イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

君は放課後インソムニア:第7話『花火星 プレアデス星団』感想

 世界で一番暑い季節に向けて、全力で加速を続ける星読み青春ラブストーリー、花火色の第7話である。
 夏祭りに屋上花火に真夜中二人きりのラジオ。
 詰め込めるだけのロマンチックを全てブチ込んで、グツグツ煮込むような展開にジジイは失神寸前。
 全てのときめきが青春の真芯スレスレをかっ飛んでいって、決定機に至らぬからこそ積み上がる切なさが純度と間合いを詰めていって、作品の純情濃度はとんでもないことになっている。
 毎回見ながら『う、嘘だろ……許されて良いのかこんなコトが……ッ!』ってビビりながら、太眉男子の一本気が死の影に怯える天真少女の胸に突き刺さる様子と、高なる鼓動が丸ちゃんの星になっていく様子を、超ニヤニヤしながら観測している。
 いやー凄いよ丸ちゃん……全世界の男子高校生(と、かつて男子高校生だった存在)が夢見て届かない輝く星が、お前のためだけに眩しく光ってるよ……。

 

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第7話より引用

 というわけでドヤバい温度に高まっていく青春の夏の夜、最初はあくまで真面目にチラシ配りである。
 深すぎるお礼に『ちゃんと』に呪われている丸ちゃんの影が滲みつつ、自発的にカルピス差し出す姿は寝れない夜を恨む日々から自分を引っ張り出して、人それぞれの苦労やありがたさに目を向けるようになった心を、同時に照らしてもいる。
 伊咲ちゃんと出会って天文部を作り、誰かの手を借りなければ形にならない難しさに挑むことになって、丸ちゃんの世界は確かに広がった。
 その爽やかで熱心な心意気が、伊咲ちゃんに特別な相手と認められ、また自分もその存在を特別に思う関係を、幾重にも編み上げていく。
 その一歩一歩をどっしり丁寧な筆致で見せてもらった側としては、受川くんのナイスアシストに助けられつつ、丸ちゃんと伊咲ちゃんが幸せに夏祭りを楽しんでいる様子が、あまりに嬉しい。
 つーか受川くんが山下誠一郎の声帯で武装した、青春の愛天使(クピド)すぎてな……たった一人でも、この深度で自分を理解し手を差し伸べてくれる”マブ”がいるのは、丸ちゃん本当に幸せなことよ……。

 そして一度は『まぁ、いっか……』で諦めた浴衣を、丸ちゃんと二人の夜のためだけに着付ける伊咲ちゃんと、二人を特別な時間に導く夜の獣のかわいさよ……。
 花火大会直前、夜の学校を超えて屋上二人きりというスーパーウルトラハイパーミラクルロマンティックに後押しされて、思わず本音も口をついて出る。
 気のおけない友達としてからかい混じりに告げた『可愛い私』は、丸ちゃんにとっては紛れもない真実で、油断した心が思わず隠さなきゃいけない本当を飛び出させる。
 その瞬間の赤面と沈黙、高なる鼓動と近づく距離、不意の乱入と体温の残滓。
 全てが、あまりにパーフェクトだ……。
 爆発寸前まで高まった青春の”気”もアツアツだったけど、花火の残照眩しい中みんなではしゃぐ時間も悪くない……というかこれ以上望みようもないほどの幸せなのが、僕は凄く良いと思う。
 眠れぬ夜を一緒に過ごす、伊咲ちゃんとの特別な二人きりも、彼女と出会ったことで開けて広がった世界の眩しさも、全部今の丸ちゃんの本当だからな……。

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第7話より引用

 この段階で青春のファンタジスタ、鮮烈なるドッピエッタなんだけども、更に追撃入れてくるのがまー凄い。
 危うい窓辺に立ってふらつく伊咲ちゃんにはやはり死の影が濃く、己が心音を丸ちゃんに預けながら、眠れぬ夜の理由を少女は告げる。
 半分しか動かない心臓は、いつでも自分が終わりうる存在であることを少女に告げる残酷な時計。
 PC上に保存された思い出は、遺影の気配を微かに漂わせながらもたしかに彼らの今であり、目を閉じても真昼の光に笑っていても消えない不安を、伊咲ちゃんは丸ちゃんとだけ、特別に共有している。
 夏祭りのロマンティックな空気は甘やかな恋心よりも、少女を捉えて離さない闇の奥をこそ照らしていて、そういうモノを共有することで二人の絆はもっと強く、特別になっていく。

 俺は丸ちゃんがアツい所がすんげぇ好きなんだけども、天文台で差し出された伊咲ちゃんの不安と弱さを前に、しっかり目を見て『俺がいるよ! 何度だって受け止めるよ!』と堂々吠えれたのが、やっぱ良い。
 ここでグンと前に進めるのは、丸ちゃんが『ちゃんとしなきゃ』と四六時中考えすぎて、それこそ夜も眠れぬほどに呪われているからこそだと思う。
 それは苦しみの源泉でもあり、彼だけが持ちうる優しさと強さの故郷でもあって、そういう丸ちゃんらしさを間近に浴びるから、伊咲ちゃんもどんどん好きになるんだと思う。
 ストイックに、形のない何かを壊さないように握りしめられた拳も『ちゃんとする』ためのケジメと思うが、いや良いだろうもう……行ってしまっても……。

 

 

 

画像は”君は放課後インソムニア”第7話より引用

 そしてとっておきのダメ押しにねじ込まれる、キミのためだけの深夜ラジオ。
 丸ちゃん……アンタが今世紀最強の青春ストライカーだよ……。
 つーか伊咲ちゃんが登録を普段は呼ばない”名前”でやってんのがもう……もう……って話で、極めてとんでもないことになっている二人の夏が、大変甘酸っぱくスケッチされていく。
 一昔前ならば恋文なのだろうけども、”今”を疾走する二人にふさわしくラジオアプリを活用して、相手を思う気持ちをちょっとぎこちなく、だからこ純粋に触れ合わせる姿には、隣にいないけど吐息と心音を感じ取れる、清潔なエロティシズムが豊かに宿っていた。
 触れたいと願いつつ触れず、心だけが凶暴なほど透明に繋がっていける間柄には、情念と戦友意識が複雑に絡んだ手触りがあって、大変に良い。

 丸ちゃんが伊咲ちゃんの辛そうな様子をじーっと眺めて、ヘンテコなおせっかいを真っ直ぐ突き出して彼女を支えようとする様子は、どこか幼く危うい。
 いつでも明るい少女が何に苦しんでいるのか、深い所まで潜って共鳴できる感度の良さは、世界のノイズを過剰に拾い上げて、夜を寝れない時間にもする。
 でもその優しさは伊咲ちゃんにしっかり届いて、柔らかな寝息を生み出し繋げていく。
 そして丸ちゃんはそうやって、自分の優しさが誰かに届いた実感を間近に聞いて、初めて眠れるのだ。
 それは不器用で不格好で、あまりにも人間らしい姿だと思う。
 キミが幸せだと僕も幸せだと思える、素敵で不思議な夜の匂いが夏に溶けて、丸ちゃんは笑う。
 その表情がとてもチャーミングなので、僕はこのアニメが好きだ。

 

 

 というわけで、青春ロマンスのど真ん中を全力疾走する、パワフルなエピソードでした。
 死ぬかと思ったよ……年経た陰獣には、この純度の”気”は毒だわ。
 丸ちゃんにとって伊咲ちゃんが特別で、伊咲ちゃんにとって丸ちゃんはとても大事で、そんな二人の運命がどんどんとお互いの深い所に、夜の切れ味で入り込んでいく。
 その手応えを一個一個、丁寧に見せてくれるこのアニメらしい話数でした。
 勝負の観測会も近づく中、夏も恋も熱く、優しく燃えていく。
 次回も楽しみですね。