな正解力を恨みつつも、自分と彼女にどんな違いがあるかを、真っ直ぐ見れる素直さをまだ残している。
 暗い感情にとらわれひきずられる自分と、幸せなありがたさをまず見つける美津未ちゃんが見ている世界のギャップと、それが生み出す未来の違い。
 そこに目が行くのは、出来ないとしてもなりたいと、光の方を見つめ続けていたからだろう。
 だから高く見上げる綺麗な人たちは、光にあふれて遠くて眩しい。

 ミカちゃんはついに分厚い鎧を外して、僻みっぽく後ろ向きな地金を美津未ちゃんの前に晒す。
 その暗さを前に、美津未ちゃんは声を少し上ずらせながら、ミカちゃんが自覚していない光が自分なりの努力の中、生まれていたことを伝える。
 時が立っても、分厚い鎧で覆っても、メリメリと音を立てて蘇ってくる怒りを原動力にして、自分を変えてきた時間。
 それは意味と価値があって、善いものとして自分に伝わっていたのだと教える時、美津未ちゃんがボールを持っている。
 やっぱり彼女は知らぬまま、手渡す側に常に立つのだ。
 そうして手渡されるものに心を揺さぶられて、凄い素直な……多分他人の前にあまり晒したくなかった表情を追いかけるように、高くて眩しい場所に立っていた人たちが近くに降りてきて、友達の顔をする。

 否、ずっと友達だったのだ。

 美津未ちゃんが投げたボール、ミカちゃんが『それを私に手渡してくれ』と、キッツい態度の奥でずっと求めていたモノは、前向きな貪欲さでポジティブに、風通し良く関係を作っていくクラスの中で、既に息をしていた。
 今この瞬間急に生まれたわけではなく、背中を丸めたまま怒りに震えたあの瞬間からミカちゃんが積み重ねていたものが、岩倉美津未という存在と触れ合うことで……イヤイヤながらミカちゃん彼女に手を伸ばし、素顔をさらしたことで、新しい意味へと再構築されたのだ。
 そういう奇跡が、当たり前のように生活の中には確かに宿っている。

 美津未ちゃんの飾らぬ言葉が鎧を崩して、ミカちゃんは少し身軽になる。
 自分と同じ視線に降りてきた顔面兵器に、臆することなく、まるでマブダチのように気さくに話しかけて、既にマブな距離感で片手ひっ捕まえてる久留米さんと同じ距離感で、四人が向き合っていく。
 それは傷つきやすい……というか既に死ぬほど傷ついている自分が、抱え続けるには無理があった計算高さを投げ捨てて、もっと気楽で自然で、つまりは憧れ遠くに見続けていた美津未ちゃんと似通った姿勢で、こっから先を歩いていくための姿勢だ。
 そういうところにミカちゃんが行けて、そこに何も考えず美津未ちゃんが手を引いたのが、凄く良かったなと思う。
 マジでみんな幸せになっていって欲しい。

 

 

 

 

画像は”スキップとローファー”第5話から引用

 というわけでクラスマッチ本番、髪をいじり合うほどに間合いを詰めた四人は既に名前呼び。
 ああ、関係性変化のダイナミズムは爽やかな風を呼び、みんなとびきり可愛いねぇ……。
 分かりやすく記号化されパッケージされた味わいではないんだが、生活の中でじわっと滲む可愛げを素朴な味わいのままアニメに焼き付けようとする努力が分厚くて、一瞬一瞬ニヤニヤネチャネチャ出来るのは大変ありがたい。
 ほんとなー、色んな可愛さを頑張って積み上げているのが心地よい笑い、コメディとしての火力にも繋がってて、ここ頑張っているのは大変良い。

 そしてラブコメディとしての顔も持つこの作品、美津未ちゃんが志摩くんを見つめ志摩くんが美津未ちゃんを見つめ、しかし人混みに紛れてその視線が正面衝突はしないヤキモキを心地よく食わせてもくれるッ!
 人生の達人と思える美津未ちゃんも当然、他人の心の中も人間の正解も解ることはなく、しかし自分がするべきだと思ったことへ真っ直ぐ、小さな勇気を抱えて突き進む。
 だからこそ触れ合った人たちの人生が心地よい影響を受けて、より良い方向へと進んでも行くわけだが、ではそんな彼女が人間として、気後れに震える瞬間はいつなのか。
 その答えが、この錯綜にこそあるッ!! というわけよ……。
 ミカちゃんが一方的に、輝きの前で立ちすくむ背中が印象的だからこそ、ここでお互いを見つめながら気づくことのない二つの視線が、ググっと際立ちもする。

 

 

 

画像は”スキップとローファー”第5話から引用

 一度は背を向けたこの距離感に、美津未ちゃんを向き直らせるキッカケが兼近先輩なの、面白いし上手いな、と思う。
 Aパート15分ですっかり、”イヤな子”だったミカちゃんが何を抱え何と戦い何から開放されたか理解らされちまったように、無遠慮でヤバい先輩である彼にもまた彼なりの人間味があり、痛みがあって、なお演劇にしがみついているのだと思う。
 そこに分け入っていく足場は事前に作っておいたほうが、話はスムーズに流れるわけで、美津未ちゃんが見えない包囲網に気後れせず、志摩くんに大きな声で向き合える契機を与えてくれると、『もしかして……いい人かも……』と、ちょろく心の扉も開くわけだ。
 物語のメインシャフトをぶっとく心地よくおっ立てつつ、端っこでこういう細かい巧さを生かしていることが、様々な人が同じ学舎に集い、それぞれの難しさと向き合いながら響き合う群像劇を、支えているように思う。

 美津未ちゃんが投げ渡してくれたボールを、重荷を下ろしたミカちゃんは凄く良い顔でスパイクする。
 そういう彼女にたどり着けたのが、今回ほんと良い話だなと思う。
 こういう吹っ切れ方をするのに、過去の重荷をダイレクトに他人に預けたわけでなく、傷を切開して柔らかなものを暴き立てる以外の方法が選ばれてる所が、この作品独自の食感を保つ秘訣かもしれない。
 それはミカちゃんにとって、鎧を外してなお簡単には知られたくない、魂の急所だろうから。
 こういう顔が出来る所までダチの手を引ける女の上げたトスを、この力強くでスパイクできるのならば、いつか抱えたもんまるごと預けれる瞬間も来るだろうしね。
 それは無理のない成り行きの中で、穏やかに芽吹く時を待ってても許される……許されなければいけないものだと思う。

 自分の中での志摩くんの特別さに向き合って、余計な配慮を投げ捨てていまするべきことへ、したいことへと突き進める真っ直ぐさ。
 キャーキャー騒ぎ立てる声をかき分けて、唯一特別な応援に一瞬立ち止まって、嬉しく微笑む少年のかんばせ
 それを羨ましく妬みつつ、ミカちゃんはその環状を湿り気少なく、チームメイトの前でさらけ出せている。
 淡い恋の予感をめっちゃ応援され騒ぎ立てられている、美津未ちゃんの愛されっぷりも最高に良いけども、ミカちゃんが鎧を少し外せたのだと解るこの場面、俺はやっぱ好きだな……。

 

 

画像は”スキップとローファー”第5話から引用

 それでも渦を巻き続ける、重たくて暗くて、自分でも制御のきかない思い。
 そのじっとりとした質感が、別にあっても良いものなのだとミカちゃんを通して、見ているものに語りかける回だったとも思う。
 人は当たり前にだれかと自分を比べ、妬み憧れる。
 それを原動力に自分を何処かに引っ張っていくことだって、憧れた眩しさを自分の中から引き出すことだって、人には出来る。

 その前向きな歩みが、大抵の人にはとても難しいからこそ、ミカちゃんも僕も眩しく遠く、美津未ちゃんと志摩くんのハイタッチを睨みつける。
 そこが、美津未ちゃんを名前呼びするようになったミカちゃんの現在地だ。
 ここにたどり着いて、ここから更に色んな方向へと、彼女の物語は転がっていく。
 それは多分切なくて苦しくて、とても大切な足跡になるだろう。
 そんな風にミカちゃんの”先”を見守りたくなる、とても良いエピソードでした。

 いやー、一話でここまで持ってくのか……。
 今更ながら、マジ強いなこのアニメ……。
 暑い夏が近づく中で、穏やかに発火する青春はどこに転がっていくのか。
 次回もとても楽しみです!