イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

私の百合はお仕事です!:第9話『ひとりだけの』感想

 羊の腹を引き裂き、狼の臓物を引き出せ。
 間宮果乃子の回想に綴られる、愛着と依存を読み下していくわたゆりアニメ第9話である。
 思春期にありふれた不器用と摩擦、外形を整えられぬまま溜め込んだいらだちは遂に炸裂し……あなたは、あなただけは許してくれた。
 魂の根っこに”陰”を抱え込む激重百合爆弾が、人知れず炸裂した青い青い屋上が印象的な、間宮果乃子のオリジンを描くエピソードとなった。
 ガタガタ軋み出した異常行動の深奥を探るべく、キャラの内側に潜り込んでも別に何かが解決するわけではなく、腐臭と芳香が入り混じった人間臭さがこちらに見えるだけ……ってのは、外面と本音を巡る冒険であり、そういう難しさの手綱を握りかねている季節の話に相応しいな、と思う。

 

 世界を『そういう人』と『それ以外≒私と陽芽ちゃん』に切り分け、他人との間に壁を作りその内側を覗き込まな無いまま憎悪を掻き立てる果乃子の性根は、中学時代から変わっていない。
 幸運にも(あるいは不幸にも)陽芽と出会い外面の使い方をレクチャーしてもらった結果、『お姫様の無害な親友役、その1』くらいのカワはかぶれるようになって、一見穏やかなフリも出来るようにはなった。
 しかしその奥に相当ネジ曲がった自己愛と、手前勝手な他者理解が渦を巻いているのは既に見たとおりであり、そういう自分を陽芽に見つけてもらって、許してもらったことで変化の機会を失った感じすらある。
 嘘が大嫌いなまま、本当のことも言葉には出来ず、世界も誰かも……何より自分も憎悪している私でも良いんだ。
 だって陽芽ちゃんが隠しているイヤな”本当”を私は知っていて、それが私の(つまりは世界の)全部だから。
 間宮果乃子の世界は、『わたしとあなた』が相照らす狭さで完結しきった、ある意味とても百合っぽい世界だ。

 そんな彼女の地獄を構成する半分、白木陽芽が果乃子と同じ密閉感で生きているかというと、無論そんなことはない。
 果乃子の自己愛は果乃子を特別と思いつつも唯一絶対の”あなた”にはせず、有象無象の喝采を受け取り、外面で操作捏造することでしか満たされない(満たされなかった)。
 この渇望には小学校時代派手にクラッシュした友情の復讐戦つう意味合いがあり、陽芽が大事だと感じている、外面を作り込むことにより他者や社会と円滑にコミュニケーションする生き方が、正しく強いのだと証明するべく固執していた側面が強い。
 その元凶たる美月に本音を叩きつけ、外面をなんとか形にして社会を泳いでいる姿も見届けて、陽芽ちゃんの外面第一主義もちったぁ揺らいできている。
 愛する人が軽やかな変化を遂げる中、陽芽に執着する果乃子はあの青い屋上に囚われたまま、地べたに縫い留められたままだ。

 

 世間が求めるペルソナを適切に作れず、生真面目だからこそ便利な嘘も拒絶する。
 果乃子の生き様は美月のソレに確かに良く似ていて、外面を過剰に作り込まないと生きていけない、陽芽にも通じる部分がある。
 かつて失った友情の代用品として、内側に溜め込んだ泥を吐き出し暴れる果乃子に手を差し伸べた部分もあろうし、苦しむ自己像を陰キャに反射して、共感する部分も大きかったのだろう。
 程度の違いはあれ、みな本当と嘘の間で押し潰されそうに生きている。
 陽芽はそこで、愛されたい自分のエゴをちょっとどかして、世の中の当たり前、自分以外の誰かの顔を見る余力が……まぁちったぁある。
 性格極悪の我がまま愛され志願ではあるのだが、その望みは世間の波を乗りこなすことでしか叶わないし、そのために他人の願いを敏感に受け取って、望ましい仮面を作る苦労も厭わない。

 リーベに来るまでは”そればっかり”だったのが問題(であり、”それ以外”を果乃子にしか見せないことで依存を深めた側面もある)だったのだが、美月との魂のぶつかり稽古アゲインを経て、本当に向き合いたかった”あなた”とちゃんと対話できたことで、渇望が適度に満たされた。
 結果愛され願望と癒着した嘘つき体質は収まりどころを見つけて、嘘が仕事にもなるリーベという場所の助けもあって、陽芽の嘘っぱちはシャレになる健全さで落ち着き始めている。
 そんな陽芽に引っ張られる形で、一生ピリピリしてた美月も穏やかな外面を取り戻しつつあり、主役二人は(一見)良いバランス(に思える)立ち姿で背筋を伸ばせている。

 

 そしてそうやって、自分を自分でいさせてくれる世界で唯一のお姫様が”まとも”になるほど、果乃子の心は揺れる。
 いい匂いがしてまつげ長くて唇ぷりっぷりな、デロデロ全開なリビドーと入り混じった、白木陽芽が与えてくれる自己肯定感。
 過剰な自意識を反射するモノローグだけ饒舌で、口から飛び出す対外的発話はとぎれとぎれで、その拙さと受け入れてくれない世界に苛立ちをつのらせ、怒り渇く獣の心を、お姫様だけが満たしてくれる。
 二人の関係は一見、メガネをかけた忠節の騎士と嘘つきお姫様に見えて、自分といることでギリギリ手綱を付けられている猛獣と、それと知らず楽しい青春を送っている構図だと、前回から今回にかけて暴かれる闇が教えてくる。
 献身的純愛に見えて陽芽の在り方は縛るわ、彼女が健全に拡張しつつある人間関係に牽制入れるわ、支配傾向が強いところが、控えめ女子が抱え込んだエゴのデカさだ。

 自分のヤバい部分を唯一預け、認めてもらってバランスをとる。
 陽芽に愛してもらわなかったら、間宮果乃子が見つめる間宮果乃子はマトモに他人と触れ合えない欠陥製品であり、それが破壊衝動に直結しているヤバ人間に落ちてしまう。
 なりたい自分に素直に近づけない、それを偽装して他人と繋がる巧みさが……例えば陽芽のようにはない少女が、自分を肯定するための唯一の眩しい鏡。
 こうありたいと願う自己像を、自分に差し出してくれる魔法の鏡を必要とするなら、間宮果乃子は他人を身勝手に食らう怪物であり、同時にそうではない美しさをちゃんと持っているのだと、自分は愛されうるお姫様なのだと確認したい、ただの人間でもある。

 果乃子の複雑で歪な内心、そこから立ち現れるヤバい行動は、凄く普遍的な人間像だと思う。
 主役コンビはアツい青春四つ相撲であるべき自分に立ち戻り、そう思わせてくれる大事なあなたとギャーギャーいがみ合いつつ仲良くして、広くて幸せな場所へと着実に進み出せている……ように見える。
 しかし果乃子は出会いを経て本質を変えることも出来ず、愛に思えるものは執着でしかなく、悟ったつもりの世界とあなたと私の真実は間違いだらけで、怪物でありお姫様を願う自分を、率直に見つめることも出来ない。
 認知は願望に歪まされ、事実は感情に汚され、グチャグチャな汚物に陽芽への愛着でなんとか、メガネを貼っつけて人間の形にしている。

 一皮剥けば……あるいは剥かなくても、アンタも俺もそんなもんだろ。
 キモいヤバいと罵りつつ、そういう共感がどこか、今回描かれた青い季節と、現在進行系のその続きを見ていると湧き出すのだ。
 人間は認識の動物であり、今ある世界よりもあるべき世界……そう在るべきだと自分が感じ、そうでなければ自分を保てないような妄想が、今目の前にある人の生き方とかを押し退けて生存を主張する場所に、否応なく立つ。
 そういう場所でしか息ができない獣を、人間はみな飼っているってことにこのお話は(もしかすると百合というジャンルは)自覚的であり、おぞましく正しくないと遠ざけられがちなその執着に、愛しく手を伸ばしていると僕は感じる。

 だから果乃子がそのハラワタを全部引っ張り出して、陽芽に執着する経緯も、それが凄く身勝手で危ういものである現状も、どっぷり濃厚に描かれたのは良いことだと思う。
 果乃子の獣性(つまりは人間性)は作中随一で、ヤバさは都合よく収まるどころかガンッガンに加速しながら、色んな人を巻き込んでいく。
 果乃子が陽芽ちゃんとだけで満たされた素敵な世界を望んでも、陽芽はずっと心に引っかかっていた彼女だけの女に惹かれて離れていくし、同時に外面の奥の歪な自分を預けられる友達として、果乃子の片手を握り続けてもいる。
 そして他者との接続を拒む果乃子自身が、巨大な引力の持ち主として自覚なく、誰かを惹きつけ執着させてしまう可能性も、今静かに脈を打っているのだ。

 

 どれだけ静止した永遠を臨もうとも、時は流れ人は変わり、関係性は変化していく。
 成長と変化のダイナミズムを、壊れたまま完成した自己像、そこに癒着した世界像を求める麗しき停滞性と対比させ、衝突させ、融和させ、混ぜ合わせていく。
 ジュブナイルに必要な化学反応がそこにはあるし、女と女の複雑怪奇な感情を掘り下げていく物語において、一瞬と永遠が演じるダンスは常に重要だろう。
 だから果乃子の変わらなさ、変われなさはおぞましくも愛おしい楔として、猛烈な存在感で作品に突き刺さる。
 あの怪物がいてくれること、その怪物性を包み隠さず暴くことは、作品がまとい僕らがヨダレを垂らす、ジビエの臭気をより強く際立たせる意味でも大事なのだ。

 いやまー、ヤベーしキメーけどなッ!
 『陽芽ちゃん大好き!』でシンプルに終わらず、それに依存している自分と世界が揺るがされるならガンッガンに変化要因の方をぶっ叩きに行く凶暴性があるのが、間宮果乃子の一番ヤベー所だと思います。
 防衛行動が壁を作って引きこもりで終わらず、不快感の原因を足蹴にぶっ壊す所まで拡張するの、自己愛強いね獣だね~~~って感じ。
 俺は獣臭を嗅ぎにこのアニメ見ている部分があるので、それが表立ってきたのは大変よろしい。
 そしてマトモで優しく正しいからこそ、この獣にバックリ行かれるギャル先輩はかわいそう。

 

 前半戦で重荷を下ろし、主役コンビはほんわか百合真っ最中でございますけども、間近で灯る激重感情アラートは炸裂寸前、一体どうなってしまうのか!
 マトモな解決策はきららに置いてけ!
 そこのけそこのけ百合姫が通る!!

 いやまぁ、百合姫連載作品は『女と女が触れ合う』っつう一線を維持してればなんでもありで、ソフトな接触からディープなハードコアまで、かなりなんでもありのバーリ・トゥードですけども。
 きららも言われるほど透明感重視ではなく、ネトついた執着とか激ヤバイカレ人間模様とか、結構濃い目に混ざりますけども。
 ノリと勢いで書いたキャッチフレーズにセルフツッコミを入れつつ。
 次回も獣達が集う、吉羊寺のオクタゴンで会おう!